「6月、コトハとサトウとボンボニエール」6.どうやら、そうらしいです
鑑定結果によると、優月には、三つの超常的な能力があるとのこと。
「モノの声が聞こえる、モノ発声ができる、モノが一時的な宿り先にできる、ですか……」
優月は思わず声に出して読んだ。
「はい。モノの声が聞こえるのは、優月さん、ご存じですし体験済みですよね。ほかの二つはいかがですか?」
「そういう能力があることも、それを自分が持っていることも、初めて知りました」
月乃に訊かれ、優月は戸惑いながら返した。
「ちなみに、モノの声を聞いたことは、キッチンさんの声のとき以前や以外には?」
「わかっている範囲では、ないです。でも、聞いても、そうと気づかなかったことがあるかどうかはわかりません」
例えば過去、大勢の人がいる場などで耳にした声のうち、どれかが人が発していない声だったとしても、優月はそうと気づかなかったかもしれない。
その中には、モノの声もあったかも。
そういったことを、優月は答えた。
「できるだけ正確に答えようとしてくださり、ありがとうございます。さて、ではまず、この三つの能力について、少し説明させてください。あくまでもテイクが把握している範囲内で、ですが」
「お願いします」
優月が思わず姿勢を正すと、楽になさって大丈夫です、と月乃が目元を和ませた。
「モノの声が聞こえる能力についてですが、例外はあるかもしれませんが、基本的には、モノの方が話した場合、優月さんのような、モノの声が聞こえる能力者には、ほぼ聞こえると考えてよいと思います」
月乃が話すスピードを少しだけ落とし、説明を始める。
「モノの声が聞こえない相手とも、キッチンさんやうちのネコたちのように、道具などを使って会話ができるモノの方も多いです。とはいえ、そうではない、そうしにくい、状態や状況も多くありますから、モノの声が聞こえる能力が、必要となる場も多いです」
物が扱えないモノもいるし、道具等を使うといっても、場面を選ぶことも多くある。
そもそも、道具類を使って会話をする状況までもっていく段階においても、声での会話が必要となることが多い。
そういったことも月乃はつけ加える。
続いて、モノ発声ができるという能力についての話になった。
「あくまでも、モノ発声という言い方は、テイクが決めて使っているものですが。ちなみに、今、私が話しているような話し方は、人間発声と言っています」
そう前置いてから、月乃は続ける。
モノが発している声を、人間が発することができる。それが、モノ発声ができるという能力。
モノ発声での声は、モノかモノの声が聞こえる能力者にしか、基本的には聞こえない。
「モノ発声は、スムーズにできるかどうかは、能力者によります。ほとんど意識せずできたり、しようと思ってすぐにできることもあれば、サポートを受け、コツをつかんだ結果できることもありますし、能力としてはあるけれど、あまりうまくできないということも」
自分はどのタイプだろう。月乃の説明を聞きながら、優月は思う。
とりあえず、今、モノ発声をしてみようと思っても、自分の中に具体的なイメージは、わかないようだ。
「優月さんが持っている能力の中では、使おうと思って練習しないと、使えない度が高い方向の能力かもしれません。使ってみたいけれどうまくできないという場合は、テイクがサポートしてみます。いつでもおっしゃってください」
月乃がそう言って、この能力の説明を締める。
優月はひとまず頷いた。
「さて、あとは、モノが一時的な宿り先にできるという能力ですね。どういう能力かは、テイクでも把握しています。ただ、能力者が少ない、まれな能力とも認識されています」
『まあ、レア』
キッチンが音声で合いの手を入れる。
まれと言われて優月は思わず身構えたが、キッチンの声で、少し楽になった。
精神体の状態で、人間の器に入り込めるモノというのは、いることはいるらしい。
結果、モノと共存できる、している人間というのも、数は少ないが、いないわけではないそうだ。
モノが宿っている間、人間は、見た目のどこかが変化することもあるという。
優月が持つ能力の場合は、本来なら人間の器には入ることができないモノであっても、優月の中に入ることができるらしい。
ただしそれは、優月が受け入れると決めて、相手に働きかけた場合のみ。
そしてあくまでも、仮の、一時的な宿り先であって、長期にわたって共存という形にはならないそうだ。
