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「8月、夏にご案内」4.出来事と想いに


 予定変更の事情説明時に優月ゆづき花山はなやま家に話せた分は、それぞれわずかとも言える量だ。

 けれど、モノ対応担当の一人として優月が得た情報自体はけっこうある。



 まずは、ある、こいのぼり。


 精神体だけで空を泳いでいた。


 出先で偶然いちとせが見かけ、存在に気づく。おそらくモノだと、いちとせはテイクに連絡した。

 トウヤが地上から鑑定し、モノだと確定。いちとせが対応することに。


 すずめ姿のいちとせは、空を泳ぐこいのぼりに話しかけた。名乗ってから、事情を尋ねる。


 こいのぼりが言うには。


 持ち主家族が、ずっと行きたいと希望していたところにようやく行けるらしく、わくわくと楽しそうに出かけた。


 それを見ていたら嬉しくなって、気持ちが高ぶり、いつもより更に元気に泳いだ。

 するとなんと、精神体だけで空に泳ぎ出た。


 あまりの爽快感に思わずぐいぐい泳ぎ続け、そして、今、いちとせに話しかけられた。


 とのこと。


 いちとせと話しているうちにこいのぼりは、自分の本体がある家にどう戻るか、すぐにはわからない状態になっていることに気づく。

 初、自由泳ぎ。気持ちよく遠くまで泳ぎすぎたようだ。


 いちとせメインでテイクが自宅さがしにつきあい、こいのぼりは無事に本体と合流した。


 一軒家の庭の、こいのぼり。

 三体のうち一番大きなこいのぼりが、このこいのぼりの本体だった。

 ほかのこいのぼりより弱々しく風になびいていた本体は、精神体が戻った途端、力強い動きになった。


 庭にいた、寝ているらしい小さな子を抱いた男性と、その隣に立つ女性は、変化したこいのぼりの動きを見て、帰ってきたと喜び、安心した様子になった。


 こいのぼりが言うには、持ち主家族。夫妻と長男とのこと。

 夫妻の、こいのぼりに対する反応を目にしたいちとせは、物陰で人の姿になり、持ち主家族のところに向かった。


 いちとせが聞いたところによると。


 夫妻は、確信はなかったものの、一体のこいのぼりに、なんらかの存在を感じていたのだという。


 この日、帰宅して夫妻が目にしたのは、一番大きいこいのぼりの、明らかにいつもと違う姿。


 弱々しい、いかにも中身不在感ただよう、一番大きいこいのぼり。

 それを見て、やはりいつもは誰かなにかいたのだとわかったそうだ。


 さがしに行く? 捜索願を出す? しかし、どうやって? どこに?

