「12月、この月だから?」9.どちらも
ローテーブル前に座っている栞は、隣に座っているおとなりさんと考えながら、ローテーブル上のノートパソコンで、テイクへの相談文をつくっていく。
まずは、先ほど、花びらという名で相談した者だということを書き、お礼の文から。
続いて、相談内容。
予定が変わって帰宅したけれど、部屋のスノードームの様子がおかしい。物はあるのに、誰もいないみたいに感じ、とても心配。どうすればいいか。
そういったことを書いてみる。
テイク側の説明によると、相談の際、最初から内容を詳しく書いてもいいし、最初はおおまかな内容で、あとはテイクとのやりとりの中で情報を追加していく形でもいいとのこと。
ある程度詳しく書こうとすると、文がどんどん長くなって時間がかかりそうだったので、ひとまず、とてもおおまかな内容の文だけで送ることにした。
「あっでも、スノードームっていっても、けっこういろいろあるよね」
送ろうとしたところで栞は思い、声に出した。
おとなりさんが頷く。
「そうね……。だいたいの大きさとか種類とかを書いてみたらどうかしら」
「だね。大きさ……は、部屋の棚に置けるくらい。種類は、クリスマステーマで……中に……」
栞は言いつつ入力していき、スノードームの中にある物についても文に追加した。
今度は、九州地方に住む、しおり、として、テイクに文を送信。
テイクから来た返事には、お礼の言葉と、一時間以内に担当者が連絡するといったことが書かれていた。
(一時間以内……一時間近く待つかもしれないからコート脱いで……あっ!)
「ごめん! おとなりさん。私、部屋暖めもせずにずっと」
あわててエアコンのスイッチを入れる。
お互いコートを着たままだし、ラグを敷いた上に座っているとはいえ。
帰る道すがら、けっこう今日は寒いなと感じたことを、急に思い出した。
「大丈夫よ。部屋の温度には意識が向いてなかったわ。……荷物にも、意識が向いてなかったみたい」
おとなりさんが微苦笑といった感じの表情になる。
見ると、おとなりさんの肩にかけられた黒いバッグと、手に持たれたグレーの手提げ。
「ほんとだ。私も気づかなくて。もしよかったら、あの台とかも使って」
部屋の出入り口付近にある台を、手で示す。
台には、一泊の予定で用意をして持っていき持って帰ってきた栞の荷物が、すでに置いてある。
スノードームの雰囲気の違いに気づき、あわてて置いたままだが、まだスペースは。
「あっ」
そうだ。一泊、といえば。
「相談文に、スノードーム、もしかしたら、どこかに出かけていて、私が帰宅予定だった明日の夜までには戻るつもりなのかもって、書いたほうがよかったかも」
「そういえばそうね……」
「追加で送らせてもらおう」
テイクに向けての文をつくり始める。
おとなりさんの提案により、この、相談文のやりとりの場に同席者がいることも、知らせておくことになった。同席者も相談についての説明文等を読んであることも、あわせて伝える。
追加で送って少しして。
お礼と、担当者に伝える旨などが書かれた返事がテイクから来た。
「これでとりあえず、あとは待てば……って、ごめん! 荷物」
「そうだったわ。手提げ、置かせてもらうわね」
立ち上がって台のほうに向かう、おとなりさん。
栞もコートを脱ごうと立ち上がり、そちらに向かう。コート置き場も、部屋の出入り口付近だ。
おとなりさんからもコートを預かり、ハンガーを使ってラックにかける。
おとなりさんは、紺のジャケットと膝下丈スカートに、白の襟付きシャツ。おとなりさんが、外出時によくしている組み合わせだ。
「そうだ。言うの遅くなっちゃったけど、おとなりさん、おかえり」
「ただいま。――帰ってきて荷物を置いて買い物に行って、栞ちゃんに連絡を入れておこうと思いつつ買い物から帰ってきたら、栞ちゃん本人がいたわ」
「えへへ。……あれ? 買い物? あっ、冷蔵庫使う? けっこう時間経っちゃってるけど……」
「入れないままで大丈夫。温度はそこまで気にしなくていい物だから。台のスペースのほうを使わせてもらうわ」
「どうぞ。ちょっと狭くなってるけど、ごめんね」
一時置き用の、荷物置き台。普段の仕事帰りなら、今より空きスペースがあるのだが。
「充分よ。――私の部屋の一時置きスペース、今けっこうぎゅうぎゅうよ。何日出かけるかわからなかったから荷物を多めに持ったうえに、行ってた先でもなんだかんだで増えて」
「あ……それは、行き帰り大変そうだし、スペースをまた空けるのも……」
「そうなのよね。まぁでも、大元のほうは解決したから、気楽に徐々にするわ」
「解決? したんだ」
おとなりさんの、帰宅予定が見えなかった外出は、おとなりさんじゃなくなるかも発言と関係した件によるものかなと、思っていたのだけれど。
進展とか決定とかではなく、解決という言葉が選ばれた状況とは、いったい……。
