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43.お久しぶりです、兄上。

 

 ――陛下、起きてください。


 揺すり起こされて瞼を開けば、寝台で眠るシトリーを覗き込んでくる人影があった。

 ここは天幕の中だ。未だ旅の途中であり、自分専用の天幕の中に寝台を置いて休んでいた。


(だれ?)


 自分を覗き込んで来る人物から、ふわっと優しい香りが漂う。

 大好きな匂いだ。

 そして、大好きな手がシトリーの頬を触れてきて、すぐに人影の正体に気付いた。


「オセ? どうしてここにいるの?」


 山のように積み重ねられていた仕事はすべて終わったのだろうか。

 いつ来たの?

 どうやって来たの?

 どうして……と、聞きたいことはたくさんあるけれど、それよりもまず抱き締めて欲しい。

 両腕を伸ばしてせがむと、オセの体が覆いかぶさってきて、彼の両腕がシトリの華奢な体を掻き抱いた。


「もっと……。もっと、ぎゅっと。強く! もっとだよ!」


 骨が折れるくらいに強く抱きしめてって言っているのに、オセはふわっと綿毛で包むように優しく抱くばかりで、両腕にちっとも力が入っていない。


「オセ、ちゃんと抱き締めて!」


 ぎゅっとされたら、次はキスして欲しいのに、なんでちゃんと抱き締めてくれないんだ。

 だんだんとイライラしてきて、もう自分から強く抱きつくしかない。そう思って、オセの背中に回した両腕に力を込めた。――つもりだった。


「陛下、休憩を取るそうですよ。起きてください」


 はっと意識を取り戻すと、シトリーは馬車の中にいた。長椅子に上体を横たわらせ、眠っていたらしい。

 目を瞬かせながら起き上がると、向かいにはサングラスをかけたドルシアが座っていた。


「なんで、サングラス?」

「眩しすぎるんです、陛下が。もう少し魔力の放出を抑えて頂けませんか? 陛下のキラキラオーラで、私の目がチカチカしてくるんです」

「んなこと言ったって、勝手に溢れ出てくるんだから仕方がないじゃん。――っていうか、私、夢を見てた。久しぶりにオセと会えたのに邪魔された!」

「うなされていましたけど?」

「え……」


 そんなバカなと思ったが、夢の内容を振り返ってみて、うなされても仕方がない内容だったと思い直した。


「せっかく夢にオセが出て来たのに! ほぼ悪夢だったよ。どうせなら、もっと良い夢が良かった!」

「陛下って、そんなに総裁閣下がいいんですか? 閣下のことはよく存じ上げませんが、公爵様も素敵だと思いますよ?」

「べリスは……」

「公爵様ではなぜダメなのですか?」

「ダメって言うか……」


 シトリーはドルシアのサングラスに覆われた瞳を見つめて、悪戯を思い付いた子供のように、にっと笑みを浮かべた。


「そんなに良いと思うのなら、ドルシアが狙ってみればいいじゃん。公爵夫人になれるかもよ?」

「あら。それは素敵ですね」

「ただし、舅がかなり重い」

「それは無理ですね」


 ばっさりと言い切ってドルシアは公爵夫人への道を自ら閉ざした。


「でも、陛下は舅が問題で公爵様のことを考えられないというわけではないのでしょう?」

「うん。べリス愛が強いけど、私、べリスのパパのこと嫌いじゃないし。だから、そこじゃなくて。ただ、私がオセがいいっていうことなんだ」

「そうなんですね。要らぬことをお聞きしてしまい申し訳ございませんでした。早くお城に帰って、閣下にお会いしたいですね」

「うん」


 早くオセに会いたい。その気持ちに偽りはないので、ドルシアの言葉にシトリーは素直に頷いた。

 二人で馬車から降りると、そこかしこで天幕が張られ、昼食の支度が始まっていた。


 一番大きな天幕の中に入ると、既にハウレス、べリス、シャックスが寛いでいる。

 天幕の一番奥にシトリーの席が用意されていて、毛の長いふかふか絨毯の上に、肌触りの良いクッションが置かれていた。


 シトリーがクッションに深く座ると、それを見計らったかのように食事が運ばれてくる。

 移動中なので、基本的にメニューはパンとスープと肉料理なのだが、飽きがこないように料理人が毎日様々な工夫をしてくれている。

 今日のスープにはトマトに似た酸味のある野菜が入っていてミネストローネみたいだし、パンは胡桃や無花果、クリームチーズを混ぜ込んだフランスパンのようだ。


(この肉は、豚肉っぽいんだけど、なんだろう?)


