迷宮討伐
脳筋バトルジャンキーたちの魔の手から逃れた「ナッツ」と「サンディー」は
仲間たちと合流すべく、いつもの狩場にテレポートしてきた。
家族たちの顔を見てホッとする主人公の「上杉奈月」
今日も日銭を稼ぐため、バリバリとモンスターを狩り始めるのだった。
脳筋バトルペアである、セリーヌ&メルカッツとの模擬戦を終えた「上杉奈月」と「サンディー」は、さきに迷宮に潜らせていた、家族パーティーと合流するため、迷宮浅瀬へテレポートしてきた。
『お待たせー。ファンチェル、お前居眠りしないで真面目に狩してたか?
ミカエル、弓のペアは問題なかったか?』
『おーぃ、朝ごはん、まだなんだけどぉー。奴隷虐待はんたーぃ。オークの丸焼きいがい、なんか食わせろぉ、このドスケベー。』
ファンチェルが、いつも通り毒ずく。
『あっ、ご主人様おかえりなさい。無事帰れたのですね。おめでとう御座います。こちらは何の問題もありませんでした。魔石も順調に溜まっているので、いつでも武器強化できますよ。』
ミカエルは、いつも通り、こころの灯だ。
『ミカ、小さな魔石はどれくらい溜った?
10個ほどだして、#アバドンロッド+0/16を強化してくれ。』
俺は早速セリーヌから提供された魔法武器をだして、#武器職人のミカエルに強化してもらった。#アバドンロッドは無事+3まで強化された。
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モンスターや人が落とす魔石はいろいろな使い道がある。売れば金になるし、武器や防具を強化することもできる。
ファンチェルのように、魔物や魔獣を呼び出す触媒として使うこともある。
魔石とは何なのか簡単に説明すると、モンスターや人の生命力が固体化したものだ。気体状のものは魔素として空気中に浮遊している。そして、魔石や魔素をエネルギーにしたものが、魔力と呼ばれている。
現代社会の物を、無理やり魔石などに当てはめると、以下のようになる。
魔石→電池
魔素→電気
魔力→明かり
魔力とは何かというと、人が発する見えない力、つまり気だ。この異世界では神との契約によって気を実体化させ、不思議な現象を誰でも簡単に引き起こすことが出来る。日本に帰ってきても出来るような気がするが、気のせいだろう。
『ぉ。ファンチェル、随分頑張ったんだな。スキルポイントが結構たまってるぞ。予定通り、お前は今日から#防具職人な。』
『寝言ゎー。寝てからいぇー。ワタシャ#死霊士だと言ってるだろぉー』
ファンチェルのレベルが7になっていたので、余ったポイントをジョブ拡張に使った。
3つの目の職業を#防具職人にする。
これで#武器職人、#防具職人、#装飾具職人が揃ったから、これからはセリーヌに頼まなくても装備品を強化できるな。
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『じゃあ、狩を再開するか。ファンチェル、#オークシャーマンを出してくれ。パーティーバフを掛けたら地下一階から行ける所まで行ってみよう。』
うちの家族パーティーには、モンスターを服従させることができる、サンディーがいるので、ほとんどの魔物は抵抗してこない。どのレベルまでのモンスターが無力化するか確かめるため、今日は実験をかねて下の階層に行ってみることにした。
『サンディー、#覇王波を使いながら先導してくれ。どんどん下に降りて行って大丈夫だからね。とまれと言ったら止まってくれな。』
『うん。わかった、とーちゃん。まかせて』
サンディーの先導で、無抵抗の魔物を狩っていく。
これは、楽ちんだが、癖になる。じゃなくて、
こっちが腑抜けになる。教育にも悪いな。。。
ファンチェルなんか完全に歩き寝してるし。。。
こんな状況が地下二十階まで続いたのだった。
『地下二十階でやっと、#覇王波が効かないモンスターが出てきたな。
魔物のレベルは20くらいか。おおむね、サンディーの合計レベルと一緒だな。
これからは地下20階層から狩りをする事にしよう。
ミカエルのレベルは40だから、レベル適正もぎりぎりあるし、丁度いいか。』
モンスターを狩ると揮発した魔素が体内に取り込まれて
経験値として蓄積されていく。
高レベルの者が、低レベルの者をたくさん狩っても、なかなかレベルはアップしない。逆に自分よりも強い相手を倒すと、極端にレベルが上がることもある。
