「12月、この月だから?」5.事情
『それでみなさん走っていたんですね』
『そうそう!』
楽しそうな笑い声をまじえてチーズはんが言うと、いくつもの声が同時に答えた。
スノードームン七人全員の声がしたと思う。
『空を走っていたのはどうして?』
チーズはんが訊くと、それはね! と元気よく言ったリースが続ける。
『クリスマステーマのスノードームだから! トナカイさん、ソリさん、サンタさんもいるし、みんなで空を行き、目指すところへ、って感じかなって!』
『そんな感じ!』
リースの答えに、同意の合いの手、おそらくスノードームン六人分。
『そしてここを目指してくれたんですね!』
チーズはんが明るい声で言う。
『うん! 珠水村、テイクって情報があれば、ボクたち、能力で行き来に関していろいろわかることもあるから。行けそう、行ってみよう! って』
『ただ、着けはしても、うまく相談できるかはわからなかったのですが』
『そうじゃの。不思議なことについて相談したい場合も受け付けてくれる、とはいえ、私たちがこの姿で行って、存在を認識してもらえるか、私たちが相談したい場合も受け付けてくださるか、わかりませんでしたからのう』
『いちとせさんにお会いでき、こうしてみなさんに話を聞いていただけてよかったです』
『私たちとしましても、無事、こうしてみなさんにお会いして、お話をお聞きすることができていて、よかったですわ。――テイクについてなど、情報はどちらから……とお伺いしてもいいかしら』
赤ワインはんが控えめに訊いた。
『持ち主さんからだよー』
『持ち主さんが調べていて、こちらのことを知ったのです』
『今後、なんらかのアクシデントでスノードームが壊れたら、不注意で自分が壊してしまったらと、持ち主さんが心配してくれましての』
『もしものときの相談先を調べる過程で、こちらは、不思議なことについて相談したい場合も受け付けてくれる、と知ったようでして、そこからもいろいろ調べ』
『なにかのとき、まずはテイクってところに相談してみようかな……珠水村、けっこう遠いけど、みたいなことを持ち主さんが口にしてたんだ』
『持ち主さんが想定していたなにかのとき、ではおそらくないときに相談に来てしまいましたが』
『それに、持ち主さんが相談にではなく、私たちが相談に来てしまいましたのう』
『でも持ち主さんのことが心配で、ボクたち、なにかしたかったんだ』
『……持ち主の方、どうなさったの?』
『持ち主さん、いろいろ悩んでるんだ。おとなりさんじゃなくなるかもって、どっちの意味? どっちも? とか』
(おとなり……お隣って頭には浮かんだけど、どっちって……? 先に文とかで目にしてないし……ひとまず今は、ひらがなで入力していこう。どういう字か未確認、とメモも)
リースの言葉に考えながら、チョコレートはんは入力を進める。
『プレゼントする場合、お世話になりました? おめでとう? ……これからもよろしく、もいいのかな……そもそもなに渡そう、喜んでもらえるもの、なにかな……といったことですとか』
『おとなりさんじゃなくなっても、仲よくしてほしいって言っていいのかな、これからもっとって望んでいいのかな……といった感じでですの』
『口に出しながら悩んだり、いろいろ調べものしてたりなんだ』
『おとなりさんと仲よくなれて、楽しそうだったのですが、少し前からそういった感じになってしまいまして』
『挨拶してくれる声もだんだん元気がなくなっていきましてのう……先ほど、毎日楽しいですぞと言いましたが、次第に心配のほうが大きく……』
『といっても、いつも元気でいてって、強制したいわけじゃないんだよ?』
『すごしていれば、いろいろなときがあるとは思いますし』
『とはいえ、心配して見ているだけでなく私たちにもなにかできないか……とも思いましてのう。……それに、テイクのスペシャル抽選、なぜあんなにすぐに断念してしまったのか、気になりましての』
『あっ、これいいかも! って弾んだ声で言って、でもわりとすぐに、あー……これは……無理かな、って、残念そうに言ったんだ』
『いったいどんな内容だったのかと気になっていまして。……精神体でスノードームから出て、こっそりしっかり見ることは、あまりしたくないですし』
『ボクたちが持ち主さんの物を勝手に使って調べるのも、試してみないほうがいいだろうなって思うし』
『悩む持ち主さんに悩む私たち……という状況の中、持ち主さんが、泊まりで仕事、帰りは夜遅くなる予定、と事前に教えてくれましての。……伝わっているかはわからないけれど一応お知らせ、という感じで話してくれたようですがの』
『それならボクたち、持ち主さんが出かけている間に、相談に行ってみよう! テイクの方に話を聞いてもらえたら、スペシャル抽選についても訊けるかも! いろいろ相談できるかも! ってなって』
『今に至る、というわけです』
『そうだったのね……話してくださってありがとう』
『ボクたちこそ、聞いてくださってありがとう!』
赤ワインはんとリースが、互いを代表してお辞儀し合う。
『ではまずは、スペシャル抽選について……。今年のこの時期のスペシャル抽選は、オーダーメイドのぬいぐるみに関するものですわ』
『ぬいぐるみ』
スノードームン七人の声。
『ええ。スペシャルと名のつく抽選は、当選側が得られる物事がかなり多い分、応募条件が細かいの。そこで無理な内容があったのかもしれないわ。……おそらく一番は』
『一番は』
スノードームン七人が声をそろえる。
『当選した場合、渡す側が用意してどなたかにプレゼント、ではなく、ぬいぐるみと今後を一緒にすごしていく予定の方がメインとなっていろいろと進めていく、というのが、今回のスペシャル抽選のポイントなの。そこが、今回のプレゼント選びには合わなかったのではないかしら』
『プレゼントする側が進めるのではなく、ですか』
ツリーが確認するように言う。
『ええ。今回は、自分とともにすごしていくぬいぐるみを、自分でいろいろと選んで決めて制作を依頼する、それをしてみやすいように、費用面も含めいろいろとサポートします、という感じのものなの。メインとなる方以外が応募する場合は、メインとなる方が自分で選んでの制作を希望していると確認してから応募を、となっているわ』
『希望する方には魅力的な内容だとは思いますが、それは確かに、今回、持ち主さんが、おとなりさんに渡すプレゼントとしてイメージしているものとは、方向が違う気がしますね』
『そうね……』
『うーん……場合によっては、ボクたちが代わりに応募できないかなって話も、ボクたちしてたんだけど……これはそういう内容のものではなかったね……』
『……スペシャル抽選については、今はこれで区切りとしましょうか』
ツリーが言い、スノードームン六人が同意の声を出した。
『となると、いったいどんなプレゼントがよいですかのう。選ぶお手伝いが、少しでもできればと思うのですがの』
『持ち主さんとおとなりさんとの、これからのことも、嬉しいほうに向かうお手伝い、なにかできたら嬉しいな』
『ただ……、お手伝いといっても、こっそりなのか、これを機に私たちの存在をはっきり……で、そのうえでなのか』
『持ち主さんとボクたちのこれからについても相談できたら嬉しいねって話も、ボクたちしてて』
『ご相談してもよろしいですかのう』
『はい!』
ハンカチーズ三人は、声をそろえて返事をした。
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