「12月、この月だから?」2.どうする?
いちとせが、スノードームンやテイクとやりとりし、案内すると決まった頃。
珠水村の、テイクメンバーセンター内。ハンカチーズルームとして、おもに使われている部屋の中。
タブレット画面を見た一人のハンカチーズメンバーが、みなさん! と声を出した。
そのメンバーは、各所からハンカチーズ全体に送られてくる連絡をまず受ける、そういう役割を担当することが多い。
室内の面々が、聞こうとして静かになる。
それを待ってから、そのメンバーが話し始めた。
『モノの、精神体のみで動いている状態の方たち七人が相談に来られるそうです。ハンカチーズ三人ほどで、面談ルームで対応を、と。誰が行きます?』
ハンカチーズは、同じ人物を持ち主とするハンカチたちの集まりだ。ハンカチのモノたちである。
ハンカチーズは大勢いて、そのほとんどがテイクメンバーとして働いている。
各ハンカチ、持っている興味も技能もそれぞれで、担当業務も各ハンカチにより、さまざまだ。
ハンカチーズと最初に呼んだのは持ち主。
ハンカチたちがモノであると知る前から、たくさんのハンカチたちをまとめて呼ぶときに、持ち主はそう呼んでいた。
今もその独自の呼び方を用いているため、正しい複数形ではないこと、けれど対象言語に対して失礼な態度をとる意図はないことを、持ち主とハンカチーズは明言している。
現在、この部屋にいるハンカチーズは、今が勤務時間にあたっている面々のうち、各所へ赴いておこなう内容の仕事中ではない者たち。
その中から、このあとのスケジュールが調整可能、かつ、対応内容を担当可能な者が、声を出したメンバーのところに集まってきた。
ある者たちは広がったハンカチ状態で、空飛ぶ絨毯のように飛んで。
ある者たちは広がったハンカチ状態で前傾姿勢になり、浮いたまま前進して。
ある者たちは広がったハンカチ状態で立ち、下の角二つを交互に動かし歩いて。
ちなみに、基本的には柄のある表面が、前や上。立つ姿勢などのときに高い位置に来る一辺をどこにするかも、各ハンカチ基本的には自分で、この辺にすると一つに決めてある。
さて、集まってはきたが、人数は三人より、かなり多い。
『多いね』
『多いわね』
『多いな』
『多いですね』
『うん、多い』
『さてさて』
『なるべく急いで』
『決めないと』
『どうしよっか』
『どうしよう』
『相手のモノの方たちは、どういう方たちなの? 引き受ける前に詳しく聞くことは可能?』
集まった面々が次々に言い、一人が訊く。
『ある程度なら。クリスマス関係の置物のような見た目の七人。全体として、スノードームンと名乗っていらっしゃるそうです』
『クリスマスなんだね』
『それなら、冬イメージの柄で合わせてみるのはどう? もみの木はん、雪の結晶はん、スキーはん』
この場合の、はん、は、ハンカチたちの名前の一部。ハンカチからの、はん、である。
『ええと、七人の中に、クリスマスツリーと雪だるまとソリの見た目の三人がいらっしゃいますが……』
『んー……親近感を持ってもらえるか、同系統で微妙と思われるか……』
『あ、じゃあ、逆に、冬じゃない季節とか、和風とかは? 紫陽花はん、藤袴はん、印籠はん』
『それはそれで、重ならなくておもしろいと思われるか、接点少なすぎって思われるか……』
『えっと、今回、その方たちと出会って案内してくるのは、いちとせさんなのですが……』
『着物だね』
『和だね』
『名前は、ひととせからだから、全季節対応感あるけど』
『とはいえそちらも、和だね』
『どういう状況で出会ったの?』
『空で偶然』
『偶然なら……それか逆にその人でなきゃとかなら、いろいろ気にしてもなって気はする』
『だね。でも大勢の対応可能な人の中から、あえて考えて選んで決めたってなると、もし経緯を知られることがあった場合、どうだろう』
『……いろいろ考えてみたところで、どれも相手がどうとるかわからないから、キリがない気もするのだけど』