『ファンチェル以外は、危険なさそうだな。これからは地下二十階から下の階層で稼ごうと思うが、みんなはどう思う?意見を聞かせてくれ。』
ミカエル:『問題ないと思います。』
ファンチェル:『わたしぉー、殺す気かぁー』
サンディー:『とーちゃんに、まかせるー』
問題なさそうだ。
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ファンチェルを見殺しには出来ないので、仕方なくモンスターの壁を召喚することにする。地下20階層はリザードマンたちの住処だったので、鱗の分厚い奴を丸焼きにして、ゾンビとして蘇らせる。
『ファイアーショット!ファイアーショット!』
"ゴゥワッ" "ゴゥワッ"
『ゴッギャワー』
リザードマンを丸焼きにすると、すぐにファンチェルが呪文を唱える。
『ツクヨミの、光りに来ませ、奈の国へ!魔物召喚!』
『ファンチェル、リザードマンゾンビに自分を守らせろ。お前は今日は、戦闘には参加しなくていいからな。』
『当然の処置であるぅー。私わぁー寝る。。。』
そろそろ盾役が欲しくなってきたな。。。
しかし、ファンチェルはよく寝るな。種族が#猫人だからだろうか?
猫を飼ったことがある人は知ってるとおもうが、ニャンコさまは本当によく寝る。良く寝るというかいつも寝ている。一生のうち大半は寝てるんじゃないだろうか?寝てばかりで人生つまらないような気がしないでもないが、本人はいたって幸せそうだ。だから問題ない。ファンチェルの場合は問題アリアリだが。
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サンディーに先導されて、20階層から下へどんどん狩の範囲を広げていく。
#吸生気のスキルでモンスターまでの最短距離が判るし、#覇王波で大半の獲物は無抵抗だから、かなり楽チンだ。流石に一撃では倒せないが特に危険は感じない。好事魔多しというから、こういう時こそ気を引き締めないといけないね。
『ファイアーレイン!ファイアーレイン!』
"ゴゥワッワワッーゴゥワッ" "ゴゥワッワワッーゴゥワッ"
『ギョウヮー、ギョウヮー、ギョェー、ギョェー』
"ビシュッ" "ビシュッ" "ビシュッ" "ビシュッ" "ビシュッ" "ビシュッ"
『ギャワッ、ギャワッ、ギャワッ、ギャワッ、ギャワッ、ギャワッ、』
"ビィシィ" "ズバッ" "ビィシィ" "ズバッ" "ビィシィ"
『ギョッワ、ギョッグ、ギョッワ、ギョッグ、ギョッワ』
ここまで一方的に乱獲していると、狩というよりも虐殺に近いな。
モンスターは見つけ次第、俺、ミカエル、サンディーで取り合いのように始末していく。ファンチェルは宣言通り、歩きながら寝ている。。。しばらく作業のように魔物を狩りつくしていくと、いつの間にか地下四十階層にまで到達していた。
『とうとう40階層まで来ちゃったな。セリーヌのパーティーに鉢合わせするかもしれないから、ここから逆に上へ登っていこうか。』
セリーヌは俺たちと違って、稼ぐために迷宮に入っているわけではなく、速やかに迷宮の主を排除するために探索している。邪魔したら悪いし、戦闘マニアからはなるべく距離をとった方がいいだろう。絡まれたら嫌だし。触らぬ神に祟りなしだ。
『とーちゃん、かーちゃんがこっちに向かってきてるよ。』
逃げ出すのが遅かったようだ。
仕方がないのでこの場でとどまって、セリーヌのパーティーを出迎える事にした。
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『やあ、ナッツ。やっとここまで来れるようになったんだね。
サンディーがいるから当然か。
やっぱり#覇王波と#吸生気のスキルは伊達じゃないね。
サンディーちょっと、手伝ってほしいことがあるんだ。
じつはここの迷宮の主、かなりビビりでね。
近づいたとたん、テレポートしてどっかへ逃げてしまうんだよ。
お前なら、主のいる場所がわかるだろうから、影渡りで奇襲をかけたいんだ。』
セリーヌにしては、迷宮の主の討伐に手間取っていると思ったら、そういう事情があったのか。。。逃げ回る相手を追い詰めるのは、結構大変そうだ。
『うん。わかった。かーちゃんのお手伝いするー』
仕方がないな。ここは、ひと肌脱ぐことにしよう。一つ貸しだからね!
