「4月、うさぎさんの行動理由」8.それぞれにとっての……
改稿については後書きで説明しております。
専用スペースは、相談や依頼など各件ごとにそれぞれつくられるものだ。
今回の相談を機に、ラビィの件についての専用スペースもつくられた。
報告、連絡、相談、通報、申し込み、雑談、など、各種やりとりをする。
なんらかの文章を書く。
面談記録など、いろいろな文書を読む。
状態チェック結果を見る。等。
今後、ラビィに関してのことは、このスペースを通しておこなっていくことが多くなる。
IDとパスワードを使ってログインし、利用する形になっている。
「とはいえ、IDとパスワードを知れば、誰でもラビィさんの件の本来の専用スペースを使えるわけではありません。超常に関係した件の専用スペースは、超常的なものになっていて、あらかじめテイク側で許可した存在でなければ、本来の専用スペースを見たり使用したりすることができません」
今現在、ラビィの件の本来の専用スペースをすべて見たり使ったりできるのは、育生、ゆかり、ラビィ、モノ対応担当の各メンバーだ。
ほかに、部分的または一時的に、見たり使用したりを許可されているメンバーもいる。
「ラビィさんの件の専用スペース、こちらが本来のトップページです」
優月は自分のタブレットの画面を、花山家の面々に見せる。
また、優月は自分のスマホを操作し、同じページを出してその画面も見せた。
「では許可外だと、どういうスペースなのか。許可を得ている存在がそれを知りたくなったときは、本来のトップページの下端にある、チェンジという字をタップします」
スマホの画面のほうを操作する。
「これが、許可外の存在が見るトップページです。両方で今日の相談受付記録のページを開いてみます」
タブレットとスマホの両方を操作し、記録文をそれぞれ表示する。
二つの画面を見てから、育生が優月を見た。
「スマホの画面に表示されているほうの記録では、俺たち、ラビィのメンテナンスとクリーニングの相談に来たことになってますね」
「はい。そして対応記録のほうは、それぞれこういったものになっています。まだ面談中なので、現時点までの記録ですが」
優月は育生に頷いてから、今度は二つの画面に、今日の対応記録の文を表示する。
ちなみに、許可外スペースで表示される文書の用意手段は何通りかあるらしく、その時々で違うようだ。専用スペース対応担当の対応分野なので、優月には細かくはわからない。
「スマホの画面のほうでは、私たち、ラビィの状態をいろいろと知って、ラビィを綺麗にしてもらったり、いろいろメンテナンスをしてもらったりして、追加で刺繍も頼んで、してもらったのね。そして今は、お手入れ方法とか扱い方とか含む、今後のぬいぐるみとのつきあい方について、あらためて教えてもらっているところ、と」
『ある意味合ってる……でも肝心なことがほとんど抜けてる……』
「これ、仮に、現時点でもうロボット化されているってことにした場合でも、内容的に変じゃないですね……うん」
花山家の面々が口々に述べる。
合間にタイミングよく入れ込んでみせたラビィの言葉を育生とゆかりに伝えてから、優月は説明に戻る。
チェック結果を表示すると、許可外用スペースでは、新しいお知らせはありません、と出る。
また、許可外用の専用スペースを通して、いろいろとやりとりしようとしてみても、専用スペース対応担当につながるだけだ。しかも、許可外用のスペースからのものだと、担当にはわかる。
なお、本来のラビィの件用スペースであれば、モノ対応担当とのやりとりがメインとなる。
優月以外のモノ対応担当が対応することもあるが、情報を共有しているので話はすぐに通る。
また折を見て、モノ対応担当の面々を紹介する。
そういったこともあわせて説明した。
「そして、トップページのチェンジの文字を再度タップすると、本来のスペースに戻ります」
ちなみに、許可外の存在が見ている、許可外用のトップページにも、チェンジの文字はありタップできるが、背景色が変わるだけである。
ここは、許可外だとどんなだろう、と許可を得ている存在が試してみることができない部分だ。
「本来のスペースと許可外用スペース、ざっとですが、こんな感じです」
ほうほう、ふんふんと頷きながら見たり聞いたりしている三人に言って、更に優月は続ける。
「ちなみに、本来のスペースのページを画面に出しているときに、許可外の存在が見ようとしてきても、本来のページが見られるわけではなく、許可外用のページが目に映ります」
なので、本来のスペースを利用中に、画面を見られないようにしなければ、といった心配もしなくていい。
「「『なんと!』」」
「また、本来のページの画面を撮影しても、許可外用のページが撮影されます。ダウンロードや印刷をしても、許可外用の内容でされます。許可の有無に関係なくそうなります。テイクに申請して、テイクが所定の方法でおこなう場合は別ですが」
