11.神に反旗を翻した理由は、諸説ある
オープニングムービーの内容を要約すると、神が人間と人間界の創造にかまけ、天使たちを粗雑に扱ったため、反感を抱いた天使たちは神に叛逆することにしたというものだ。
人間界でもルシファーの叛逆理由は、彼自身の傲慢さと人間への嫉妬心だとされている。これのどこに嘘があるというのだろうか。
怪訝に思ってベリスの顔を見やると、ベリスは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
この悪魔は、魔王シトリーの幼馴染みだ。
昨夜はドレス姿であったためか、多少なりとも敬意を払った態度を取ってくれていたが、二人並んでラグに座り、ゲームのコントローラーを握っている今は、王とか公爵とかそんなお互いの身分や立場なんて端に置いた態度だ。
要するに、とっても気安い。お前呼びすらしてくる。
高校の同級生の男子だって『さん』付けしてくれるし、もう少し丁寧に接してくれる。これではまるで小学生男子のようだ。
(あ、違うか)
ベリスにとってシトリーは幼馴染みの『少年』だ。
ならば、これは高校生の男子が同級生の男子に対する接し方なのだ。
そうと分かると、ますますベリスが身近に感じて、こちらも気安く接してしまいそうである。
首を傾げて何が嘘なのか分からないと言えば、べリスはまるでとっておきの秘密を打ち明けるかのように言った。
「上層部でも一部しか知らないことなんだけど、本当は神に命じられて叛逆したらしい」
「神が? なんで? なんのために?」
「人間の成長を促すためだ。人間の文明が発展するには、人間の心に悪が必要なんだ」
「意味が分からない」
「だからさぁ、戦争が必要ってことだ。戦争が起こると、敵より性能の良い武器が欲しくなるわけだろ? そのために研究して、発明するわけで。もっとすげぇやつ、もっとすげぇやつって、人間はどんどん知恵と技術力をつけていくわけだ」
――なるほど。理解できる気がした。
例えば、パソコン、インターネット、携帯電話、電子レンジ、ティッシュペーパーなど、現在では身近な物過ぎて戦争のイメージなんてまったくないが、それらはすべて軍事技術を民生技術に転用して誕生した物だ。
つまり、戦争がなかったら生まれなかったかもしれない物たちである。
もっとすごい武器を、もっとすごい技術を、もっとすごい……と突き進んでいく過程で、当初の目的は戦争の道具だった物が便利な日用品として使われることになったりしながら、人間の文明は発展し続けてきたのだ。
「神は人間界に戦争を起こさせたいと思っているってこと?」
「ぜってぇー大っぴらには言わないけどな。そんで、人間同士を争わせるためにも、傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰っていう、とりあえず7つの欲望と感情を悪として、それらを象徴とする存在をつくりたかったみたいなんだ。その結果、選ばれた天使たちが、その他のなんも知らない天使たちと一緒に神に逆らって堕天したっていうのが真実らしいぜ」
「えー、何それ。なんだか、なんだかだよ」
「納得いかねぇって言いたいんだろ? 俺も。――だからさ、このゲームのオープニングみたいに分かりやすい叛逆理由だと、なんつーか、ホッとするよな」
「うん。人間にかまけてる神が悪いんだ! って、すごく分かりやすい理由だと思う」
テレビに視線を向けると、画面の中でルシファーが、自分こそ神よりも天界の主に相応しいと主張して、神への忠誠に縛られている天使たちを神の支配から解き放つことを宣言していた。
神は天界を、人間たちを見守るための機関にしようとしている。
天界は人間のためにあるのではなく、天使たちのための世界であるべきだ。そう高らかに言って、ルシファーが手にした剣を高く高く掲げたところでオープニングムービーは終わる。
「ほらな。こっちの方が断然格好良い」
「うん。そう思う」
心からの同意を込めて力強く頷くと、ベリスは満足そうな顔で、にっと笑った。
ゲームがタイトル画面に戻ったので、ベリスがコントローラーを操作してアバター選択の画面に切り替える。
彼は自分そっくりなアバターを選択して、こちらに視線を向けた。
おそらくシトリーとベリスは以前遊んだ時に二人とも自分そっくりなアバターを作っていたのだろう。なので、ベリスが選択しなかった方がシトリーのアバターなのだが、これがどう見ても金髪なのである。
(金髪。そして、金眼。……なんで?)
