「9月、月乃とネコで」12.月日を重ねていく中で
月乃が考えた名前ですごしていくことを、三ネコは希望した。
この件についても、テイクに連絡しておくことにする。
ちなみに、三人をどの順で呼んでもらうかは、今後、定期的に変えていくそうだ。
ひとまずしばらくは、サー、トキ、ヴァン、の順でよろしくとのこと。
翌日、午前から、予定どおり梅幸との面談再び。
そして午後、面談を終えて、三ネコはモノハウスへ。
月乃は、いったん自宅に戻り、私物のノートパソコンを持って、また珠水村へ。
ノートパソコンを三ネコも使えるようにしてもらった。
月乃はそのあと、テイクの提案で、村内のいろいろなところに行ってみたりした。
職場用の湯のみも、よさそうなものがあったので、村内の店で購入した。
三ネコは月乃が結界内にあるホテルのような建物の部屋に戻るまで、モノハウスですごしていた。
結果的に結界内に二泊したのち、月乃と三ネコは、月乃が現在住んでいる、そして今後何か月かは、月乃と三ネコが暮らす予定でいる、アパート内の一室に帰ってきた。
休みが明け、月乃は出勤。三ネコはお留守番。
数日後、包丁を飛ばしてしまった人から月乃に連絡が来たので何回かやりとり。穏やかな着地点へと落ち着いた。
少しして、三ネコの新しい本体がそれぞれ出来上がり、一次宿りの物から新しい本体へ精神体が移動した。
新しい本体の入り心地、動き具合も、良好とのことだ。
ほぼ休日のたびに月乃と三ネコで村へ行く日々をしばらくすごす。
その間、村に引っ越すための準備を、月乃はテイクのサポートを受けつつ進めた。
村に引っ越して、結界内にある部屋に住むことを、二度目の面談のあたりでテイクから提案されていたからだ。
提案されたのは、以下のような状態等だったためらしい。
引っ越せる状態なうえ、モノがモノとして、よりすごしやすいところに引っ越すことを希望し、引っ越し先選びを月乃たちがテイクに依頼した。
能力や技能などをもとに、テイクの活動に協力していくという意思がある。
村との相性が問題ない。
月乃が今勤めているところは、村から通うことができる距離である。
テイクの本当の姿やモノのことを知らない相手を、自宅に招く意思や予定がほぼないと月乃たちが答えた。
そういった点などを含め、いろいろな状況や条件的に、提案という運びになったそうだ。
提案された月乃と三ネコは、村に引っ越すと決めた。
しばらくして、準備が済み、引っ越し。
月乃と三ネコは、結界内にあるアパート的な建物の中の一室で暮らし始めた。
月乃用と三ネコ用それぞれのスペースも、みんなですごすスペースも確保できる、余裕のある間取りだ。
結界内なので、人目対策を徹底しなくても大丈夫。カーテンが開いていてもいいし、三ネコと一緒にベランダとかにだって出ることができる。
安心してすごせる、居心地のいい場所での生活がスタートした。
引っ越しは大きな予定変更もなくできたが、月乃の仕事のほうは思いがけない展開になった。
考えていたよりずっとはやい時期に、テイクで所属員として働き始めることになったのだ。
初めて珠水村に面談に行ったのが、九月のこと。
テイクでの仕事についてもいろいろと聞いたが、そのときはまだ、この先数年は転職しないつもりでいた。
その間、月乃の、モノの精神体が見えるという能力が必要な際は、できる範囲でテイクに協力する。また、どこかに精神体だけでいるモノがいないか、チェックできるときはする。
月乃の能力とテイクという面では、そういった感じの関わり方をする予定でいた。
何年か先には所属員になっているかもしれないけれど、今はそういう形で。
そう思っていたのだが。
勤務先の状況が激変して、今後について急ぎ決めなければいけないということになった。
月乃は転職を決断。
初めての村訪問の翌年度、四月。月乃はテイクの所属員として働き始めた。
三ネコとともに村に住み始め、月乃が所属員として働くようになってからも、月乃にも三ネコにも、いろいろとあった。
とはいえ全体としては、みんなでおおむね楽しくすごしてきている。
月乃はテイクで、モノ対応担当としての仕事をメインに、いろいろな仕事に取り組んできた。
テイクでの働き方は月乃に合っていると感じているし、所属員になってよかったと思っている。
これからも、月乃なりにしっかり働いていく気持ちたっぷりだ。
停止中だった月乃の笑いスイッチは、三ネコと暮らすうちに動き始めた。
けれど反動で、今度は故障状態に。スイッチが入ると、笑いだししばらく止まらないとなって困った。
その後直り、笑えるし、笑ってもコントロールできる状態が保たれている。
三ネコは、おもにモノやモノの持ち主相手の場で、入力や伝え役、案内や応対といった仕事をメインとしながら、テイクで働いている。
月乃とともに働くこともあるし、それぞれで働くこともある。
カレーなん? 関連のいろいろも、継続して取り組み中だ。