 豚の角煮っぽい料理なのだが、赤ワインソースがかけられていて、お洒落な味がする。


「シトリー、ドルシアがサングラスをかけているぞ。もう少しうまく魔力をコントロールしろよ」

「うまくできないんだよ。しばらく魔力か少なかったから、それに体が慣れちゃって」


 悪魔の体内には魔力の核があって、例えるのならそれは血液を体内に巡らせる心臓のように、核が魔力を体内に巡らせている。

 また、血液は骨髄で作られるが、魔力は核で作られ、核に溜めておくこともできる。

 そのため、体内の魔力を奪われるだけなら、一時的に無力にはなるが、核から新たな魔力が作られるので、いずれ回復する。


 ところが、今回のシトリーのよう核を傷つけられたり奪われると、魔力の回復は困難で、体内に魔力を貯めておくこともできなくなる。

 核は悪魔にとって、第二の心臓と言っても過言ではない。そして、核の大きさ、強さが、悪魔の魔力の強さに直結した。


 シトリーの核は本来、ラウムがそのすべてを奪い取ることができなかったくらいに大きくて強い。

 急にそんな強いものを体内に戻されても、暴れ馬を体内に飼うようなものだ。手懐けるまでに時間がかかるというものだ。


「なるべく早くどうにかしろよ。でないと、サングラス人口がどんどん増えるぞ」


 一行みんなサングラス姿というのを想像してみたら、それはそれで面白そうだと思ったが、はいはい、と頷いておいた。


 シトリーたち一行は、ラウムの別邸から、馬、或いは馬車で、北へと移動している。

 ラウムの領地は、地図上ではさほど広くない。ならば容易に縦断できるかと思いきや、山地が多く、越えるには高すぎる山などは迂回しなければならなかった。

 そのせいで、ここまで来るのに4日が過ぎている。じつに遠い道のりであったが、もう数時間も馬を駆けさせればストラスの領地に入るはずだ。


 シトリーは魔力を取り戻して以来、馬車に押し込められていた。理由は、眩しいからだ。

 昼食休憩を終えて、再び馬車へと戻る途中で、ちらりとアリスに視線を向ければ、べリスの馬のイグニスと並んで身軽そうにしていた。


(アリスに乗りたいなぁ)


 シトリーの領地は、ほとんどが平地だ。なので、これまではずっと快適に馬車を走らせていたのだが、ラウムの領地は道が悪く、ガタガタと車輪が鳴り、時折、尻が浮くような衝撃を受けることもある。


(お尻も痛いけど、馬車の中って退屈なんだよなぁ)


 昼寝しかやることがない。そう、ぼやいて馬車に乗り込むと、長椅子に腰を下ろした。


 ガタガタと車輪の音に耳を澄ませることしばらく、山道が急に終わって視野が開ける。

 ラウムの通行許可書のおかげで、ラウムの領地内を無事に通り抜けることができ、いよいよここから先はストラスの領地だ。


 黒く湿ったように見えるふかふかな土が大地を覆っている。馬が走れば土煙が立つシトリーの領地とはまるで違った景色だ。

 馬車の窓から顔を出せば、腐葉土の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。


 しばらく進むと、馬たちの足元に草が生え始め、さらに進むと、一行は草原の中にいた。

 一面に広がる緑にシトリーは息を呑む。


(すごい)


