第7閉塞 新宿駅 本線出発警戒!
『まもなく、8番線に回送列車が参ります、危ないですから黄色い線の内側までお下がり下さい』
平時の平日夜の賑やかさからは考えられない静けさを保った中央線ホームに自動放送が響き渡る、時刻は20:50『いつも』であればこれから帰宅する人、誰かと会う人などでごったがえしているはずで、その人たちが動くだけでも音が聞こえてくる、されど今はその音は聞こえない、その代わりなのだろうか?遠くから迫力のある汽笛が鳴り響き、『ボッボッボッボッ!』と汽車がいや蒸気機関車が近づいてくるのが空気を震わせて伝わって来る、進路上に障害がないのを指差喚呼して『呼吸』の伝わる方向を見遣る、新宿のビル群の大看板の明かりに照らされて、姿は見えずともその吐き出す煙は空に解けていく合間の形をくっきりと照らし出されていく、「ヴァッ!」短く汽笛が鳴らされ徐に線路の彼方を見遣るライトが特急の影から姿を現す、青色の駅端のLEDライトがボイラーのデフレクターの形を照らしだしゆっくりゆっくりとまるで花道を行く役者の如く線路を軋ませて、列車がホームへと入ってくる賑やかに空気圧縮機は動き出し、制輪子を押し付ける音も少なく、停止位置にピタリと止まる。
ホームの蛍光灯がキャブ内を照らして、照明の境界の小さな影がゆっくり後ろへ去っては新しい小さな影がまたキャブの中を過ぎていく、八王子から新宿までの長かった第1関門をようやく突破し、静かに衝動もなく列車は新宿駅8番ホーム12両停車目標へ止まる、細かな緩解を何度かした為に、空気圧縮機は元圧を保つ為にガチャコンガチャコンガチャコンと動き出すのだった。新宿駅での入れ替え仔細を確認していると誘導さんがキャブ横まで来て佐倉さんに解放を告げる、新宿では幾度となく入れ替えを経て事件現場へ資材を届ける事になっている、まずは後補機のC58が作業員さんたちの乗った客車と架線・架線柱を積んだトラを持って快速線の下り本線へ入る、でもその為には先頭に立っているD51と他の貨車がいるのでまずは切り離しをして引き上げなければならない
「これより解放作業を開始します」
「了解、誘導頼む」
無線機からの声が聞こえてそのすぐ後に後ろの連結ピンは上がったようで、先頭のランボードから誘導灯が青に変わりそれに従って短笛が鳴らされて列車が少し前へ進んで赤の表示になって止まるのであった、それからちょっとして連結器の鎖錠とブレーキ管の吊り下げが終わったらしく再び誘導灯に従って動き出す。編成は短くなって8両編成車掌車を先頭とした貨車群が単軸のジョイント音を響かせて、ブラスト音は軽かれどはっきりと音を響かせて東京方へ移動していく、橋上駅舎と跨ぐ国道の屋根に煙を満たして、入換信号の乳白色にドレインを染め上げ、新しく出来たデッキの下を出ると天高く聳えるペンシルタワーを見上げながら新宿駅を取り囲むビル群に力行の音が響く
「はい、閉めるー!」
「閉めるー!」
下り3.5‰の線路を惰性で走りつつ、8番線とのポイントを渡っていく、ふと横を見れば小田急線がビル下のホームから出て行っていたり、被害に遭わなかった山手線の窓に人々が驚きの表情でこちらを見ているのが見て取れたりする、まぁ都会のど真ん中に蒸気機関車が白煙たなびかせて走ってるのだから驚きはするだろうな、そうこうしている間にも本線からクロッシングポイントで引き上げ線へ入る所まで来ている、蒸気の減りもそこまででは無いので、停車中に投炭してブロアーを掛ければ入れ替えには支障を来さないであろう、そんな事を考えつつ本線の方向を見れば登っていく線路の間に何か赤い点滅している物が見えた気がする、誘導用の停車位置だろうか?罐の下に置いて熱に耐えられる物であれば良いのだけれど、後で確認をしてみるか。
「引き上げ線停目9両、停止位置よし!」
「引き上げ線停目9両、停止位置よし」
