迷宮からの帰還
勇猛果敢に?迷宮内へ最初の一歩を踏み出す「上杉 奈月」
軽い気持ちで軽い成果を求めていたのに初期イベントはハードモードだった。
命のやり取りを強要されるものだったが
果たして主人公は危機を脱する事ができるのか!?
ゴブリンに後ろから飛びつかれるのも無視して
俺たちは必死に狩人の方へ走っていく。
『撃て、撃てー!!防御を固めろー』
ゴブリンに何回もかじられたが、とりあえずまだ生きている。
おっ!?五番も生きてるな。よかった。
ポケットからいつでも取り出せるようにしていたポーションを素早くだして、まず五番に飲ませる。一応リーダーだからね。
続いて戦況を見ながら残り一本のポーションをラッパ飲みする。これでしばらくもつだろう。
ゴブリンどもは迷宮から10匹くらい這い出してきていた。群れ全部が一度に追いかけてきた訳ではなさそうだ。(全部出てきてたら、全員あいつらの胃の中だな)
連係がとれてない魔物でよかった。各個撃破すれば、何とか生き残れるだろう。
いや違う。これは作戦の一部だ。
俺はゴブリンの群れを各個撃破するために、プラーしたんだ!
『うまく群れの一部を釣ってこれたらしい。無理に剣で攻撃せずに盾で押し返せ。一番の狩人は一匹ずつ確実に仕留めていけばいい。』
俺は一緒に逃げ出してきた五番の視線を気にしつつ、適当な事を言う。
うん。大丈夫。誰も行き当たりばったりな作戦に気づいていない。
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俺が釣ってきたゴブリンどもは狩人が全部撃退した。
『よし。一番、よくやった。
二番と三番はゴブリンが落としたアイテムを回収してくれ。四番は迷宮方向を警戒。五番は後方及び周囲の警戒だ。』
『『『ハイ』』』
戦闘が一段落し、アイテムも回収し終わったので一度全員を集めてみる。
『みんな聞いてくれ。
俺たちが迷宮を偵察した所100匹くらいのゴブリン溜まりが出来ていた。』
『『『おおー』』』
『よくぞ御無事で。流石、勇者さまです』
ふむ。全部狩人くんのおかげです。
『このままゴブリン溜まりを放置すると、次に入ったパーティーが被害を被るだろう。少し危険だが、全部討伐していこうと思う。』
みんなの顔を見回すとちょっと不安げではある。村民と農民だから仕方ないよね。
『大丈夫。
さっきみたいに少しずつ釣ってきてこの場で各個撃破すれば必ず勝てる!』
『『『ハイ』』』
勇者の洗脳はかなり順調だ。
『プラー役は狩人以外の全員でまわしていく。
なに、大丈夫。勇者パーティーなら足の速さもゴブリン以上だから。(うそです)
まず最初は俺が手本を見せて何匹かつってくる。よく見て覚える様に』
『『『ハイ』』』
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」by 山本五十六
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俺はプラー役の手本を見せるべく、なるべく目立たないようにして、こそっと迷宮の中に侵入した。
『うむ。入口付近にはゴブリンはいない様だな。』
不安を拭うため、あえて声を出してみる。
抜き足、差し足、忍び足で、
カサコソと
ゴキチャンのように
挙動不審全開にしながら
迷宮の奥へと進む。
『…いた…』
俺の声に反応したのか、数匹のゴブチャンがこっちを振り向いた。
後は脱兎のごとく迷宮を飛び出して
狩人のところに逃げていくだけだ。
『一番、撃て撃てー!他の者は盾で押さえろー!』
俺は今度はゴブチャンにかじられる事もなく、プラー役を全うした。
3匹か。。。少なっ!?・・いや・・・人間コツコツが大事です!
