「7月、文、筆、紙」9.嬉しい飲食
改稿については後書きで説明しています。
『そしてわたくしはっ、今も穂風さんたちと毎日楽しくすごしていますっ』
ひっつーの語りが、まとめにさしかかったようだ。
優月は語りを聞きながら、ひっつーが語っていない部分も込みで、そのときのことを思い返していた。
ひっつーの話の展開を受け、今への意識を多くする。
ひっつーの本体は今でも、優月がひっつーと初めて会ったときと同じ物だ。違う物にはしていない。
ちなみに今月はくじの結果、ひっつーが本体としている羊のぬいぐるみそのものの呼び名は、綿菓子ひっつー、とのこと。
ひっつー自身のことを穂風たちは、ひつひつひっつー、と呼んだりもする。
筆でもあり羊のぬいぐるみでもあり、ということで、ひっつー含む穂風一家で考えたそう。
その話を初めて優月たちにした際、ひっつーは、わたっくしーはひっつー、炊いたごはんにおひっつー、とリズミカルに言った。
そのすぐあとで、心配とか落ち着かないとかではないので大丈夫ですっ、思いついたら言ってみたくなったのですっ、とも言っていた。
それを知った風実は絵を描いた。ひっつー含む穂風一家で楽しく食卓を囲んでいる、傍らにはおひつ、というものだ。
素敵ですっ、と絵を見たひっつーは力強く言った。
穂風、風実、景、マサジが暮らす家で、ひっつーも今も一緒に暮らしている。
ひっつーはタブレットなども使って、穂風たちをいろいろとサポートすることもある。
穂風たちはあれ以来、ひっつーの家族としてだけではなく、それぞれの仕事を通しても、テイクとつながりを持つようになった。
穂風や風実は、作品の制作、制作会や講習会体験会などへの協力、作品や資料の研究や調査等への協力、各地を訪れた際に、なにか気になることはないかチェックする、など。
景やマサジは、つくり手といろいろをつなぐ、の範囲にテイクを加えたり、さまざまな場面で、なにか気になることがないかチェックをしたり、等。
穂風とひっつーもよく村に来るし、風実、景、マサジも、よく村を訪れる。
スケジュールを調整して、ひっつーを含むみんなで、村の結界内外ですごす時間をとることもある。
ひっつーは、穂風が村で仕事をしているとき、そばにいることもあるが、結界内ですごしていることもよくある。
ひっつーも住む穂風たちの自宅は、教室を開いたり、仕事の打ち合わせなどをおこなったりと訪れる人が多い。けれどその分、プライベートな部分がしっかりと独立している。ひっつーは自宅でも、まあまあ動ける。
とはいえ結界内では、まあまあどころか思いきって動けるし、モノや、モノと暮らす人たちと出会ったり交流したりする機会や時間を多く持つことができる。
それらも大切にしようと、ひっつー自身も穂風たちも思っているのだ。
今回、穂風と風実は、テイクが毎月開いている制作会に協力するため、村に来た。
制作会では、参加者の疑問に答えたり、参加者にアドバイスをしたりといった役割を、おもに担う。
制作会は一日一回の開催ではないし、各月一日だけの開催でもない。穂風も風実も今回の村訪問で、数日にわたって何度か制作会に関わる予定だ。
ひっつーは制作会の時間中は結界内ですごし、それ以外の時間は、結界内外で穂風たちとすごし、という感じである。
『今度は、穂風さんたちと一緒のときにも、ご挨拶できればと思いますっ。お聞きくださり、ありがとうございましたっ』
ひっつーが語り終え、ラビィが拍手を思わせる動作をする。
文茶コンビによるタブレットへの入力によって、少し遅れて内容を知ったゆかりも、綺麗に手を動かし拍手をした。
優月も拍手をする。
『ひっつーさんのお話、熱中しました。みなさんともお会いしたいです』
ラビィの明るい声。
『ラビィさんっ、ありがとうございますっ。はいっ、ぜひっ』
ひっつーも明るく応えた。
ゆかりが笑顔でひっつーに話しかける。
