最高ですわ!悪役令嬢『役』のヴァカンス。
強く!清く!男も女も魅力をする美貌と才知!己の正義に基づき世の間違いを正しく指導!ピンクブロンド、クルクル巻毛の狸頭の男爵令嬢『役』ごときに、つけ入るスキを見せぬ、女狐のように狡猾は必須要素。
わたくしが理想とする、悪役令嬢とはこういうもの。わたくしは物語の世界という舞台にて、悪役令嬢専門の女優業を生業としておりますの。まさか狸令嬢役をイジメたら即刻出番終了のわたくしに、日の目が当たる時代が来るとは。
ひとつ、物語が終わりましたら、次に。
次が終わりましたら、その次に。
最近の流行りに乗り大忙しのわたくし。ふふ。善良なる乙女キャラの彼女の立場を奪え、たいそう気分が良う御座いますわ。と。思ってましたが。
こうもジャンルを制覇となると、忙しくてたまりません。自慢の玉の肌がカサカサになりそうです。
極楽とんぼが頭に中に飛び回っている、昼間のランプみたいな高貴なる役の男から、婚約破棄を申し渡されるから始まるストーリー。
その後のスローライフも、商売当って大成功も、力のあるお国のもっと素敵なお方から見初められ、落ち潰れた元婚約相手をホーホホホと笑い飛ばすのも。
もう遅いと引導を突きつけるのも。少しばかり疲れてしまいました。リフレッシュのため、女神様に休暇届けを出し東洋の物語の世界ヘと、ヴァカンスと洒落込みましたの。
どのような事?
ふふふ。行ってみてからのお楽しみ。
★
まさかミニチュアベビーから始まるとは、思いもしませんでした。以前から心惹かれていた、東洋の物語のヒロインを満喫しようと『これであなたのストレスもスッキリ解消、転生ツアー、姫バージョン』に申し込んだわたくし。金色に光る中でうずくまっていると。
カッ!パッカーン!
「おお!なんという可愛らしい姫じゃ」
あら。おじいさんの登場ですわ。わたくしの養親になるお方ですわね。そのまま家……、小屋?何たること。ボロ屋に連れて行かれてしまいました。ふむ。このボロ屋の感じ、何かに役立ちそうですわ。ベビーの視点からですが、しかと覚えておけばよろしいかも。
「まあ、おじいさん。なんて可愛い」
「婆さんや、可愛かろう」
ふむ。仮親の、おじいさんとおばあさんが揃いました。それにしてもボロ!このわたくしがこのようなボロ屋で暮らすとは。なんとかせねば。わたくしは持ってきた滞在費を、おじいさんとおばあさんに手渡すことにしました。
オプションをつけておき、良かったのです。自動給付が出来ますから。そして翌日。
「婆さんや!見てみろ!」
「おじいさん!それは!」
「姫をお育てするのにと、仏様が下さったのじゃ」
金銀財宝を背負う竹籠に詰め込み、よろろと戻ってきた、おじいさん。しばらく続きますが、頑張ってくださいませ。
ふう。これにてボロ屋住まいともお別れです。ちなみにわたくしは、一夜で手のひらサイズのベビーから、普通サイズの『娘』に成長しておりましてよ。おばあさんが、もしもの時に米に換えようと、へそくっていた『とっときの一枚』を葛籠から引っ張り出し、着せてくださいましたが。
地味。超、地味。イヤー!なほど、うん……いえ。茶と黄の臭いそうなグラデーション。これ、使えますわ。狸令嬢役か、極楽とんぼの御方様が着込む、落ちぶれ装束のお色目のひとつに、衣装担当に推薦をいたしましょう。
「不思議な姫じゃ。夜が明けると大人になられてのう、婆さんや」
「きっと御仏のお子なのですよ。おじいさん」
「金銀財宝もきっとそうなのじゃ、婆さんや」
「きっと御仏のお導きですよ、おじいさん」
あらやだ。南無南無南無南無と、拝まれておりましてよ。
そして。
わたくし達は先ずは綺羅びやかな衣装を仕入れ、下人を雇い、都で居抜き物件を手に入れると、牛車にて鄙びた田舎を出ましたの。
ふう。ようやくひと息つけました。隙間風がびゅうびゅう、這う虫、飛ぶ虫、何かを食いに来る虫、天井にレース編みをする虫。ふぅ、恐ろしいモノを見ました。
これも良いお土産話になりますわ。そう!レース編みをする虫を使えるやも。姿成りと動きを覚え、それらしいモノを小道具部にて開発させましょう。趣味の悪いドレスを選ぶ事により、わたくしから、
「みっともない裾に、このレースを飾られたら如何?」
と、なるところを、
「みっともない裾に飾り付けるレースを、これに誂えて頂きませ」
と蠢くモノを箱に仕込んで贈ればよろしいのよ。何もわたくしの手持ちのドレスから、わざに取り外した上で、薬品でボロっちく黄ばめなくてもすみますわ。
★★
さあ。都暮らしが始まりました。こうでなくてはいけません。簾内内にて、脇息にしどけなくより掛かり座るわたくし。螺鈿蒔絵も美しい、手回りの御道具。着物は伽羅を焚きしめ、髪は濡れた様な漆黒となるべく椿油で幾回も侍女、いえ。女房に梳かせております。
目の前の文箱にはうず高く積まれた、色取り取りの鳥の子紙。
うふふ。全て殿方からの求婚の文でしてよ。こうでなければいけません。何しろ都入りする前にさきだち、下人達に、わたくしの噂をばらまく様命じ、牛車からの出し衣はそれはもう趣向を凝らしましたもの。そのおかげで、天女との字名がついているわたくし。
フフフフ。気持ちいいこと。何しろこのヒロインは、お返事等、梨の礫の方が良きとされている世界の住民。美女の条件は、
1にミステリアス。ツン。
2に髪長漆黒、烏の濡羽色。
3に色白。
フフフフ、ホホホホ、オーホホホホ!