静かに列車が引き上げ線に止まって、次の入れ替え指示があるまでは待機となる、主圧力計は1400kpaを指しているので掬い出し口にある小スコを握って投炭を開始する、特段と火床が薄くなっているところもないので満遍なく決められた順序で2秒で一杯一キロを目安に火室へと焚べるいく、全体的に投炭が終わればウイングを閉じてブロアーを若干開けて黒煙が出ない程度に燃焼を促す。
「臨9322本務機さん聞こえますでしょうか、どうぞ」
「こちら臨9322機関士です、聞こえていますどうぞ」
「これより、快速上りホーム7番線へバックで進入します、準備できましたら発車願います」
「了解しました」
停車後あまり時間を開けずに、入れ替え合図が無線から流れてくる、早いなC58はもう現場に入ったのかと本線を見れば今ぞブラスト音高らかにゆっくりと客貨車をバックで押し上げていくところだった。
圧力は定常、誘導灯に青が灯ったのを確認すると短笛が一声鳴らされて徐ろに後ろに動きだす、先程この引き上げ留置線に入ってきた経路そのままをバックでホームへ戻り始める、蒸気機関車特にテンダー機に後ろ向き運転は向いてない為に基本この入換に関しては全体で35km~45km/hの制限が着くことになる。
先程まで「下り勾配」だった線路は反対方面へ走っていくことで「上り勾配」になる勾配標識によれば12.5‰の勾配になるらしい、その上り坂を重い重い貨物をバックで押し上げる為に威勢も勇ましく煙と音を新宿に響かせて成田方面への特急のホームを横目に小田急の特殊アプローチ線を横目に7番線ホームへと入っていく、編成は後ろに3両が減ったことで8両編成相当になって、9両停車位置に止まることになる。
進入ホームは7番線、元々7番線は上り専用のプラットホームなので上り停車位置をそのまま使って10両の停車位置へ徒歩より遅い速度でホーム端に機関車が差し掛かって停止位置目標をキャブ横にピタリと合わせて静かに止まるのであった。
「これより切り離し作業を行います、よろしくお願いします」
さっきまで1番後ろで誘導灯を振ってた操車掛けの人がキャブまで来てそう告げる、八王子から背負っていた荷物を1度置いて機関車は単体で新宿駅をこれから右往左往する、後ろから連結ピンが抜かれた音とブレーキ管が外された音がして無線から声が響く
「はい、ちょい前オーライ」
『ヴァッ!』
短笛一声、ブレーキが解かれて加減弁が開けられすぐに締められる、というのもこの先3.5‰の下り勾配の為開けすぎるとすぐに転がって行ってしまう
「とまれとまれ」
停止合図に従ってブレーキが込められ僅かな後に機関車が止まる、出発信号機は進行の青の現示を蒸気に滲ませて煙突と架線の少しの隙間の先の鋼材を煙で燻して構内に石炭の匂いが拡がっていく、連結器のとブレーキ管を戻し終えたようで無線が入る。
「これより上り7番線から引きあげ、8番線分岐器通過後停車、分岐器稼働後8番線を抜け上り本線へ、7番線との分岐器通過後再度停車、分岐器通過後7番線へ進入、連結作業に入ります」
「了解、誘導合図願います」
機関士側から出発信号と誘導灯を伺いみて、後追い歓呼と共に汽車が単体動き出す、背負う荷物が無くなったことで軽い息遣いで力行をした後に、屋根からおどりでて直ぐに赤の誘導灯に合わせて止まる。
どうやら新橋上駅舎のデッキからこちらを見ている人が沢山いるらしく、フラッシュが幾度となく光るそんなのに嘆息しているうちにも『ジィィリィィィィ、ガチャン』と分岐器が稼働する音が聞こえてきて、無線から8番線へ進行を促す声が聞こえてくる。
「8番線、合図進行」
「8番、合図進行」
『ヴゥァァァァアーー!!』っと入換の汽笛より少し長く鳴り響くのは佐倉さんのサービスだろうか、そんな思考を乗せながらドレインを盛大に出しながらバックで8番線への分岐器を渡っていく、ここからほんの僅かな区間は"上り"3.5‰なので機関車は軽かれどしっかりとブラストを響かせてまた屋根の下に入る、緩いカーブでホームに入り、直線区間に入ってドレインを出しながら加減弁が閉められる、スックスックスックとピストンに空気が出入りする音を聴きながら8番線プラットホームを抜けていく、屋根が途切れてデパートの高いやねを望みながら特急の横を抜けていく、下り0.5‰が掛かってプラットホームを出発信号機をとおりすぎ、構内踏切を通り過ぎるとしばらくして機関士側つまりは左側から8番線の線路が合流してくる、炭水車の軸を動輪が分岐器を越えてそのすぐ後にクロッシングを直線に抜けて、停止合図が出される。