「お話ありがとうございました。穂風さんたちと毎日楽しくとおっしゃっていて、嬉しいです。みなさまともお話しできるのを楽しみにしています」
『ありがとうございますっ。そう言っていただけて嬉しいですっ』
ひっつーが喜びを表すように、基本形のまま少しだけジャンプをした。
その動作と入力された文を見て、ゆかりの笑みが更に深くなる。
『文さん、茶さん、わたくしの話をたくさん入力してくださり、ありがとうございますっ』
ひっつーが、ゆかりのそばにいる文茶コンビにお礼を言う。
ひっつーの語りが始まる前は、ラビィの言葉は文字書き人形の文が、ほかのモノたちの言葉は茶運び人形の茶が、それぞれのタブレットに入力し、ゆかりに伝えていた。
そして、ひっつーの語り開始後は、文茶が力をあわせて次々とひっつーの言葉を入力することで、あまり遅れることなく、ゆかりに内容を届けていた。
語りが終わった段階で、文がラビィの、茶がほかのモノたちの、という分担に戻っている。
『〈こちらこそ、ありがたい機会です!〉』
文がひっつーに返事をし、茶も勢いよく頷く。
文も茶も、入力やモノの言葉の伝え役を、テイクでの仕事として少しずつ担い始めた。
今は、ほかにも入力や伝え役を担当できる者がいる場で、実際に自分たちがまず担当してみている段階だ。
次々とたくさん入力、いろいろな方の言葉を入力というのも、場合によってはすぐにフォローしていただけるこの段階で、多くおこなっておけると安心です!
そう、文茶コンビは少し前に語っていた。
みんなでいろいろと話しているうちに、最近食べたり飲んだりした物の話へと、話題が移っていく。
『わたくしは生春巻きをいただきましたっ。フルーツメインは、今回初めてで新鮮な感覚でしたっ。エビやチキンメインも、もちろんおいしいですがっ』
ひっつーが元気に手を動かしながら語る。
生春巻きといえば、コトハも最近つくっていた。
巻き具合、なかなか、さまーになっているでしょう? 夏だけに。
コトハはそう笑顔で言って、優月の前に、お皿を置いた。
確かに、様になっていた、というか、とても綺麗につくってあった。それに、おいしかった。
『ラビィさんはどうですかっ』
『私は、炭酸の飲み物の感じが、最初驚いたんですけど、なんだか気になって……』
『あっ、ですねっですねっ』
『はい。好きな飲み物の一つになりました』
『わたくしもですっ』
ひっつーとラビィが、楽しそうに言葉を交わす。
文茶コンビが入力した画面を見て、ゆかりが明るい表情で口を開く。
「生春巻き、いろいろな具それぞれ素敵ですよね。炭酸の感じ、私も好きよ。それに、今度はなに食べるー? なに飲むー? って、わいわい話して考えている時間も、とっても楽しいわ」
『うん!』
『ですですっ』
ラビィとひっつーが元気に頷く。
「コトハさんの能力で、ラビィとも食べたり飲んだりできて嬉しいわ。今も、不思議だわーすごいわーって、食べたり飲んだりしているラビィを見ながら思うときも多いけれど」
『私も嬉しい。それに、手が全然お皿とかに届いてなくても、食べ物もコップもスプーンやフォークとかも全然持ててなくても、持ってる感じで……こんな風って思った感じに、食べたり飲んだりできて、すごいなぁって』
『ですよねっ。それに、わたくしの体より、はるかに大きい食べ物や食器でも、まったく問題なくてびっくりでしたっ。いわゆる、口、部分がない物を本体にしても、飲食可能だというご説明にも、驚きですっ。どちらも嬉しいですがっ』
「嬉しいといえば、機能付与された食べ物や飲み物でも、私や育生も口にできるのよね。各自用にしっかりわかれていない物でも、一緒に楽しめる」
ゆかりとラビィとひっつーが、コトハの能力について、テンション高めに話している。
モノが飲食可能となるよう、飲食物や食器などに機能付与をすることができる。
コトハには、その能力がある。
最初の鑑定時にすでにあった能力ではなく、あとから生まれた能力だ。
モノが物の姿のまま、食べたり飲んだりできたら。