あっ。人間じゃ無かったw
『まあ、こんなもんだ』
俺はふんぞり返って、ドヤ顔で、隊員を見回す。
『つぎ、やってみたい者!挙手!』
『はい!』
いやきみはダメだって。
『じゃあ、二番いってみるか!』
『ハイ』
なんかどっかの教祖みたいだな。まあ似た様な物か。
このイベントが終わったら
勇者さま教でも作ろうかな。
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ゴブリン溜まりは勇者さま教徒の活躍で、順調に解消されていった。
途中、若干一名、かじられた、間抜けがいたが、たいした問題ではない。
ちょっと痛いだけだ。
ポーションの空の瓶を舐め舐めしつつメンバーに声をかける。
『うむ。みんな、よくやった。ゴブリン溜まりは解消したようだ。』
俺は十分安全になった迷宮の入り口から出てきてパーティーメンバーに作戦終了の報告をする。
『だいぶ日が陰ってきたな。最後に迷宮の周りを一周して、アイテムの残りを拾ってからベリエル村に帰る。』
『『『ハイ』』』
俺たちはゴブリンどもが残したアイテムを拾い集め、手分けして背負い、狩人を先頭にして意気揚々とベリエル村への帰途に就いたのだった。
ゴブリンとはいえ100匹も狩ればかなり金になる。
おまけに迷宮に名前も残せたし、いう事なしだ。
この初期イベントはかなりアタリだな。
1、伝説の勇者がぽっくり現れて
2、迷宮討伐に出発し
3、迷宮に名前を記した後
4、ゴブリン溜まりを始末する
うむ。
こうして並べてみると、ちょっとした英雄譚だ。
実際は・・・
1、死んだ間抜けな冒険者が
2、迷宮討伐を押し付けられて
3、柄にもなく最初に迷宮に足を踏み入れ
4、死にそうになりながら仲間に助けてもらう
だけどな。
しかも、レベル1だし。。。
アイテムボックスに装備品を入れてみるが、相変らず一個しか入らない。
この世界ではゴブリン100匹倒してもレベルは1も上がらないんだよな。
トンデモハードモードだよ。
はぁ。
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この魔法と剣の世界では人工的な明かりは殆ど無い。あっても松明とか油が少しあるだけで一般庶民はもったいないので使わない。日が暮れたらやることやって寝るだけだ。
魔物たちもそんなルールを知ってか知らずか夜間には活動しない。
ただ迷宮の中は絶えず淡い明りが灯っているので人も魔物もやりたい放題だ。
だから、夜働くのが好きな人は#迷宮冒険者になる。(うそです)
ベリエル村に急ぎ足で帰ったのだが、ゴブリンとの戦闘に思いのほか時間をとられたので、道半ばですっかり暗くなってしまった。
しかし、日が暮れると魔物には襲われないし道案内の狩人がいるから迷うことは無い。ちょっとヘタレが小石につまずくだけだ。
『勇者さま、もうすぐベリエル村につきます。』
狩人が気を利かせて、俺に話しかけてくれた。いや、実際全く夜目が効かないので
一体どこを歩いているのか、皆目見当がつかない。
もう村なんだね。ありがとぅ。そっと、こころの友に礼を言う。
『うむ。ご苦労。みんなも大変だったな。協力に感謝する。村に帰ったら、きっと歓待してくれるだろう。』
何しろ、勇者さまご一行の凱旋だからな。
手柄はすべて狩人くんの物なんだけどね。
ああっ。腹減った。。。
俺たちは、ひっそりと静まり返ったベリエル村の正門を潜り抜けていった。。。
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ベリエル村はやけに静まり返っていた。物音一つ聞こえてこない。
ありゃ?
俺たちがいない間に魔物の群れでも押し寄せてきて全滅したのかな?そんな不埒な事を考えていると村長宅から見慣れた姿の人が現れた。
えっと、そうそう。ベントス村長だ。
『あぁ。よかった。無事のご帰還、おめでとうございます。勇者さま!』
『うむ。迷宮の入り口でゴブリン溜まりを見つけてな。排除するのに時間をとってしまった。心配をかけたようで申し訳なく思う。』
俺は事の詳細をなるべく簡潔に述べる。(腹減って眠いんだよな。早く進めよう)
『左様でございましたか。
勇者さまが後れを取るとは思っていませんでしたが、もしもの事があるといけないので捜索隊を編成していたのです。』
随分と心配をかけてしまったようだ。
『お疲れになられたでしょうが、村の皆に会って迷宮の話など、聞かせて下さると助かります。』
『ああ、構わんよ。みんなどうする?
一緒に参加したい者はついてきてくれ。魔物から得た戦利品は、明日分配するから目が覚めたら村長宅を訪ねてくれ。今日はご苦労だった。ありがとう。では解散する。別れ!』
俺は軍隊式の簡潔な挨拶と敬礼を行って呪文を詠唱しパーティーを解散した。
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村民たちとの会談はスムーズにすすんだ。パーティーメンバー二番の#農民が一緒にきてくれて状況を説明したので、俺はちょっと捕捉しただけだ。
掻い摘んで話すと以下の通りになる。
1、伝説の勇者が偶然通りかかって
2、迷宮巡察に出発し
3、迷宮に名前を刻んだ後
4、ゴブリン溜まりを始末した
いやいや。まあ、これはこれでいいか。
英雄になる気はないし、英雄願望もないので
このままの冒険談が
広がると、木っ端恥ずかしいが
この世界で不利になることは無いだろう。
このまま修正を加えずに指をくわえているかな。(なんのこっちゃ)
村民たちとの歓談が終わると、みんなそれぞれ家に帰っていった。(メシメシ。寝どこー)残された村長宅の人達は3人分の食事を用意してそのテーブルに俺を案内してくれた。
えっと。一人は、わたし
一人は、村長。もう一人は奥さんかな?