助手側から線路を見れば機関車は丁度クロッシングの間に収まるように止まっている。
「これより上り7番線へ進入、その後連結作業に移ります」
無線が切れて3度短笛一声動き出し7番線へと入っていく、快速上り線の分岐を渡ると今度は5・6番線に渡る分岐器の振動がキャブを揺らして機関車がゆったりホームへかかっていく「このまま連結5m前まで誘導です」その言葉に合わせたかのように惰性に移って、緩いカーブのホームは直線へと変わっていく。
「はい、あと10メーター」無線からの声にブレーキが僅かに込められて速度が若干落ちていく「はい、8メーター」単弁で細々ブレーキが解かれて空気圧縮機が動き出す「はいあと6メーター、トマレトマレ」無線の声を見計らったように機関車が止まって、すぐ後に連結器が動かされる音がブレーキ管が開けられる音が聞こえてくる。
寸暇のもなくに再び連結を告げる誘導が響き始める、「あと5メーターキタレ」無線の後に『ヴァッヴァッ!』と汽笛の音と共にゆっくりと動き出す、ドレインはホームの下から吹き出して前方を白く染める、「はい、あと4メーター」ドレインが閉められて加減弁が若干閉められる、「はい、あと3メーター」加減弁は完全に閉められて逆転器が前進フルギアに引き上げられる、「はい、あと2メーター」単弁が軽く込められてキャブ内に空気が流れる音が響く、「あと1メーター」速度は人が歩く程度にまで落ちて「ヤワヤワ、ヤワヤワ」と連結距離至近を知らせる声が響き「トマレトマレ」の合図に『ガチャン!』と連結器が噛み合う音がしてそれと同時に完全に機関車は完全に止まる。
『ヴァッ!』と連結器がしまったか確かめる為に後進に逆転器が引き下げられて、加減弁が開けられる直後前へ引っ張られる衝動と共に、連結器がしっかりと繋がれたのが確認されて停車措置がなされて、ブレーキ管が繋がれていく、連結完了の無線とともにBC圧試験を横目に圧力計を見れば主圧力計は1350kpaまで落ちているのでストーカーを作動させる、カラカラカラと石炭のころがっていく音とプシュップシュッとエアーで吹き飛ばされて行く音が作動を知らせて、焚口戸を開けてみれば石炭が飛んでいくのが見える。
それと並行して右奥左奥をやや厚めに盛るべく狙い易い小スコで石炭を投げ入れていく、いつか見たSL人吉の機関助手さんの如く踊るような投炭はまだまだ出来ないけれど正確に零さずにテンポよく、火床を整えて行く、ある程度燃え方が均されたのを見計らってブロアーを少しかけてインジェクターを作動させる。
「これより現場直前まで誘導を開始します、準備できましたら進行願います」
「了解」
『ヴゥァァァァアーー!!』発車合図の長笛を鳴らして、これより事件現場復旧へ列車は新宿駅を出発していく、機関車の前には貨車が連結され所謂「後押し」の形で現場の跨道橋へと向かう、新宿の繁華街のネオンを背負って幾つもの線路が広がる中を、いつもはオレンジ色に黒い顔の電車が走ってる線路を、新型の銀色にちょっとカーブの描いた顔の埼京線に見送られながら駅ビルの下へと入っていく、ドレインを出してオレンジ色に光る10両停車位置を通り過ぎていく、出発信号機を過ぎてホームを過ぎると7番線と合流してそのまま本線に入っていく、山手線が総武線の下に潜っていくのを見ながら、更にブラスト強く上り勾配に差しかかった編成を押し上げていく、線路上空にある大きな乗務員詰所を見上げながらも列車は伸し掛るその重量を抱えて息遣いはさらに強くなれどテンポは変わらずにペンシルタワーに見守られながら勾配は上り8.5‰へと変化をしていく。