コンプリート!
「姫や」
あらおじいさんが。なんのご用かしら。
「なた豆の中納言様から御文が届いての」
来たー!上玉の一つ!わたくしは、しばらくうっちゃって置くようにと話します。価値を上げるのですわ!それから、贈り物と御文の猛攻撃。
「姫や」
あらおじいさんが。なんのご用かしら。
「小豆の大納言様から御文が届いての」
勿論、それもしばらく放置。そして。
「唐揚げの右大臣から」
「底抜けの皇子様から」
「太鼓持ちの皇子様から」
来ました。揃いましてよ。この五人衆は、都でも有数なお金持ち。高貴なる身分と屋敷、そして財産。その次に欲しいステイタスは。
都一の美女を手に入れる事。すなわち、わ、た、く、し。
「姫や。誰に御文を出すのかね?」
連日連夜の贈り物攻勢に、高貴なる身分の皆様に無礼があったらと、成り上がりのおじいさんは、気が気でなくオロオロしおられます。
「大丈夫ですわ。全てわたくしにお任せあれ」
うふふ。全て放置をいたします。この物語の下敷きですものね。変更はいけません。すると……。
「姫や。皆様がお見えになられたのじゃが」
来ましたわ。このツアー最大のメインイベントに続く展開。わたくしは御簾越しに、皆様をお招きいたしました。
「姫!どうか文のお返事を」
どちら様も、わたくしに求婚をされておられます。そしてわたくしの台詞は、この世に五つあるという、至宝をそれぞれに取ってきて欲しいというもの。
「宝を持ってこられた御方に嫁ぎましてよ」
ああ!なんて良い気分なのでしょ!女であるわたくしが、結婚相手の選り好みが、こうも簡単に出来るなんて。わたくしが嫌いといえば、追い出す事だって可能。素晴らしいですわ!
「かしこまりました。姫を手に入れる為なら!」
それ急げとばかりに、求婚者達は席を立ち屋敷を出ていきます。決して人間如きに手に入れる事が出来ぬ、神の宝玉を求めて。
うふふ。なんて楽しい。手のひらで転がすとはこういう事ですのね。フフフフ。このあとの展開は、前もって読んでいた書の通りに進めなければ。
偽物を意気揚々とお持ち帰りになられ、わたくしの前に持参をし、嘘八百の苦労話を求婚者達は、べらべらと得意気にまくしたてるのです。
それを聞き終えたあと、わたくし自らバッサリと、それらか偽物だと暴くのです。ああ、楽しみ。楽しみすぎて、お帰りになられるまでが至極退屈やもしれません。
せっかくなので、戻った折に使えそうだと思ったネタを、書にしたためて置きましょう。う、いえ。茶色と黄色の臭いそうなグラデーションの布地に、レース編みをする、多足類でぷっくりした腹には黄色と黒のシマシマ模様でしたわね。尻から糸が出てましたかしら……。
そういえば。お一人、運悪く旅の途中で亡き人になりますわね。諸行無常ですわ。仕方ありません、これも運命と諦めてもらいましょう。
うふふ。このヴァカンスの最大のイベントですわ。その後のお偉い様の権力をかさに来たゴリ押しの求婚なんて、ほんの添え物ですの。
わたくしの最大の楽しみは、五人。正確には四人の男の嘘を次々暴き、屋敷から追い出すこと。そして。
ツアー会社のお迎えが来て、ヴァカンスの終了。あちらに戻る予定ですの。次の仕事も入っておりますものね。これで気合いを入れて役をこなせましてよ。
オーホホホホ。
めでたしめでたし。
ジャンルがあいも変わらず
不明!オーホホホホ。仕方ありません
毎度ながら、変な設定なのです