迷宮巡察
パーティーメンバーを洗脳しつつ迷宮巡察におもむく主人公の「上杉 奈月」
自身の力の無さをパーティー編成の妙とゲームの知識や気合で克服できるか!?
自分の力を確かめてもらう為パーティーメンバー同士少し組み手をしてもらった後(俺は死んだらダメなので組手には参加しない)
メンバーを整列させた。
さて、戦闘態勢は整ったのでかるく迷宮へ巡察にでもいってみるか。
『みんな、ステータス2倍・・・じゃなくて、
力が倍になった感覚はつかめたかな?』
『『『ハイ!』』』
いい返事だね。
かなり勇者に洗脳されている!
『じゃ、ちょっと腕試しに・・・じゃなくて、
戦闘能力を確かめるために迷宮まで巡察に行ってみよう。』
『『『ハイ!』』』
『その前に、一番の狩人くん。きみパーティー参謀ね。』
『ハイ!』
俺はパーティー編成の呪文を唱えながら狩人の一番を#参謀にする。
#参謀の事を少し説明するとPTLが死亡した場合、自動的に参謀に指名された者がリーダーに格上げされる。
また、PTLの能力がパーティーメンバーに反映されるのと同じく、参謀の能力もパーティーメンバーに反映されることもある。
たしか、#狩人のジョブ効能は命中力上昇と瞬発力上昇だったはずだ。上昇率はレベルが関与していたような。
うろ覚えで申し訳ない。
何しろかなりポンコツな物で。
狩人くんのレベルは30以上あるだろう。年齢は35歳くらいか?俺よりも5歳は年上だ。かなりのベテランさんという事で間違いないだろう。
あれ?俺って30歳だったよな。。。
でもさっき身分照会で見たら15歳だったような。
何かの見間違いかな?
まあいいや。。。いや、よくないな。
とりあえず、巡察が先だな。問題は後回しっと。
俺は心に引っかかる懸案事項を無理やり引っ込めて迷宮に向かって巡察に行くことにした。
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『村長、ちょっと迷宮まで巡察に行ってくる。』
俺は忙しく立ち働いていている村長をつかまえて一声かける。
『ハイ、行ってらっしゃいませ。くれぐれもお気をつけて。』
村長の期待のこもった視線がイタイ。
『行って帰ってくるだけだから、日が暮れるまでには戻る。
それまでの間、警戒を怠らない様にしてくれ。』
『了解しました。無理しないで下さいませ。命は一つですからね。』
心に刺さる言葉をありがとうw
『美味しい夕餉を作ってお帰り、お待ち申しております。』
『じゃあ、行こうかみんな』
『『『はい!』』』
俺たちは、村長以下、数名の村民が見送る中、ベリエル村の正門をくぐって迷宮までの道のりを巡察に出発したのだった。
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迷宮までの道程はかなり単調だ。道は無いが、なだらかな草原を突っ切って迷宮の入り口に向かって行軍するだけだからだ。
途中魔物に遭遇するかもしれないが、迷宮から外に出てきた魔物は大抵単独行動なので#狩人のスキルショット一発で簡単に仕留める事が出来るだろう。
もう一度言っておく。
狩人くんだけが頼りなんだからね!
俺は指揮官だから、後方から命令するだけだし。(俺ってどんだけヘタレなんだ)
『みんな、ちょっと聞いてくれ。パーティーで編隊をつくるからね。
パーティーの先頭には一番が右、二番が左。
少し後ろの中央がわたし。
わたしの左右に三番と四番が展開。
しんがりが、五番だ。後ろの警戒をたのむ。
では、フォーメーションをとれ!』
俺はPTLらしく命令を発する。(みんな俺を中心にして、弱小勇者を守るんだ!)
狩人くんが率先して動いてくれるので、他のパーティーメンバーもスムーズに連携できるようになった。さすが、参謀。期待してるよ!
