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「12月、この月だから?」4.そうしてみた


『気になりましてお伺いしたく』

『応募について詳しく』

『クリスマスにこだわらなくても』

『お手伝いしたいんだ』

『まずは私たちの』


 サンタクロース、トナカイ、ソリ、クリスマスリース、雪だるまが、同じタイミングで、違う内容の言葉を更に重ねていく。


『スノードームン、ストップ』

 ソフトながら芯のある、家の声。

 強すぎない穏やかな口調だけど、にぎやかさの中でもよく通り、しっかりとその存在を示す。


『五人で一斉に話しすぎですよ』

 一気に静かになった五人に、クリスマスツリーが落ち着いた声で言う。


『ハンカチの方たちに負担を強いたいわけではないのでしょう?』

 クリスマスツリーがそう続けると。


『もちろんじゃ』

 サンタクロース。


『そんなつもりは』

 トナカイ。


『ないです』

 ソリ。


『つい、いつものボクたちモードで』

 クリスマスリース。


『話してしまい、失礼しました』

 雪だるま。


 今度は順番に言葉にしてくれた。文章を小分けにして、無理やり分担した感も強くはあるものの。

 確かに、同時にではないほうが、より正確に聞き取れると思う。


『お気遣い、ありがとうございます』

 チョコレートはんは、声に出してお礼を言った。


『いえこちらこそ、あたたかいお返事ありがとうございます』

 クリスマスツリーがチョコレートはんに言う。


『――何人かメインに話す人を決めたほうが、話すのが重なりにくいかもしれないですね』

 雪だるまが提案した。


『じゃんけんで決めるかの』

『ではさっそく』

『じゃんけん!』

 サンタクロース、トナカイ、ソリ、が順に言い、そのあとは一斉に、スノードームンが声でじゃんけん。


(あ、これは聞き分けるのかなり難しい……)


 グーとかチョキとかパーとか、内容は聞き取れるが、誰がどれを言ったのかがよくわからない。

 短い言葉なうえに、何人かが同じだったりと、全員に違うことを長く言われるより難しい。


 スノードームン七人はちゃんと聞き分けているらしく、あいこで、や、じゃんけん、といった言葉も入れながら、じゃんけんは順調に進んでいるようだ。


 やがて、じゃんけんをする声が聞こえなくなった。


『三人にしてみました』

 クリスマスツリーが言う。


『ボク、リースと、ツリーさんとサンタさんでおもに話すよー』

 クリスマスリースの声。


『こんな感じでいってみますかの。そうじゃ、記録の際、サンタ、リース、ツリー、と短くして入力してくださってもかまいませんぞ』

『スノードームン内では普段そう呼んでいますので』

 サンタクロースが言い、クリスマスツリーが補足する。


『ありがとうございます。そうさせていただきます』

 チョコレートはんは返事を声に出した。


 毎回、名前の文字全部を入力するわけではないから、入力時間としては、そう変わらない気もする。


 ただ、あとで記録を読むときに、サンタクロース、クリスマスリース、クリスマスツリーと文字が並ぶよりは、サンタ、リース、ツリーのほうが、ぱっと見わかりやすいかなとは思う。


『そうだ! ハンカチのみなさん、ボクたちを呼ぶときも、短いバージョンでオッケーだから!』

 リースが明るい声で言う。


 ありがとうございます! とチーズはんが元気に返した。

 そしてチーズはんは続ける。


『私たちのことをまとめて呼ぶとき、ハンカチーズっていう呼び方もあるので、もしよかったら使ってください! 同じ人を持ち主とするハンカチたちの集まりで、私たち三人もそうなの』


