「11月、秋、いろいろ」4.食べて語って
会に使っていた部屋と同じ建物内にある、和室。
おもに壁際に置かれたローテーブルに、いろいろな料理が並んでいる。取り皿なども多数。基本的には、各自食べたいものをという形だ。
モノたちが物の姿のままでも飲食できるよう、コトハによる機能付与も済んでいる。
それらを、人や、人の姿をしたモノが口にしたり使ったりしても問題ない。
低め小さめの折りたたみテーブル、子ども用の椅子、トレイやビニールシート、座布団、クッションなども必要に応じて使えるよう、複数用意されている。
いろいろ自由にどうぞ、ということで、座る場所をそれぞれ用につくったり、料理を選んだり、それらをサポートしたりしているうちに、自然といくつかのまとまりとなって座り、食べ始めることになった。
『おいしいですっ。穂風さんに相談して、思いきってドドンと頼んでよかったですっ』
切る前のたまごやきを箸とお皿でうまく支えながら口に運んでいたひっつーが、食べるのをいったん止めて言っている。
ひっつーの近くのお皿には、たまごやきがあと二本。
大根おろしやネギなどの薬味、小皿やしょうゆ類などもスタンバイ中だ。
コトハが中心となってテイク側が選んだ注文予定の品リストを、参加予定の者たちに事前に送り、その中に特に食べたい物がある場合、伝えてくれれば個別に数を確保すると連絡しておいた。
「んんー! テイクの塩焼きそば、好きなんだよねー。ネギ塩の薄切り豚肉が何枚か上にあるところもまた、いい!」
ひっつーの隣では、希望した大盛りの塩焼きそばを食べ進めながら、杏が幸せそうに語っている。
ひっつーや杏を笑顔で見つつ、野菜スティックを食べ始める紫穂。
「……おいしそうと思ったけれど、想像以上においしいわ……!」
少ししてからそう言った紫穂が、少し離れたところに座っているラビィを見た。
先ほどから野菜スティックを食べ続けているラビィは、もももももももも、と勢いよく野菜スティックを端から小刻みに口に入れ続けながら、同意を示すように紫穂に向かって何度か頷く。
ラビィの隣ではコトハがパスタサラダに舌鼓を打ち、ラビィの近くでは高砂コンビが各種細巻きに箸をのばす。
育生と雫は太巻きに取りかかり、行の前のお皿にはトロたくが並ぶ。
佐風は短冊部分で箸を扱い、マグロとシソをごはんと海苔で巻いたものを食べている。
『うまい……!』
とても心のこもった調子で佐風が言い、それがそのまま伝わるような音で風鈴を鳴らす。
声は聞こえなくても音の感じでわかったようで、おいしいね、と同種類のものを食べていた佐々木が佐風に笑みを向ける。
珠水村がある県は海に面してはいないが、おいしいお刺身やお寿司も村で食べることができると、いろいろなところでの評価はけっこう高い。
『春巻きー』
『秋だけどー。おいしいー』
たろっくまんコンビが仲良く言いつつ食べているのは、言葉のとおり、春巻きだ。
やまびこーは、今は宿泊中の部屋ですごしている。
優月は、サラダに入っているマカロニを見つめ考えた。短い、筒状。
今回の、おもにコトハチョイスの料理たち。
回して巻かれたものや、麺を含め棒状のものたちが多数。
会で回なのは料理もだ。そして、今月は十一月。棒状の一が並ぶ月。
選択時の思惑はどうあれ、おいしいし、それぞれ嬉しそうに食べているからいいのだろう。
優月はそうも考えた。
「楽しい会でした。僕は本当に見て聞いてのみで参加させてもらう形でしたが……」
「それも歓迎なのでまったく問題ないですよ。楽しめたのでしたらよかったです」
佐々木と行が話し、育生と雫が頷いている。
『俺も楽しかった! みんなすごかった!』
佐風が言い、行が佐々木たちに伝える。
「佐風さんの風鈴の音も素晴らしかったですよ。いろいろな鳴り方で素敵で……今度はどんな感じで? ……と実は注目してました」
育生の言葉に、佐風以外のその場の面々が頷く。
『いやぁ……照れますねぇ』
そう言った佐風が、高揚感がありつつちょっと抑えめ、といった感じで風鈴を鳴らす。
「ん? 照れてる?」
音を聞いて問う佐々木。
佐風がイエスを示す鳴り方で答えた。
「伝え力も受けとり力もすごい……」
雫が言うと、笑顔で佐々木が口を開く。
「もともと佐風の表現力はすごかったとは思うんですけど、佐風がモノだって僕が知ってからは更に力を発揮してくれてる感じで。……こういう日々や時間をすごしているとは、数か月前には想像もしてなかったですが……。嬉しい変化ですけどね」