 どれだけのマリティアの種を撒いたら、こんな広い草原ができるのだろうか。

 草の青臭さと土の甘い匂いを嗅いで、シトリーは草原の表面を撫でるように吹き抜けてきた涼やかな風に目を細めた。


 ストラスの領地に入っても更に北に進む。

 北に進めば進むほど、どんどんと気温が下がっていき、シトリーたちは皆、毛皮のコートを着込んだ。

 ここから、もう少し西に行くと、かつてシトリーがストラスから貰って暮らしていた館がある。オセの領地と比較的に近いので、よくオセがシトリーに会いに来てくれていた。

 ほんの百年と六十年ほど前に暮らしていた場所に想いを馳せながら、一行と共にシトリーは真っ直ぐ北に進んだ。


 地平線まで続く草原の中を二日ほど進むと、チラチラと粉雪が舞い始めた。

 雪化粧された草原はやがて本格的な雪原に代わり、馬車の車輪が雪を巻き込んで重くなるので、一行の進みは遅くなる。

 無理な移動はせず、街が近くにあれば必ず寄って、夜は街の中で休んだ。


 そうして進み続け、高い壁に囲まれた大きな街と湖に辿り着いた。

 街は湖畔の南側にあり、三日月の形に湖と接している。雪の積もった屋根が寄り集まるように建てられ、街壁の門から湖へと南北に通った大通り以外は、道幅の狭い道が網の目のように通っている。


 街壁は湖側にはない。三日月の外円に沿って造られ、内円で接した湖は、街をまるごと沈めることのできるほど途方もなく大きかった。

 黒い湖だ。表面の水は透き通っているが、湖の底に敷き詰められた石が黒々としているため、湖の水が黒く見えるのだ。

 その表面に浮くように真っ白な城が建っている。――ストラスの城である。


 湖の黒と対比するような雪の城は、寒さが見せる幻影かと思うほど美しい。

 その城門から真っ直ぐ石橋が伸びていて、それが湖の真ん中に建てられた城と街を結ぶ唯一の道であった。


「陛下、今夜は街で休んで、明朝、城に向かわれますか?」


 もしくは、そのまま城に向かうかだ。

 昼食休憩の際にセルジョに問われ、シトリーは街では休まないと答えている。


「街に着けば、兄上に報告が行く。目と鼻の先にいるのに、なぜ早く挨拶に来ないのかと兄上に咎められる」


 すでに日暮れ近い。ストラスの領地では、夜には月がひとつ昇るが、昼間は太陽も月も昇らなかった。

 それなのに昼間の空はぼんやりと明るく、オーロラのような七色の光のカーテンがゆらゆらと風に靡いているように見える。

 光のカーテンは日暮れに近付くにつれ、薄く消えていき、すっかり見えなくなった頃を、ここでは『夜』と呼んでいた。


 一行は東の空に浮かぶ白い月を右手に眺めながら、街の大通りを通って石橋へと向かった。

 湖の中に造られた石橋は、幅が8メートルほどあって、岸から城門まで一直線に続いている。その長さは1㎞くらいだろうか。


 シトリーを乗せた馬車がまだ石橋の半ばくらいを走っているうちに、城の門扉がゆっくりと開いた。 

 先頭を行くセルジョの馬から順に、一行は城門を抜けて城内に入って行く。 

 城の大扉が衛兵たちによって左右から開かれ、シトリーはドルシアと共に馬車を降りた。


「若君、お待ちしておりました」


 大扉の中から、ひとりの男が駆け寄ってきた。シトリーの家令であるブルーノに似た雰囲気の燕尾服を着た白髪の男だ。

 ストラスの家令、ベルトランドである。ブルーノに家令のなんたるかを叩き込んだ人物だ。

 ベルトランドの後ろには年若い女中が10人ほど控えていた。皆、揃いの制服を着てかしこまっている。


「陛下が玉座の間でお待ちです」


 ベルトランドに促されて大扉をくぐると、城の中は季節が狂ったかのように暖かかった。

 ――もっとも、ストラスの領地は一年のうちの300日ほどが冬みたいなものだ。元より季節なんぞ狂っている。

 僅かな春が来ると、夏を飛び越えて瞬く間に秋になり、再び冬で、それが長く長く続く。


 領地のうち南部には、狭い土地でもたくさんの実りがある肥沃な大地が広がっているが、北部は雪と氷の世界だ。

 かつて幼かったシトリーもこの雪の城で暮らしていた。懐かしむとは少し違う。何か心にずっしりとくる想いを感じながら、シトリーは毛皮のコートを脱いでドルシアに手渡した。


