「7月、文、筆、紙」6.再会と初対面、そのに
【改稿について】
2024年9/22(日)に7月2と5を改稿する予定です。内容については、この回(7月6)の後書きでも説明しています。
「……だが、無事とはいえ、大変な目に遭わせてしまったな……」
少しして、笑みを消した穂風が、つらそうな声と表情をひっつーに向ける。
モノとなった物は丈夫ではあるものの限度はあること。けれど精神体はもっと丈夫なこと。
本体が無理な状態になるときでも、精神体に苦痛や恐怖はないこと。
それは、精神を持ちつつ物としてすごすうえでの、防御機能かもしれないという見方もあること。
ここまでの話の中で、穂風にそういったことも説明はした。
とはいえ、だからといって、どのような目に遭ってもかまわないということではないし、わざと遭わせてもいいというわけではない。
説明の際、そう話したら、穂風は深く頷いた。
それに、大変な目に遭ったとなれば気になるだろうし、わざとではなくても自分がそこに関わってしまったとなれば、申し訳なく思うだろう。
優月はそう想像したことがあった。
そして、穂風は今まさにそういう心境なのだということが、言動から伝わってくる。
「本当にすまない……」
ひっつーに謝り、穂風は頭を下げようとした。
だが、すばやく立ち上がったひっつーの姿に、穂風の目がくぎ付けになる。
『大丈夫ですっ。大丈夫ですからっ』
ひっつーが早口で言いながら、両手を上下する。
『ですが、気にしてくださって、謝ってくださって、お気持ち嬉しいですっ。ありがとうござ、っとぅー』
ひっつーは嬉しさを口にしたあと、お礼の言葉とともに、思わずお辞儀をしてしまった。
ひっつー、ころころ前転スタート、である。
「おおおっ」
穂風が声とともにあわてて手を出し、けれど、無理にひっつーを止めていいか迷ったのか、半端な位置で手のほうを止めた。
ひっつーの現在位置とローテーブルの端を確認するように、穂風は高速で視線を動かす。
ひっつーはローテーブルから落ちる前に、見事にストップした。
『転がりやすいのでしたっ。ついっ』
言いながら方向転換をして、トテトテすばやく先ほどまでいた位置へと戻っていく。
穂風の視線が、その動きを追う。
ひっつーが基本形で落ち着いた。
穂風が我に返ったように何度か瞬きをする。そして、優月を見た。
「転がりやすいので、お辞儀は前転になってしまうようです」
優月はまずそのことを穂風に言う。
そして、ひっつーが転がる前に言った言葉たちを、優月は穂風に伝えた。
ひっつーの声の感じや、話し方の特徴などもあわせて説明する。
聞き終えた穂風が、優月に会釈をしてから、ひっつーを見た。
「こちらこそありがとう。それと、綿菓子ひっつーだけでもせめて安全なところへと、頑張ってくれたことも、ありがとうな」
『はいっ』
頷いてから、ひっつーは基本形のまま、わずかに身を乗り出す。穂風をじっと見つめるような仕草だ。
『あのっ、穂風さんは大丈夫でしたか? アクシデントのあと、いろいろと想像してしまいましたっ。ご無事と、しっかり安心していいですか?』
ひっつーの言葉を優月から聞き、穂風は頷く。
「俺は無事だよ。安心して大丈夫だ」
『よかったですっ』
声とともに、ひっつーが立ち上がる。
優月はひっつーの言葉を穂風に伝えた。
「ありがとうな」
穂風にお礼を言われ、基本形に戻ったひっつーが勢いよく頷く。
頷き返してから、穂風が優月に視線を向けた。
「優月さんにも、あらためてお礼を。おかげでひっつーと無事、会えました。ありがとうございます」
『ありがとうございますっ』
穂風とひっつーに会釈をしてから、優月は言う。
「こうしてお二人が今、一緒にすごされている。そこにつながる一部になれたことを、嬉しく思っています」
優月の言葉に、穂風とひっつーが、ともに明るく笑った。
穂風が、ひっつーを見て口を開く。
「あらためて、おかえりひっつー。同時に、ある意味、初めまして。そしてこれからも、どうぞよろしく」
『はいっ。よろしくですっ』
優月はひっつーの言葉を穂風に伝える。
聞いた穂風が、ひっつーの右手が届く位置に右手を出した。
ひっつーが穂風の指先に右手で触れる。
穂風が、そっとひっつーの手を指でつまんだ。
『握手ですよねっ。わたくし、穂風さんと握手してますっ』
ひっつーからあふれる、喜びの感情。
「ひっつー、喜んでる」
穂風も感じたようで、そう言う。
優月はひっつーの言葉を伝えた。
「そうだな。初握手だ。めでたい!」
穂風が弾む声で言って笑う。
ひっつーとの初握手を終え、少ししてから穂風が口を開いた。
「優月さん、テイクによるサポートというのは、これからも私たちがひっつーと一緒に暮らしていく、という方向でもしていただけるのでしょうか」
「一緒に暮らしていきたいというお気持ちを、みなさまがお持ちになっているかにもよります」
「ふむ……。ひっつー。少なくとも俺は、これからもひっつーと、ひっつー含む家族みんなと、暮らしていきたいと思っている。さっきの、これからもどうぞよろしくには、そういう意味合いもあるんだ。ひっつーの気持ちはどうだろう」
穂風がひっつーを見て訊いた。
ひっつーは、わたくしもっ、と答えかけ、そうだっ使いますっ、と言って動き、タッチペンを両手で持った。
その動きに、穂風が目を見開く。
