r: 異端
僕が恋を自覚したのは小6の冬だった。
気づけばその子から視線が離れなくなっていた。
その子は同じクラスになってから、勉強を教えあったり、他愛もない話をしたり、ふざけ合ったり、一緒にゲームをする仲だった。
いつも面白くて、優しい、そんな普通の友達だった。
何をとち狂ったのだろうか。
ある日を境に、僕はその子の事を可愛いと思い始めた。
丸い顔、小柄な体、それに立ち振る舞い。
全てが僕を魅了し始めた。
毎日、毎日、毎日、その子のことを見ていた。
そして気づいたのだ。
その子と一緒にいると暖かいと。
そして気づいたのだ。
その子と一緒に居続けたいと。
この気持ちを、世間では『恋』というのだろうか。
そして気づいたのだ。
その子への想いが成就することはないと。
そして気づいたのだ。
僕があまりにも異端であると。
何故なら、その子は僕と同じ、『男の子』だから。
その子を見つめると、見つめ返してくる。
その瞳は何と愛らしいか。
その子と話していると、顔がすうっと綻んで、いつの間にか柔らかな気持ちを持っている。
その時間が好きだった。
そして苦しかった。
恋心を隠し続けることが。
そして辛かった。
騙しているような気持ちが。
耐えられなかった。
堪えられなかった。
どうしても、どうしても、
答えが欲しかった。
卒業式の練習を始めた頃。
僕はその子をトイレに呼び出した。
「何?」
「あのね、僕…君の事が…
好き…なのかもしれない」
「え?キモ」
そのままその子は教室に戻ってしまった。
その日から僕らが声を交わす事はなくなってしまった。
布団の中で悶えた。
何という事をしてしまったのかと。
取り返しのつかない現実に泣いた。
好きになってしまった自分が嫌いになった。
どうしても上手くいかない世の中に嫌気が差した。
そのせいか、段々人と関わらなくなってきた。
人が信じられなくなってきた。
それでも、その子のことはまだ諦められなかった。
クラスで卒業写真を撮ることになった。
当たり前のように避けられるだろうと思っていた。
でも、何故かその子は僕の隣に座った。
何故だろう。
分からない。
その理由を知ることは未来永劫ないと思う。
ただ、暖かかった。