「12月、この月だから?」6.訪れるのは
はい! と勢いよく返事をしたハンカチーズの三人。
そのあとで赤ワインはんが、あらためて説明をする。
テイクの役割や立ち位置。
モノや持ち主とテイクとの関係。
役割だから仕方なく行動しているわけではない。こういう役割のテイクだから、ここで活動したいとそれぞれが思い、動いている。
そういったことなどを、赤ワインはんが代表してスノードームンに話した。
そして、今後、テイクがスノードームンとの関わりを継続し、長期的に対応していくことに対して、スノードームンから許可を得られるとありがたいといった話もする。
いくつかのサポート事例を話し、費用関係のことも説明し、サポートの方向性は対象者たちの意向を聞きながら考えていく、といったことも話した。
『お話ありがとう! えっとじゃあ、ボクたちの中で、許可したくないって人は、声出してー!』
リースが呼びかけた途端、室内がシーンとなった。雪の降る夜のような、独特の静けさが訪れる。
そこを通ってハンカチーズに届いたのは、落ち着きの中に穏やかさを含んだ、ツリーの声。
『意思確認完了です。スノードームンを、今後末ながく、よろしくお願いします』
『お願いします!』
ツリー以外のスノードームン六人が声をそろえた。
『ありがとうございます。こちらこそ末ながく、よろしくお願いいたします』
赤ワインはんが言って、綺麗にお辞儀をする。
チーズはんとチョコレートはんも、お願いいたしますと言ってから、深くお辞儀をした。
ハンカチーズ三人が体を起こしたタイミングで、赤ワインはんが声を出す。
『それではまず……。先ほど、お手伝いを、こっそりか、これを機に存在をはっきり、そのうえでか、というような内容のことをおっしゃっていたけれど……。今後、持ち主の方に対して、スノードームンさんとしては、今のまま、積極的には、はっきりさせないか、それとも、はっきりさせるか。どちら方向を、より望んでいる感じかしら』
『んー、テイクさんのサポートを得られると知った、今の時点では、それぞれどうかな。ボクたちみんなで話してみる!』
『そうじゃの。私たちで少し話し合ってみますかの』
『そうですね。少しお時間をいただけますか?』
『ええ。こちらは気になさらず、ゆっくりとお話を』
『あっ、ハンカチーズは席を外したほうがよければ言ってくださいね!』
赤ワインはんが返事をし、チーズはんが言い添える。
『いてくださって大丈夫ですぞ。聞き取りやすさや聞き分けやすさを考えずに発言するだけで、聞かれて困るわけではないですからの』
『ですです!』
サンタの言葉に、同意するスノードームン六人の声。
スノードームン七人が、それぞれ今いる位置から移動し始めた。七人で小さめの輪をつくろうとしているようだ。
あまりそちらばかり気にしていては、スノードームンも落ち着いて話し合えないかもしれない。
そう思い、チョコレートはんはタブレットの画面に視線を向ける。
操作しようとし始めたあたりで、『というわけでー!』というリースの声。
『みんなどうするー? 今のまま方向? はっきり方向? 理由とか意見とか希望とか、いろいろゴー!』
リースが音頭を取り、スノードームンみんなで話しだす。
かなり速いスピードで話す人も多く、重なって話していたりもして、音としては聞こえても、詳しい内容をはっきり正確に聞き取り、誰の発言か聞き分けるには、明らかに聞いていますモードで集中しないと難しい。
聞かれて困るわけではない、と言ってはいたけれど、この段階で逐一聞き取ろうとされても気にせず話し合えるかは、微妙なところな気もする。
チョコレートはんは、スノードームンのほうに向きすぎかけた意識を、また画面のほうに戻した。
声が行き交ったり、みんなが黙るときがあったり、またいくつか発言があったり。
さほど時間がかからず話がまとまったようで、スノードームン七人が、再びそれぞれの位置へ。
スノードームン七人の小さめの輪から、ハンカチーズ三人も含めた、大きめの輪に戻った。
『お待たせ! 決まったよ』
『えっと、では、聞かせていただけると嬉しいです!』
リースとチーズはんが、やりとりする。
『うん! まず、詳しい内容の前にまとめて……。はっきり方向ではあるんだけど、お訊きしたいこともあるんだ』
『それぞれが話した内容の大意を、お話しします。まずはトナカイさん、よろしく』
リースとツリーが言った。
ではさっそく、と言うトナカイの声がする。
『トナカイです。――今の微妙なバランスは、そろそろ無理があるような』
『ソリです。――持ち主さんのことや話すことを、見たり聞いたりいろいろできている。そう知らせていないままなのは、そろそろ気まずい、心苦しいという気持ちも』
『家です。――今までは、私たちのことをはっきりさせたら、そのあとのことを持ち主さんだけで考えなければいけないかもしれない、持ち主さんの負担になるのではと、気になってもいました。ですが、テイクの方々のサポートを得られるなら』
『リースだよ。――テイクさんに助けてもらえるなら、持ち主さんがいっぱい背負わなきゃってならなくていいかなって。それなら、ボクたちのことをはっきりさせて、そのうえでどうしていくかを……』
『ツリーです。はっきりさせることに反対の人は発言を、と確認したところ、みんな黙りました』
『サンタですぞ。――はっきりさせたあとも、これからも、持ち主さんと暮らしていけたら嬉しいですがのう』
『ツリーです。――もし、実情を知って、同居は嫌だと持ち主さんが思ったら……そういう場合も、持ち主さんがテイクに相談できると考えていいでしょうか……持ち主さんが、このスノードームどうすれば、と悩まずに済むでしょうか』