「「『そりゃすごい!』」」
リズムよく入れられる相づちを少し楽しみつつ、優月はつけ加える。
「ただし、本来のページの内容を読み上げたり、なにかに書き写したり、専用スペース外のどこかに入力したりすれば、許可外の存在でも、聞いたり見たりできてしまいます。ご注意ください」
「がってん!」
「しょうち!」
『です!』
育生、ゆかり、ラビィが、それぞれ右手を挙げながら、元気よく返事をしてくれた。
専用スペースの超常的作用についても説明し、初回面談時に必要な内容はほぼクリア、となった。
花山家の面々は三人そろって伸びをする。
姿勢を戻して育生が口を開いた。
「いろいろと連絡や相談もさせていただきつつ、なるべく早めに再訪問の予定も立てるのと……あとは、間に合わせになっちゃうかもだけど、五十音の紙や短文の紙づくりと……」
「そうね。急げることは急ぎつつ……長い関係だもの、助けていただいたりもしながら、徐々にやっていきましょう」
ラビィと手をつないだゆかりが、そう言って笑う。
育生とラビィも手をつなぎつつ頷き、笑った。
『ビデオ通話とか電話とか……できなかったのは残念ですけど、優月さんとまたお会いしてお話しするの、楽しみにしてます』
「はい。私も、楽しみにしています」
ラビィに笑顔で返してから、育生とゆかりに内容を伝えた。
ヨクを待っている間、しるしの柄決めのあと時間があったので、ビデオ通話をまず試した。
その後、電話や撮影や録音なども試して、結局、どれも優月にラビィの声は届かず、遠隔では無理だと判明したが、そういうモノが実は大多数だ。
直接会って言葉を交わせる機会を、よりいっそう大事にしたいと、あらためて思う。
花山家の面々と優月、お互いにお礼を言い合い、今後もよろしくお願いしますと言い合ったあとで、育生が奏を見た。
「奏さんも、お世話になりました。……正直たまに、目の前にいらっしゃるのに存在が頭から抜けてしまっていたことも……すみませんでした」
「いえ、それは、私にとっては褒め言葉ですので、謝っていただく必要はありません」
ためらいつつ打ち明けた育生の謝罪に、奏が笑って返す。
『気配の消し方講座ができそうなほどでした』
ラビィの言葉を奏に伝える。
「ぬいぐるみのときのラビィさんには敵わなそうですが……ある意味本職の方にそう言っていただけるとは……光栄です」
奏がラビィに会釈をしてみせる。
ゆかりが奏の手に視線を向けてから、奏を見た。
「面談中にちらっと見えましたけど、入力する手元、惚れ惚れするような動きでした」
「それもまた、お褒めにあずかりまして、という感じです。ありがとうございます」
それぞれ奏と言葉を交わしたあとで、花山家の面々はそろってお礼の言葉を口にした。
奏もお辞儀を返す。
「あ、そういえば、抱っこの向き、どんな感じにする? 前が見えたほうがいいかしら」
ラビィを抱き上げようとしたゆかりが、いったんストップして訊いた。
『移動したりなにか見たりするときは前向きのほうが楽しいかも……だけど、向き合ってぎゅってしてもらうのも、好き』
ラビィの答えを優月が伝えると、ゆかりが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、ぎゅ、っとも、もちろんこれからもたくさんするとして……今はこっち向きね」
言って、ラビィを前が見える向きで抱っこする。
花山家の面々と優月と奏が、まとまってドア付近まで進んだ。
ゆかりがラビィをカバンにいったんしまおうとしたところで、ラビィが待って、と声をあげた。
『えっとせっかくなので……優月さんと奏さんと握手もしたいなって……思って……』
「嬉しいです。ぜひ」
笑顔で返事をしてから、ラビィの言葉をみんなに伝える。
ラビィが握手しやすいよう、ゆかりがラビィを抱き直した。
ラビィが右手を差し出してくれる。優月はその手を取り、まずは軽く握る。
「ラビィさん、ふわっふわですね。素敵」
見た目から予想はしていたが、それ以上のものだった。思わず口に出すと、ラビィは笑う。
『自慢の本体なんです』
ラビィの言葉を優月が伝えると、みんなも笑顔で頷いた。
「では私も……」
奏もラビィと握手をし、やはりその手触りにうっとりとする。
「すごい……ふわふわの先はもっちり」
食べ物について語っているような奏の言葉だが、ラビィの手を少ししっかり握っての感想だろう。
「同感です」
先ほど優月も同じようなことを感じたので、笑顔で告げた。
初回面談は、そんな和やかな雰囲気の中、幕を閉じた。
お読みくださり、ありがとうございます。
今後もおつきあいいただけますと幸いです。
次からは5月を題材とした話になります。
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【改稿について】
【2024年7/9(火)】空白行を入れる位置を変えたり、空白行を増やしたりといった変更をおこないました。