敢えて金髪金眼にしてみたのだろうか?
ちょっぴり理想を込めてアバターを作ることは良くある。現実の自分よりも百倍くらい可愛く作るなんて、まあまあ普通のことだ。
(金髪金眼に憧れていたのかも?)
それならそれで、まあいいや、とシトリーのアバターを選択し、決定ボタンを押す。
画面が切り替わって、第一ステージである。
「ストーリーモードを最初からやるけど、いいよな?」
「うん」
ぶっちゃけ、まったく分からないのでベリスにお任せである。
二人のアバターは宮殿みたいな場所に降り立つと、正面に玉座があり、その右側にルシファーがいる。
どうやら第一ステージは、ルシファーが玉座の右側から去り、仲間のもとに合流するところのようだ。
ルシファーを無事に神の宮殿からの脱出させることができたらクリアで、次々に襲ってくる天使たちからルシファーを護り切れなかったらゲームオーバーだ。
(これって、……あれか)
ゲームが始まって、みるみるうちに天使たちに囲まれて気が付く。これは、タクティカルアクションゲームだ。
武器を持ったアバターをコントローラーのボタンで操作して敵と戦わせるゲームである。
シトリーの武器は細身の剣だ。柄が黄金で、剣身は水晶のように透き通っていてとても綺麗だ。
『A』ボタンを連打して天使たちを、ばっさ、ばっさ、切り捨てながらルシファーの後ろに付いて走る。
第一ステージというだけあって、天使たちの強さはどれも同じで、とにかく弱い。急所に当たれば一撃で、二回か三回切り付ければ大抵の天使は倒れてくれる。
べリスも横で戦っていて、彼の武器は両手で握らなければ扱えないような大剣だ。冗談みたいに剣身が長く、ほとんどベリスの背丈と同じくらいある。
大剣が重いこともあって、素早い動きはできないが、威力は高く、一振で三人の天使を仕留めることができた。
「よし、クリア! 何人やった? 俺、三百越えた。384人」
「72」
「ぶはっ、マジかよ。にぶってんじゃん!」
「剣が軽すぎて一撃で死んでくれない。ベリスはずるい。一撃で三人くらい死ぬじゃん」
「何言ってんだよ。術を使えばいいじゃん。シトリーは術が飛び道具みたいになるから遠くからでも攻撃ができるだろ?」
「え、そうなの? どうやんの?」
「はぁ? やり方ほんと忘れてんだなぁ」
仕方がない奴と言いながら、ベリスが術の出し方を教えてくれる。
「あと、シトリーは腕力がないから勢いを付けて剣を振るわないと、大きなダメージを与えられないんだ」
「どうすればいいの?」
「回転してから切り付けたり、ジャンプしてから剣を振り下ろしたりするんだよ」
「えー、むずい」
ゲームのBGMが代わり、第二ステージである。
ルシファーは無事に宮殿を脱出して、仲間集めをしてくれていた『高き館の主』と合流する。
『高き館の主』は後の魔界の帝王のことだ。この時は熾天使として天界にいて、ルシファーの副将として神に対して反旗を翻した。
ルシファーたちは神から天界を奪うために神のもとを目指すが、実は宮殿の玉座に座る神は、神の影であり、神の本体は別の場所にある。
『神の家』と呼ばれるその場所に行くには、『神の門』を開かなければならず、門を出現させるには四大天使の心臓が必要だ。
ルシファーたちはまず四大天使のひとり、ラファエルの心臓を狙ってラキアに向かう。
「ラキア戦は、親父もいるはずだから捜そうぜ」
第二ステージは荒涼とした大地からスタートする。天界の大地が荒れ果てて寂しいものなのかと驚くが、天界と言えどもラキアという場所はそういう場所なのだ。
下級天使たちの住まいがあるのも、このラキアだ。なので、スタートしてすぐに下級天使たちが群がって来る。
「ラファエルはラキアの中心にある建物の中だ」
「分かった。――って、べリス、なんで馬に乗ってるの? ずるい!」
赤毛で、赤い瞳。赤い衣を身に着けているべリスが、赤い馬にまたがっている。
