「6月、コトハとサトウとボンボニエール」3.画像の準備は、できていたもよう
改稿については後書きで説明しております。
予定どおり訪れたテイクの担当者たち。
二人は、知成、日出海と、字を説明しつつ名乗った。
優月は事前説明に載っていた手順を参考に、テイクのサイト、相談者用のページに入って名前で検索し、そこにある顔写真との一致を確認する。
事前説明にあったものの、名前のほうを名乗ることに珍しさを感じつつ、優月も名乗った。
部屋のローテーブル周りに二人を案内し、ひとまず座ってもらう。
飲み物等は出さなくていいと事前説明にあったので、優月もそのまま腰をおろした。
話し声がどの程度周りに聞こえるかを、知成からまず訊かれる。
相談内容をここで話して問題ないかの確認だと説明された。
代理人に事前に訊いたが、代理人は、わからないと答えたとのこと。
確かに必要な確認だと思うし、代わりに申し込んだ人がそこまで知っていたら怖いとも思う。
そういえば、ここの住所を代理申込者が知っていたのは、以前、優月の父親がやむを得ぬ事情で教えたのを控えていたからだそうだ。
父親からの連絡に、そう書いてあった。大変、微妙な気分である。
そんなことも思いながら、ドアと窓が閉まっている状態なら、よほど大声ではない限り聞こえないと優月は答えた。
そして本題に入る前に、と優月は二人の許可を得て、先に状況の説明を始める。
届いた文書、相談の検討、父親とのやりとり、間違った情報、代わりにされた申し込み、直前に知った面談日時――。
「――以上のような状況で、お伝えした情報が間違っているうえに準備が間に合わず……せっかく来ていただいたのに、申し訳ありません」
出来事を伝え、謝罪でしめた。
隣接県にテイク拠点の村があり、こことは日帰りもできる距離とはいえ、気軽に行き来できるほど近くはない。
それにこの面談のために、いろいろと準備をしたり、予定の調整をしてくれたりもしただろう。
にもかかわらず、申し込み時の情報が間違っているうえに、優月本人もいろいろと準備できていない。
相談したいと、考えていたのだ。もっといいスタートを切りたかった。頭を下げながら、優月は悲しくなった。
「あっ、いえいえ、顔を上げてください。まさかそのような状況だったとは」
柔らかな声が、あわてた口調でそう言ってくれる。
優月が体を起こすと、知成が優月以上に泣きそうな、心配そうな顔で身を乗り出していた。
「急な訪問を知ってあせったでしょう。それでも迎えてくださって、ありがとうございます」
お礼を言いながら、知成が泣き笑いのような表情になった。
最初に知成を見たとき、グレーのスーツを隙なく着こなした姿と理知的な表情に、少し近寄りがたさを感じた。
その気持ちが、優月の中であっという間に消えていく。
知成の横で、日出海が口を開く。
「優月さんが謝らなくていいんですよ。大変でしたね。ただ……、半月で引っ越さなければいけないという情報が間違いだったこと自体には、ほっとしています」
落ち着いた口調で話した日出海が、あたたかな笑みを浮かべた。
かたい表情と紺色のスーツに、厳しい印象を覚えていた。けれど、頼りがいのある安心できるイメージへと、優月の中で変わっていく。
優月も笑みを浮かべて、二人にお礼を言える状態になった。
中学の頃と違って制服がないし、自分もスーツの準備があったほうがいいだろうか。
そういったことを頭の片隅で考える余裕すら、少し出てくる。
ちなみに優月は、事前説明をキッチンに音読してもらうことで時間をつくり、そのままでも寝ることができる部屋着から、一応、襟付きシャツと、少しかっちりめのボトムスに着替えていた。
普段着でいいと事前説明にあったが、どこまでラフでいいか悩んだ末の選択だ。
そしてキッチンは、知成と日出海が訪れてからは、一言も喋っていない。
けれど、キッチン前のスツール上に、スタンドを使って立てかけられたタブレット、こちらを向いた画面に表示される画像が、一定時間ごとに違うものになっている。
普段はそんな使い方はしないので、キッチンが今現在、操作しているのだろう。
優月には見えやすく、知成と日出海には見えづらい角度で置かれたタブレット。
それぞれどこに座ってもらう予定か、キッチンは事前に優月に訊いていた。
そして例えば、デジタルフォトフレームとして使用中、といったような説明をすれば、それで通せるであろう動き。
キッチンは、不自然すぎない範囲の行動で、存在を優月に伝えてくれている。
ちゃんといるわよー、大丈夫よー、と、すでに耳に馴染んでいる声が聞こえる気がした。
「さて、では……今日はどうしましょうか……」
知成が穏やかな口調で話しだす。
「相談そのものは、優月さんも検討なさっていたんですよね。今回、初回面談という形になってはいますが、まず、相談の詳しい内容をご本人から直接お伺いするのが、おもな目的なんです」
確かに、事前説明にもそうあった。
「私と日出海の役割は、専門分野への対応ではなく、相談の詳しい内容を伺い、記録し、今後のおおまかな行動を決めることです。ですから、申し込み時の情報が間違っていても、こちらとしては今日このまま、新たな相談内容をお聞きすることもできます」
知成の言葉に頷き、日出海が口を開く。
