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「4月、うさぎさんの行動理由」2.見事なシンクロ具合です

改稿については後書きで説明しております。




 受付センターは、メンバーセンターから連絡通路で行くことができる。


 指定された番号の面談ルームに入り、相談受付を担当したたまきと入れかわる形で、優月ゆづきは席に着いた。

 隣には、記録入力担当のかなでが引き続き着席中だ。


 花山はなやま家の面々は、横長の長方形テーブルを挟んで、優月や奏と向かい合う位置に座っている。


 ラビィのジェスチャーが育生いくおとゆかりに見やすいよう、ラビィの椅子を育生とゆかりの斜め前の位置に変更する案もあった。

 けれど、並んで座りたいという花山家の面々の希望が一致したため、この位置のまま初回面談も行うことにした。

 また、花山家の面々の呼び方は引き続き、それぞれ名前のほうを呼ぶ形でかまわないそうだ。

 優月の入室少し前に届いた追加文に、そう書かれていた。


「お待たせしました。優月と申します。よろしくお願いいたします」

 一度お辞儀をしてから、優月はまずそう述べた。


「花山 育生です!」

「ゆかりです!」

『ラビィです!』

 それぞれ右手を小さく挙げながら、優月の左前、右前、真ん中、の順でテンポよく花山家の面々が名乗る。

 出演時などにグループがよくする挨拶の光景が、優月の頭によぎった。


「「『よろしくお願いいたします!』」」

 育生、ゆかり、ラビィ。三人の声が、見事にそろう。

 ラビィの声は、育生とゆかりには届いていないはずなのに、そのシンクロ具合に無理や不自然さは感じられない。


「ラビィさんを含め、とても息の合ったご挨拶をありがとうございます」

 優月は思わず礼を言った。

「そうでしたか! 嬉しいなぁ」

「『やったぁ』」

 育生が少し驚いたあとで喜び、ゆかりとラビィが、そろって嬉しそうな声を出す。


「あのっ、ラビィ、どんな感じの声なんですか?」

 ゆかりが少し前のめりになり、優月に訊く。

「高すぎず低すぎず、ソフトで、落ち着いた感じの……ゆかりさん、育生さんの声の印象と、よく似ていらっしゃるように感じます」


 聞いたゆかりがラビィを見る。

「そうなんですね……。声も雰囲気もよく似た家族だと、ゆなも含めよく言われるんですけど、これからは心の中で、ラビィも似てるんですよって言いたいな」

「そうだな。……そうだよな……これからを、まずはちゃんと……」

 ゆかりの言葉に育生は頷いてから、そう続ける。


「あのさ、ラビィ」

 なにかを決意したような、少し強めの口調で言いながら、育生がラビィを見た。

 ラビィが育生のほうを向き、見上げるような角度に顔を動かす。


「俺たち……、ラビィのこと、家族だと思ってるんだ。ぬいぐるみだって思ってたときも、心を持つ存在だって知った今も」

 育生の言葉に、頷くラビィ。ゆかりも、頷いている。


「心を持ったモノとのつきあいは初めてだし、いろいろ試したり、失敗したり、するかもしれない。それに……たぶん、今までのように、一般的なぬいぐるみのふりをしていてもらう場面も、これからも多くなっちゃうと思う。周りにモノだって知られるのは、いろいろと問題があるだろうし……、そうなると家でも……まだゆなには、今までのようなぬいぐるみの、ラビィでいてもらったほうが、いいと思うし……」


 話しながら申し訳なさそうな雰囲気になる育生と、聞きながらつらそうな表情になるゆかり。

 二人を交互に見てから、ラビィはまた育生に顔を向けた。


 育生が続ける。

「それでもさ、これからもラビィとも一緒に暮らしていきたいんだ。一緒にいなきゃ家族じゃないなんて思ってはいないよ。でも、ラビィとも一緒にいる暮らしを続けていきたいし、心を持ったラビィとの、新しい関係での一緒の暮らしにしていきたいんだ」


 育生の言葉に、ラビィは大きく何度も何度も頷いた。

 ラビィは続いてゆかりのほうに顔を向け、ゆかりも笑顔で何度も頷いているのを見て、ゆかりに対しても大きく何度も頷く。


「というわけで、優月さん!」

「はいっ」

 よかったよかったと、半ば和みながらその光景を見ていた優月は、育生に勢いよく声をかけられ、あわてて返事をした。

 続く育生の言葉に、もちろんしっかり意識も向ける。


「怖くて、なかなか伺えずにいるんですけど……ラビィ、連れていかれちゃったりしないですよね……? モノになったら一緒に暮らせないとか、ないですよね……? これからも、ラビィとも一緒にすごしていきたいので。その方向での対応をどうか、お願いします!」

「『お願いします!』」

 育生とゆかりとラビィに、優月はそろって見つめられる。

 優月は大きく頷き返してから、口を開いた。


「かしこまりました。その方向で対応いたします。――もともとある、モノ対応の基本方針の話になりますが、無理やり連れ去ったり引き離したりは、差し迫った危険がある場合は別ですが、基本的にはいたしません。モノだと一緒に暮らせないという決まりもありません。対応を考える際には、各場面において、それぞれの方のお気持ちがどうかという点を、まず重視することが多いです。説明が遅くなってしまいましたが、そういうわけですので、ご安心ください」