一緒にすごしているうちに、三ネコは、月乃に触れていれば、話したことを入力せずに、月乃が手に持つ端末画面に直接表示できるようになった。
三ネコが持つようになった、新たな能力だ。
そしてその後、月乃が端末を手に持っていなくても、月乃の端末になら表示することができるようになった。
三ネコの言葉遊び好きは、コトハとの出会いにより、ますます加速した感がある。
ヴァンが先にコトハと顔を合わせたが、あとから三ネコそろってコトハと会い、さっそく盛り上がっていた。
ちなみに、三ネコそろっての初めましての挨拶時に、月乃経由で三ネコがコトハに渡したのは、判じ絵の本。
そしてコトハが三ネコに用意していたのは、判じ物の手ぬぐい。
三ネコとコトハたちは、その後も、言葉遊び仲間を着々と増やしている。
日々とっても、楽しそうだ。
モノとの、そして、モノとともにすごす者との、交流。
三ネコと出会うまでは、知らなかった世界。出会ったのち、次々と訪れる機会。
楽しい、微笑ましい、心あたたまる、そう表現できるものもとても多い。
ただ、そうはならない関係や状況もあるということも、過去の対応記録に目を通すことなどによって知った。
気持ちも、経緯も、関係も、それぞれだ。
なにを幸せと思うかもそれぞれだし、その時点でなにが選べるか、どうできるかも、そのときやその関係次第。
そう、考えてもいるけれど。
そのときそのときの、その相手ごとに、向き合って、道をともにさがしていく。
できるだけ、笑みを浮かべたくなるような嬉しい気持ちで、それが無理な場合は、せめて、心が乱れ続けることなく、それぞれがこれからをすごしていけるように。
モノ対応担当をしていくうえで、そういう気持ちも、持っているけれど。
互いがともにいることを望み、そうしている、そうしていられる、そうしていこうとしている。
そういう関係を知ると、そういった関係に出会えると、とても嬉しい気持ちになることも確かだ。
一緒にいる日々を選んだ月乃と三ネコ。
それを知って笑みを浮かべた、梅幸を始めとしたテイクのメンバーたち。
その笑みの理由を、そこに込められていた感情を、今の月乃は、あのときよりも深く濃く、想像できる気がする。
いつの間にか、記憶の中へと心が旅をしていた。
月乃は現在に意識を戻し、端末画面に目を向ける。
「えっ、わっすごい」
画面に字がびっしりぎっしり。
月乃はあわてて目を通す。
「……しりとり」
月乃の意識が外出中なことに気づいた三ネコは、戻るのを待つ間、しりとりをしていることにしたようだ。
超、長文をやりとりしての、しりとり。
月乃にくっつきながらしていたので、画面上にずらりずらりと文が並んでいる、という状況のようである。
〈サー『あ、おかえりー』〉
〈トキ『なかなか見応えのありそうな画面が出来上がっているぞ』〉
〈ヴァン『もうしばらく続けさせてくださいね』〉
三ネコがしりとり用の言葉ではなく、月乃への言葉を画面に出した。
そしてすぐに、しりとり再開。
少しして、料理名でしりとり、とルールが変わった。料理名が並び始める。
テイクを通して正式に依頼するという形で、コトハに機能付与してもらい、三ネコとの食事の機会を定期的につくっている。
月乃にとっても三ネコにとっても、この機会も心躍る時間だ。
画面に並ぶ文字は、次第に、しりとりから離れていく。しりとりとは関係なく、メニューの入力し合い、という感じになってきた。
三ネコの好物。月乃の好物。この前みんなで、おいしそうだねと話したもの。
今までに食べてみたもの。また食べたいもの。これから食べてみたいもの。
よく聞くもの、月乃にとって初耳に近いもの。
次から次へと並んでいく。
「食事も、いろいろなことも。まだまだたくさん、これからも私たちみんなで、楽しく味わっていけるといいね」
〈サー『だねだね!』〉
〈トキ『ああ。そうしたい』〉
〈ヴァン『同感です』〉
月乃が言うと、すぐに返事が表示された。
画面を通して届く言葉。
月乃にくっついている三ネコ。
月乃にとっての、日常。
これからも日常であってほしい、大切な、毎日。
お読みくださり、ありがとうございます。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
次からは、10月を題材とした話に入ります。
次の投稿は、3/8(土)夕方~3/9(日)朝あたりを予定しています【2025年3/1(土)現在】
予定変更の際は、お伝えできる場合は活動報告でお知らせします。
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【後日、改稿予定です。よろしくお願いいたします】
〈6月5〉
・私と一緒にすごしている子たちを紹介
子たち→みんな
・うちの子たちと同じ
うちの子たち→三ネコ
〈6月6、6月10、6月12、8月1〉
お勧め→おすすめ
〈9月2〉
・三人にわかれてはいなくて
・三体にわかれる
わかれ→分かれ
〈9月2、9月8〉
三ネコたち→三ネコ