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「10月、目指すところへ」3.考えるのも、話すのも大事


 リョクはまず、モノという存在について、説明を始めた。


 そう、話の開始時点で行《こう》は思った。話の流れ的にそうするのかと。


 だが、違った。

 リョクは、モノやモノ発声という具体的なワードを出しての説明を、行の中にいる存在に対してしなかった。


 意思を持つ存在は人間だけではない。

 話すのも人間だけではない。

 人間とは違う方法で声を出す存在もいるし、その方法で声が出せる存在もいる。


 それらの声が聞こえるか聞こえないかは、それぞれによる。

 聞こえるか訊いたのは、そういった声のうちの一つ。


 リョクが話した内容は、そんな感じだ。


 渡さなくてよい情報まで渡しては、渡す側の危険が増える。

 受けとらなくてよい情報まで受けとることになっては、渡された側の負担が増える。


 今後、どこまで深く関わるかまだわからない相手に、この段階であまり具体的に話しすぎるのも、といったところだろうか。


 とはいえ、相手の言葉を利用して、腹話術みたいなもの、で押し通そうとしてまで、超常面を隠すことはしなくていい。


 中にいる存在がそもそも、魂の状態で動いたり話したりしている。


 それに、人の姿だった存在が別の姿になる、今いた場所から一瞬で別の場所に移動させられる。

 その場面に居合わせた、というか、その状況を、中にいる存在として体感した。


 また、今後、解決に向けての対応などに、超常込みの方法も多々用いられるはず。


 だから、超常関係全部を隠そうとするのは無理がある。

 ある程度は明かす方向で、しかしどこまで詳しく明かすかは状況や様子を見つつ。


 という感じで進んでいるのだと思われる、おそらく。


 そう考えて、リョクの考えや行動を行流に表現してみると。


 物の姿状態で行が中にいる存在とすでに言葉を交わしているなら、行が言うはずだが、言われていない。


 リョクと行が交わした挨拶に、中の存在はどうやら反応を示さなかったようだ。

 しかしそれは、行の声が聞こえなかったからか、聞こえたけれど口出しせず静観したからか、別の理由からか、わからない。


 はっきりしないから、モノ発声による声が聞こえるか、中にいる存在本人に直接訊くことにしよう。


 聞こえない場合、行とのやりとりを伝えるか、伝えるなら伝え役を兼任するか、誰か来てもらうか、考える必要があるし。


 声について説明する際は、モノについてしっかり話すことは、今はまだしないでおこう。


 そんな感じだろうか。


 相手の事情や背景がわからない段階で、いろいろとやりとりしなければいけないときの、ややこしさ。


 超常面を極力出すべきでない相手か。

 超常についての相談にも対応してくれるテイク、を求めている相手か。

 そのどちらかで、しかもどちらなのか最初からわかっていれば、振る舞いやすいのだが。


「自分がする、できる、思考にも対応にも、不備というか穴というかが、どうしてもありそうなんですが」


 かつてそう言った行に、とあるテイクメンバーがしたアドバイスは。


 そのときそのときで、いろいろあれこれ考えて行動したと思っても、あとになってみれば違う手のほうがよかった。

 そうなること自体は、防ぎきれないことも多い。


 なのでそれを前提として、またそのときそのときで、その状況からとれる、よさそうな行動を考えていくしかない。


 とりあえず、なにを言ったか、どう行動したかは、できるだけ覚えておくほうがいろいろとやりやすい。


 というものだった。


 あらゆる状況を想定し、何手先までも短時間で考えて言動を決め。とはいかない相手へのアドバイスとして、シンプルではあるものの現実的だとも思う。


(って、つい、いろいろ考えたり振り返ったりしていたが)

 中にいる存在に、もし行の思考が伝わっていたら、いろいろ筒抜けである。


(しかしこれ、もし全部伝わってて反応せずにいるなら、すごいと言うか怖いと言うか。まぁでもとりあえず)

 一応、はやめに訊いてみたほうがいいかもしれない。


 仮に、伝わっていないと答えられても、それが本当かは、すぐにはわからないが。

 もし、全部伝わってます、と答えられたときには、リョクの話の組み立て方が、ずいぶんと変わるだろうから。


 と、ここまで、行があれこれ考えたり振り返ったりしていた間、リョクのほうはというと。


 行の中にいる存在に名乗り、行のこともひとまず名前のみ紹介し、いろいろなことに対応する組織だとテイクのことを説明していた。

 リョクと行がテイクのメンバーだということも言った。


 この事態への対応もテイクがおこなう心づもりだと話し、中にいる存在の理解と同意を得た。

 お礼を述べたのちに、中にいる存在の協力を得られるとありがたいと言い、そちらについても承諾を得た。


 続いて、状態等を詳しくチェックをすることに対して、中にいる存在から許可をもらった。

 ちなみに、チェックされるのは行も同じだが、必要時にはおこなってかまわないと、あらかじめ同意済みだ。


 近くに待機していたのか、数人のメンバーが、チェック等のためすぐに部屋に来た。


 今は、各メンバーがそれぞれ必要なことをおこなう中、リョクはチェックの合間を縫って、行の中にいる存在に、お互いが得た情報の扱いについてなどの説明をしているところだ。


