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「11月、秋、いろいろ」1.会


 十一月上旬、昼すぎの珠水村しゅすいむら


 ここは、ある結界内の建物一階、外用の靴は脱いで入る、厚めのカーペットが敷かれた一室だ。


 部屋にいる者たちのほとんどは、壁際の思い思いの場所で、立っていたり腰をおろしていたり。

 それ以外のスペースは今回、ステージ部分として使われている。


 今、ステージ部分にいるのは、文茶ぶんちゃコンビ。

 文字書き人形のぶんと茶運び人形のちゃだ。


 二人の前にはそれぞれ、低めの台に置かれた卓上木琴がある。

 たたくのに使う、先に丸い物がついた棒を持って、木琴による演奏を披露中だ。

 棒はマレットという名前なのだという。


 二人とも物に精神が生じたモノで、モノにも扱えるよう、マレットなどに機能付与等してはあるけれど、演奏そのものは文茶コンビによるものだ。


 一人ずつ演奏したり、二人そろって演奏したり、一台を二人で使って演奏したり。


 なぜかテンポがどんどんはやくなっていってしまうのですが! と言いながら、二人で仲良く練習していた光景を思い出しつつ、優月ゆづきは演奏を聴いている。


 短めの曲をいくつか演奏し終えて、文茶コンビがお辞儀をした。


 すぐに聞こえだす、さまざまな拍手の音。

 あわせて景気よく鳴らされる風鈴の音。

 壁際の床置きスタンドにかけられた、ガラス製、花火柄の風鈴、佐風さふうによるものだ。佐風もモノである。


 二人とも素敵だったよ! と、きょうが活き活きとした口調で声をかける。

 黒髪ショート、長身で活発そうな見た目の杏は、今年度十七歳。今日は、杏色のブラウスに白のスラックス姿だ。


 再度お辞儀をしてから文茶コンビが壁際に向かう。

 逆にステージ部分へと移動し始めたのは、金太郎人形と熊の人形。二人ともモノだ。金太郎は熊に乗っておらず、それぞれで動いている。


 ちなみに二人は最近、「僕たちはー、たろっくまん、というコンビ名でいこうかとー」と話していた。


 別に、コンビ名を決めなければいけないわけではないのだが、抑揚少なめな口調ながら、どこかわくわくとした雰囲気だったので、優月たちは二人をそう呼んでみることにした。


 リョクとこうもステージ部分に出てきた。


 リョクは、偉丈夫と表現されることも多い見た目で、五十代くらいの男性に見える。人の姿で暮らすモノで、今日は白のワイシャツにブラウンのスラックス姿だ。


 行は三十歳前後、黒髪ショートの男性といった感じの見た目をしている。行も人の姿ですごしているモノで、今日はグレーの襟付きシャツに黒のスラックス姿だ。


 リョクと行によって、卓上木琴は壁際へ運ばれ、ステージ部分に来た、たろっくまんコンビそれぞれの前に、子ども用の和太鼓が置かれる。


 ほどなくして、たろっくまんコンビによる演奏が始まった。熊の人形は後ろ足で立ち、前足でばちを持っている。


 二人は堂々とした姿で和太鼓をたたく。

 機能付与してはいるが、こちらも演奏そのものは、二人によるものだ。


 佐風が和太鼓の音に合わせて、ガラス部分を前後に大きく動かし始めた。

 演奏に入ってしまわないよう、風鈴の音は鳴らさずに動いている。


 佐風の動きは人間で言うなら、上半身を前後に動かして音に乗るような動作だろうか。

 佐風の隣に腰をおろしている佐々木(ささき)が、佐風を見る。

 佐々木は嬉しそうな楽しそうな笑みを佐風に向けたあとで、たろっくまんコンビに視線を戻した。


 佐々木は佐風の持ち主だ。

 二十歳前後と言っても通りそうな、三十代に入った男性で、小柄で細身。

 穏やかそうな見た目をしていて、実際、基本的に穏やかだし落ち着いているようだ。

 今日は、薄緑の襟付きシャツにベージュ系のボトムスを合わせている。


 たろっくまんコンビが演奏を終え、お辞儀をした。

 途端、勢いよく鳴り響く風鈴の音。各々の拍手の音がそこに重なる。二人とも立派だったよ! という杏の声もする。


 どうもーと熊の人形、ありがとうーと金太郎人形。二人はみんなに手を振ってから、部屋の端のほうへ向かい始める。

 リョクと行が、和太鼓を壁際へと移動するため動いた。


 次はコトハと優月が演奏する番である。


 コトハは、茶系のマニッシュショート、はっきりとしたつくりながら派手さは感じない顔、すらっとした長身という見た目。人の姿で暮らすモノである。


 今日の服装は、コトハはベージュのパンツスーツに白緑のリボンタイ、優月はグレーのパンツスーツに薄黄色のリボンタイ。二人とも今はジャケットは着ていない。


 急ぎ気味に、しかし慎重に、二人はステージ部分にそれぞれことを用意し、演奏を開始した。

 箏はテイクの物だ。卓上木琴や和太鼓もそうである。


 コトハも優月も、箏を習い始めてから、まだそれほど期間は経っていない。


 テイクで定期的に継続して箏が習えることになり、もともと箏に興味があった優月がまず習い始めた。

 そして見学して間近で聞いた音に惹かれ、コトハも習うと決めた。


 コトハも、こと? と言った優月と、そう! と答えたコトハ。二人で楽しく大切に取り組んでいる。


 予定していた曲たちを演奏し終え、お辞儀をした。

 演奏中、思ったより緊張していたのか、細かくは覚えていないし、あっという間だった気もする。