 そう言ったチーズはんのあとから、赤ワインはんが追加の説明を始める。


 持ち主が最初に使い始めた独自の呼び方で、正しい複数形ではないけれど、失礼な態度をとる意図はなく――といった感じの、念のため、まめに説明している内容のものだ。


『持ち主の方独自の。親近感を覚えますね』

 ツリーの声に含まれる、あたたかみが増す。


『ボクたちの、スノードームンっていうのも、持ち主さんの言い方から決めたんだ!』

『スノードームッやスノードームーも候補でしたぞ』


『それだと誰かに言う機会があったときに、後ろに小さいツがつくんだよ、とか、伸ばす記号がつくんだよ、とか説明しないといけなそうだったから、聞いてすぐに伝わりやすそうな、スノードームンになったんだよね』


『もっとも、持ち主さんは、スーノードームと毎回言っているつもりかもしれませんが』

『でも実際は、けっこういろいろ語尾が変化して聞こえるんだよー。いってくるね、スノードームッとかね』

『スノードームンただいまー、おはよースノードームーといった感じに聞こえますしの』


『そういう感じなんですね。挨拶聞けるの、素敵ですね』

『持ち主の方は、みなさんがいることを知っていらっしゃるの?』

 チーズはんが言い、あかワインはんが訊く。


『いるよね、とはっきり言われたことはありませんが』

『気づいているとは思いますぞ』


『ボクたち、スノードームの中だと、実物の物体ごと動けるんだけど、たまーにね、たまーに、ボクとかほかの誰かとかが、本来の位置やポーズに戻りそびれちゃったりして、それを持ち主さんが見ちゃったりして』


『以前はたまにでしたが、最近はけっこう頻繁に、な気もしますがの。ふぉっふぉっ』

『あははー』

 笑いつつ言うサンタに、笑い声を言葉で返すリース。


 ふふっと、ほんの少しだけ微かな笑い声を聞かせてから、ツリーが話しだす。

『持ち主さんは、最初はとても驚いたようでしたが、元気にすごしているんだね、と言ってくれました。今では驚くこともなく、今日も元気だね、楽しそうだしよかったと、明るく声をかけてくれますね』


『だから、誰か? なにか? がいるってことは知ってると思う。どこまで具体的に把握してるかはわからないけど。――最初に見られちゃったときはあせったよー、でも、好意的な感じで反応してもらえてて、ほっとしてるんだ』


『今ではクリスマスシーズンだけでなく、通年、部屋に出したままにしておいてくれますしの。いろいろ話しかけてもくれますし……こちらがどの程度聞いているか、理解しているか、その度合いが持ち主さんに伝わっているかはわかりませんがの、こちらとしては毎日楽しいですぞ』


『伺っている側としても、嬉しく感じるお話ですわ。ただ、あの……その環境で精神体のみなさんがお出かけしていたら、持ち主の方、スノードームそのものはそこにあったとしても、様子の違いにお気づきになるのではないかしら……』

 柔らかな口調で話しだした赤ワインはんが、心配を声にもにじませる。


『大丈夫! 持ち主さんは外出中だよ! 出かけてから出発したし』


 リースの言葉を聞いて、えっ、とチーズはんが声を出し、続ける。

『じゃあ、帰ってこられるまでに戻っていたほうが、という感じですか? ……いらっしゃってすぐに、帰りのことをはっきり伺って、嫌なお気持ちにさせたらごめんなさい。何時頃まで、こちらにいることができますか?』


 チーズはんが思いきって訊いた、帰りの予定時間。

 実はテイクとしては、けっこう知りたかった。

 相談内容を聞いたり対応を考えたりに、どのくらい時間を使って大丈夫なのか、知ったうえで接するほうがやりやすい。


 ただ、いざ相談へ、と向かっている、そして訪れた、相手に、帰りの予定を早々に訊いてよいものか、となるとなかなか難しい。


 申し込みのときなどに事前に、いろいろ入力や記入をしてもらって、という形で相談予約を受けるときは、比較的やりやすい。

 いくつかある質問項目の一つとして、時間について訊く項目を入れてあるので、あくまでも確認事項の一つですよ、という感じで訊ける。


 けれど、その質問だけを取り出して、相手に直接訊くとなると、またちょっと感じが違ってくる。


 配慮と受けとってもらえるかもしれないけれど、やっと来たのに、いろいろ話したいのに、はやく帰れということ? 短く済ませろということ? といった感じに伝わってしまう危険も、ないとは言えない。