機関士側から見る現場周辺は投光器で白々しく煌々とした明るさを出していて、幾分明るい新宿の夜とはいえ暗がりからそこを見ると目が焼けそうになる。
「停車位置まであと10メーター」
無線がはいると閉め気味だった加減弁は完全に閉鎖されて途端に歩が遅くなっていく、機関車は代々木駅の壁を見つつゆっくりと進んでいく。
「残り5メーター」
本来であれば左の眼下に広がる線路にひっきりなしに列車が行き交うはずも、爆破事件の影響で跨線線路橋が崩落した影響でそれもなく、継ぎ目の音をビル群に響かせるのはこの列車だけ
「はい3メーター.....、2メーター....ヤワヤワ、ヤワヤワ、トマレトマレ」
誘導の合図に寸分の誤差もなく編成は止まる、坂の途中押し上げる形のまま重量は全て機関車に掛かって。
「身延、手歯止め《ハンドスコッチ》入れて来るから水の調整しとけな」
「了解です」
佐倉さんは線路に降りるとキャブの歩み板の下に刺してある手歯止めを持って動輪の元へ向かっていく、坂道の途中で止まるので転動防止策は幾重にしておくことが肝心、こちらはこちらで勾配に止まるというのは即ち溶栓が出やすくなることなので今の水面計+2部程を目安に給水ポンプを動かす、その間にも火床の様子を見ておく。
「身延、手歯止め使用中の札掛けとけなー」
「了解しました」
助手側から上がってきた佐倉さんに言われ、手歯止め使用中の札を機関車のランボードとテンダーに掛けるべくキャブから降りてゆく、これをしないと踏み潰して脱線なんて事が起こるするので肝心な作業だったりする、そういえばさっき引き上げ線から線路見た時に何か赤い点滅するものあったよなぁ?と思い出して機関車の下もテンダーの下も確認したけれど、特段そんなものは見つからなかった、後で保線の人にも確認した方が良いだろうか?
キャブへ戻ると、はんたいの線路にC58がキャブ位置を合わせて止まっているところで佐倉さんと長坂さんが話をしてた。
「いやぁ、ありゃぁ酷かったな偶々架け替え予定で橋桁の準備があったからいいものの、あれが無けりゃ1週間くらい急行線も各停線も運休だったんじゃないかね」
「それほど的確に橋桁やられてたんですかぁ、物騒ですね」
「佐倉も後で確認しておくといい、しかしまぁこの資材列車のお陰で少なくとも明日の夜には運転再開出来るだろうから、不幸中の幸いとでも言うべきだろうがな!」
「おや、身延っちーおかえりー、大変だったんじゃない?往路」
石和先輩が補助席に座ってた僕に気付いて話を振ってくる。
「まぁー大変だったちゃ大変だったかな、投炭はまぁ普通に大変だけど、ホーム監視がちとねぇ衆目の目がありすぎて厳しかった」
「そっかぁ、警報汽笛とか鳴らしてたもんねぇ.....、こりゃ帰り経路も警戒しなきゃだねぇ」
『C58機関士さん新宿駅進路開きましたのでこれから誘導を開始します』
「おっと、じゃ我々は先に駅で待ってるよ佐倉君も身延君もまた後で」
「身延っちまた後でねー、佐倉さんもー」
そう言って汽笛一声機関車は正向きで新宿駅に戻ってく「さて、身延我々も現場を見に行くか、機関車の見張りは誘導掛け呼んで見ておいてもらえば良いだろう」そう言うと無線で誘導掛けさんを呼ぶのであった。
行く道中から不思議であった、積荷である跨線線路橋の鋼材はさっきの長坂さんと佐倉さんの会話で謎が解けたけど、この爆破事件はあまりにもタイミングが良すぎる気がするのは気のせいだろうか?そんな思考に落ちていると、ふと声が聞こえてくる「...えぇ概ね予定通りです、しかしSLまで使って資材を運んでくるとは思いませんでしたが」
何やら不穏な会話な気がする、話している内容自体が「この列車」に対する事だしまさか犯人か?いやでも声は微かに聞こえてくる程度で何処にいるかまでの判別もつかない、それに公安でもないので何も出来ないし....。
「お呼びでしょうか?」
