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「5月、ショウブで勝負、牡丹のボタン」6.ボタンは動き、語った。周りも動いた

改稿については後書きで説明しております。




 珠水しゅすい図書館四階。フロアの一角。

 ここは、館内にいくつかある、展示コーナーのうちの一つだ。


 似ている植物を見分けてみませんか。

 そのテーマタイトルのもと、見分け方の説明と関連資料が並んでいる。


 椿つばき山茶花さざんか

 うめさくらもも

 木蓮もくれん辛夷こぶし

 菖蒲あやめ杜若かきつばた花菖蒲はなしょうぶ

 木槿むくげ芙蓉ふよう――等。


 いろいろと並ぶ中にある、牡丹ぼたん芍薬しゃくやくについてのものを見て、優月ゆづきは微笑んだ。

 自分たちについて説明してもらえると知ったときの、ボタンたちの反応を思い返したからだ。



 以前、村内の雑貨店にコトハが行ったとき、スタッフがあわてていた。

 コトハが事情を尋ねたところ、モノ関連かもしれないと考えたスタッフが説明してくれたそうだ。

 入手した品に使われていた三つのボタンが、ついさっき消えてしまった、と。


 ボタンがとれかかっていたから、まずはそれの修理依頼をと手配作業をしている最中、ふと見たら、なくなっていたらしい。

 状況からして、ボタンが自分でどこかに行ったということも考えられる。

 少しさがして見つからないようなら、いろいろな担当に捜索を依頼するつもりとのこと。


 消えたボタンの柄は、芍薬しゃくやく牡丹ぼたん百合ゆり


 聞いたコトハは、いつものペースで口にした。

「牡丹のボタン……。私なら、動くとしたら、牡丹柄のなにかに入るかしらねー。牡丹のボタンが牡丹に、だもの。三つそろうってなかなかよ」

 そして、目についた、棚上にある牡丹柄のカップを手にとり、中をのぞき込んだ。

 するとそこには。


「気が合いそうね」

 高貴な姿が思い浮かぶような口調で言う、牡丹のボタンが。


 もっとも、それにコトハが、そうねーと返したところ、牡丹のボタンは驚いたらしい。

 話しかけるように言ったとはいえ、相手に聞こえないと思っていたから、返事があるとは思わなかったそうだ。


「本当に、牡丹柄の物の中に牡丹のボタンが。ならば、百合のボタンは百合柄の物のところか? 芍薬の柄の物は……あっただろうか……」

 発見を知ったスタッフが、そう言いながらさがしかけたところで、コトハの耳に、泣き声と言葉が届いた。


「私の柄だけ、また、ないー」

 と。

 そしてそれをなぐさめる高めの声も。


 同じく聞こえたらしい牡丹のボタンが、凜とした声で言う。

「百合さん、あなたの現在地を教えてくださいな。芍薬さんもそこにいるのでしょう?」

 その呼びかけに百合のボタンが応え、コトハは百合と芍薬のボタンの居場所を把握した。


 コトハに声が聞こえたから、ボタンたちは、おそらくモノだろうと考えられた。

 そしてトウヤの都合がつき次第鑑定された結果、モノと確定。

 コトハがモノ対応担当として、ボタンたちに消えた経緯を聞いた。


 とれかけて、今なら自力で動けそうだと気づいた牡丹のボタンは、思ったそうだ。

 牡丹柄のなにかに、牡丹のボタンである自分がいるという状況をつくりだしてみたい、と。ここならそれが可能そうだ、と。

 そして、我慢できず、実行。


 ではもうせっかくだし、私は、百合のボタンでちょっと一致には弱いけど、せめて百合柄の物に……と、見つけた百合柄の物に向かって移動し始めた百合のボタン。

 しかし、少し前に移動し始めた芍薬のボタンがうろうろしている様子が気にかかり、そちらに向かったそうだ。


 芍薬のボタンは、事情説明時にも泣きながら、言った。

「牡丹柄の物は多いのに、芍薬柄はその場にないことばっかり。それどころか、牡丹と芍薬って、どう違うのとか言われる!」


 聞いたコトハ、思わずその場で検索し、違いを調べたそうだ。

「牡丹は木、芍薬は草なのねー。葉や香り、散り方でも区別がつくみたい」

 そう、あとからコトハに聞いて、優月も初めて知った。

 ちなみに、コトハが、カップの柄が牡丹だとわかったのは、商品名にそう書いてあったから、だそうだ。


 あとからこの話を知った、モノ対応担当メンバーの中には、図書館スタッフも兼任しているメンバーがいた。

 その二人の兼任メンバーは思った。

 似ている植物の見分け方。テーマ展示で扱おう。


 過去にもそうした企画をしたことはあるが、間隔も空いているし、同じものをしてはいけないというわけではない。

 この展示で、見分け方を知る人が増えるかもしれないとなれば、ボタンたちの気持ちも少し落ち着くかも。そう考えた。


 聞いた芍薬のボタンは喜んだ。

 百合のボタンは、喜ぶ芍薬のボタンを見て嬉しそうに笑った。

 牡丹のボタンは、といえば。ほっとしていた。