 テイクの考え方とかやり方とか、相手の受けとり具合とかが、お互い少しでもわかるような関係になってからならともかく、初対面の相手だ。

 タイミングや切り出し方に気をつけるというのが、テイクとしての基本路線。


 今回、最初にスノードームンと接したいちとせによると、走っているし、移動スピードはかなりはやいけれど、あせっている様子や相手を急かす感じはないように思える、とのことだった。


 だから、迎えるハンカチーズ三人としても、大急ぎで用件に入ったり、いきなり帰りの予定を訊いたりするのではなく、接しつつ、相手の様子を見つつ、どうするか考えていこう、という感じでスタートしてみると決めた。


 急いでいるわけではなくて、進みやすい動作が走る動作だったのかもしれない。

 急いでいたから走っていたとしても、はやく相談の約束を取りつけたくて、相談の場に着きたくて急いでいて、相談そのものは、ゆっくりじっくりしたいかもしれない。


 そういったことも、到着を待っている間に考えたりもした。


 と、思い返しているうちに、リースの声が聞こえ始める。

『ボクたちのこと、大事に思って接してくださってるのわかるから、帰りのこと訊かれたからって嫌な気持ちにならないよー』


『それに、私たちの予定がわかったほうがハンカチーズさんも対応しやすいですよね。こちらから先に言えばよかった。お気遣いありがとうございます』


『持ち主さんは泊まりで仕事だそうでの。帰りは明日の夜遅くとのことじゃから、それまでに帰ればの』


『ボクたちとしては、明日のお昼前までには、ここを出発したほうがって感じかな! 行きは、今日の朝、向こうを出発して、けっこう距離あるところから来たけど、大急ぎ猛スピードーって感じじゃなくても、午後には着いたから』


『そうなんですね。あたたかい言葉をくださって、それに、いろいろと教えてくださって、ありがとうございます! ……猛スピードって感じじゃなかったんだね。走っていて、かなり速いスピードでも……』


 チーズはんの言葉に、リースが、うん! と答えた。


『無理のないスピードで来ましたぞ』

 サンタが言い足す。


『ちなみに、走る動作以外でも進めますし、走る動作をすればスピードアップするというわけでもないのです』

 ツリーが言う。


『歩いても走っても転がってもジャンプしてもすいーってすべっても泳ぐみたいにしても、進もうと考えて動けば実際に進むよ!』


『そして実のところ、どれであってもスピードもそう変わらないようでしての』


『出発してしばらくは、私たちみんな、いろいろな動き方で進んでいたのですが』


『せっかくだから動きそろえてみる? みんなで行くぞーって感じでいいかもって方向に話が進んでね』


『走る動作、で意見が一致しましての』


『それは、走る動作がみんなにとってしやすいから?』

 チーズはんが訊く。


『いえ。しやすい動作は、たぶんそれぞれ違うかと』


『でも今、師走しわすだから!』

 リースの力強い声。


『走る、という字が入っていますからの』


『師、のほうは一致させるのは難しくても、そうのほうなら、と』


『そうそう!』

 いくつもの声が言う。


 この、そうそう! の言葉は、ツリーの言葉の直後に、複数人が同時に言ったものだ。

 ツリーとハンカチーズ以外の六人が、声をそろえて言ったのだと思われる。




お読みくださり、ありがとうございます。


次の投稿は、9/27(土)夕方~9/28(日)朝あたりを予定しています【2025年9/21(日)現在】

(状況によっては、10/4(土)夕方~10/5(日)朝あたりになるかもしれません)


今後もどうぞよろしくお願いいたします。



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