しかも、エクウスとかいう肉食の魔獣ではなく、ちゃんと馬に見える、馬だ。
「いいなぁ。私も馬に乗りたい!」
「シトリーは飛べるだろ」
「えっ、飛べるの!? どうやって?」
「たしか『R』と『L』を同時に押すんだよ。もう一度、押せば降りられたはず」
言われたとおりにボタンを押してみると、シトリーの背中から鷲のような翼が生えて、空を飛んだ。
「わぉ。すごい!」
空を飛んでいれば、次々に群がって来る下級天使たちに煩わされることがない。もちろん、天使たちも翼を持っているため飛べるのだが、下級天使たちは飛ぶのが下手だ。飛んでいると言うよりも、のたのたと上下運動しかできていない。
「やべぇよ。皇帝陛下がすでに建物の中にいる。急がないと、大将死亡でゲームオーバーになるぞ」
「わかった。先に行くね!」
地上で天使たちを薙ぎ払いながら馬を走らせるべリスの頭上を飛んで先に行こうとする。
ところが、そうはうまくいかず、シトリーよりもさらに上から何者かがぶつかってきた。
もつれるように地面に落ちて転がり、しばらく戦闘不能になる。コントロールが効くようになってから相手を確かめると、マスピエルという名前表記のある天使だった。
「シトリー、そいつ能天使」
「能天使?」
「天使の階級は上から、熾天使、 智天使、 座天使、主天使、 力天使、 能天使、権天使、 大天使 、そんで、天使――ややこしいから、そいつらはザコ天使な」
「ごめん、覚えられない」
「つまり、今までのザコ天使に比べたら、能天使はそこそこ強いから気を付けろよ、ってこと」
「りょーかい」
そこそこ強い相手ならばと、さっそく術を試してみる。
べリスに教わった通りにボタンを押すと、左手からエネルギーの塊みたいなものが飛び出して相手に当たる。
思いっきり殴られたかのようにたたらを踏んだ相手に向かって、回転して勢いをつけた剣の一撃を喰らわせ、腹を切り裂いた。
どおおおおーんっと倒れたマスピエルに思わず声が上がる。
「やったぁー」
「おお、すげぇじゃん。いいなぁ、俺もザコじゃないやつ倒したい。なんかいないのかなぁ」
土煙の舞う大地を移動し続け、ようやく建物らしき影が見えて来る。近付けば、それは円形の塔のように見えた。ただし、さほど高さがない代わりに、円の直径は恐ろしく大きい。東京ドームほどありそうだ。
中に入ろうとすると、再び能天使が現れた。
「タグリエル、来たー!」
「強いの?」
「俺なら一撃」
宣言通りべリスは大剣を左から右に薙ぎ払って、ザコ天使も巻き込みながら能天使を叩き切った。
建物の中に入り、ルシファーの姿を捜す。すでにラファエルと戦闘状態にあるはずだ。
あちらこちらで、ルシファーと共に神に反旗を翻した天使たちと反乱を鎮圧しようとする天使たちの戦いが繰り広げられている。
「親父、発見!」
画面にべリスそっくりな容姿をした智天使が姿を現す。大剣で天使たちを薙ぎ払い、その血を全身に浴びている。
戦い方までべリスそっくりなのだが、一撃で10人くらいの天使が五体バラバラになって吹っ飛んでいる。見た感じ、ちょっと怖い。
「べリスのパパって、怒らせたらいけないタイプ?」
「あれで本人は文官のつもりだから、やべぇだろ」
「それは、やべぇパパだわ」
「あんまり近付くと巻き添え喰らうぞ。適度に距離を取りながら付いて行こう」
建物に入った時にべリスは馬を乗り捨てている。べリスの父親が辺りのザコ天使たちを一掃してくれるので、二人はべリスの父親の後ろを歩きながら建物の奥へと進む。
ちなみにべリスの父親の名前表記は『契約の主』だ。おそらく、二つ名だろう。
不意にべリスが声を上げた。
「いた! ラファエルだ!」
明らかにザコ天使とは異なるキラキラした容姿をしていて、背中の翼を動かすたびに風が吹き荒れている。
ルシファーが黒い炎を放つと、ラファエルも負けじと刃のような風を叩き付けてくる。
