「4月、うさぎさんの行動理由」4.ポーズをとってみた
改稿については後書きで説明しております。
ラビィは、育生とゆかりの間で、おそらく、右手をあごに当てるような仕草をしている。
手がギリギリあごに届いていないが、たぶん、ラビィの心情的には、そのポーズではないだろうか。
「ラビィさん、なにかご心配なことが?」
気がかりなことを考えているような雰囲気だと感じ、優月は訊いた。
『今のところ、私についての情報は見つかってませんか』
「はい。特に通知は来ていません」
ラビィが動いたところは、誰にも見られていないようだった。とはいえ、車内や建物内などからの目撃がなかったとは限らない。
場合によっては、なんらかの情報が出回るかもしれない。
テイクは、いろいろな場所に出回るいろいろな情報を常にチェックしている。反応や対処が必要な場合は対応もする。
相談に来た時点で、今後継続してチェック、対処する件としてラビィのことも組み込まれた。
そのことは、花山家の面々にも説明済みだ。
『今のところ騒ぎになってなくてよかったですし、情報チェックや対処をおまかせできるのは心強いですけど……リスクを減らすって考えると、用意していただく場以外で動くことは、しないほうがいいのかな……って。でも、とっさのときとかどうしよう……と』
ラビィとのやりとりの内容を伝えられた育生とゆかりも、あごに手を当てようとする。
「ご提案したいことがあるのですが……」
今日の初回面談中の、どこかで提案しようとタイミング待ちだった内容を、優月は切り出すことにした。
「テイクが携わっている実験の一つに、既存の物をロボット化するというものがあります。ラビィさんも、そのうちの一体ということにしておくのはどうか、と」
「「『ロボット……ですか? シュピーン?』」」
三人それぞれ、手や腕をカクカクと動かしながら疑問の声を出し、なにかを手で切るような動作ののち、首をかしげて停止する。
なんとも息の合った様子に優月は少し口元をゆるめつつ、続く説明に入った。
既存の、例えば人形やぬいぐるみ、なんらかのおもちゃなどに、あとからいろいろと組み込み、ロボット化。
ロボットとして動くよう設定している間は、動く、道具を使って言葉のやりとりをする、などができるようになる。ある程度、思考力や意思のようなものも備わる。
持ち主の承諾を得ることができれば、制作元販売元などに問い合わせることなく、ロボット化できるという形になっている。
テイク外からもモニターを募り、ロボット化した物と持ち主たちとで一緒に暮らしてもらっている。
いつどこで誰がロボット化の処理をしたか、どんな技術でどんな機能を組み込んだかは、基本的に明かさないことになっている。
村に来てテイクのメンバーと接したり、テイクが用意した場所ですごしてみたりすることを、求めることもある。
モニターである持ち主や物との対応窓口となるのは、基本的には、相談受付担当者やモノ対応担当者である。
「ちなみに、モノ対応担当というのは、外部的には、広い意味での物全般のあれこれに対応する、対応を必要先に要請する、というのがおもな業務内容である、ということになっています」
モノ、とカタカナ表記なのも、広い意味での物ということを表現してみた、ということになっている。
実際、モノではなく物のいろいろに対応する担当者も存在している。
驚きも込めた表情で聞く、育生とゆかり。
両手を口元付近に持っていこうとしている仕草で、驚きを表現しようとしているらしいラビィ。
三人を見ながら、優月は説明を続ける。
「ざっくり言いますと、ある実験に参加している個体だから動くこともあるけれど、詳細は明かせない。村に来ることもあるし、村やテイクとはその件での関わりもある。――ということにしておく、ということです」
「「『だいぶざっくりした!』」」
優月の向かいで、三人がそろって軽くのけぞる。
「必要時には、実験担当者による説明も書類も用意はできますが、そもそもそういったものを当事者以外に案内しない企画ということになっていますので」
「「『なるほど……』」」
「一般的には動かないとされている存在が、動く存在となってすごしていく際に、保険として使えるように、という意図での企画という面も持っています。積極的に言い広めて、おおっぴらに動くためというよりは、ある程度動く場は選びつつも、もしものときに、一致した説明をできるようにしておく、という感じです」
「「『なるほど……』」」
先ほどと同じ返事のままではあるものの、内容や意図はちゃんと理解してくれているようなので、優月は引き続き説明をする。