『先頭の二人はもう少し前にでてくれ。前方の警戒と報告は、こまめに頼む。
三番四番はもっと広がって。
五番は後ろを警戒しすぎて遅れないようにな。』
『『ハイ!』』
順調に迷宮までの道のりを踏破しながらパーティーメンバーを洗脳していく。。。もとい、訓練していく。即興のメンバー編成にしては中々いけてるような気がしてきた。
一番レベルが低い俺が指揮官ってのがネックなんだが
そこには触れないという事で。
空気を読まないとね。みんな。
良好な人間関係が、一番大切だというし。
「和を以て貴しとなす」と、厩戸皇子も言ってるでしょ。
オラにみんなの力をちょっとずつ分けてくれ
じゃなくて、
オラにみんなの力を全部くれw
だった。
ピクニック気分で行軍していると、良い塩梅に魔物が一匹ひょっこり顔を出した。
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『勇者さま、ゴブリン発見』
うむ。確かにゴブリンだ。
#鑑定スキルが使えないので、レベルまでは分からないが、きっとレベル1ゴブリンだろう。安全第一で、狩人くんにはスキルショットで撃退してもらおう。
『一番射撃用意。
ダブルショットで、射程に入り次第攻撃せよ。』
『了解。・・・・・・・・・
アハシシマ、流され居つく、海の神!ダブルショット!』
"バシュ!バシュ!"
"ズガガッ!"
『やりました!勇者さま』
『よくやった。後続がいないか警戒を怠るな!』
どうやら迷宮の外に出てきた魔物は、狩人くんのスキルショットだと一撃で倒せるようだ。なんたってレベル30以上だからね!
スキルショットの消費魔力は確か30だったかな?
レベル35の狩人の場合魔力の総量はだいたい300くらいか。
いや、違う違う。
勇者ボーナスでステータスが倍になってるから、約600だ。
スキルショットなら連続で20回くらい撃てる計算になるな。
魔力は10秒に1ポイント・・・じゃなく、2ポイント回復するとして、休み休み使えばかなり連戦しても大丈夫なはずだ。
俺は無い知恵を振り絞って計算式を組み立てる。
『一番、次に魔物が出てきたときは、最初の一発はスキルを使わずに撃ってくれ。二発目はスキルショットで頼む。』
『分かりました』
次は通常攻撃が、どれくらい魔物に効くのか試してみることにしよう。
しばらく進むと、間抜け面したゴブリンがひょっこり顔を出してきた。
魔力を温存するためにスキルを使わないで通常のショットで撃ってもらうが一発では沈まない。世の中そう簡単にはいかないね。
オーバーキルになるが安全を期してスキルショットを叩き込んでもらい、ゴブリンさんに、昇天して頂く。
『勇者さま。ゴブリンが魔石を落としました。どうぞ。』
『ふむ。ご苦労』
二番の農民がゴブリンが残した魔石を拾ってきてくれた。
『魔物が残したアイテムは後で均等にパーティーメンバーに分配する。
それまでは、三番が保管してくれ。』
『三番、了解しました。』
よしよし。
だいぶ軍隊らしくなってきたな。
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2匹のゴブリンを血祭りにした後は迷宮の入り口まで魔物に出会わなかった。
ベリエル村からここまでの工程は、約2時間。
日没まで、今から3時間あるとして1時間ここに留まることが出来るな。走って帰れば暗くなる迄に2時間狩りが出来るか。
この世界では電気などという 洒落たものはない。
日が昇ったら起きて仕事にいそしみ、
日が落ちたらSEXして寝るだけだ。
(だからこだくさんなんだよ。だってそれしかすることないんだもん)
あと一回、通常のショット何発でゴブリンが沈むかテストしたかったが、出てこない相手に文句を言っても仕方がない。ここはしばらく迷宮の入り口に陣取ってポップした魔物を安全に頂くことにしよう。
『狩人くん、ウッドアローはあと何本ある?』
『はい。えっと、約50本あります。』
『オッケー。30本は四番に渡せ。四番は一番の、弓矢補充係な。我々はしばらく現在地にとどまって魔物を通常のショットで撃退できるかテストする。
テストが済んだら次の作戦行動に移る。
警戒要員の四番と五番を除いて他のメンバーは少しのあいだ休憩に入れ。以上。』
『『『了解!』』』
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『『『・・・』』』
