決闘
化け物ナイトのメルカッツに決闘を強要される主人公「上杉奈月」たち
勝てない戦を何とか回避しようと、あの手この手を考えるが老練な天才軍師はすべてお見通しだ。
余りにも大きな試練を乗り越えるすべはあるのか!?
『メルカッツよ貴殿の役目は勇者の功績を称える事か?それとも、勇者を亡き者にする事か?セリーヌ領主から先ほど褒賞として金貨10枚を頂いたばかりだぞ!』
俺は勝ち目のない戦を避けるために、無い知恵を絞って言葉を繰り出す。
『問答無用!勇者ならば勇者らしく力でその正義をしめせ!』
戦闘は避けられそうもない。
『八雲立つ、スサノオノミコト、国造り!』
メルカッツは呪文をつぶやいた後宣戦布告してきた。
『二人同時に相手してやる何処からでも、かかってこい!ヘイト!』
ナイトのスキル#挑発に反応してミカエルが飛び出す。
『ミカ、足でかく乱するんだ!』
俺はとりあえずそれだけ言ってメルカッツの正面に立ちはだかる。ミカエルは指示通りにメルカッツの周りを飛び跳ねながらスキをうかがう。
『スキルは使うな!小さく当てていけ。』
スキルは詠唱が必要なので発動までに時間がかかる。呪文を唱えているうちに#スタンでも食らったらゲームエンドだ。
しかしこのメルカッツ、先読みが凄いな
一発目のヘイトは無詠唱に見えた。
無詠唱のスキルはこの世界の住人はもっていない。だから先に詠唱を済ませてからスキルを発動したに違いない。メルカッツはセリーヌと同じで天才だ。類は友を呼ぶのだろう。
俺はそんなことを並列思考しながらメルカッツを挑発する。
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『メルカッツ、ミカの動きに翻弄されてるぞ!
俺はまだ何もしていない!(何もできないだけ)』
ミカのレベルは35くらいだろう。
ステータス2倍でレベル70相当の素早さだ
素早さだけなら、レベル80ナイトを上回る。
メルカッツは正面の俺を警戒して思うように動けない。(レベル1だから無視して大丈夫!)
突然メルカッツは詠唱済みの#挑発をミカに浴びせかける。
つられてミカは詠唱を始めてしまう。
"ズバシュ!"
無防備になったミカは#シールドバッシュの餌食になる。
#シールドバッシュは騎士固有のスキルで盾を使って対象を気絶させる。攻撃力は大したことないが、スタンはしばらく解けないのでその間、殴られ放題になる。
『ミカ!』
俺は無防備に左半身を前にしてレベル80ナイトに突っ込んでいく・・・
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『ふっ。愚かな・・・』
メルカッツはお手本通り敵の動きを封じるために#シールドバッシュを繰り出す。
"ズバシュ!"
巨大な盾でエセ勇者を組み伏せる。
『ぐぁっ!!』
死んだかな?
いや、なんとか生きている。
『とどめだ!』
追加の斬撃を残った右半身で何とか受流す。
騎士の剣による攻撃は命中精度が低い。防御専門のジョブだからだ。しかしレベル1の勇者なら一撃で殺せる。最初に剣で攻撃されていたら死んでいただろう。
俺は海人だから、左脳しか麻痺しなかったので、残った右脳でなんとか受流すことが出来たのだ。
『ミカ!助けてくれ!』
死にかけながら俺はミカエルに助けを求めたのだった
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ミカエルは紅蓮の炎に包まれて、その場から消滅した
つぎの瞬間、メルカッツの背後に突然現れて、神速のキックを無防備な背中にお見舞いする。
"ズグッゴワァァーーン"
メルカッツはもんどりうって、50メートルほど先の地面にたたき伏せられた。
『ぐぁぁあっ』
メルカッツが断末魔の叫びを上げる。
バーカーサーモードが発動したのだ。
奴隷は契約した主人が死にかけると極限まで能力が解放されてその危機を救う。この化け物に勝つにはこれしか手がなかったのだが、もう二度と使いたくないな。
いつも狙って出来るわけではないし。
『ミカ、これで止めを刺せ!』
俺は手に持った#ブロンズソードをミカに投げる。ナイトには弓矢が効かないからだ。
『はい!』
ミカは#ブロンズソードを受け取ると、天空高く飛んでいく。
"ズギャッバッ"
そして空中を蹴り飛ばすと流星のごとく赤い軌跡を残しながら、メルカッツの頭上へ殺到していった。
今のミカエルなら#魔王でも倒せるんじゃないかな?
