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「9月、月乃とネコで」11.三ネコで


「よし、じゃあこの内容で送っといてみよう」

〈よろしくー!〉

 紫ネコが入力し、青ネコと水色ネコが、よろしくと言うかのように右足を挙げた。


 それぞれ希望する本体の物が決まったので、内容をまとめてテイクに連絡する。


 ネコの置物が、首にかけたり前足で支えたりして持っているようにもできる、メモなどを貼れるボードも、一応一緒に頼んでおくことにした。


 モノではなく物として存在する場面において、そこに置いてある理由や置いてあってもおかしくない場が増やせるかもという、さんネコと月乃つきのの考えによるものだ。


「そうだ。みんなのこと三人一緒に呼ぶとき、三ネコっていう呼び方してもいい?」


 おもに月乃の心の中で使うだけでなく、本人たちに直接そう呼びかけていいか、きちんと訊いておくことにした。


〈かまわないぞ〉

 青ネコが入力したあとで、三ネコみんなで頷く。

「ありがとう」


〈呼び方についてこちらからも……ワタクシたちそれぞれの名前についてなのですが〉

「そうだ! ちゃんと訊いたことなかったよ、ごめん。教えて」


〈いえ、現時点で、しっかり決まったものはないのですよ〉

「えっ、そうなんだ」


 生じたときとか分かれたときとかに、意識した名がすでにあったにもかかわらず、月乃が訊こうとせずにいてしまったのかと思った。

 だが、そうではないらしい。


 とはいえ、訊こうと思いつかなかったのは、やはり、ごめんという心境ではあるが。


〈でね、今後やっぱり必要だよね、ってことで、モノハウスで、それぞれの名前について、ちょっと考えだしたりして〉

〈いくつか候補を挙げていましたら〉

〈月乃が呼ぶことも多いだろうから、月乃にも案を出してもらったらいいのでは、とアドバイスをいただいてな〉


〈もちろん月乃に気に入って呼んでもらいたいから〉

〈ぜひ伺おうということになりまして〉

〈本体決めの次は、名前決めをと考えていた〉


「じゃあ名前決め会議開始ということで。候補って、どんなの挙げてたの?」


〈ゆー、のー、みー。ですとか〉

〈直、立、平。とかな〉

〈白、茶、緑。とかね〉


「……なるほど」


 たしかにこれまで月乃も、三人を形や見た目で呼んではいた。

 けれど、あくまでもそれは、場面場面での便宜上というか一時的なものというか、そういう意識によるものだ。

 その方向性のまま、しっかり名前を決めてしまおうとするのは、どうなのか。


 と、そこまで考えたあたりで、みんなを三ネコと呼んでいいか訊いた月乃も同じようなものなのでは、ということに思い至った。


 考え方が似ていそうだから、三ネコの好みに合う名前を提案できるかもしれないと、ポジティブにとらえることにする。


「えっと、ちょっと時間もらって考えたいな」


〈わかったー。楽しみだなぁ〉

〈ありがとな〉

〈考えるのは、月乃の夕はんについて考えてからで、かまいませんので〉

「おっと。もうそんな時間か」


 今夜は、なにを食べようか。

 このホテルのような建物の中で、食事をしようかな。


 ゆっくりすごしたいなと思える、なかなか居心地のいい空間なのだ。


 結界内外の出入りを禁止されてはいないけれど、結界内への配達も気兼ねなく依頼していいと言われている。


 月乃はスマホを手にし、村内にある飲食系のお店のメニューページを見始めた。




「ただいまー。飲食スペース楽しかった。それと名前の案、わりと決まったよ」


 夕はん後、部屋に戻った月乃は、ベッドでくつろぎ中の三ネコに声をかけた。


 夕はんは、チャーハンと油淋鶏がメインのセットを選んだ。

 昨日はあっさりめの夕はんだったけれど、今日はこちらに惹かれた。

 紅ショウガとザーサイ、両方ついている点にも魅力を感じ、決定。