 ベルトランドの案内で城の奥へと進む。入口から直進すると、正面に扉が現れ、そこを抜けてさらに直進すると、もうひとつ大きな両開きの扉が現れた。

 扉の左右には脚の長い梟の木彫が施されている。シトリーの記憶に誤りがなければ、この扉の奥が玉座の間だ。


 ――この先にストラスがいる。


 そう思うと、呼吸が浅くなる。緊張しているのか、口の中がカラカラに渇いていた。

 ベルトランドが視線を向けると、扉の左右に立った兵士がぐっと力を込めて両手で押すように扉を開いた。

 奥に長い大広間である。鏡のごとく磨かれた大理石の床に、黄金装飾された白亜の壁。様々な鳥が彫刻された大理石の柱は、不遜にも彼が鳥の王を自称しているからだろうか。

 見上げれば、壮麗な天井画。そして、クリスタルの大きなシャンデリアが天井からいくつも吊り下げられ、橙色の暖かな明かりを灯していた。


(私の城より広いし、豪華だし、金をかけていそう)


 ストラスの『大君主』という地位は、皇帝に認められていない『王』であり、つまり、自称の王である。

 自身の領地を『国』と呼び、自分の城に玉座を持ち、そして、『大君主陛下』と呼ばれる。それがシトリーの兄――ストラスだ。


 シトリーよりもずっと長い時を『王』として君臨してきた彼の城が、たかだか160年前に玉座に着いたシトリーの城とは比べようがないのも当然だ。

 国力もさることながら、王としての実力もまったく敵わなかった。


 シトリーに続いてべリスとシャックス、ハウレスも玉座の間に足を踏み入れるようとすると、その前にベルトランドが立ち塞がった。


「陛下は若君おひとりとお会いになられます」

「はっ、俺らとは会わねぇって言うのかよ?」

「後程、晩餐会を設けさせて頂きます。ご挨拶はその時に。まずはご兄弟で話をされたいとのことです。どうぞご遠慮ください」

「べリス」


 シトリーが呼ぶと、柘榴石の瞳がシトリーに振り向いた。心配そうなその瞳に、シトリーは首を横に振る。


「たぶん大丈夫。何かあったら、すぐ呼ぶから」

「……絶対だぞ」

「うん」


 べリス同様に不安げな表情を浮かべているシャックスとハウレスにも順に視線を向けて微笑むと、シトリーは大広間に向き直った。

 大広間のずっと奥。

 大理石の階段を五段上がった先に置かれた玉座に腰かけた人物を目指して、シトリーは真っ直ぐ歩き続けた。


 彼は漆黒の布地に銀糸の刺繍が施されたフロックコートを襟を高く立てて羽織っている。黒いシャツを着て、首元には黒いクラバット《スカーフ状の布ネクタイ》を巻き、やはり黒いウエストコート《ベスト》を着ている。