「優月さんのほうで、お話ししたい内容がうまくまとまっていなくても、そのままお話しなさって大丈夫ですよ。それに事前説明にもあるように、代理の方には経過や内容などを、テイク側から教えることはいたしません。それは新たな相談内容であっても同じです」
話しだすうえでのハードルを次々と下げてもらって、この二人にここで話してみたいという気持ちが、優月の中で大きくなっていく。
そして少し前から、タブレットの画面上に順に表示されている画像。
水玉模様、輪投げ、ドーナツ。
まる、ということだろう。キッチンも賛成の方向だと優月は解釈した。
「このままお話ししたいです。よろしくお願いします」
優月が言うと、知成は笑顔で頷き、日出海はノートパソコンをカバンから出した。
入力、記録することや、情報の扱いについても事前説明に書いてあった。そのため、入力されることに抵抗はないものの、慣れていないから少し緊張する。
「日出海さんは記録作業のベテランなんですよ。入力状況を気にせず、優月さんのペースでお話しになって大丈夫ですから」
「まとめやすいように話を組み立てようといったことも考えなくていいですよ。受け答えはおもに知成さんがして、私は入力中心になりますが、なにかあれば申しますから、それ以外は意識なさらなくて大丈夫です」
優月の緊張した様子に気づいたらしい二人から口々にフォローしてもらい、気が楽になる。
わかりました、ありがとうございますと言ってから本題に入ろうとし、なにから切り出せば、と優月は少し悩んだ。
相談のときに、どう話そうと考えていたのだったか……、フォームに入力しながら思い描いていたことを思い出す。
「あの、テイクは、心霊現象とか不思議なこととかにも対応しているというネットの書き込みを何件か見たのですが、本当ですか」
「はい。超常現象、超常的な存在への対応も、役割の範囲内です」
優月が訊くと、知成は、なんでもない普通のことのように肯定した。
「対応の方法というか……その存在は、すぐに退治ということになるんでしょうか……または、すぐにではなくても、消されたり、人とは関わらないように強制されたり……」
優月が今、この件に関して一番知りたいことだ。内心身構えつつ、訊いた。
「もし、その存在がリアルタイムで、なにかを攻撃しているとか危険な存在や状態になっているとかして、その存在に対して、無理やり消す以外の解決法がそのときになかったら、即退治を選ばざるを得ないこともあります」
知成はまずそう答え、続ける。
「ですが基本的には、ある程度、時間をかけて状況や状態を知り、ともに考え、判断をします。存在していることが、または誰かのそばにいることが、長期的に見て悪いほうにしか向かわない……そういう場合は、望まれたことと違う対応をするしかないこともあります。けれど、そうでないなら、その存在がこれからもすごしていけるよう、ともにいたい相手がいるなら、その関係や日々を守っていけるよう、そういった方向でのサポートを考えます」
そこまで言ってから、知成はスマホを取り出す。
「ちなみに、危険性が高かったり、攻撃的だったりするような、要警戒な超常的存在が付近にいれば、メンバー用の端末が警告します。今現在それはありませんから、もし、優月さんが、なんらかの超常的かもしれない存在を感知していたとしても、その存在は今現在、危険ではありません」
キッチンの存在を明かしても、即退治とは、ならないようだ。でも、長期的にはどうか、どう判断されるか……。
ためらう優月に、知成が言葉を重ねる。
「なにかを明かした結果、その先が希望どおりではないことも、あり得ます。ですが、そういう状況の場合、抱え込まれても、好転はしません。こちらが知ることができていたほうが、まだ力を貸せたのに、そう思うケースもあるそうです。どういう内容でも、話していただけたほうが、できる対処はきっと多いと、私も思います」
知成がなにをどこまで察しているかはわからないが、知成が言おうとしている内容はよくわかる。
たぶん、話してみたほうがいい。
それをしてみたいと優月が思えるテイクの二人で、この二人が所属しているテイクになら。
優月とキッチンだけで、この先をどうにかしようとするよりもいいだろう。
キッチンスペースに置かれたタブレットの画面に、次々と新たな画像が現れていく。
池、池、5番のゼッケン、5と書かれた旗。
おそらく、いけ、いけ、ゴー、ゴー。
こういう場面も想定して、画像を集めておいたのだろうか。
この愉快な存在と、これからも、ともにいられる方向に進んでほしい。思いきって明かすことで、その確率を上げたい。
そう考え、優月は口を開いた。
お読みくださり、ありがとうございます。
今後もおつきあいいただけますと幸いです。
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【改稿について】
【2024年7/11(木)】空白行を入れる位置を変えたり、空白行を増やしたりといった変更をおこないました。
【2024年7/11(木)空白行関係以外の変更】
・申し込み時に代理人に訊いたが、わからないと答えられたそうだ。→代理人に事前に訊いたが、代理人は、わからないと答えたとのこと。
・「優月さんが謝らなくて~少し出てくる。 内でいくつか変更
・不自然すぎない範囲の→キッチンは、不自然すぎない範囲の
・今日このまま~話しだすうえでの 内でいくつか変更