「嬉しく思いつつも、振り返って、あらためてしみじみするというか、驚くというか、なんですよね……」
育生が言い、雫が頷き、佐風も、そう! という感じに鳴る。
「そうなんですよ。なかなかに濃い日々が……」
佐々木が、いちとせとの出会い後からを振り返り始めた。
いちとせと初めて話してから数日後。
佐々木と風鈴は珠水村に来ていた。
状態チェックや機能組み込み、それらもふまえて、風鈴と一緒にこれからについての話、等々のためである。
能力者や担当者と直接会わないとできないこともあるし、佐々木では風鈴の声が聞こえないし機械越しでは風鈴の声が伝わらないため、風鈴と一緒にこみ入った話をするなら、風鈴の声が聞こえる者に同席してもらう必要がある。
テイクのほうが佐々木宅を訪ねて必要なことをおこなう。そういう方法でもかまわないとも言われたが、佐々木たちが村に行くほうを選んだ。
結果や展開を受けて、また必要なメンバーに来てもらって、をくり返していたら、初期段階だけでも、何人に来てもらって何往復してもらうことになるか。
しかもお互いの予定をすり合わせてとなると、なかなかに期間もかかりそうだ。
そう思ったからでもある。
もっとも、必要ならばそれらを厭うことなくおこなってくれそうな様子をテイクからは感じたし、仮に佐々木がそちらの、テイクの一員として動くとしても面倒とは思わないだろう。
迎える側としても別に嫌だったわけではなく、佐々木たちが村に行きづらい状況であれば来てもらっただろうとも思う。
(だからまぁ単に、僕たちが村に行けそうで、そのほうがいろいろスムーズそうだから、という)
風鈴にも訊いたところ、佐々木とともに村に行くことに対して、イエスの返事をもらったし。
佐々木はあるところに勤めてはいるが、仕事内容としては、出社せずにするものがほとんど。
自宅以外の場所でおこなうことも、場所を考える必要はあるが禁止されていない。
休日の取得やスケジュール調整などにも、ある程度の自由がある。
風鈴とともに村に行き、何日か滞在することになっても対応できる。
あまり長くなるようなら、いったん家に戻り、何回かに分けてとなるだろうが、電車とバスを使っても、そうそう何度も往復したくはない、と思うような長距離ではない。
それはテイクにとっても同じだとは思うが。いろいろとそろっている村のほうに、佐々木たちが向かうほうがスムーズな気がする。
風鈴と二人で楽しみつつ行きたいところではあるものの、大きなストラップよろしく風鈴をカバンに付けていくのは、少々無理がありそうだ。
保管に使っていた箱をとっておいてよかった。
ここに入れて連れていって大丈夫か風鈴に訊いたところ、大丈夫とのことなので、いざ、ともに珠水村へ。
というわけである。
受付センターに着き、面談ルームへと案内された。まずは風鈴の状態チェックが、おこなわれる予定だ。
椅子の上に用意してくれてあるスタンド。そこに、箱から出した風鈴をかける。
テイクメンバーに勧められて、佐々木は風鈴の隣の椅子に座った。
ちなみに、テイク関係では、わりと互いを名前で呼び合うことが多いようだが、佐々木は、この段階でも、佐々木と呼ばれている。
ただこれは、名字として佐々木と呼ばれていたときとは少し違っていて、名前呼び的な面も含んだ、佐々木、呼びだ。
実は佐々木、氏名は、佐々木ささゆき、である。
しかし小さな頃から、名前のほうのささゆき呼びをされていても、だんだん、ささき呼びへとなっていくことがほとんど。
相手が呼んでいるうちに、ささゆきー、ささいきー、ささきー、みたいになっていくのだ。
なんだかもう、名字も名前もささきといった気分に自分も周りもなってきて、漢字の佐々木で通す機会も多いから、呼ばれたときも漢字で頭に浮かび。
そんなこんなで、名前としても、佐々木、という気分でして……。
というような説明をテイクにしたところ、では、ちょっと変化球ですが、名前呼びの面も含め、佐々木さんと呼ばせていただくということで、とテイクから返事が来た。
そういったことを佐々木が思い返していると、時間どおりに担当者が来て、風鈴の状態チェックが開始された。
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