"ズッズッガッガッーンッッッ"
凄まじい轟音をまき散らしながらクレーターが作られた。
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土煙が収まってしばらくするとクレーターの中心からムックリ、メルカッツが立ち上ってきた。
不死身もたいがいにせーよw
『拙者の負けだ。二人とも見事な戦いぶりであった。#究極防御がギリギリ間に合ったので、何とか我は死なずにすんだようだ。』
断末魔を上げながら、詠唱していたんですね。さすが天才
『この者たちの手当てをせよ。死なせてはならん。』
メルカッツは配下の治療士たちに命令する。
どうやら命拾いしたようだ。ミカエルは力を使い果たしたのか、その場に崩れ落ちてしまった。俺は死にそうな体を引きずって、ミカエルのそばへ駆け寄る。
『ミカ!?
大丈夫かっ』
『ご主人様、
生きて下さい』
治療士のヒールの光が、俺たちを包んでいく。
どうやら二人とも次のステージに行くようだ。
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ハイレベルな治療士たちのおかげで、俺たちの外傷は一瞬で癒えていった。死にかけていても魔法ひとつで完治するのが、この世界の良い所だ。
死んだ人を蘇らせることが出来ればいう事ないんだけどな・・・
『貴様たちはよくやった。
お前たちならセリーヌ殿下に会わせても問題なかろう。』
メルカッツは穏やかな表情で語りかけてきた。何が基準でそうなるのか疑問だが、聞くのが怖いのでやめておこう。
『試験には合格したようだな。』
『うむ。わしも久しぶりに命のやり取りが出来て満足じゃ。』
オッサンどんだけ脳筋やねん。付き合うこっちの身にもなれって!
『俺はあなたとは友達になれそうにないな。
自分と仲間の命が大切なんでな。』
『そうか。残念だ。
また手合わせをして欲しかったのだが・・・』
これっきり、いっかいきりですからね!
遠巻きに見守っていたベントス村長がこちらに近寄ってくる。価値観を共有できる人がいてうれしい。
『さすがは勇者さまです。セリーヌ殿下に推薦したかいがありました。』
お前が主犯かーーー
『ご主人さまなら、これくらい当然ですわ。』
ミカエルお前まで・・・
この世界での命のやり取りは軽い。
常に魔物に襲われて食われる危険と隣り合わせだからだ。生き残るにはひたすら強さだけが求められる、シンプルな理がこの異世界だ。
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食うか食われるかの人たちとは、価値観を共有できそうもないが、いま、俺はここで生きている。空気を読む気はないが相手への理解は必要だろう。
『セリーヌ殿下は随分と厳しい人のようだな。』
ベントス村長とメルカッツ騎士にそれとなく尋ねる。
『セリーヌ殿下は配下の者にはとてもよくして下さいます。ですから大丈夫ですよ。』
ベントス村長がフォローする。
『つまり、セリーヌ殿下の配下になれって事だな。この決闘は騎士団入会の試験だったのか?』
セリーヌ信者のメルカッツが後を受ける。
『そういう事だな。貴殿なら大丈夫だ。
何ならキサマらが騎士になれる様ワシが後押ししてもよいぞ。お前なら次期、騎士団長になれるやもしれない。』
つまり脳筋の部下になれってことね!
脳筋軍団のお頭なんて願い下げです!
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セリーヌ信者たちの意図はわかったので、直接教祖様に会いに行くとしよう。
『貴殿たちの言いたいことは理解したつもりだ。あと、どうするかはセリーヌ殿下に会ってから決めたいのだが、案内してくれるか?』
『分かった。ワシが直々に殿下のもとに連れて行ってやろう。』
ぇー。脳筋に連行されていくのか。道中魔物でもけしかけられそうでお断りしてもよろしいでしょうか?