『それに、考えすぎな気も。どちらにしても、悪いほうにとろうとは、しない方たちかもしれないし』
『んんー……クリスマス……パーティー……ドレスはん、リボンはん、ラッピングはんは……ほかの仕事中かぁ……』
『えっと、来られる方のうち、クリスマスリースの見た目の方は、ピンク色の大きなリボンが印象的とのことです』
『そうかー』
『あっ! クリスマスやパーティーにも合いそうな食べ物系は? チョコレートはん、赤ワインはんが、今ここにいるよ? チーズはんも。どう?』
『間をとって、みたいな感じでいいかも?』
『重なりそうな見た目の方はいそう?』
『種類的には直接は、いらっしゃらないかと。色は茶や赤や白や水色など……実際が、どんな感じか……あと、飾り一つ一つやソリの中の物についての情報までは届いていないので、そのあたりはわからないです』
『それらはもう、重なってもしょうがないかなぁ』
『じゃあ、決定してみる?』
『うん』
『ええ、そうしてみましょ』
あれこれ考えや言葉が多数行き交ったが、どれもとても、すばやいやりとりだった。
決定までに実際にかかった時間は、それほど長くない。
薄ベージュのハンカチに、いろいろなチョコレートやチョコレート菓子が刺繍されている、チョコレートはん。
アイボリーのハンカチに、グラスに注がれた赤ワインなどが刺繍されている、赤ワインはん。
空色のハンカチに、いろいろなチーズが刺繍されている、チーズはん。
その三人で、対応することになる。
『では、決定したという連絡は私がします。そして三人に詳しい内容の文を送りますので、あとはよろしくお願いします』
『引き受けました』
『わかったわ』
チーズはんと、赤ワインはん。
チョコレートはんも、二人のあとから、はいと返事をした。
引き受けた三人は、それぞれ自分のタブレットに届いた文に、急ぎ目を通す。
七人の見た目、サイズ感、その人たちの行動や様子、経緯などが書かれている。使用予定の面談ルームの番号も。
『読んだっ。先に行って部屋の中とか確認しとくねっ』
言ったチーズはんが、シュバッとすばやく空飛ぶ絨毯形になり、ドアのほうへと飛んでいく。
チーズはんのタブレットは、乗客一号という感じで、空飛ぶ絨毯形ハンカチの上にある。
チーズはんが、空飛ぶ絨毯形になると同時に、チーズはん自身で器用にそこに置いた。
あっという間にドア前に到達したチーズはんは、音的には静かにだが、動作的にはスパーン! という感じで、ハンカチの右前角を使って勢いよく、横開きのドアをスライドさせ、廊下に出ていった。
ハンカチたちは必要に応じて、かたさ等いろいろ一時的に変えることができる。
ドアを閉めていかなかったのは、あとの二人も、少ししたら廊下に出ると考えたからだろう。
『私は時間がかかるわ。気にせず追い抜いていってね』
チョコレートはんに言った赤ワインはんが、タブレットを抱え、スッスッスッと姿勢よく歩きだす。
赤ワインはんが廊下に出ていってから、チョコレートはんはタブレットを片手に前傾姿勢で、浮いたままスイーと前進し始めた。
チョコレートはんは廊下に出て振り返りドアを閉めてから、再び向きを変え廊下を進んでいく。
指定された面談ルームへは、ルートを選べば、モノが物の姿のままで動いて向かっても大丈夫だ。
わりとはやい段階で赤ワインはんを追い越し、チョコレートはんは面談ルーム前に着いた。
所定の手順を経て室内に入る。
ふかふかの、ベージュの絨毯が敷かれた、靴などの履物を脱いですごすタイプの部屋だ。
履いている場合は、部屋に入ってすぐのスペースで脱ぐ形になる。
ただ、履いているデザインでも、脱げないつくりの物であるモノの場合などは、脱がなくてかまわない。
部屋の中ほどにいたチーズはんが、チョコレートはんのほうを向き、声を出した。