 チェック中に知る機会があったが、中にいる存在は、行の中に入っても具合の悪さを感じなかったらしい。

 あの不調が行側だけのものだったとわかり、行はほっとした。



 チェック等に来ていたメンバーたちが、退室していく。


 ひとまず詳しい結果待ちだが、届くのにそれほど時間はかからないと思われる。

 届いたあたりで、解決に向けて具体的な話をし始める感じだろうか。


 そのときには、中にいる存在にも、いろいろと訊くことになるかもしれない。

 本人の体の居場所を見つけ、対応するにしても、本人から情報提供があったほうが、なにかとスムーズだろうし。


 なお、一刻を争う事態なら、一つでも多く手がかりを得るため、段階をすっ飛ばして、中にいる存在にあれこれすぐに訊くことになったはずである。


 そうなっていないということは、急がなくても大丈夫な状況状態だということが、わりとはやいうちにテイクの側でわかっているのだろうと行は解釈しているが。


 大至急ではなくてもスムーズなほうがいいだろうし、それには本人からも情報をもらえるほうがいい。


『あの、』

 行の中にいる存在が、声を発した。

 はい、とリョクが応じる。

 行も思考を切り上げてそちらに集中した。


『できれば、行さんに謝らせていただきたいと思っていて。僕が話しかけてもいいでしょうか。迷惑をかけてしまっている僕とは、やりとりしたくないかもしれませんが……』


(いや、そんなことは)

 すぐに言葉は浮かんだが、リョクの返事を待とうと、行自身の返事はまだ内心に留める。


『行はそんな風には考えないと思いますが。そう思わせるような、行自身の思考が伝わってきていたりしますか?』


『いえ、考えていることとかは全然わからないのですが、リョクさんたちメンバーの方に少し答える以外黙っていらっしゃるので、もしかしたら、と気になって』


(いや、それは。……気にさせちゃったか……)


『それはおそらく、テイクが対応しているので、行個人が積極的になにかを発することは控えていただけかと。やりとりしたくないわけではないと思いますよ』

(そう、そのとおり!)


『行、そんな感じで合ってるか?』

『合ってます』

 心の中で大きく同意を示していた行は、リョクに訊かれ、声に出して答えた。


『そうか。会話どうぞ』

 促され、行は、中にいる存在に向けて声を発する。

『中にいらっしゃる方。やりとりしたくないという気持ちは、まったくありません。気にさせてしまっていたことを知って、申し訳なく思っています』


『いえ! そんな、僕のほうこそ。僕のせいで、大変なご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ありません。僕がもっとちゃんと前を注意していれば』


 行と、中にいる存在、両方同じ物の中にいるのに、それぞれ外部に声を発して会話をする形になるようだ。

 行自身の感覚としては、中にいる存在と電話でもしているかのような感じでもある。


 そんなことも考えつつ。

『前を、ですか?』


『はい。考えごとをしながら角を曲がったせいで行さんに気づくのが遅れて、ぶつかってしまったんです。入ってしまったうえ、出られず』


『あっ、そういう状況だったんですね。それはこちらのほうこそ、曲がってすぐのところで立ち止まっていて、申し訳ありませんでした。あと、おそらくいろいろ驚かせてしまったと思うので、それについてもお詫びします』


『それだって、僕が入ってしまったからなのでは……? 一瞬ですごく低い位置にいる感じになったり、一瞬で全然違う場所にいたり、確かに驚きましたが』


 一回言葉を切った、中にいる存在が、ただ、と続ける。


『あり得なそうなことばかりで、しかも自分が原因で複雑化した部分も多そうで、どうしようかと思ったんですが。行さんのおかげでテイクと出会えて。対応すべき事態ではあるものの、とんでもない事態ではないみたいな雰囲気で。それはそれで驚きましたが、安心している自分がいます』


『それはよかったです』

 行が言うと、リョクも大きく頷いた。




お読みくださり、ありがとうございます。

今後もどうぞよろしくお願いいたします。


次の投稿は、3/29(土)夕方~3/30(日)朝あたりを予定しています【2025年3/22(土)現在】

予定変更の際は、お伝えできる場合は活動報告でお知らせします。



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