『馬を二頭引いてまいれ。』
脳筋が部下に命令する。
『ワシはこれから勇者殿をセリーヌ殿下に引き合わせにいく。それまでの間、副長が指揮を執って村の周りを巡回しておけ。』
退路はふさがれたが、
勇者に復帰できたので良しとしよう。
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道中魔物をけしかけられることもなく、無事にセリーヌ殿下の街に到着した。
『ではご主人様。わたしは元居た、#狩人ギルドに行って挨拶してまいります。』
『うむ。気をつけてな。いや、待てミカ。俺も一緒に行こう。お前を奪った手前、謝罪しておかないとな。』
男として、落とし前をつけに行くことにする。
『ミカ殿は狩人だったのか?では、今は勇者になったわけだ。』
メルカッツが訪ねる。
ギルド機能のひとつに、ギルド長のジョブを配下に与えるものがある。ミカエルのジョブの#狩人は、以前所属していたギルド長からもらった物だろう。
『メルカッツ殿、#勇者のジョブは特殊でな。たとえギルド長の俺でもミカに与える事は出来ないのだ。』
『そうなのか・・・それは残念至極。かなり期待していたのだがな。』
メルカッツは物凄く残念そうにしている
そりゃそうだよね。騎士団を#勇者で固めれば、世界征服も普通に出来そうだし。
俺たち一行はミカの案内で#狩人ギルドに到着した。
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無味乾燥だが質実剛健な作りの、だだっ広い平屋の奥に数十名の配下を従がえて、#狩人ギルドの長は鎮座していた。ギルド長はかなりハイレベルらしい。
『ハインツさま、ご無沙汰しております。
ミカエルに御座います。ただいまベリエル村での任務を終え帰還いたしました。』
ミカが所属していた、#狩人ギルドの長はハインツというらしい。
すぐに忘れてしまうだろう。
『ミカエルか、よく戻った。壮健そうで何よりだ。』
かなり老齢だが、眼光が異常に鋭い偉丈夫が、ミカエルに声をかける。
『ハインツさま、勝手にギルドを脱退して申し訳ありませんでした。任地先で勇者さまと出会い、奴隷として死ぬまでお仕えすることにいたしました。』
『・・・そうか。
お前はわしの後継者にと思っておったのじゃがそのような理由があるのなら致し方ない。脱退を許可しよう。』
物わかりのいい爺さんでよかった。
俺の姿を見据えて、爺さんはいう。
『お前が勇者か・・・
随分と弱々しいなりをしておるな。』
アバドンローブセットだし。
どっかで聞いたセリフだし。
決闘はぜったいいやだだし。
メルカッツが助け舟を出してくれた。
『ハインツ老よ。こ奴は確かに#勇者だ、濃が保証する。先ほど手合わせしてもう少しで殺されるところだったからな。』
貴方を殺したのはこいつです!
ミカエルを見ながら、俺はハインツ老に謝罪する。
『ハインツ殿、この度は勝手に後継者を奪ってしまって申しわけなく思う。貴殿の要望があれば何時なりとも助太刀する故、何なりと申し付けて下され。』
この世界での常套句を言っておく。
『あい分かった。お前には一つ貸しておくことにしよう。この貸しは高くつく故、心しておくがよい。』
物わかりは全然よくないようだ。
仕方ないな。この美貌だし。じゃなくって、これだけの使い手だし。妙なところで妙な貸しを作ってしまった。
この世界では金で済む事は少ない。命を差し出してやっと釣り合うという感じだ。俺たちは逃げるようにしてハインツギルドを後にした。
『では、セリーヌ殿下の元へ案内する故、ついてまいれ。』
やっとここまで来たか。きっとセリーヌに会えば、色んな謎が解けるかもしれない。
俺は期待半ば、恐れ半ばの怖いものみたさで、心を掻きむしられながらメルカッツに従われ、セリーヌの根城を訪れたのだった。
死の間際まで追いつめられるも無事難関を突破した「上杉奈月」
しかし、ミカエルを得た代償は、またもや命だった。
なぞに包まれたセリーヌ殿下に会うため根城を訪れる一行。
果たしてこの先にはどんな試練が待ち構えているのか?