べリスと二人でルシファーとラファエルの戦闘に加わると、『契約の主』も戦闘に加わって、体力値が減ってしまったルシファーは後ろに退いた。
「ラファエルは座天使だ。油断するなよ」
「うん」
べリス親子は接近戦を得意としている。だから、ラファエルの懐に入ろうとするのだが、すると、すかさずラファエルが翼を羽ばたかせ、敵も味方もすべて吹き飛ばす。
「くそっ。攻撃が決まらない」
「そしたら、私が、えーっと、こうやって、こうかな」
ボタンをいくつか連続して押してみると、シトリーがくるりと回転して、その勢いを活かして剣先から術を飛ばす。
エネルギーの塊が刃の形で飛んで行き、ラファエルの左腕を切り裂いた。
「なんか技でた!」
シトリーは回転すれば攻撃の威力が増すので、とにかく回転して術を繰り出す。
剣の攻撃と術を組み合わせれば、新たな攻撃技を生み出せるので、適当にボタンを押しまくっていると、かなりアクロバティックな動きになるが、いい感じの攻撃ができた。
(このボタンとこのボタンを同時に押すと、こうなるのか。じゃあ……って!)
「うわぁっ!! ラファエルが回復した!」
「あー、うん。ラファエルは回復するんだ」
「ひどい! せっかくあそこまで削ったのに!」
仕方がないので、めげずに攻撃を続けていると、ラファエルの体がどんどん赤くなっていく。それは赤く染まるというよりも、赤いオーラに包まれていっているようである。
「やばいぞ。必殺技がくるぞ。タイミングを見て避けろよ」
「は? 必殺技? あああああーっ。こっち来る! ロックオンされてる! 絶対、私だ。狙ってる!」
「うん、狙われてるな。がんばって避けろよ」
「むりむりむり!」
カッ、と画面が光り、ラファエルが発光したように輝くと、彼の燃えるような剣が爆発して大量のエネルギーを放つ。
「ぐはっ。死んだ」
「まじかー」
見事に直撃して倒れるシトリー。
「あとは頼んだ。パパと頑張って」
「やべぇな。勝てるかなぁ。誰か助っ人が来ないかなぁ」
――コンコン――
隣の部屋で扉をノックする音が響いて、べリスと視線を交わす。
べリスはコントローラーが離せないが、ちょうど自分は操作キャラがダウンしているところだ。よいしょと小さく掛け声を発しながら、ラグから立ち上がった。
「だれ?」
隣の部屋を覗くと、ラウムが扉を開けて部屋の中を覗き込んでいた。
「わたくしです。お食事の時間ですよ」
「ごめん。後でもいい? 今、ラファエルに殺されたとこなんだ」
「まあ! 大変!!」
「このままじゃあ終れないから、もうちょっとやりたいんだ」
「……分かりました。また後で出直しますね」
眉尻を下げて少し呆れた表情を浮かべると、扉を閉めて廊下を去っていった。
ベリスの隣に戻ると、ベリスはまだラファエルと戦っていた。
「どんな感じ?」
「今、大公が来た。勝てそう」
大公? と首を傾げて画面を見やると、艶やか黒髪の美女が両手で大剣を握り締めて戦っていた。『愛と豊穣の女神』と名前表記がある。
「えっ、女神?」
「そんな驚くことか? 大公がかつて女神だったことは有名な話だろ。うわっ、必殺技が来る!」
そう言ってベリスはにわかに腰を浮かせると、コントローラーを握り締めて、自分のアバターを『契約の主』の後ろに逃げ込ませる。
「ちょっ! パパを盾にしてんじゃん」
「親父のシールドやべぇ強いからさ」
べリスに言われて見やると、なるほど、確かに『契約の主』は自身とベリスの前にバリアを巡らせて、ラファエルの必殺技を完全に防いでいる。
「お? おお?」
必殺技後の隙をついて『愛と豊穣の女神』の猛攻撃が開始される。腰まで届く黒髪をまるで絹布のよう左右に広げながら舞うように戦う姿はうっかり見惚れてしまうほどに美しかった。
そして、彼女は女神の名に相応しく容赦がない。
どぉーん!