「おぅ、ちょいとばかり現場見ときたくてな、機関助手共々開けるんで機関車見ておいて欲しいんだ」
「はい、了解です」
「んじゃ、身延行くぞ」
「あっ、はい!」
誘導掛けさんが来たようで、佐倉さんから声が掛かったどうやら現場を見に行くみたいだ、タラップを上ってきた誘導掛けさん名前が塩崎さんと言うらしい、塩崎さんに二三何か言いつけて佐倉さんがタラップを降りていく
「では、お願いします」
続けてタラップを降りて線路へ降りる、いかにも都会の整った線路だけあって雑草もなく足元のバラストもしっかりと形が出ている、まぁその分歩きにくいのだけれどなので線路脇のケーブルを収納してある溝の蓋の上を伝って歩いていく、機関車の前の方では続々と積荷がショベルカーを使って下ろされている、貨車にして8両分歩くと投光器の眩しいあかりの元その先にあったはずの線路が消えている、向こう対岸に大きく反り弾けた橋材が積んである、その破壊の威力は部材を見るだけでも身の毛もよだつ生々しさで投光器のエンジンの音や作業員の人の吹く笛の騒々しさがなければ、現実味すらなかった。
「こりゃ......、また派手にやりやがったな.....」
佐倉さんがぼそりと随分してから呟いた声音には、畏怖と呆れが含まれていたような気がする。
「まぁ、あれだ橋脚の受け部分に損害がなかったの僥倖というか不幸中の幸いだな」佐倉さんの言葉につられて橋脚部を見れば綺麗に外されたボルトが鈍い金属の光を曲がること無く一直線にたたえていた、確かにここが無事ならば橋を架け替えるだけでどうにか出来るだろう。
「まー、今持ってきた橋も現地合わせをしてないからな微調整するまでここの行き来は制限付きで走らにゃならんだろうな、もしかしたら地固め評価の為にまた八王子の庫から機関車出してくれーなんて事にもなりかねんなぁ」そんなふうに言ってから笑いをしている佐倉さん、さすがベテランの運転手だけはあって色々な見通しが効くなと尊敬が出来る。
そう言えばと思い出して当たりを伺うと『新宿保線区』とベストを着た保線区の人を見かけたので軌道内に停車位置を置いたか聞いてみる事にして話しかける。
「お疲れ様です、八王子機関区の身延と言います聞きたいことがあるんですが、今大丈夫ですか?」
「お疲れ様です!...!この度は橋梁部材の運搬ありがとうございました!それで何かありましたか?」
「えっとですね、軌道内に停車位置合図として誘導灯かなにか赤く光るものとか置いてましたか?」
「赤く光るものですか、何も置く指示もして無いですし、んー?何かありましたか?」
「先程入れ替えのさなかに、軌道内に赤く光る物を見まして何かなー?と」
「なるほど、特段こちらではそういう事はしてません、もしかしたら発炎筒を事故の際に置いてその残り火の可能性もあるので、復旧部材の取り下ろし後確認してみますね!」
「よろしくお願いします」
そうか、発炎筒かその可能性は見落としてたな、とりあえず入れ替えが始まる前にまた機関車の下をくまなく確認しておこうか。
「大丈夫か?身延」
「はい、多分大丈夫...です」
編成を見ると臨時の車止めのすぐ手前で車掌車が止まってその後では着々と積荷が取り下ろされている、橋梁部材は先程C58率いる客車と架線、架線柱を積んだ貨車が止まっていた下り本線上に線路と並行に置かれている、桁橋の素材がかなり沢山綺麗に積み上げられて行っている、あと2本ほど下ろせば作業も完了しそうだ、先程この現場に来る時に見ていた限り枕木は全て取り降ろされていて、線路自体は貨車にクレーンが着いているのでそれを使って降ろされていた、あと5分ほどもすれば荷捌き自体も終わってあとは編成を組成し直して、八王子に戻るだけになるので些か気が楽になる、そんな風に考えながら機関車へと戻っていく、[ピーーー、ピッピッピ]機関車まで歩いてきて乗り込もうとした際に何か電子音が起動した様な音がした佐倉さんはと言うと既にD51に乗り込んでいて、塩崎さんと異常がなかったかのやり取りをしている。