「ええ。前に、まだ詳しく話せないって言った件、話せるようになったの。半端に口に出したままだから、できたらまた、話をさせてもらえると嬉しいわ」
「あの、その話、今してもらってもいいかな。実はずっと、気になってて」
話せるようになったなら、気になっていると打ち明けてしまっていいだろう。
聞けるのなら、はやく聞きたい。
どういう内容か、聞いて自分がどう思うのか、不安ではあるけれど。
若干前のめり気味で言いだした栞に、おとなりさんは最初こそ少し驚いたように軽く目を見開いたものの、そのあとは落ち着いて聞き、そうよね、と静かに頷いた。
「あれだけを聞かされたままじゃ、気になるわよね。でも待っていてくれて、ありがとう。じゃあ、話すわね」
「ありがとう」
テイクから連絡が来たらすぐ対応できるよう、二人は再び、ローテーブル前に座る。
今度は膝掛けやクッションも、ちゃんと用意した。
それぞれ落ち着く体勢をつくり終えたあたりで、おとなりさんが口を開く。
「結論から言うと、今後もおとなりさんのままです、ということなの……」
そう言って始めてくれた、おとなりさんの話を大きくまとめると。
ある家の跡継ぎ、養子縁組、用意された相手との結婚、などなどの渦中に、おとなりさんは、いきなりいることになってしまっていた。
かなり一方的で強引だと困っていたものの、恩のある人の家に関係する話であるため、どう行動すればいいか、考えていたおとなりさん。
どんどん話が進んでいき戸惑っていたが、またまた驚くことが起こった。
間に立っていろいろ決めていた人物が、独断で動いていただけということが判明したのだ。
その人物はそれまで、それぞれには、相手が希望していること、でも遠慮したり気遣ったりで相手に直接は望みづらいから、自分が代わりに動いている、というようなことを言っていた。
いろいろ確認し合った結果、この話は進めることはせず、終了ということになった。
とのことだ。
準備段階で周りに話を広めることを、恩のある人は望まないのでは。
間に立っている人物は、そういったことも言っていた。
恩のある人の意思を確認する機会が持てなかったため、念のため、あまり話さずにいようと思っていた。
けれどつい、栞の前で少し口にしてしまい……というのが、あのときの状況だったそうだ。
「すごく……考えていたのよね。おとなりさんじゃなくなるかも、それでも、仲よくしてもらえるかしら。もし、おとなりさんじゃなくなるとしても、これからも仲よくしたいって、栞ちゃんに言っていいかしら、って。もし言うとしたらまず……って具体的に考えすぎて、気づいたらちょっと口にしていて……」
そう話す、おとなりさん。
栞が驚いているうちに、おとなりさんが続けて口を開く。
「結果的に、まだ、おとなりさんのままの予定だけど、そして、おとなりさんでいられることを嬉しく思っているけれど……おとなりさんでも、おとなりさんじゃなくなるときが来ても、どちらであっても、これからも仲よくしてねって、言わせて?」
「そっそれっ、私もっ」
言いそびれては大変。栞は頑張って声を出した。
「私も、おとなりさんじゃなくなっちゃったら寂しい、でももし、おとなりさんじゃなくなるとしても、これからも仲よくしてほしいって、おとなりさんに言いたいけど言っていいかなって悩んでて……だから、おとなりさんでも、もし、おとなりさんじゃなくなるときが来たとしても、これからも仲よくしてほしいし、これからもっと仲よくなっていきたい!」
栞の言葉に、嬉しそうに微笑むおとなりさん。栞も笑う。
「栞ちゃん。嬉しいわ。ありがとう。これからも、よろしくね」
「私も嬉しい。ありがとう。これからもよろしく」
と、そこに、通知音。
「はっ、はいっ」
栞は思わず声に出して返事をしつつ、ノートパソコンを操作する。
テイクから届いた文を、画面に表示させた。
お読みくださり、ありがとうございます。
次の投稿は、11/1(土)夕方~11/2(日)朝あたりを予定しています【2025年10/26(日)現在】
(状況によっては、それよりあとの、(土)夕方~(日)朝あたりになるかもしれません)
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
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【改稿予定です。よろしくお願いいたします(2025年10/26(日)時点でのお知らせ)】
〈12月7〉
栞は足早にスノードームに近づく。
↓
栞は台に荷物を置き、急いでスノードームに近づく。
〈12月8〉
・栞にルビを追加
・以下の文を変更
一緒にテイクのサイトも見て、相談についての説明ページ等も読む。
↓
二人で並んで座り、ローテーブルに置いたノートパソコンで一緒にテイクのサイトを見て、相談についての説明ページ等も読む。




