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「もう店までは確保してあるんだよねー。一応階級決めまえまでにたまってたぶんの金はあったから、みんなに内緒でつかったんだけど……」
五神獣といえば、人間界の誰もが知ってるような神様だし、知名度的に階級がさげられたとて貧相な暮らしにはならないのである。1カ月くらいは。
貧相な暮らしといっても、私たちほど貧乏になってる神様は珍しく、だいたいの神々はその階級に見合った職業も割り振られるのだ。私のとこは寝坊でほかの神々の逆鱗に触れたせいで用意してもらってないというわけ。
まあ用意されないなら、自分で用意するまでってかんじなんだけど、麒麟の姉さんはいつもだらけてるし、青龍にかんしちゃずっと自分の世界にいるわで、玄武白虎に任せるには荷が重すぎるとこのありさまなのである。
でも、店を構えるところまでできたらあとは貧乏生活とはおさらばよ。白虎と玄武は小さいけど麒麟姐さんよりかは頼りになるし、青龍も個人で動いてくれてたらいいし。
私は買った物件の目の前まで移動すると、事前に用意しておいた看板を掲げる。どこにそんな看板を用意しておいたんだと思うかもしれないが、こうみえて私も神様なのでね。ちょちょいと何かしらの異次元能力が働いたわけである。
『万屋五神』と書かれた看板を購入した建物にたたきつけると、空中にちりばめた紅色の羽根で四か所の角を突き刺す。
あとは引っ越しがおわれば準備完了だ。引っ越し業者とはもう話がついているため、あとは麒麟姉さんをたたき起こすだけ。家具やら全部段ボールづめにしてるのに何も言わずにゴロゴロしてるのはほんとに無神経がすぎる。
青龍だけ不満だろうけど、この万屋の後ろも森林が続いているから問題ないだろう。あいつは森がありゃ生きていける。
「じゃあ今日は家具の置き場所を決めるぞーー!」
急に一人で叫びながら家に上がっていく様子を周囲の人に不審がられながらもお構いなし。2階から上が自宅となっていて、一階は店内となっているため、私は颯爽と上にあがっていく。
いわくつきの訳あり物件だから安かったらしいが私は神様、悪魔が隠れていたのでこらしめて出ていってもらった。おかげで3階建ての超お得物件が格安で手に入ったというわけだ。
2階はリビングで、3階に個室があるんだけども、3つしか部屋がない。おそらく麒麟姉さんが部屋を1つ使うと思うんだけど、玄武が麒麟姉さんがいないと寂しくて寝付けないらしいからなあ。それで白虎がついてくとなると3人になるし……。青龍が1人部屋になるのかなあ。
まあそう考えると、家具の配置もだいたいきまってくるってもんだ。
青龍の部屋はなにもなくてよし、残りの2部屋もだいたいレイアウトは決まった。
「あとはもう業者にまかせるだ――」
「なにしてんのこんな家のなかで」
後ろをふりむくと、首をかしげた青龍が私を見ていた。
つけていたみたいである。
「なんか引っ越しの準備を黙々とすすめてるから、言えば手伝うのに。麒麟の姉貴だらしねえから朱雀がはりきる気持ちもわかるけど、さすがに俺でも言われれば手伝うよ」
「いやあ、勝手にいろいろすすめてるから怒られるかと思って……」
「怒られてるならとっくに怒られてるだろ。だれでも引っ越しの準備をしてることくらいみりゃわかるわ。麒麟の姉貴もわかっててだらだらしてるぞ、あれ」
ぽかんとした表情をしている私に、ポニーテールを揺らしながら青龍はつづける。
「だけど、これからは1人でなんでもやろうとするな。相談は大事だ」
「青龍にだけは言われたくなかった……」
「俺は別に金つかってないし」
完全に論破され、私は「ごめんなさい」と一言告げると、青龍と一緒に今の我が家まで戻った。
かえって改めて麒麟姉さんに話をすると、わかってたけどめんどくさいからそのまま私に任せてたようで、白虎に血だらけになるまで噛みつかれておりました。