「佐倉さん、手歯止めと札を外してきます」
「おう、そうだなもうそろそろ戻る頃だしな任せたぞ」
とりあえず手歯止めを外すついでに辺りも確認しながら行こう。
スコッチを外す為に第4動輪を見ると動輪の裏側に赤く点滅するものが見える、嫌な予感がして外さずに潜り込んで見てみると何やらパイプ型のものが3つ重ねられて、それはあたかも公園にある土管のような形をしたものの上にタイマーが着けられている、見た時から既に4.35.00とコンマ秒数は物凄い勢いで数字が推移して1秒ずつ3桁目の数字が減っていく、これ知ってる....ダメなやつだ.....!とりあえず退避しなければならない、でもこの場に機関車は置いていけないと思って急いでスコッチだけは両方外してキャブへ戻る。
「佐倉さん!!第4動輪付近に爆弾のようなものが!!」
「なんだと!?本当か!」
「残り4分くらいです!」
「....身延、タイヤクーラー全開にしろ!それから排水弁も開けろ!」
「へっ......?あっ!!はい!!」
急いでタイヤクーラーの散水コックを捻る、佐倉さん列車無線で進路は開いているか!!と怒鳴りながら聞いてこちらの手元を見ている、すぐ様無線からの応答で「開いてます」と返答が来たので汽笛乱打をして異常を知らせる、無線では作業員の乗り込みを急いでさせろ!と指示を佐倉さんが出していて、その声音に何かを察知したのか、現場の方で慌ただしく車掌車や近くの車両へと乗り込んでいく音が聞こえる。
さっきから時間にして2分ほど経っているような気がするが、はっきり言ってあまりにも気が動転していて、正確な時間は分からない。
「身延!給水ポンプ作動させとけ!ヘソ溶かしても堪らん!!」
急いで給水ポンプを作動させる、タイヤクーラーと排水弁を使った影響か水面計は5分目付近まで下がっていてヘソが露出していてもおかしくなかった。
『こちら誘導です!あらかたの作業員乗り込み完了しました!跨線線路橋下のもの達に関しては待避完了しています!』
『了解、動くから掴まって!』
「身延、多分これからものすごく空転する恐れがある、火室が荒れないように焚口戸は少し開けとけ、お前が座ったのを確認したら動く」
急いで手動コックで通風位置まで焚口戸を開いて助手席と戻ると、それを確認した佐倉さんは既にブレーキを解いて加減弁をガガガと開く「ボッ!ボボボボ」物凄い空転の音がするがそれも構わずに砂とドレインを撒いて強制的に空転を止めて、蒸気機関車では滅多に見ない急加速で現場線路から離れていく、速度はあっという間に上がり始め、分岐器の制限が掛かってないのも幸いしてすぐに機関車は代々木駅の横から抜け去り空港へ向かう特急ホームの横に達する、しかし編成はまだ代々木駅を抜けきって居らず車掌車が今駅の端を通過するところだった、それを確認してか加減弁が閉められてそれでも下り勾配プラス急加速のお陰もあってか、そこそこ高いスピードで7番線へと機関車が入っていく、流石に新宿駅から本線に入ろうにも進路は開いていないので編成は出発信号機スレスレで停められて、佐倉さんと運行司令とでやり取りが進められていく。
そんな中緊急汽笛と高い速度でホームへ滑り込んできたD51を見て何事か!?と石和先輩が話を聞きに来た、「身延っち!どうした?」怪訝そうに眉根に皺を寄せて聞いてくる「それが第4動輪付近線路裏に爆弾らしきものが置いてあって....、それで幸い荷降ろしも全て済んでいたので作業員の人達を乗せてここまで戻ってきた次第で...」「ありゃまぁ、そりゃ緊急事態だわな、それで?大丈夫そうなの?」「さっき発見した時は残り4分35秒過ぎで機関車に戻ってから発車まで3分くらい掛かったはずで、そこからもう1分位経つので大丈夫じゃないかな?おは思うけど...」「ふむ、分かった長坂さんも気にしてるからとりあえず報告してくるね!また何か分かったら教えて!」
と言って対向ホームに止まっているC58へと戻って行った。