 牡丹のボタンだって、牡丹と芍薬を見分けてもらえないことを残念に思う気持ちはある。

 けれど同時に、わりあい、牡丹のほうがいろいろと出番が多い状況下、芍薬のボタンへの対応が難しい面もある。


 自分がなぐさめても、悲しみ怒る芍薬のボタンに同意を示しても、場合によっては逆効果。

 自分ではうまく対応できないから、ほかの誰かが、芍薬のボタンを笑顔にしてくれるならよかったと安心したそうだ。


 そうした経緯で始まった、この展示。

 ボタンたちも、コトハの持ち物につけられたボタンとして図書館に同行し、時間をかけてじっくり展示を見た。


 話して大丈夫な区画まで来てから、ボタンたちは口々に言った。

 企画してくれたことへの感謝、展示内容への興味、いろいろと似た植物たちがいることをあらためて認識しての感想。


 それぞれにとって大事な出来事と時間になったようだと、優月もコトハから聞いた。


 今、ボタンたちは、珠水村しゅすいむらですごしている。

 今後のすごし方については、考え中、といったところだ。

 ピョンピョンと跳ね、コロコロと転がり、小さな体で身軽に移動できるところを活かして、さがしものなどの場で活躍できないか、という意見も出ている。


 展示テーマのほうも、今回のことを活かして、食べ物や動物などいろいろなものの、似たもの見分け方シリーズを展開してみようという案が、スタッフから出ているそうだ。


 また、立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、という言葉から、植物を使った言葉シリーズなどの企画を再度、という声も。


 そして、その言葉は、生薬の用い方をたとえたものという説明もあるとのことで、漢方特集はどうか、といったことも考えられているらしい。


 牡丹のボタンの行動から、ずいぶんいろいろと動いていくようだ。



 思い返しつつ展示を見ていた優月は、スマホの小さな通知音を耳にした。操作し、画面を見る。

 育生いくおからの連絡で、もうすぐ図書館に着くというものだ。

 返事をした優月は、待ち合わせ予定の場所に向かうため移動を始めた。


「素敵な図書館ですね。アールデコ調って言うのかしら……それに、ステンドグラスも多用されていて……各階、眺めているだけでも時間がすぎそう」

「それに、この規模。館内ツアー、どれだけ歩くんだ? って最初ちょっとあせりましたが。ゆなの参加するコースは、館内全部回るわけじゃなかった」


 図書館二階の片隅。待ち合わせ場所に来た育生とゆかりが口にする。

 ラビィは、ゆかりが持っているカバンの中だ。周りの目があるここでは、ぬいぐるみのラビィである。


 保育センターでできた友だちと、明日、図書館ツアーに行きたい。

 昨日お茶会後、腕輪制作を進めてから、保育センターにゆなを迎えに行ったところ、ゆながそう希望したそうだ。


 目当てのツアーコースは、子どもたちが館内の一部分を回るもの。保育センターと図書館のスタッフが同行する。絵本の読み聞かせもある。

 ではその時間を利用して、育生とゆかりとラビィは、図書館スタッフも兼任中のモノ対応担当メンバーたちと、顔合わせをしようということになった。


 ちなみに、保育センターのスタッフも、図書館のスタッフも、テイクのメンバーだ。

 ボタンたちをさがしていた雑貨店のスタッフもそう。

 そもそもこの珠水村、各所のスタッフもほとんどみんな、テイクメンバーである。


 育生とゆかりとラビィを案内して、顔合わせに使う予定の部屋へ向かう。

 スタッフ区画ではあるものの、場合によっては、テイクメンバー以外も入ることができる。館内のそういった場所に、その部屋はある。


 入室し、部屋にも使われているステンドグラスと、アンティーク調のソファを見て、ゆかりのテンションがあがった。

 花山はなやま家の面々に着席を勧め、優月はスマホを手にする。


 入室を知らせたから、顔合わせ予定のメンバーたちは、少ししたら来るだろう。

 今回もいつものように、名前やどう書くか、モノの声が聞こえること、メインの担当などは、花山家の面々に事前に説明済みだ。


 ラビィを真ん中に、ラビィの左にゆかり、右に育生という配置でソファに座った三人は、インテリアについて、楽しそうに話し始めた。




お読みくださり、ありがとうございます。

今後もおつきあいいただけますと幸いです。


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【改稿について】

【2024年7/10(水)】空白行を入れる位置を変えたり、空白行を増やしたりといった変更をおこないました。

【2024年7/10(水)空白行関係以外の変更】

・本当に、牡丹柄の~あっただろうか……を「」内に

・発見を知ったスタッフが、考えながら→発見を知ったスタッフが、そう言いながら


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