「11月、秋、いろいろ」3.かい
高砂コンビがお辞儀をし、盛大な拍手が送られる。
「あやとりとお手玉の新しい世界を見た気がする!」と弾む声で杏。
佐風がステップを踏むように、一定のリズムで風鈴を楽しそうに鳴らす。
高砂コンビが壁際へ移動し、あやとりやお手玉も片づけられた。
次にステージ部分に集まりだしたのは、あんずと、ハンカチーズから六人。
七人ともハンカチの、モノだ。
ハンカチの表面を前方に向ける形で、立っているような姿勢のハンカチたち。
上の二つの角部分それぞれで小ぶりのポンポンを持ち、下の角二つを歩くように動かして、ステージ部分に進んでくる。
ハンカチたちは布だが、必要に応じて、かたさ等いろいろ一時的に変えられるそうだ。
あんずという名のモノである白いハンカチには、あんずの花と実が刺繍されている。
あんずの持ち主は杏。刺繍は紫穂によるものだ。
今持っているポンポンは、オレンジ色。
ハンカチーズは、同じ人物を持ち主とするハンカチたちの集まりだ。
持ち主が使っていた独自の呼び方を用いているため正しい複数形ではないこと、けれど対象言語に対して失礼な態度をとる意図はないことを明言している。
あんずはハンカチーズではないけれど、ハンカチーズとの交流機会は多い。
ハンカチーズの面々は、ほとんどがテイクメンバーでもある。
各ハンカチ、持っている興味も技能もそれぞれで、担当業務も各ハンカチにより、さまざまだ。
ハンカチーズは大勢いて、今回この部屋にはその中から、六人。
ロールケーキはん、秋桜はん、たまごやきはん、クローバーはん、クリームソーダはん、桔梗はん。
なお、はん、は、ハンカチからのはんで、名前の一部だ。
ロールケーキはんは、アイボリーのハンカチに、いろいろなロールケーキが刺繍されている。
クリームとともにフルーツがたっぷり巻かれたもの、チョコレート色のもの、クリスマス感満載のもの、などなど。
今回、持っているのは、いちごを思わせるような赤のポンポンだ。
秋桜はんは、アイボリーのハンカチに、ピンク系の秋桜がたくさん刺繍されている。
今持っているポンポンも、ピンクで合わせている。
たまごやきはんは、白系のハンカチに、いろいろなたまごやきが刺繍されている。
つくり途中のもの、つくりたての感じのもの、お皿に並んでいるところ、綺麗な層がよく見える状態のもの、具入りのもの、など。
ポンポンも黄色だ。
クローバーはんは、薄い緑も微かに感じられるアイボリーのハンカチに、クローバーがたくさん刺繍されている。
白い花もところどころで咲いていたり、さがせば四つ葉のクローバーがあったり。
ポンポンは緑色。
クリームソーダはんは、薄い水色のハンカチに、いろいろなクリームソーダが刺繍されている。
グラスの形やソーダの色、アイスの見た目もさまざまだ。
ポンポンは青系。
桔梗はんは、アイボリーのハンカチに、紫系の桔梗がおもに刺繍されている。
つぼみのもの、開花状態のもの。花束のようにまとめられたデザインのものもある。
ポンポンは紫系。
あんずを含め七色になるようにということも考えて、今回はこのメンバーで組んだのかもしれない。
ハンカチーズはみんな仲がいいし、誰と組んでも素敵なチームワークを見せる。
あんずとハンカチーズが、ポンポンを持ったまま軽快に踊りだす。
リズミカルに、ダイナミックに、ときにかわいく、ときにキリッと。ハンカチによってはジャンプどころか途中から浮いて、そのまま空中で踊っている。
あんずとハンカチーズが、上へ下へ、右へ左へ前へ後ろへ、室内をすばやく移動しつつダンスダンスダンス。
一人一人をなるべく同じくらい見ることができるよう、優月は目を、そしてときには顔をいそがしく動かした。
床近く、ステージ部分真ん中あたりに戻ってきた七人が、背中合わせに円を描く。各自がポンポンを持った部分を前に出して、思い思いにポーズをとり、静止。
拍手の中、一度お辞儀をしてから、あんずとハンカチーズが、いったん部屋の隅へ移動する。
育生がロールピアノで、優しい感じの曲を弾く。
育生、ゆかりともに今日は、白の襟付きシャツにベージュのスラックス。それぞれシャツの胸ポケットに、細長い、だ円形のピンクのクリップを二つずつ、うさぎの耳のようにつけている。
あんずとハンカチーズが、今度は長めのリボンを一人一本ずつ持ってステージ部分に戻ってきた。リボンの色は、それぞれポンポンのときと同じ感じだ。
あんずとハンカチーズが舞い始める。
なめらかで優美な動き。地上で、空中で、リボンがひらひらくるくる、ハンカチもひらひら。
あんずが自力で少し浮いた。リボンを舞わせつつ、あんずが空中を少し移動し始める。最近、少しだけ飛べるようになってきたのだ。
杏が身を乗り出すようにして、あんずを見ている。紫穂は控えめながらもすでに拍手の仕草。雫は、杏や紫穂の様子とあんずの飛行を交互に見ながら、嬉しそうに笑っている。