一時間が経過した。十分な休憩はとれたのだがウサギ一匹現れない…どうしよう?手ぶらで村に帰るのも癪に障るし。
せめて美味しい夕餉を頂けるくらいの、成果が欲しいよね。。。
『一番、ちょっと尋ねるが、普段ならゴブリンを通常のショット何発で沈められる?』
『えっと、弱い奴なら4発か5発くらいですね。スキルショットなら2発です。
勇者さまのパーティーだと1発で倒せるのでびっくりしました。』
まあ、そんなものか。
つまり勇者パーティーなら通常ショット2発でゴブリンを倒せるって事だね。
って、テストなんかしなくても最初から狩人さんに聞けば良かったのか…
俺ってやっぱかなりポンコツだよね。。。
『ふむ。分かった。
そろそろ村に帰る時間だが、少し戦果が欲しい。
俺は五番と一緒に迷宮に入って、斥候してくる。
迷宮の入り口を確保したら呼ぶので
他のメンバーは現在地で周辺警戒しながら待機してくれ。』
『『『ハイ』』』
本当はこのまま帰って夕餉を頂きたかったのだが、ゴブリン2匹では村長に合わせる顔がないので仕方なく迷宮にチョビット入ってみることにした。
パーティーメンバーだけで偵察に行かせるのは勇者の沽券にかかわるので、仕方なく自分の命を張る事にする。(もう死にたくないな)
俺は握りしめた#ブロンズソードを眺める。
命を張るにはみすぼらしすぎる武器だが仕方ない。
えっと、その前に、何発なぐられると死ぬか計算しておくか。。。
レベル1の基本ステータスは10で勇者効果で20だろ。
筋力20
瞬発力20
耐久力20で
合計60÷3=20
10をかけると200か。
俺のHPは現在200ってところかな。
ゴブリン一発の攻撃で20ダメージをもらうとすると、10回殴られるとやばいってことだな。
『よし!いくか。五番、ついてこい』
俺は掛け声も勇ましく生贄の五番を従えて、迷宮探索へ乗り出していった。
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俺達はおっかなびっくり、新しく出来たばかりの
迷宮に第一歩を踏み入れる。
迷宮とは何かというと、魔物の住みかだ。
魔物は別に迷宮にだけ住んでいるわけではない。地上にも魔物は住んでいてその土地は魔物の領域と言われている。
迷宮にも、魔物の領域にも主が居て主を倒さない限り魔物は増えていき人は駆逐される。逆に魔物を駆逐して魔物の主を倒すと人の住める場所が広がって、人口が増えていく。
つまり人と魔物は陣取り合戦をしているわけだ。
現在では人と魔物の領域は拮抗しているそうだが3000年前くらいには人はほとんど絶滅していたらしい。
たまたまその当時現れた伝説の英雄、初代皇帝イカロスが偉大な王だったので、何とか人が勢力を盛り返した、というわけだ。(これ全部、セリーヌの受け売りね)
この名もない迷宮に入るのは、俺が一人目のはずだ。
迷宮の名称は最初に入った人の名前が冠される。
鑑定が使えないのが残念だが、領主にはこの迷宮が「上杉 奈月の迷宮」と表示されているだろう。名を残すことが出来たからもう死んでもいいかなw
冗談はさておき、少し奥に進んでみることにした。
『五番、俺の後ろから離れるな。左右の警戒を頼む』
『・・・ハイ・・・』
どうせ出てきても
たかがゴブリン、レベル1だ。大した事はない
いや、俺もレベル1だった。
"ガサッ、ガサッ"
"ゴソッ、ゴソッ"
"ザワッ、サワッ"
『やけに騒がしいな・・・』
俺は不安をそのまま口にだしてみる。
『リーダーやばいです。ゴブリンの群れですよ』
それいうか!
ここはそっと後ろを向いて、気づかれないように脱兎のごとく逃げ出すところだろう。俺たちの祈りもむなしくゴブリンたちは哀れな生贄2匹に殺到してきた。
『逃げろ!!』
言うよりも早く俺たちは、後ろを振り返りもせず、迷宮の出口に向かって全力で走っていった。
"ガブッ"
『イタッ』
一回噛まれた!?ゴブリン足速すぎ!
迷宮の入り口から転がりだして俺たちは、4人の仲間のいる方へ必死に駆け出したのだった。
村民の期待を一身に受けて迷宮巡察に行ったものの、戦果を求めるあまり無謀にも
迷宮内部へと突き進む。
ゴブリンの群れに遭遇戦を挑まれて命かながら逃げ出す「上杉 奈月」たち。
果たしてべリエル村に生還して美味しい夕餉を食べる事ができるか!?