ひっつーが、声にも出しつつタブレットに入力し始めた。
『〈わたくしもっ。穂風さんと、ご家族の方々と、一緒に暮らしていけましたら嬉しいですっ。穂風さんのお気持ち嬉しいですっ〉』
読んだ穂風が笑顔で口を開く。
「一緒に、と望んでくれて嬉しいぞ。家族にも直接、ひっつーとの暮らしについて訊いて、答えをもらわないとな。答えの想像はつく気もするが」
『〈お願いいたしますっ。それと、わたくしの新たな本体が、こちらのままでいいのかを、考えていただければと思いますっ〉』
「ふむ……。みんなで考えることになるだろうから、まずは……」
穂風が優月を見た。
「こちらの部屋に、このあとすぐ、家族三人が合流するというのは可能ですか」
「可能です」
「実はですね、三人ともすでにこの村に来ているはずなんです」
続く穂風の説明によると、羊のぬいぐるみ捜索や壊れた筆の件などに、誰かが少しでもはやく対応できればと、穂風含む四人がそれぞれスケジュールの調整をしたらしい。
結果、全員似た感じの日程で都合がつき、その頃、穂風にテイクから連絡があり、という状況になったそうだ。
それならば、情報共有や交換のためにみんなで顔を合わせる場を、穂風が訪れる、この村にしようか。
向かうのが自宅でなくても、もともとすぐに戻る予定ではなかったから、それほど支障はないし。
そう話がまとまり、それぞれ村に向かうことになった。時間的にはすでに村に来ているはず。
とのことだ。
「三人の状況を確認します。スマホ……は棚か。ちょっと失礼」
言って立ち上がる穂風に会釈を返してから、優月も端末を取り出し、テイクとのやりとりを始める。
ソファに戻ってスマホを操作していた穂風が、優月を見た。
「三人とも、すぐこのセンターに来ることができるそうです」
「かしこまりました。今回の面談番号を入口のカウンターで言ってくだされば、案内担当が対応いたします。ご家族の方にそのことを、面談番号とともに伝えていただけますか」
「伝えます」
応じて、スマホを操作しだした穂風。
優月もテイクに連絡をした。
次に優月は、部屋の隅に置いてあるスツールを移動させた。入口に近いほうの、ローテーブル短辺付近に置き、腰をおろす。長ソファは穂風たちに使ってもらう予定だ。
『みなさんいらっしゃるとはっ。そしてわたくしについての話をっ。ドキドキですっ。落ち着かないので、ここはひとっつー、わたくしはひっつー』
言いながらひっつーが立ち上がり、両手を動かし始めた。
これはもう一度、第一をスタート、だろうか。
穂風がすぐに気づき、ひっつーを見る。
「ん? 体操か? 覚えてるんだな。俺もしようかな……」
立ち上がりかけた穂風に、優月はひっつーの言葉を伝えた。
聞いた穂風は座り直し、ひっつーに少し顔を近づける。
「落ち着かないか。会話しながら待つか? さっき言いそびれたが、タブレットに入力、すごいな」
すかさず体操を中断し、タッチペンを持ったひっつーが、声と文で応じる。
『〈会話嬉しいですっ。使えるようにしていただきましたっ。穂風さんの秘密を入力するかもしれなかったのでっ〉』
「ん? 俺の秘密? 待て待て。今度は俺が落ち着かなくなるぞ。いったいどんな経緯でそんなことに」
ほんの少し早口になった穂風に、ひっつーが、昨日優月としたやりとりを説明する。
「存在はすでに信じているぞ。……だからこそ、秘密の内容に心当たりがありすぎる。どれを書くつもりだったのか非常に気になるが……気になるが、どれもひやひやものだからな、やめておこう。秘密を入力するのは、なしで頼む」
『はいですっ』
右手を挙げてひっつーが応じる。続けて、同じ言葉を入力もした。
「うん。……俺もちょっと体操しようかな」
『〈ご一緒しますっ〉』
穂風のスピードに合わせてひっつーも動き、ところどころひっつーが転がっては穂風が反応し、二人の体操が進んでいく。
優月の端末に連絡が来た。事前説明をして、三人を部屋に案内し始めたとのことだ。
穂風とひっつーに伝える。
『〈いよいよいよいよいよいよですねっ〉』
「いよっ!」
元気なひっつーの言葉に、張りのある穂風の声。
落ち着いてはいないかもしれないが、明るい雰囲気だ。
お読みくださり、ありがとうございます。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
次の投稿は、9/28(土)夕方~9/29(日)朝あたりを予定しています【2024年9/22(日)現在】
予定変更の際は、お伝えできる場合は活動報告でお知らせします。
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2024年9/22(日)に、7月2と5を改稿する予定です。
変更部分の変更後の文章は、以下のものになる予定です。よろしくお願いいたします。
〈7月2〉
丸い角【ルビを追加】
〈7月2〉
いくつかページを見たのち、まずは写真をひっつーに見せる。
『ひっつーさんがおっしゃっている穂風さんは、この方ですか?』
『はいっ。そうです。大変凛々しい感じに写っていらっしゃいますっ』
〈7月5〉
昨日、モノの声が聞こえる優月と出会ったこと。
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以上です。お読みくださりありがとうございます。