 夫妻が困惑していたところに、こいのぼりの精神体、帰宅。


 こいのぼりの動き具合が変わったことで、夫妻は、こいのぼりにいる存在の帰宅に気づいた。

 夫妻、喜び、安心する。

 そこに、いちとせが訪ねてきた。


 という状況だったそうだ。


 精神体だけで空を自由に泳ぐのは、確かに気持ちよかった、とこいのぼり。


 けれど、持ち主家族の家の庭で、元気よく動いている状態も、とても気に入っている。

 飾られて、見てもらえて、持ち主家族を見守って、という状態が好きとのこと。


 ちなみにこのこいのぼりは、飾られていないときは眠りについているそうだ。


 夫妻は、こいのぼりがモノだとわかったあとも、ともにすごしていくことを望んだ。

 今後のこいのぼりシーズンは、もっと楽しく一緒の時間をすごせる、とも。


 テイクはまず、こいのぼり本人や夫妻と相談をして、必要な機能を組み込んだ。

 そして今後は、まめにつながりは保ちつつ、基本的には状況ごとの都度対応メインという形に、ひとまずなった。



 次は、ある、オルゴール。


 披露宴会場で、突然鳴り始めたオルゴール。両手の平の上に置けるサイズ、ボックス型。ふたを閉めた状態で鳴りだし、開けて閉めても音がやまず。


 新婦がオルゴールの持ち主。このオルゴールを幼い頃からそばに置いていたから、披露宴にも、とのこと。

 新郎新婦はオルゴールを持って一時的に退場し、別室にいる。


 そう、会場に居合わせた人から連絡があり、いちとせが向かった。

 到着したいちとせは、対応を依頼されたテイクの者として、新郎新婦のいる部屋に入った。


 新婦はオルゴールを抱き、立っている。新郎は、新婦を支えるように隣に寄り添い、やはり立っている。

 近づいてきたいちとせから守るように、新婦はオルゴールを更に強く抱いた。


 オルゴールはもう鳴っていなかった。

 おそらくモノだと、いちとせはオルゴールを見て感じた。

 オルゴールからは、声も聞こえてきている。


 どうしましょう。感動して、嬉しくて、思わず……。なのに私のせいで、大事な場が。ごめんなさい。


 そういったような内容の言葉を、オルゴールはくり返している。

 いちとせ以外の者には聞こえていないようだ。


 新郎はテイクのことを少し知っているそうだ。不思議なことにも対応してくれるんですよね、といちとせに確認してきた。

 いちとせの、はいという返事を聞いて、新郎が少しほっとしたような雰囲気になる。


 さっき二人で話した、僕たちが思ったことを話してみよう。

 そう、穏やかな口調で新婦に言った新郎。

 新婦の同意を得て、新郎は話し始める。


 オルゴールは幼い頃から新婦のそばにいた。

 見守ってくれている感じのオルゴールに、昔からいろいろなことを話したりもして、一緒にすごしてきた。


 新郎も、新婦の紹介でオルゴールに会い、まるで心があるみたいだと感じた。新婦を大切に思っている感情が伝わってくる気がした。

 頼もしく感じたし、新婦のそばにいる相手として認めてもらえるよう頑張ろうと思った。


 今回、オルゴールは感動してくれて、抑えきれず鳴りだしたのかもと思っている。

 オルゴールからは、起こしてしまったことを気にしているような感じも伝わってくる気がする。


 自分たちの願望込みではあるが、反対されているような、なにか怖さを覚えるような感じはしない、と思う。

 不思議な現象で、場が混乱したのは事実だけど、喜んでくれたから起きたことだといいなという気持ちで二人ともいる。


 いずれにしても、オルゴールを手放すなどということにならないよう、二人とも願っている。

 それと、披露宴をはやく再開させなければ、とも考えている。


 聞いたいちとせは、オルゴールに声をかけた。

 あなたの事情やお気持ち、お二人にかなり正しく伝わっているのではないでしょうか。そう思いましたら、音を出して返事をしていただけますか、と。


 短く、けれどしっかりと音を鳴らすオルゴール。


 新郎新婦の顔に浮かんだのは、驚きではなく喜びだった。


 先ほどの現象は一時的な不具合によるもの、と表向きには説明することになった。

 ついまた鳴りだしてしまったときのために、また鳴るかもしれない、とも言っておくことにした。


 説明後、引き続き会場にオルゴールを置くことを許してもらいたいと願った新郎新婦。

 その願いは、披露宴会場の者たちに受け入れられた。

 そして披露宴は無事、再開された。


 今、オルゴールは、二人と一緒にすごしている。

 相談ののち、テイクはオルゴールに、必要な機能組み込みをした。

 今後も、いろいろな面でサポートしていく。



 その次は、ある、グリーティングカード。


 テイクが、カードの受けとり手からの相談を受け付けた。

 相談者が送信してきた文によると、相談者は二十代の男性。


 相談内容として書かれていたのは、以下のようなことだ。


 昨日、封筒に入った二つ折りの暑中見舞いカードが郵送で届いた。送り主は友人。

 今日、カードを取り出し自宅で開いたところ、部屋の中に、立体世界が出現した。


 青空、木の塀、朝顔、ミニプールで冷やされているスイカやトマトやきゅうり、こちらを向いておすわりしている茶色の日本犬。

 それらが、一辺が三十センチほどの立方体の中に存在している。