『来られる方たちがどう座りたいかわからないから、いろんな形に対応できるタイプの部屋を選んでみたって、部屋の準備や片づけ担当の人が』
確かに、このタイプの部屋なら、絨毯に直接腰もおろせるし、クッションや座布団、座椅子などを使うこともできる。ソファや椅子などを一時的に置くことも可能だと思う。
『希望を伺いつつ、できる範囲で対応しよっ? 好みに合う形に、できるだけ近づけられるといいねっ』
元気に言うチーズはんに、チョコレートはんも、そうだね、と明るいトーンで返す。
チーズはんがハンカチの右上角で、部屋の一角を示した。
『座布団や座椅子、クッション類などはいくつかそこに運び込んであるけど、数多くて手が足りなかったりしたら、すぐに行くから連絡してって』
ハンカチーズ、実はみんなけっこう力もちだからそれなりに運べるだろうけれど、七人分いろいろ一気にセッティングとなりそうなら、来てもらったほうがいいかもしれない。
『あ、あと、ほかに入り用な物がある場合も、すぐに持ってくよーって、言ってくれてたよ』
そういった話をしているあたりで、赤ワインはんも部屋に入ってきた。
チーズはんが、変わらぬ明るい口調で、赤ワインはんにも同じことを伝える。
『あとは、だいたいの役割分担だけど、それぞれわりと得意なのを、そのまま受け持つ感じでいいかなっ?』
『ええ。いいと思うわ』
『うん』
チーズはんに同意を示す、赤ワインはんとチョコレートはん。
チーズはんは、率先して動いたり、迎え入れて案内したり、いろいろセッティングしたり、状況に応じてフォローやサポートをしたり、場の雰囲気を調整したりといったことが得意。
赤ワインはんは、必要なことを訊いたり話したり、話し合いの場などで進行役を務めたりといったことを、特にしっかりとできる。
チョコレートはんは、記憶と記録と入力に関して、まあまあ強い。
ハンカチの柄のことをおもに考えた末に決まった三人の、得意分野がうまくばらけているのは偶然ではない。
話し合いの中、おもに柄で考えて候補を挙げていたメンバーたちだが、得意分野がかぶらない感じの三人ずつで、という点にも考慮していた。
とはいえ、あのとき集まってきた面々それぞれ、面談の場でほかの役割は担えない、というほどの不得意があるわけではないので、どの三人での組み合わせになっても、対応可能ではあるのだが。
『ほほいっ。じゃあ、あとは、いらっしゃってから頑張るぞーってことで。指定された部屋で三人とも待機中って、各所に連絡しとくね』
『ええ。ありがとう』
『ありがとう。よろしく』
『連絡したよっ。来てよかったと思ってもらえるように、対応できるといいな』
少しして、元気な声でチーズはん。
『そうね!』
『私も頑張る』
赤ワインはんとチョコレートはんも、力強い声で言った。
お読みくださり、ありがとうございます。
次の投稿は、9/13(土)夕方~9/14(日)朝あたりを予定しています【2025年9/7(日)現在】
(状況によっては、9/20(土)夕方~9/21(日)朝あたりになるかもしれません)
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
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【以下を後日おこなう予定です。よろしくお願いいたします】
・この作品の、あらすじ文の内容を大きく変更
・7月2と3の前書き文を削除
・8月7を改稿
優月は、そういった、最近得た情報も思い浮かべる。
風鈴の名前は、佐風にしようか、という話になっているそうだ。
佐々木とともにいる風鈴、ということらしい。
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優月は、そういった情報も思い浮かべる。
風鈴の名前は、佐風にしよう、という話になっているそうだ。
佐々木の風鈴、佐々木とともにいる風鈴、ということらしい。