それから暫くして、時間をすぎても爆発がなかった事もあり新宿駅で周辺捜査をしていた鉄道機動隊が爆弾処理用のスーツを着て車掌車へと乗り込んできた、運行司令からの指示では現場手前まで連れて行って欲しいとの事、もちろん安全を保証出来ないので断る権利もあると言われたが、先程のタイヤクーラーと排水弁による佐倉さんの超速的措置の結果も気になったので了承をして、そのまま機関助手として乗って行くことになった、火床は指示もあって通風位置まで開けていたおかげで荒れてはいなかったものの、流石に冷たい空気が入り過ぎたせいで燃えが悪くなっている、デレーキで火床の表面を少し撫でてから大スコで全面へ行き渡る様に投炭をしてブロアーをかける、デレーキで掻き回す際にヘソを見たけれど溶けている様子もなく一安心と言った感じだった、水面計は七分目まで盛り直して圧力は1500kpaまで上がる
「行けそうか?」「はい、圧力戻りました...、あっ!手歯止め使用中の札取ってないです」「分かった、それだけ回収して来てから出よう」
キャブからホームへ降りてまずは炭水車に掛かっている札を取り外す、炭水車の水容量も同時に確認したけれどまだ5分ほど残って居たので心配もないだろう、続いてそのまま線路におりて動輪軸に熱が持っていないか確認しつつ前面の札の回収に向かう、少し心配なのはさっきの急発車で動輪とロッドに熱が出てないかという点だった、結果から言えば非公式側つまりは機関助手側も札を回収してから確認した公式側、機関士側も接触で見た限りは異常はなかった。
「札、回収してきました、軸の方も心配だったんで見てきたのですが特段問題はなさそうでした」
「そうか、ありがとうお前も一丁前に『エンジニア』が板に付いてきたな」
そんなやり取りの後、無線で誘導への呼び掛けがされる。
『了解しました、それでは代々木駅手前まで誘導します』
[ピーッ...ピーッ...ピーッ...ピーッ...]っと誘導無線が響いて短笛一声吠えた後D51は貨車を押してそろりと動き出す、先程までの心臓がおかしくなりそうな緊張感はないもののやはり爆弾らしきものの傍に向かうので些か心配は拭いされない、ドレインを吐いて45km/h程の速度で屋根になっていたテラスを抜けていく、ふと振り返れば警察が規制線を張ったらしくテラスには誰も居なかった、そんな影響か先程より静かな構内を安全確認の為に機関車は進んでいく。
「あと10メーター」車掌車がそして編成が勾配に掛かったらしく少しあゆみが鈍くなって残り距離数が告げられ始める「あと5メーター」加減弁が閉められて逆転器が中立位置へと引き上げられる「2メーター....ヤワヤワ、ヤワヤワ、トマレトマレ」停止合図と同時に完全に止まって複式の空気圧縮機がガシャコンガシャコンと動き出す、機関車の横からは小田急線の線路と山手線をまたぐ総武線の線路が見えて、何も影響のない小田急線だけはホームからアイボリーの車体に濃水色の帯を巻いた電車が小田原方面へ向かってゆっくりと坂を下って出ていく、ふと思い出して時計を見ると21:30過ぎ、新宿駅に到着してから40分が経っていたけれど体感的には1時間以上経っている気がするのは先程の緊張のせいも混じっているのだろう、機関士側から前方を見遣れば丁度重装備の防護服を着た機動部隊の人達が線路を歩いていくところで、爆発してないから大丈夫であろうけど少し不安な空気の中機関車は引き返してとりあえず手順通りの入れ替えを行うようにと列車無線で運行司令からの指示が入るのだった。
進路は開通しているようで、圧力・水面計共に確認すれど盛る必要も焚べる必要もなく準備完了してると佐倉さんに告げると運行司令へ連絡して後退を始める、ここから先は通告もあった通り手順通りの入れ替えをして八王子へと戻る準備をする事になる、その間にも1度客貨車を繋ぐべく爆弾らしきもの置いてある場所からすぐ近くの引き上げ線に入らないと行けないのだけれども、そこら辺は大丈夫なのだろうか?と思いつつ後方を注視するのであった。