衝撃音と共に彼女の左腕がラファエルの胸を貫く。その手には血の滴った心臓が握られていた。
「よーし、勝った!」
「他力だけどね」
「いいんだよ、勝てば。おっと、レベルが上がった」
途中で倒れたシトリーもいくらか経験値が貰えてレベルアップしている。
二人プレイモードなので、どちらかが生き残っていれば次のステージに行けて、次のステージに行けば、倒れた方も復活して参戦できる仕様だ。
「さっきの大公ってさ、『魔界図鑑』を書いた大公?」
「ああ、そうだけど?」
では、魔界ナンバースリーの悪魔で、ラウムが敬愛している大公のことなのだ。
(元女神だったのかぁ)
それはいつかちょっぴり会ってみたい。アバターがめちゃくちゃすごい美女だったし。
そんなことを考えている間にも隣でベリスがコントローラーを操作している。
「なあ、次どうする? 仲間を増やすために、マオンに攻め込むか、順当にシェハキムでガブリエルを倒すか」
「ガブリエルかなぁ。――っていうか、なんでヴィロンを抜かしたの?」
「そこ、湖しかねぇじゃん。カブリエルの管轄地だけど、いねぇし。攻めても意味ねぇから」
そうなのかと低く唸るように応えた時だった。
コンコンと再び隣の部屋の扉を叩く音が聞こえる。
「なに?」
横着をして寝室から大声を出すと、扉が開いてラウムが部屋に入ってくる気配がする。どうやらワゴンを押して来たらしく、そのままワゴンごと寝室に入ってきた。
「お食事です。摘まんで食べられるようにしてきました」
ワゴンに乗せられた料理を見ると、大皿に薄くスライスされた肉や魚の切身、野菜やチーズなどが乗った一口大のパンやクラッカーが並んでいる。
「美味しそう! 見たらお腹減ってきた。ありがとう」
「紅茶も飲んで下さいね。ベリス公はコーヒーの方がお好みでしたよね。こちらをどうぞ」
そう言って、ラウムはティーカップにそれぞれ紅茶とコーヒーを注いだ。
先ほどの彼女の言葉の中で紅茶に『ほぼ』がついていなかったけれど、それは人間界の紅茶を出してくれたからではなく、単に『ほぼ』を省略することにしたのだろう。
ふんっとベリスが鼻を鳴らした。
「誰がお前の入れたもんなんか飲むかよ。さっさと出て行け」
「もー、ひどいですぅ」
べリスには拒否されていたが、自分はちゃんとラウムから差し出されたティーカップを受け取ってやって、ひと口すする。その様子を確認してラウムがにっこりと笑みを浮かべた。
そして、ラウムは寂しそうな後ろ姿を見せながらワゴンを残して寝室から出ていった。
【メモ】
グイド……『わたし』『陛下』『オセ殿』『大公』
中級悪魔。黒髪。焦げ茶色の瞳。ダンディー。イタリアンスタイルのスーツ。
日焼けしたイタリア人っぽい容姿。全身から色気が駄々洩れしている。
『ふたつ月の国』の長官。シトリーの家臣。シトリーの官吏たちの長。
ハウレスと共にオセを揶揄うのが楽しい。シトリーの家臣なのに、シトリーよりもオセに指示を仰ぐことが多い。