 これこれ! こういう味を楽しみに頼んだんだ、という月乃の一方的な期待に、しっかり応えてくれるもので、嬉しく味わった。


 食事は、結界内への配達を頼み、この、ホテルのような建物の中の、飲食スペースでしてきた。

 部屋での飲食も禁止ではないけれど、飲食スペースの利用を三ネコにすすめられたのだ。


 三ネコがモノハウスから部屋に来る際、スペース内を見る機会があったらしい。

 いろいろとそろっていて、月乃が好みそうだと思ったとのこと。


 そういうスペースと用意もありますよという説明は、月乃もテイクから受けていた。

 気になっていたところに、三ネコによるおすすめ情報。


 部屋でくつろいでいるから、気にせずごゆっくり。

 その三ネコの言葉に安心して、月乃は飲食スペースでの時間をすごした。


 さまざまな種類のインスタント食品。

 ドリンクだけでなく、いろいろな内容の、多数の自動販売機。


 よく見かけるようなものから初めて見るようなものまで、充実したラインナップで、なにがあるか見ている段階で、すでに楽しかった。

 購入して、いくつか味わってきたし、部屋に持ち帰ってきたものもある。


 三ネコに食事や飲食スペースの感想を話したり、持ち帰ってきたものを紹介したり。

 それらをしながら、持ち帰ってきたものをいったん、備え付けの冷蔵庫内や壁沿いの細い机の上へ。


 月乃はそこまでしてからソファに座った。

 三ネコはすでに、ベッドからローテーブル上に居場所を移している。


 月乃は三ネコに、お待たせと声をかけた。

 三ネコがキーボードに向かう。


〈おかえりー。楽しめたようでよかった〉

〈だが、名前も考えてくれてたのか。あとでもよかったんだぞ?〉


「あ、大丈夫だよ。考えなきゃ! って感じじゃなくて、おいしいな、楽しいな、名前なにがいいかなっていう明るい感じ」


〈それならよかったです〉


「うん。ただね、気分は明るかったけど、名前を考えることそのものは、ちょっと苦戦もしたかな」


 月乃は言い、飲食スペースで考えた内容を話しだす。


 名前も、湯のみの名残を感じられるものにしてみたらどうだろう。

 そう思った月乃は、湯のみで飲みそうなものや、湯のみつながりでいろいろなお茶などを思い浮かべ、そこから名前を考えてみることにした。


 三ネコが、ボク、オレ、ワタクシとカタカナだし、カタカナ表記もいい感じな気がする。


 本体決めのときにそれぞれが希望した色も関連させられるか、考えてみるのもいいかもしれない。


「そんな感じで考えだしたんだけどね。いくつかは、すでに選びづらいってことに気づいた」


 たとえば。

 緑茶から、リョク。紅茶から、コウ。梅昆布茶から、ウメ。桜茶、桜湯から、サクラ。


 今日、モノハウスで三ネコがお世話になったのは、リョク、こうという名のメンバーたち。

 今日、面談を担当してくれたのは、梅幸うめゆき

 さくら、というメンバーにも会う機会があった。


 さすがに今日、知ったメンバーたちの名前との関連が強そうな名にはしづらい。


「そして、煎茶からセンさんとか、抹茶からマッくんとか、麦茶からムギさんとかは、私の中ではすでに浮かぶ人がいて、ちょっと別のをってなるし」


「ウーロン茶から、カラスとかリュウとかだと、えっと、ネコだよね? ってなりそうだし」


「と、そんなこんなありつつも、こういう名前はどう? って、それぞれに提案できる名前は思いついた」


 月乃の言葉に、三ネコがにゅーんと月乃のほうに首を伸ばす。

 発表して、聞かせてほしい、待っています、と声が聞こえてくるような動きだ。


「えっとね」

 名前を口に出そうとして、ふと迷う。

「……誰の名前から言えばいい?」


 月乃が問うと、三ネコがにゅんっと首を引っ込めた。

 紫ネコがキーボードに向かう。


〈そうだ! さっき三人で、はやくも順番決めをしといたんだった! まずボクのを〉


「わかった。えっとね……カタカナで、サー」

 言ったあとで月乃はキーボードを使い、サー、と入力もする。

