「10月、目指すところへ」12.始まる、続いている、加わる
毬香炉と雫の魂は、だいぶ波長が合うというか、相性がよいというか、なのだという。
だから毬香炉は、接触してきた雫の魂を、深く関わらず受け流すとかではなく、内部に受け入れてしまった。取り込んでしまったという感じも若干あるかもしれない。
けれど、別の存在が中に入ったという強い違和感に、毬香炉の防衛的な部分が反応した。
そこで、雫の魂を外に出すという反応の仕方だったら話はスムーズだったのだろうが、内に入れたまま守りに入るという、なんだか矛盾しているようなことをした。
守りに入った結果、イメージ的に固く閉じるような感じになり、外部からの干渉を受け入れにくい、内部から出づらいといったような状態になった。
そして、閉じた状態で、雫の魂は出られず、でも相性のよさからか、雫の魂にとっては居心地はよく状態は良好という、よくわからない状況が出来上がったらしい。
行のほうは、別の存在が入っていることへの負担から人の姿が保ちづらくなり、けれど波長は合うので、ものすごく不調のままとまではならず、という感じだったようだ。
解決方法としては、物理的に毬香炉を開いた状態にすることで、イメージ的に閉じた状態を半ば強制的に解消させ、そこにタカマサがうまく介入し、というようなことだった。
いろいろなチェックや予測などの結果等あわせて検討したところ、この方法がよいとわかったそう。
ただし、細かい理由や手順の部分は必ずしも説明どおりとは限らない、とのこと。
ちなみに、原因や事態などの説明のほうも、大筋として言葉にしてみるならこういう風という感じなのだという。
実際に起きた出来事一つ一つと照らし合わせたら、筋が通らない面や食い違う面もあるかもしれない、とのことである。
いろいろな要素や作用や反応などが、さまざまなタイミングで絡まり合ったり影響し合ったり、という部分が多く、あとから一つ一つに対して、しっかりとした理由づけや説明をというのは、なかなかに難しいそうだ。
なお、今後だが。
すごく合う存在が、魂だけといったような内に入れやすい状態でいるうえに、会い、接触し、というのは、そうそうあることではない。
そして、すごく合う存在であっても、違和感もとてもある、入れないほうがいい。
そういうようなことを、今回毬香炉は実感したというか、そういったことが今回毬香炉にインプットされたというか、という状態のようだ。
それらのこともあわせて考えると、今回のようなことが再び起こる確率は、かなり低いだろうと見られている。
そして雫のほうは。
どうやら雫は、大半の人より、魂が体の外に出てしまいやすいらしい。
今回、魂が出てしまう原因となった出来事のようなアクシデントに、今後もよく遭うようでは困るけれど、また遭うかもしれない、また魂が出てしまうかもしれないと想定して、対策をしておくことは可能だ。
対策として、現時点でテイクができるものだけでも、いくつかの方法がある。
そもそも出づらくする。出た場合にテイクが感知できるようにする。出た場合に魂のいる場所がすぐにテイクにわかるようにする。
たとえばそういったことなど。
このあたりは、雫の体や魂に、能力者が手出ししておこなうことになる。
もしくは、体や魂に事前になにかすることは選ばず、助けを求める先があると相手を選んで周囲に伝えておき、出てしまったようであれば周囲がテイクに助けを求める、もしくは雫の魂が自力で助けを求める、という、ある意味、人力のような手段をメインにしておくという選択肢もあるにはある。
いくつかの方法を組み合わせてもいいし、一度しか選択できないわけではない。
とりあえずまずはどうするか。雫が説明を聞いたのち、テイクや、雫が相談したい相手と相談しながら、決めるということになる。
雫は無事、紫穂、杏、あんずと再会することができた。
また、リョク、秋桜はんたちハンカチーズ第一班、行も、雫とゆっくり話す時間を持つことができた。
その際、行は雫に謝った。今回の件は毬香炉が原因となった部分が大きいと知って以降、初めて雫と会う場でもあったからだ。
雫には明かせない内容は話さず、しかし、行側が原因となった面がとても大きかったと知ったという点は、はっきりと言い、謝った。
頭を上げてくださいと、雫の少しあわてた声がした。
体を起こした行に、大変度が高かったのも行さんのほうだと思いますし、と雫が言う。
「そんな中、行さんは、そしてテイクのみなさんも、僕のことをまず気遣ってくださる感じで……気持ち的にも、とても助けられましたし」
そう微笑んでくれる雫に、行は丁寧に一度お辞儀をする。