「全容が明かされないことばかりだけれど、いろいろと対応していて、いろいろな技術や人材を持っていて、提携先も豊富なテイクだから、あり得るかも。それにいろいろと対応する関係上、公にできないことも多いということが、昔から各所に認められている組織だし。――という、テイクへのよくある認識も使わせていただきます」
「「『否定できない……!』」」
「ただ、あくまでも、大事にならず暮らしていくための行為ですし、使う場合は慎重に、です」
自戒も込めて言うと、三人も理解と納得を込めたような声で同意を示してくれた。
「テイクが用意する場で以外でも、せめてご自宅でぐらいは、ラビィさんが動ける機会や時間があるほうが、今後すごしていくうえでいいと思います。それをある程度安心して行うためにも、またそれら以外の場でとっさに動く必要があったときのためにも、保険があったほうがいいと考えて、提案いたしました」
「同感です」
「納得です」
『ありがたいです』
育生、ゆかり、ラビィ、三人口々の返事を聞いたり、ラビィの返事を伝えたりしてから、優月は説明に戻る。
「それと、ゆなさんに、ラビィさんが動いたり、なんらかの手段で言葉を伝えたりできると、話すときが来た場合でも、年齢や状況によっては、まずは、実験のロボットだから、の説明のほうを使ったほうがいいと考えています」
「確かに……そうね。いずれはゆなも、動くラビィと交流を……とは思うけど、小さいうちは特に、内緒にしておくのは難しいでしょうし。誰かに話してしまった場合に、こちらが対応できる説明のほうで、まずは伝えておくのがいいかも……」
「確かに。それに、不思議をどこまで受け入れるかは個人差があるから、明かすかどうかは慎重に決める必要があるだろうし。相手によって説明を使い分けることを、求めていいか求めることが可能かも、ゆなの状況次第だろうしなぁ……」
優月にもそれぞれ応じつつ、言葉を交わす、ゆかりと育生。
そして育生はふと、なにかに気づいたかのようにラビィを見て、言葉を続けた。
「あ、でもとりあえず、今までより大事に扱ってほしいってことだけでも、急いでゆなに伝えるべきか? ゆなはゆななりに、ラビィが好きで接しているけれど、丁寧とは言いがたいときも正直なくはない……。そこまで乱暴じゃないから壊れはしないだろうけど、意識がある状態で、それをされているって知ってから振り返ると……って、それは俺もか! これまで、大事にとはいっても、ぬいぐるみ相手基準だったもんな……ごめんな」
『それこそ不可抗力だし、それに、それは大丈夫だから』
謝る育生を落ち着かせようとしてか、育生の腕に軽く触れつつラビィが言う。
「ん? ん?」
ラビィの仕草に気づいた育生が、解説を求めるよう優月を見た。
ラビィの言葉を伝えたあとで、テイクがこれまでに把握している範囲内での認識ですが、と前置きしつつ優月は説明を始める。
「精神体を持ったあとも、本体の物としての意識や感覚も持ち続けています。そのため、本来の本体がされて問題ないことは、精神体としても問題ないことも多いです」
例えば、と優月は話す。
「仮に、まな板に、精神が生じたとします。包丁が近づいてきても、包丁で表面を切られても、怖い、痛い、とはなりません。コンロのモノが点火のたびに、熱い、ともなりません。そういう感じです」
例が、台所を思い浮かべてのものに偏ってしまったが、意図は伝わったようなのでよしとし、優月は説明を続ける。
「ただ、本体的に許容範囲内のことであっても、悪意を持って、害を与える目的でされた場合は、それがわかりますし、それに対しての感情も抱きます。――育生さんが気になさった、ゆなさんや育生さんのラビィさんへの行動には、きっと悪意はなかったでしょうから、ラビィさんは平気だった、ということだと思います。――ラビィさん、この説明で問題ないですか?」
問いかけた優月にラビィは頷き、育生とゆかりに対しても、頷いてみせた。
「よかった……」
言って、育生がほっと息をつき、その様子に、ゆかりも安心したように笑う。
お読みくださり、ありがとうございます。
今後もおつきあいいただけますと幸いです。
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【改稿について】
【2024年4/22(月)】エピソードタイトルを編集しました。
【2024年7/8(月)】空白行を入れる位置を変えたり、空白行を増やしたりといった変更をおこないました。
【2024年7/8(月)空白行関係以外の変更】
・花山にルビを振りました。