そんな事を考えながら出てくる料理にワクワクしつつ、お腹を鳴らしていると一人の素晴らしい身のこなしの女性が隣に腰かけたのだった。
誰だっけ?!
村長がすぐに部屋に入ってきて、ねぎらいの言葉をかけてくれた。
『今日は本当にご苦労様でした。村の皆もすごく喜んでおりました。お礼の品を用意させて頂きましたので、お受け取り下さい。
お腹も空かれたでしょう。夜も遅いですし、食事をしながらお話ししましょう。』
お礼の品って、隣の美乳じゃないよね?!
『そうだな。明け方にはまたパーティー編成して
魔物を警戒しなければならないしな。』
『いや、もうその必要はありません。
勇者さまには十分活躍して頂けたので明日からは、領主のセリーヌ騎士団が事に当たってくれるそうです。』
セリーヌ領主ね。よくある名前だが、そんな領主いたっけかな?
俺は悪い頭を働かせて思いだそうと努めるがダメだった・・・
仕方ないよね。だってこの世界には領主が何百人もいるんだから。
#領主になる方法はいたって単純だ。
単純だが、簡単ではない。
人と魔物はこの地上で覇権争いをしている。
つまり土地の奪い合いだ。
だから、相手の領地、つまり魔物の迷宮や魔物の領域を奪えばその土地の領主になれる。魔物の領地を奪うには相手の親玉、つまり迷宮の主や魔物の領域の主を討伐すればいいわけだ。
討伐に成功すると自動的にその土地の領主として登録される。至ってシンプルなシステムだ。
俺達は今朝、迷宮の主と戦って死んでしまった。もし、あのままボスの討伐に成功していれば今頃俺は領主になっていたという寸法だ。
『あい分かった。これでお前達も安心して暮らせるというものだ。それにしても、ここの領主は随分よくできる人のようだな。迷宮が出来てまだ間もないのに、直に騎士団を派遣出来るとは。』
『はい。セリーヌ様は15年前に領主になられたばかりですが、その手腕は並外れており、王に格上げされるのもそう遠くないと噂されております。』
王に列せられるのか。そりゃ凄い。
こりゃ一介の傭兵である俺たちの出る幕はないな。そんなことを考えながら隣の娘のふくよかな美乳を眺めつつ、料理を堪能したのだった。
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『勇者さまっ、わたしをもらって下さい!』
隣の美乳の持ち主が突然意味不明の言葉を口にする。
『ぐはっわっw』
どっかで聞いたことのあるハスキーボイスに突然告白されましたよ!?
完全に無防備だったので、もろに食らってしまったではないか。。。俺は息をするのも忘れて、しばらく隣に座っている美形の女性を凝視してしまった。
『・・・・・?』
『勇者さま、あなたのそばに
置いていただきたいのですが・・・』
『あれっ?!もしかして、一番さん?』
『ハイ。一番の狩人、ミカエルです。』
ハイ、ミカエルさんですね。しっかり覚えましたよ。
『えっと。なんて答えたらよいのだろうか・・・』
間を取り持ってベントス村長が声をかけてくれた。
『勇者さま、このミカエルはべリエル村で雇っている
用心棒なのです。腕は確かなのできっと勇者さまのパーティーでも役に立つと思います。連れて行ってやってはもらえないでしょうか。』
えっと、美人局ではないよね?
『つまり、戦力として連れて行けってことだな。』
『はいそうです。
このミカエルは勇者さまと一緒に狩りをして、すっかりあなたに心酔したようです。しばらくは、この村に残って魔物に対する防壁となってほしかったのですが、本人の強い要望で用心棒の任を解きました。
あとはあなたさま次第、と言う事になります。』
俺は村長とミカエルの間に挟まれて退路を断たれてしまったのであった。
ハードモードの初期イベントをクリアーした主人公の「上杉 奈月」
報酬は、美味しい夕餉と賞賛の数々
そして、
村長からもらえる金で打ち止めかと思いきや強力な美乳まで頂けそうです。
これは罠かそれとも神様からのご褒美なのか?
進退窮まった主人公の次なる行動はいかに。