あんずが自力飛行後、いったん床に立つと、秋桜はんとたまごやきはんが舞いつつあんずの両側に来た。
秋桜はんの上の角一つと、あんずの上の角一つ。あんずのもう一方の上の角と、たまごやきはんの上の角一つ。
角同士、布を少し絡め、あんずを真ん中に三人横一列で、手をつないだという感じだ。各自リボンも持っている。
そのまま三人で浮き上がり、リボンやハンカチをひらひらさせながら上へ上へ、天井近くまで。
ほかのハンカチたちも上に来て、天井近くで七人が、向かい合わせで円を描くように手をつなぐ。
円を描いたまま回ったり、横一列になっていろいろな方向へ動いたり。
優月たちが見上げる先で、手をつないだまま、ひらひらくるくる。
何度目かの円をつくると、ハンカチたちが回りながら高度を下げ始めた。
ふわりひらひらくるくる。優雅に床へと近づいてくる。
と思ったら、突如、ハンカチ同士距離を縮め、七人みんなで狭く細い円、筒になる。
そして、シュルルルルルっと、まるでフィギュアスケートのスピンのように、すごいスピードで回りだした。
何回転したのかはわからないが、同じ場所で勢いよく回っていたハンカチたちが、突然ばっと広がり、手をつないだまま横一列に。そしてピシッと静止した。
少し遅れてリボンたちも、ふわりとなびいたあとで動きを止める。
手をつないだまま、七人のハンカチがお辞儀をし、体を起こす。
拍手の中、「しっかり見たよー! すごかったよー!」と、ひときわ大きな杏の声。
佐風も元気に風鈴を鳴らす。
芸術の秋だし、スポーツの秋だし、開催してみようか、ということでおこなわれた今回の、会。
盛り上がった会を美しくとじるように、ゆかりが華やかでゆったりとした曲を弾く。
梅幸が全体に向けて短く挨拶し、無事、会が終わった。
ゆるやかな雰囲気の中、周りと言葉を交わす者、次の予定へと移動を始める者。
すばやい軽やかなピアノの音に視線を転じると、ひっつーがテーブル上で高速前転をし、育生がそれに曲をつけていた。
テーブル近くにいる行が、笑顔でひっつーたちを見ている。
ひっつーはテーブル端まで行っても転がり落ちず、今度は高速後転。
そのあともう一往復して、ジャン! と両足で立ち両手を広げてポーズをとると、見ていた面々が拍手をした。
ひっつーは、きょろきょろっと周囲に顔を動かし、思ったより注目されていたことに驚きの声をあげた。
お礼を言いながら、拍手に応えるかのように、右手をいろいろなほうへ向ける。
あわせてお辞儀もしようとすると前転になるので、声でのお礼と手での仕草にしたようだ。
優月の横をコトハが通り過ぎる。
「途中から、かいだけに、かいだったわねー。ぐるぐるーくるくるーって」
明るい声でコトハが言っていった。
おそらく漢字としては、会だけに回、だろう。
確かに、みんな、いろいろ、回っていた。
ラビィを抱っこして紫穂たちのところに行っていたゆかりが、育生たちのところに戻ってきた。
育生はロールピアノを片づけ上着を着てから、ラビィを抱っこする。
ゆかりは上着を着て自分の荷物を持った。
手を振ったり会釈をしたりしつつ、ゆかりは縁側経由で靴を履いて庭へ。
このあとゆかりは結界外へ行き、ゆなのほうに合流する予定だ。
少しあとから縁側へ向かう、育生とラビィと行。
その横を進む熊の人形の上には、いつの間にやら、ひっつーと金太郎人形。
いちとせと梅幸、ハンカチーズの何人かは帰宅し、リョクや文茶コンビ、ハンカチーズの何人かは、それぞれ次の予定の場所に向かった。
穂風も村のイベントにこのあと参加するため、すでに結界から出ている。今はイベント会場に向かっているところだろうか。
庭を見ることができる角度で、コトハが縁側に椅子を置く。やまびこーがそこに来たようだ。
コトハに誘われて、佐々木と佐風もそちらへ。
紫穂は、庭に置かれた子ども用ブランコと会話中だ。
向かい合わせで座る形に椅子が二つ。このブランコも、モノである。
誰も遊んでいなくても椅子部分が揺れているため、いる場所を選び、今は結界内を居場所としている。
自身で遊ぶ者を落とさないという能力もあるので、サイズ的に小さい者でも安心して遊ぶことができる。
揺れ幅もブランコ側で変えられるから、遊ぶ側が揺らさなくても楽しめる。
ひっつーとラビィがブランコで遊び始めた。
たろっくまんコンビは、庭の決められたスペースでスケボーの練習を開始する。
行と育生が見守り、杏がそこに合流。
あんず、雫は、縁側近くの室内で、高砂コンビと、あやとりやお手玉をしている。
ごはん類が届くまでの間も、楽しくすごしましょうタイムである。
お読みくださり、ありがとうございます。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
次の投稿は、6/21(土)夕方~6/22(日)朝あたりを予定しています【2025年6/15(日)現在】
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