 ボトムスも黒で、ロングブーツを履いたすらりとして長い脚を組んで玉座に腰かけていた。


「お久しぶりです、兄上」


 五段の階段の下。彼の目の前まで来て、シトリーは立ったまま口を開いた。

 ストラスは、ふんっ、と黄水晶シトリンの瞳を細めて鼻を鳴らす。


「相変わらず礼儀を知らぬ弟だ。わたしが話し掛ける前に口を開くな」


 男にしては柔らかい声音だ。だが、どこか人を小バカにする響きがあった。

 20半ばくらいの年齢の青年である。暗さの強いブラウンの短髪にはハイライトが入っている。


「兄上、私をラウムに売りましたね?」

「質問を許した覚えはない。――だが、答えてやろう。あの女がお前をくれと言ったのだ。さすがカラスだな。光り物に弱い」


 ストラスはくくくっと低く笑い声を立てた。


「しかし、お前が今こうしてここにいるということは、あのカラスはしくじったのだな」

「はい。兄上の思惑通りにはならず、申し訳ないです」


 ふんっ、とストラスは鼻で嗤った。


「お前は本当に役に立たない弟だ。見目は良いのだから、せめてそれを役立たせてみせろ」


 シトリーは、むっとしてストラスを睨み付けた。

 ラウムに植え付けられた記憶の中の『兄』は、陰気で、神経質っぽくて、常に俯き加減で、ぼそぼそと聞き取りにくい声で話す青年だった。


 てっきりストラスもそうなのかと思いきや、実際のストラスは傲慢で、プライドが高く、柔和な声で嫌味っぽく話す青年だ。

 ざっくりとした外見と細身だということくらいしか記憶と合っていなかった。ラウムも適当な兄貴像を植え付けてくれたものだ。


 ストラスは目を細めて、反抗的な表情を浮かべるシトリーを玉座に座ったまま見下ろすと、軽く片手を振った。


「まあ、いい。部屋を用意させた。風呂にでも入って休むといい」

「兄上は、何か用があったから私を呼んだのではないのですか?」


 風呂に入れると聞いて態度を軟化させたシトリーが問いかけると、ストラスは微かに瞳を揺らしてシトリーから視線を逸らした。


「ああ、そうだな……」

「先に用件をお聞きします。さっさと帰りたいので」

「それは後にしよう」

「なぜですか? すぐに用が済めば、明日にでも帰ります」


 言い募れば、チッとストラスが舌打ちをした。そして、すくっと玉座から立ち上がると、気だるそうに階段を一段一段と降りて来る。

 何事かと思い身構えて、歩み寄って来るストラスを凝視していると、長い腕が伸びて来て、ストラスの右手がシトリーの髪を鷲掴みにした。


「痛っ」


 顔を顰めて反射的に腰を引くと、その腰をストラスの左腕が巻き取るように抱き、彼の方へと無理矢理に引き寄せる。

 とんっと体がぶつかり合い、シトリーはストラスの腕の中にいた。シトリーの額がストラスの鎖骨に当たる。


「お前は、帰る帰るしか言えないのかっ」

「兄上、痛い。離して」


 髪を引っ張られ、顔を上に向かせられた。

 苛立ったストラスの顔がすぐ目の前にある。吐息を感じられるほど近く、唇が触れ合ってしまうと思って、体を固くして、ぎゅっと瞼を閉じた。

 チッと舌打ちが聞こえた。

 そして、次の瞬間。シトリーは、どんっと強く突き飛ばされて大理石の床に尻もちをついた。


「痛ーっ!」

「お前は、呼ばないと帰って来ない」


 打ち付けた尻を擦るシトリーの頭上に投げ付けられた言葉に、シトリーは、はっとして瞳を大きく開いた。ストラスを見上げる。

 シトリーにとって帰る場所とは『ふたつ月の国』の城だが、ストラスにとっては未だに自分の城がシトリーの帰る場所なのだ。


「兄上……」


 ストラスの心の内が分からなくて呼び掛けるが、彼はシトリーに振り向くことはなかった。

 カツカツとブーツの踵を響かせて、ストラスはシトリーを置き去り大広間から去って行った。



 

【メモ】


王都から北へ⇒およそ四日進む⇒テツラの街⇒丸一日進む⇒テツラとコルリスの区境⇒半日進む⇒コルリスの街

コルリスの街で一泊⇒街の近くの村から『墨染めの館』へ⇒二日後にセルジョたちと合流⇒半日後、コルリスの街の常駐軍が到着

⇒もう一日『黒染めの館』に留まる。リヌスとはお別れ⇒4日かけてラウムの領地を北上。さらに数時間後にストラスの領地に入る。

⇒地平線まで続く草原の中を二日ほど進む⇒雪原を二日すすむと、湖畔の近くの街⇒ストラスの城。


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