 カードは紙だが、立方体はどことなく透け感がある。フィルムという言葉が頭に浮かんでくる見た目。だが、立方体の向こう側が見通せるわけではない。


 立方体は空中に浮かんで静止していて、中のものも動かないし、落ちたり出てきたりもしない。

 こちらから立方体に触れてみたり、なにかを入れようとしてみたりはしていない。


 見る面を変えても、自分が見ている面が正面と認識されるらしく、中のものを別の角度から見ることはできないようだ。

 最初に見た面の反対側にあたる面から見ても、中のものの裏側が見えるわけではなかった。


 常に正面からしか見ることはできない世界だが、中の景色や中のものに奥行きは感じられる。

 立体画像を同じ側からのみ見ているような感じである。


 現在、二つ折りカードのほうは、内側は白紙の状態。

 カードを何度か開いたり閉じたりしてみたが、立体世界がカードの中に戻る様子はない。


 外側片面には暑中お見舞いという言葉が、もう片面には送り主からのメッセージが書かれている。

 メッセージ内に、立体世界に関する情報はないようだ。

 メッセージによると、カードは送り主が手づくりしたらしい。


 あわてているような、困っているような、気配。気のせいかもしれないが、そういったものを感じる気がする。カードからだろうか。


 この状況をどうすればよいかわからず、相談すると決めた。


 そういった内容の文だった。


 いちとせが向かい、相談者の案内で、立方体出現中の部屋に入る。カードは室内のテーブルに置いてあるものがそうだという。


 立方体とカードを見て、おそらくモノだろうと感じたいちとせの耳に、声が届いた。


『わたくし、立方体を出現させているカードです。この声、聞こえますでしょうか……。受けとり手の方に、いろいろと説明したいのですが……』

「はい。聞こえますよ。内容をお伝えしますね」


 いちとせはカードに返事をしてから、相談者に状況を話す。

 そしてしばらく、いちとせはカードと会話をした。


 状況の解決方法は、カード自身が知っていた。


 開いたカードの内側を、立方体に触れさせるように近づければ、立方体はカードの中へ。紙製の立体カード状態に戻るそうだ。


 もしくは、立方体を出現させたまま、カードだけを遠くへ移動させる。

 ある程度離れた時点で立方体がカードに引き寄せられ、立体カード状態に戻れるそうだ。

 ただ、こちらの方法は気分的に負担が大きいらしい。


 立体カード状態でも、カードと立方体の状態でも、会話ができるという。

 立体カード状態で閉じ、再び開けると、また立方体が出現するとのこと。


 説明を聞いたいちとせが、立方体にカードの内側を近づけると、立体カード状態になった。


 ひとまず珠水村しゅすいむらにカードを連れていく許可を、カードと相談者から得たいちとせ。

 いちとせは、カードとともに村に戻った。

 この時点では、相談者は都合がつかず、村には行かなかった。


 その後、調査をしたり、事情を聞いたりして、わかってきたこともある。


 受けとり手となった相談者は、自宅で仕事に没頭していることが多いのだそう。

 せめてカードで季節感をと、毎年、年に何度かカードを送っていた送り主。

 今回は手づくりしてみようか、と送り主は思い立ち、作成。


 送り主は、自分では知らなかったが、力のあるつくり手だったため、つくられたカードはモノ化した。

 しかも、立方体を出現させるという能力までプラスされた。


 力のあるつくり手によってつくられた物がモノ化する、能力もプラスされる。そういうケースは、テイクにとっては初めてではない。


 受けとり手に季節の景色を見せたいという気持ちでつくられたカード。

 そのため、完成後につくり手がカードを開け閉めしても、受けとり手による動作ではなかったので、この段階ではまだ立方体は出現しなかった。


 なにも知らない送り主は、力作の暑中見舞いカード、でもあくまでも普通のカード、として受けとり手に送った。

 受けとり手が開いたことで、立方体、初出現。


 いろいろと教えようにも、モノであるカードの声は受けとり手には聞こえず、カード、困惑。

 いちとせが来て、カードが念のため話しかけてみたところ、いちとせには声が届いた、というわけである。


 立方体は、見た目としてはそこにあるが、実際にはない、という感じで、実際の物はすり抜けられるらしい。

 そのため、立方体に向かって歩いていって、そのまま通り抜けるといったことも可能だそうだ。


 相談の結果、カードは、珠水村で暮らすことになった。


 カードに自宅ですごしてもらっても、気を配れず申し訳ないから、村にたまに会いに行く形で、と受けとり手は希望した。

 カードも、ではその形で、と同意した。


 力のあるつくり手と判明した送り主への対応も、今後テイクは継続して、おこなっていく。



 そしてその次は、ある、風鈴である。




お読みくださり、ありがとうございます。

今後もどうぞよろしくお願いいたします。


次の投稿は、11/16(土)夕方~11/17(日)朝あたりを予定しています【2024年11/10(日)現在】

予定変更の際は、お伝えできる場合は活動報告でお知らせします。



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