優月に一時的に宿ったモノは、一方通行にはならず、本来の本体に戻ることも可能とのこと。
また、機能付与した一時宿り先を用意したり、次の本体としての宿り先を用意したりといったことを待つ間の、避難所的な場所としても優月の存在は使えるらしい。
「本体より更に精神体は丈夫ですが、それでも、モノが精神体だけでいる状態というのは、モノにとってあまりよくないということが多いんです」
月乃が言う。
「よって、本体から急きょ出なければいけない、本体をいきなり失うことになった、一時宿り先が使えない状態になった、そういった状況のモノの方に、もし出会うことがあれば、一時的な受け入れを検討していただければと思います。なお、いずれにしてもテイクへの連絡はお願いします」
「わかりました、と言いたいのですが……、私を一時的な宿り先にというのは、しようと思えばできるのでしょうか……」
「そうですね。まず、優月さんには、見ただけでモノとわかるという能力や、どういう精神体でも見えるという能力は、現時点ではありませんから、モノの側から存在をアピールされないと、そこにいることに気づかない場合があるかとは思います。ちなみに、モノの方は、精神体だけの状態でも、声を発することができます」
月乃が説明を重ねる。
「存在に気づけるかどうかという問題はあります。ただ、優月さんに宿る方法そのものは、難しくないと思います。優月さんが相手に一時宿りを提案し、相手がそれを受け入れれば、優月さんにある扉のようなものが開きます。そして精神体は、自然と優月さんの中に。本体や宿り先にいた場合でも、精神体のみの状態でも、結果は同じです」
相手が移り方をよく知らなくても、スムーズに移れるらしい。
「ちなみに、優月さんが意識のある状態で、自分で意識的に強く望んだうえで、モノの方に声をかけなければ、相手が受け入れたとしても扉は開きません」
例えば、寝ぼけてや、催眠にかかった状態でや、うっかりや、話の流れでついといった感じで口にしたとしても開かないそうだ。
優月としては安心な仕組みでもある。
「それと、優月さんはキッチンさんの避難所的存在にもなれますが、キッチンさんの、通常の一時的な宿り先も必要ですから、一方通行にならないよう機能付与した物を、帰るまでにお渡しします。今日、もうお渡しできるならと思って、用意してきましたので。詳しくは、のちほど説明しますね」
〈よろしくお願いします〉
「ありがとうございます」
キッチンや優月の言葉に、月乃は目元を和ませて会釈を返してから、さて! と声を上げた。
「まだまだお話ししたいことはあるのですが、ここで少し、今までの内容を入力する時間をいただけますか」
〈どうぞごゆっくり〉
キッチンの返事とともに、優月も頷いた。
「ありがとうございます。持ってきた物を飲んでもかまいませんか?」
月乃がカバンから水筒のようなものを少し取り出してみせる。
そういえば、相談者側がテイクメンバー用の飲み物などの用意はしなくていい、という事前説明のところに、メンバーが自分で持参する場合があるので、訊かれた際には飲食可能ならば許可をとも書かれていた。
「はい、いつでもどうぞ。あと、なにか部屋で必要なものがあれば、お声がけください。流しとか、トイレとか……」
「ありがとうございます。お邪魔している側が言うのもなんですが、優月さんもキッチンさんも、ご自由に休憩なさってください」
「わかりました」
返事をし、優月は立ち上がる。
まずは、なにか飲もう。そして、いろいろと知ったし、説明もしてもらったから、聞いた内容を振り返りつつ、頭や気持ちを整理しよう。
そう考えながら、キッチンへと歩きだしたところに。
『ノーりょくだけど、三つあるー。夕はん後のデザートには、おいしい、あんみつーをおすすめするわー。あんみつーと言えば、一も三も二もあるわよー』
少し歌うような、キッチンの声。
聞いて優月は、少し口元をゆるめた。
あんみつーをおいしくいただくように、自分の中の三つの能力とも、うまくつきあっていけるといい。
そう思える気がした。
お読みくださり、ありがとうございます。
今後もおつきあいいただけますと幸いです。
次の投稿は、6/28(金)夕方~6/29(土)朝あたりを予定しております【2024年6/21(金)現在】
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