自身が人間の姿ですごすようになり、食べたり飲んだりするようになってからも、コトハはその望みを持っていた。
あるとき。
どうしても、飲食可能にしたい。はやく、持ち主がつくった物を食べられるように。
コトハが、とても強くそう感じる、モノと出会った。
あの子に食べさせてあげたい。
コトハは願い、考えていた。
そしてあるとき、キッチンで優月と料理をしていたコトハが、できるかも! と言って表情を明るくした。
コトハは、つくった料理の一部をお皿に取り分け、近くにお箸もセットし、それらを見つめて口を開く。
「お願い。モノたちも食べることができる状態になって」
すると。
「わぁっ」
「えっ?」
きらきらと踊るように、お皿の上の食べ物やお皿やお箸に、光が降りそそいだ。
そして。
「まぁ!」
「んっ?」
光り輝く、食べ物とお皿とお箸。
「ねぇ優月。きらきらーっと光が降ってきて、ぱぁぁっと輝いているように見えるのだけど」
「同じく」
「それでね。私、このお皿の食べ物、物の姿になっても食べられると思うの。お箸も使える。しかも私だけじゃなく、食べることを望んだモノたちなら可能な場合が多そう」
それを聞いて更に驚きつつ、優月は言う。
「じゃあ、急ごう。テイクに状況知らせて、いろいろ調べてもらって」
「そうね。可能なら、あの子に、はやく」
それから、スムーズかつスピーディーに事が進み、コトハがあの子と呼ぶモノは、持ち主がつくった物を食べることができた。
そのときの、モノと持ち主の喜びようを、コトハは、ずっと忘れたくないことの一つ、と今でもとてもいい笑顔で話す。
コトハはあのとき急に、今なら、そしてモノにではなく、食べ物などのほうに願えば、飲食可能になるような気がしたそうだ。
そして実行し、それ以来、飲食物や食器などへの機能付与が可能となった。
コトハの、この能力はカスタマイズ型だ。
いろいろ考え、可能な場合は設定して、能力を使っている。
モノたちが、食べたり飲んだりしやすいように。決して、望まない飲食を、無理にさせられることはないように。飲食可能となったがゆえに、苦しむことがないように。総じて、できるだけあれこれいろいろ首尾よく安全に、嬉しく楽しく。
などなど。
ちなみに、機能付与時に言う言葉は、毎回同じでなくてもよいのだそう。
付与時や付与後の光についても設定済みだ。
付与時の光は、見ても問題のない存在には見えるようにしてある。
付与された物は少しの間光っていて、見ても問題のない存在には、光っているのが見える。
少しすると、その光は消える。けれど、付与状態確認といった主旨の言葉を、言って問題のない存在が言えば、また少しの間光る。
付与済みかどうか、確認しても問題のない存在が確認できるように、とのこと。
いろいろな設定は、変更することも可能だ。
そして、現在どういう設定状態なのかテイクが随時チェックできるよう、別の能力者によって、チェック機能がコトハのその能力には組み込まれている。
機能付与の話から、再び、食べ物飲み物の話に。
ひっつー、ラビィ、ゆかりが、次々と言葉を交わし合う。
文茶コンビも、入力をメインにおこないつつ、話しかけられると元気に応えている。
なんとも楽しそうな雰囲気がそこにあり、聞いている優月も嬉しい。
それに、モノ対応担当の情報共有範囲内だから、この雰囲気や会話などを、優月はコトハにも伝えることができる。
知ったコトハは喜ぶだろう。
夏祭りの準備もあり、ただ今なにかといそがしいコトハだが、素敵なエネルギーがプラスされるのではないだろうか。
優月は想像し、ますます嬉しくなった。
お読みくださり、ありがとうございます。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
次からは、8月を題材とした話に入ります。
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