「「『そうなんですね、よかったぁ……』」」

 三人がそう言い、大きく息を吐いた。


 少しして、ゆかりが話し始める。

「相談に行くことを決めたあとも、それがずっと心配だったんです。最初は、どこにも話さず、このまま内緒で暮らしていこうかな、って考えちゃったりもしましたし。でも、ラビィの身になにが起こっているかわからないし、わからないまま自分たちだけで抱え込んでいくのは……って相談に来たんですけど」

「来てからも、切り出さなきゃと思いつつ……つい引きのばしてしまって」

 ゆかりと育生が言葉を継いで心境を打ち明ける。


「ですが、思いきって伺ってよかったです」

「それに、大丈夫だとわかって嬉しい……あの、ほんと、いろいろたくさん、優月さんをはじめテイクの方たちに、これから面倒をおかけして、お世話になってしまうと思うんですけど……どうか、よろしくお願いします」

「『お願いします』」


 育生、ゆかり、そして育生とラビィ。

 リレーのように伝えられる言葉と気持ちを受け取り、優月はまず、かしこまりました、と再び答えた。そして続ける。


「面倒だとは感じません。喜んでお引き受けいたします。それに、今後もテイクが関わることを前提としてくださっていて、ありがたく思っています」

「「『こちらこそ、ありがとうございます』」」

 そろってお礼を言われ、優月は少しあわてつつ、追加の説明をした。


 自分が所属しているこの組織が、もともと担っている役割に、超常への対応があること。

 超常的存在関連の対応も、そこに含まれること。

 長期にわたり継続して状況や状態を確認したり、その都度必要なサポートや対処をしたりといったことも、役目のうちなこと。


 それらをしていくうえで、対象者や関係者に、関わりを拒否されていない状態というのは、とてもありがたいということ。

 本来なら、こちらから、これからも関わらせていただきたいと、お願いするものだということ。


 そういったことを話す。

 明かしても問題のないことだし、伏せたまま、お礼や依頼を受け取るのは居心地が悪いので、機を逃さないよう、早々と打ち明ける。


 ただそれだけではなく、伝えておきたい、気持ちもある。

「そういったテイクとしての事情や役割があることも事実ですが……」

 前置いて、優月は続ける。


「役割だからするというより、その活動がしたくて、この担当につきました。それは私だけではなく、モノの方たちへの対応を担当するメンバーそれぞれがそうなのだと、メンバー自身が話しています」

 それに、モノ対応担当に限らず、テイクでは基本的に、自分のしたい活動に重点を置けるよう、業務が割り振られている。


「それと……」

 これも伝えておきたくて、優月は続ける。


 物だと思っていたものが、意思あるモノだった。

 それを知ったときに、持ち主がどう思うか、今後の関係性をどう望むかは、さまざまだ。


 中には、気味悪がって嫌悪感を示す人もいる。自分が求めているものは物でありモノではないと、手放すことを望む人もいる。

 超常への感じ方、スタンスを、どうあれと強制できるわけではない。

 相手に関係の継続を無理強いしても、双方、プラスにはならない、仕方ない、というのもまた事実。


 けれど、持ち主の感情や決断を知って、ショックを受けるモノの反応を知れば、せつなさや、やりきれなさを感じる。

 モノの側は持ち主のそばにいることを望んでいて、けれど拒絶されてしまう。

 そのとき、怒るのではなく、責めるのではなく、それも仕方ないと受け入れようとするモノのほうが多いことを知れば、よけいに。


 一方、モノになって、持ち主の扱い方や接し方に不満を感じ、持ち主から離れることを願うモノもいる。

 それでもなお、ひきとめたいと願う持ち主もいる。


 担当者として、事情を知った者として、切ないほうに関係が変わっていくのを悲しく感じ、関わり方にも悩む。


 優月自身が実際に経験したり見聞きしたりしたことは少ないが、過去の記録をたどれば、そういった事例もそれなりにある。

 実際に自分が経験した件でなくても、記録に触れて、思うこと感じることは、いろいろとある。


「どのような関係や状況でも、その時々で必要な対応を模索し、動くよう努めます。それは変わりません」

 優月はまずそれを言ってから、続ける。


「ですが……。花山家の方々が、今までとは違うとわかりつつ、でも今後は、その新しい関係を一緒に、というお気持ちを、そろってお持ちになっている方々だというのが、本当に嬉しく思いますし、その日々をつくって保って守っていくための一員として、私やテイクを考えていただけているということも、とても嬉しく思っています。ありがとうございます」

 まっすぐにこちらを見て聞いてくれている三人に、優月はそう話し、お辞儀をする。


「そう言っていただけて嬉しいです」

「ありがとうございます」

『頼りにしています』

 育生、ゆかり、ラビィ。

 口々に告げてくれる言葉と、向けてくれる気持ちを大切に受け取りながら、優月は顔を上げた。

 三人はそろって、会釈を返してくれる。




お読みくださり、ありがとうございます。

今後もおつきあいいただけますと幸いです。


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【改稿について】

【2024年4/22(月)】エピソードタイトルを編集しました。

【2024年7/7(日)】空白行を入れる位置を変えたり、空白行を増やしたりといった変更をおこないました。

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【2024年7/7(日)空白行関係以外の変更】

【変更前】

 申し訳なさそうな雰囲気になる育生と、つらそうな表情になるゆかりを交互に見てから、ラビィはまた育生に顔を向けた。


 育生が再び口を開く。


【変更後】

 話しながら申し訳なさそうな雰囲気になる育生と、聞きながらつらそうな表情になるゆかり。

 二人を交互に見てから、ラビィはまた育生に顔を向けた。


 育生が続ける。

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