 三ネコが使えるようにしてあるノートパソコンだが、もちろん月乃も使える。


〈なんかカッコいい! 名前のワケとかは、あとで〉

〈では次は、オレのを頼む〉


「うん。カタカナで、トキ」

 言いつつ入力もする。


〈なんだか、しっくりくる気がするな〉

〈ではワタクシの名を〉


「うん。カタカナで、ヴァン」

 入力することで、どういう字か伝える。


〈なにやら雅な印象でもありますが……まさかとは思いますが念のため。……血は、吸いませんよ?〉

「えっ? あ、大丈夫。ヴァンパイアからじゃないから」


〈あはは。なんか気になっちゃうから、順番変更で、ヴァンっていう名前のワケから教えて?〉

 紫ネコが入力した。


「えっとね、番茶から。番茶の色って、緑だったり茶色だったりするみたいだけど、今回は緑として考えさせてもらった」


「で、カタカナにする際にちょっと変えて、はに点々のバンじゃなく、ヴァンはどうかなって」

 まさか、ヴァンパイアを思い浮かべるとは思わなかったが。


〈なるほどなるほど、そう伺えますと、素敵ですね。そうなりますと、サー、は〉

〈白湯、から考えてくれたの?〉


「うん。それもあるし、ナイトとか、敬称とか、意味的にいい感じかなって」


 一般的に年配の人に対して、ともあったけれど、その点は大丈夫だろうと考えた。


 紫ネコが、三ネコの中では口調などが年下っぽいのは、三人それぞれを特色づけるためという面もあると、すでに聞いている。

 水色ネコの感じが、もともとの湯のみの感じ、つまり三人の本来の感じと近いのだという。


 ならばいいかなと思った。


 それと、紫ネコからどことなく伝わってくる、ノーブルな感じにも合っている気もする。


 そういったことも言い添える。


〈ふっふっふ。いろんな雰囲気や年齢の感じを今後お見せしちゃったりして。……トキ、はどういう風に考えたの?〉


「ほうじ茶を思い浮かべて……ほうじ茶、ほうじ、ほうじ、ほうじ……って口にしてたら」

〈時報だな!〉

「うん。そう思って。ときを知らせる、から、トキはどうかなって」


 正確な時刻、きっちり、というのは、青ネコのイメージと合う、というのも理由だ。


 そういったことも話す。


「それぞれ、もし本体が予定した色じゃなくなっても、色以外の意味や理由も名前にあればいいかな、ってことも考えてみたつもり」

 そう、更につけ加える。


 もっとも、今後の本体に左右されないということを重視するなら、精神体の基本形から、直立平をベースに考えるほうがいいのかもしれないが。


〈心遣いはありがたいが、そうすると、ヴァンは?〉

「えっとね、実はちょくちょく、執事っぽいとこあるなって思っててね。で、執事といえば」

〈セバスチャンだね!〉

 紫ネコが、たたたたーんと身軽に入力した。


「あ、そういうことも知ってるんだ。うん、そう。バもンもそこに入ってるしと思って。バはあとからヴァにしたけど」


〈素敵な名前を考えてくださいましたこと、心より感謝申し上げます。お嬢様〉

 そう入力し終えた水色ネコが、月乃のほうを向いて姿勢を正す。

 そして、恭しさたっぷりのお辞儀を披露した。


「……あ、うん。名前のワケに含めておきながらあれなんだけど……。執事モードまっしぐらは、たまーにだけということで、お願いします」


 なんだかとっても、照れるので。




お読みくださり、ありがとうございます。

今後もどうぞよろしくお願いいたします。


次の投稿は、3/1(土)夕方~3/2(日)朝あたりを予定しています【2025年2/22(土)現在】

予定変更の際は、お伝えできる場合は活動報告でお知らせします。


――――

【2025年4/29(火)に改稿しました。よろしくお願いいたします】

・「うん。(中略)トキはどうかなって。」→「うん。(中略)トキはどうかなって」



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