「それに、行さんとのことがあって、僕は存在に気づいてもらえて助けてもらえて。行さんたちテイクの方々と出会えましたし、杏ちゃんたちとも再会できました。そういう嬉しいこともありましたし、なかなか経験できない目線の高さでの生活もして、秋桜はんさんやリョクさんによる移動も体験できて。お世話になった僕がこういう言い方をしていいのかはわかりませんが、僕にとっては、よいことがいろいろとあったので大丈夫です。だから行さん、気にしないでください」
「そう言っていただけると……ありがとうございます……。それと俺も、雫さんと出会えたことも、雫さんが杏さんたちと再会できたことも嬉しく思っています」
行の言葉を聞いた雫が、晴れやかな笑みを浮かべた。
雫は、今後魂が出てしまった場合に備えて、出た際にはテイクが感知できるように、魂のいる場所がすぐテイクにわかるように、事前にしておくという方法をとることにしたそうだ。
利点や、デメリットとなり得る点などについても聞いて考えたうえで決めたとのこと。
また、その件とは別に、雫の能力面でのテイクとの関係について。
雫が、モノ発声による声が聞こえる能力の持ち主であることも、今回テイクと出会ったことをきっかけに、はっきりとわかった。
それに関しても、テイクは雫にいろいろと話をした。
今後、どういう形で、どの程度積極的にテイクと関わっていくかは雫の選択にもよるが、雫としては、テイクとの関係を深めていく心づもりのようだ。
まずは定期的にテイクとやりとりをしたり、可能な範囲で村を訪れる機会を持ったりするところから始め、将来的には、テイクで活動することも視野に入れているとのこと。
それぞれにとってよいつきあいの、方向性が一致して、互いにとってよい関係を、長く続けていくことができればいいなと思う。
その後もそれぞれ、そしてときにはともに、日々をすごしている。
雫は最初の頃はテイクの送迎で、高校生になってからは自分で公共交通機関などを利用して、よく、村に来る。
杏たちとスケジュールを合わせて訪れることも、けっこうある。
いろいろな相手と交流の機会を持ったり、つきあいを深めたりもしているし、ときには、まったり、ときには活動的に、楽しそうにすごしている。
行と会ったり話したりすることも、よくある。
律と行も、あれから直接のやりとりも続けているし、一緒の時間もすごせている。
用事があって律が村に来たり、時間がつくれたからと訪ねてきてくれたり。
お互いの時間の都合上、顔を合わせて挨拶だけのときもあれば、ゆっくりとした時間を一緒にすごすことができて、いろいろと話したり、なにかを食べたりといったときもある。
そしていつの頃からか、律も行も周りも、律が村に行く来るではなく、村に帰る帰ってくるという表現を、ときにはするようにもなっている。
あの秋の出来事をきっかけに、始まったこと、続いていることの中にも、嬉しいものがいろいろあるなぁと、行は思っている。
そして、そう思っているのは行だけではないことを、それぞれから聞いたりして知っている。
そして現在。雫と行の件から四年後の秋。
当時を振り返ったり、今年もいろいろなところに飾られているハロウィンの飾りを見たりしながら、優月は家に帰ってきた。
玄関に入り、ただいまと言った優月のもとに、おかえりなさーいと言いながらコトハが歩いてくる。
優月はコトハを見て、あらためて、ただいまと言おうとしたが、口から出た言葉は「白かぶ……?」だった。
優月を出迎えたコトハは、吸水タオルキャップをかぶっている。
そのキャップのデザインが、白かぶを思わせるものなのだ。
白のタオル地で、上のほうに薄緑色の、葉というか茎というかを模したようなものが、飛び出る形で付いている。
大根という見方もできなくはないけれど、ハロウィンも近いしキャップだし、おそらく……と優月が思ったところで、コトハが口を開いた。
「ハロウィンシーズンに、かぶをかぶるー」
やはり、白かぶでいいらしい。
「えっとそれも、テイクから?」
「そうよー! 新商品! かぶって白かぶ、っていう名前よ。今年のハロウィンに間に合ったから、急きょ販売開始ですって」
楽しそうな声でコトハが答える。
優月よりコトハのほうが、まめに発売情報等をチェックしている。
何年か前のハロウィンシーズンには、コトハは、パンプキンパン柄の布巾を手にしていた。
コトハが布を買ってつくったのかと思ったら、テイクが出した新商品を購入したのだという。
商品名は、ぱんふきん、とのこと。
そして今年は、白かぶデザインの吸水タオルキャップ。
ハロウィンシーズンに、仲間入りである。
お読みくださり、ありがとうございます。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
次からは、11月を題材とした話に入ります。
次の投稿は、5/31(土)夕方~6/1(日)朝あたりを予定しています【2025年5/25(日)現在】
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