 拍手の音がし、佐風の風鈴の音がゆったりと響く。しっとり、綺麗! と杏が声をかけてくれた。


 再度お辞儀をしたあとで、コトハと優月は箏とともに壁際へ。


 続いてステージ部分に出てきたのは、篠笛を手にした行だ。


 行の演奏で、曲ごとに部屋がいろいろな雰囲気に染まっていく。

 佐風は、風鈴の音は鳴らしていないが、曲に合わせてさまざまな動きをしていて、演奏を全身で味わっているようだ。


 演奏を終え、行がお辞儀をする。

 拍手と風鈴の音の中から、楽しかったー! という杏の声がし、佐風が同意を示すように、ひときわ華やかな音を聞かせた。


 行はもう一度お辞儀をしたあとで、笑顔で手を振ってから壁際に移動する。


 入れかわるようにステージ部分に進んだのは、白基調の着物姿の、いちとせだ。

 長身、細身。人の姿で暮らすモノである。


 いちとせが舞い始めた。

 柔らかさ優しさの中に、強さも感じられるような美しさ。惹きつけられ、目が離せない。いちとせのところだけ、別の光と空気があるような気すらしてくる。


 ふいに世界に、拍手の音が割って入ってきた。視線を転じると、リョクが拍手をしている。もう一度いちとせに目をやり、優月は、いちとせが舞い終えていることに気づいた。


 まだ少し意識を持っていかれているような感覚のまま、優月も拍手をしようと手を動かし始める。


 多人数の拍手の音になるまで、しばし間があった。

 あれ? いちとせさん舞い終わってる。あれっ? と、きょろきょろしつつ杏。佐風の風鈴の音はゆっくりで、どこか夢見心地な感じだ。


 いちとせが退室し、徐々に室内の者たちも、次のことに向けて動きだす。

 コトハと優月は、箏を別の部屋に移動し始めた。



 短時間で各自、用を済ませたり休憩したりしたあとで、みんながまた部屋にそろい、再開である。

 いちとせは着替えてきたので、ベージュのスーツ姿だ。

 ステージ部分には、茶系で大きめの折りたたみテーブルが出されている。


 みんながテーブル周りに集まった。モノたちは、テーブル上や用意された台の上にいたり、持ち主が持っている状態だったりだ。


 テーブルの上には、横長の水彩画作品。風実ふうみが描いたものだ。

 サイズとしては見た感じ、長辺はA4用紙を横置きで三枚以上横に並べたくらい、短辺はA4用紙の長辺の長さくらいだろうか。


 風実の仕事は、絵に関係するいろいろなことだ。

 今日この時間は村内で仕事中なため、風実は今この部屋にはいないが、穂風すいふうはテーブル近くに、ひっつーはテーブル上にいる。


 ひっつーは、筆を本体としていたモノで、今は羊のぬいぐるみを本体としている。

 握りこぶし大の白いふわふわボディ。まん丸の黒い目。顔や丸いつのや手足などはベージュだ。


 穂風は、ひっつーの持ち主で、書道関係の仕事をしている五十代の男性。今日は茶色基調の和服姿だ。

 背は高めで、しっかりとした体格をしている。顔のつくりは厳つい部類に入ると思うが、表情は穏やかで、威圧的な雰囲気はない。


 風実は穂風のパートナーで、柔和な顔立ちの人だ。穂風、ひっつーとともに暮らしている家族の一員でもある。


 テーブル上の紙には、木々が並ぶ場所で、いろいろなことをしている、さまざまなひっつーが描かれている。


 舞い落ちる赤や橙や黄の葉に向かって両手を伸ばしていたり、ジャンプして葉を両手ではさんでいたり、それぞれの手に葉をゲットしていたり。


 松ぼっくりを転がしていたり、どんぐりを拾おうとしていたり、両手いっぱいにどんぐりを抱えていたり、頭の上の松ぼっくりを落とさないようバランスをとっていたり。


 そして紙の右端には、なにも描かないまま空けてあるスペースがある。そこにこれから穂風が字を書くとのこと。


 穂風が右手でひっつーを持ち、ひっつーの右手を紙に近づける。


 ひっつーの精神体が本体としている物を、穂風が筆として扱い、今は筆とする、そして書く、と意識したうえで穂風が書く動作をすると、ひっつーで字を書くことができるのだ。


 ひっつーと穂風の組み合わせで発揮される能力であり、かつて本体だった筆で書いていたときの感覚を、ひっつーも穂風も味わえる。


 字は墨で書かれたものとなるが、実物の墨が本体の物体内にあるわけではない。


 穂風とひっつーにより、縦に文が書かれていく。


 秋のひっつー

 あきない試み


 優月にも読みやすいはっきりした字で、紙に、そう書かれた。

 風実とも一緒に考えた文、とのことである。




お読みくださり、ありがとうございます。

今後もどうぞよろしくお願いいたします。


次の投稿は、6/7(土)夕方~6/8(日)朝あたりを予定しています【2025年6/1(日)現在】

予定変更の際は、お伝えできる場合は活動報告でお知らせします。


――――

改稿予定や改稿検討中です。よろしくお願いいたします。【2025年6/1(日)現在】


【プロローグ】

優月の見た目と年齢を説明する文を追加しようか考え中です。

(シンプルなつくりの顔に、肩あたりまでの黒髪、中肉中背、今年度二十三歳。といった内容の追加を考えています)


【プロローグ、5月3】

・平淡→平坦


【8月5】

・佐々木は二十代前後と言っても通りそうだが、→佐々木は二十歳前後と言っても通りそうだが、



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