『雪だるまです。――持ち主さんが、スノードームをもう持っていたくないと思ったら……悲しくは思いますが無理強いはしたくありません。ただ、その場合……持ち主さんの物でなくなる場合……私たちはどうなるのでしょう……』
『リースだよ。そのあたりのことは、テイクさんに訊いてみよう! ってなったよ』
『ツリーです。以上です』
『しっかりお聞きしました! 話してくれてありがとうございます』
チーズはんがお礼を言う。
『ツリーさんがおっしゃっているような場合も、テイクがともに考えるわ。……雪だるまさん、もしそうなった場合は、テイクのもとで、おそらくはここ珠水村で、まずは暮らし始めて、これからのことをゆっくり考えていく……ということになると思うわ』
質問に答えたのは赤ワインはんだ。
『ツリーです。お答えくださりありがとうございます。伺った結果、はっきりさせるという選択に対して、変更はありません』
『雪だるまです。同じく、です』
『サンタですぞ。選択内容を変更したい人は発言してくだされ』
サンタの言葉のあとで、沈黙の時間が訪れる。
『――ツリーです。はっきり方向でお願いしたいと思います』
『かしこまりました』
赤ワインはんが返事をし、チーズはんとチョコレートはんもお辞儀をする。
と、そのとき。チョコレートはんのタブレットに、テイクからメッセージが届いた。
わりと急ぎで読んでほしい種類のメッセージ、という区分での着信だ。
メッセージ文を表示させて目を通す。
(えっ)
チョコレートはんは内心驚きながら、赤ワインはんとチーズはんにメッセージを転送した。
入力しているチョコレートはんが、画面チェックを一番にしやすいであろうから、チョコレートはんに送る。
赤ワインはんとチーズはんには、その場の状況を見つつ、チョコレートはんが転送操作を。
そういうようなことも、メッセージには書かれていたからだ。
読んだことと行動開始したことを、チョコレートはんはテイクに連絡する。
『まあ……』
『んんっ?』
赤ワインはんとチーズはんが、とても小さな声で言う。メッセージを読んだのだろう。
『……あの、スノードームンさん、お知らせというかお伺いしたいことというかが、あるのだけど』
赤ワインはんがスノードームンへ。
『ある相談文が、少し前にテイクに届いたそうなの。――予定が変わって帰宅したけれど、部屋のスノードームの様子がおかしい。物はあるのに、誰もいないみたいに感じる。とても心配。どうすれば。――といった内容で、九州地方に住む、しおり』
『大変だぁ! すぐ帰らなくちゃ!』
そこまで聞いた途端、シュイン! とフリスビーのように勢いよく、空間に飛び出すリース。
けれど家がとてもすばやく動き、煙突にリースを引っかけて止めた。輪投げの棒と輪、状態である。
『リースくん、落ち着いて』
『そっそうだよ、急ぐのは必要なときもあるけど、あわてるのは危ないよ』
家に続いて、チーズはん。
『そうですぞ。あわてると、対象日の前に、訪れてしまったりしますからの』
サンタが、あるクリスマスの歌のようなことを言う。
『リースくん、あわてて飛び出す前に、お話を伺いましょう? 私たちだけで勝手に行動しては、いろいろすれ違ってしまうかもしれないから』
『そうだね。ごめん、ありがとう』
家とリースが言葉を交わし、リースを煙突にかけたまま、家が先ほどまでいた位置あたりに戻る。
『家です。お話の途中でごめんなさい。続きをお願いします』
『リースだよ。ごめんなさい。お願いします』
『ありがとうございます。続けるわね』
柔らかな声で、赤ワインはん。
『相談文には、ひらがなで、しおり、と名前があったそうだけど、この段階では相談用の仮の名前でも送ることができるから、本名かはわからない、とのことよ』
『文には、スノードームの中にある物についても書かれていて、種類や見た目がスノードームンさんと一致しているように思えるそうなの』
『状況やタイミング的にも、持ち主の方からの相談文ではないかと思われるけれど、スノードームンさんに伺ってみてほしい。そのために必要なので、相談文についての情報共有相手にスノードームンさんを加える。――テイクから、そういったメッセージが届いて、お訊きするために』
『話し始めてくれたところで、ボクが飛び出しちゃったんだね。あっ、リースだよ』
煙突にかかったまま、リースが声を出す。
『ツリーです。そのリースの行動でお答えしたようなものですが、私たちの持ち主さんが住んでいるのも、九州地方です。名前は、しおり』
ツリーの言葉に、答えてくださってありがとうと赤ワインはんが言い、続ける。
『相談文の送り主の方が、持ち主の方である確率が高いようなら、どういう方向でお話ししていくか、スノードームンさんに伺ってから具体的なやりとりを、とテイクとしては考えていて』
『送り主の方とやりとりする予定となったメンバーが、まずスノードームンさんとお話しするために、これからこの部屋に来ることを希望しているのだけど、かまわないかしら』
『サンタですぞ。では訊いてみますかの。そのメンバーの方に部屋に来てもらいたくない、そのメンバーの方と話をしたくないという人は、発言してくだされ』
静かな時間が訪れる。
『では、メンバーを呼ぶわね。ありがとう』
少ししてから赤ワインはんが言い、チョコレートはんがテイクに連絡をした。
お読みくださり、ありがとうございます。
次の投稿は、10/11(土)夕方~10/12(日)朝あたりを予定しています【2025年10/5(日)現在】
(状況によっては、10/18(土)夕方~10/19(日)朝あたりになるかもしれません)
今後もどうぞよろしくお願いいたします。