『セリーヌ、どんな作戦で行く?サンディーはまだ初心者だから、あまり無理させたくないんだ。お手柔らかに頼むよ。』
『わかってるって。わたしにとっても大切な娘なんだから、命の危険にさらすような事はしないよ。
まずサンディーには迷宮の主をマーキングしてもらい、影の道を作る。
そのあと#影渡りで、わたしとメルカッツが先行するから、他のメンバーは後からついてきてくれればいいよ。
多分たどり着いたころには、全部終わってると思うけどね。』
『うん。わかった、かーちゃん。まかせて。』
この作戦ならサンディーが矢面に晒されないか。
『じゃあ、ナッツ、わたしとメルカッツを、そっちのパーティーに入れておくれ。あぶれたメンバーはパーティーを再編成して、後方支援だよ。じゃあ、今日中に迷宮の主をやっつけて、うまい酒を浴びるように飲もうじゃないか!』
俺たちはパーティー編成を済ませて、サンディーの鼻を頼りに迷宮の主のいる場所を探すことになった。
『あぁ、そうだファンチェル。オークシャーマンを召喚して、パーティーバッフを掛けてくれ。』
『ハイ。ご主人様、ご領主さま。お任せください。
ツクヨミの、光りに来ませ、奈の国へ!魔物召喚!』
なんか、調子狂うな。いっそのことファンチェルは、セリーヌの奴隷として押し付けてしまおうか・・・
『おお。ファンチェル、ポンコツは卒業だね。いい子だ、いい子だ。随分と役にたつようになったな。もう一人前だよ。』
セリーヌの御前、限定だけどね!
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地下40階層を進みだして、5分もしないうちに迷宮の主は見つかった。
視界の片隅にゴキチャンのようなテカテカ、黒々とした昆虫型の魔物がよぎったのだが、悲鳴を上げながらテレポートしてしまう。
『キャー、化け物がまた来たょぉー。逃げろぉー』
なんとも情けない奇声だ。これで迷宮の主を名乗ってるんだから・・でも、まあ、仕方ないか。相手はセリーヌだし。領主さまの手に掛ったら、羽虫を叩き潰すような感じで瞬殺されるだろう。
『サンディー、どうだい。上手く影をとらえる事はできたか?』
『うん。かーちゃん、大丈夫。ばっちりだよー』
さすが天才のムスメ。一発で仕留めたようです。
『それじゃ、メルカッツ準備しな。よかったらゴッキーの影から奇襲するよ。』
俺は一応、ゴッキーのステータスを確認する。
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名前:ゴッキー
種族:蟲人
性別:♀
年齢:30歳・レベル160
職種:暗黒騎士・槍術士
賞罰:なし
所属:ヘルバード王の配下
階級:迷宮の主
称号:なし
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本当に「ゴッキー」という名前なんだね。。。
ジョブが2つある上に、合計レベルが160もあるんだけどセリーヌの敵じゃないな。これは終わった。瞬殺コースだ。ナムー。
『サンディーすまないが、#竜鱗のマントをメルカッツに貸してやってくれ。影を渡ってる間に麻痺したら洒落になんないからね。
じゃ、いくか、メルカッツ!
サンディー、影の道を作って頂戴。』
サンディーが無詠唱で#影渡りを発動させると、素早くセリーヌ、次にメルカッツが影の道を伝って、哀れな「ゴッキー」の足元へ殺到したのだった。
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俺たち一行が、影を伝って「ゴッキー」のもとに行ったとき、すでに戦闘は終わっていた。やはりと言っては何だが、セリーヌによる一方的な虐殺だったようだ。
ペチャンコにひしゃげた「ゴッキー」は中身をすべてぶちまけて、地面にへばりついている…
まるで、ゴキチャンを力任せにスリッパで、叩き潰したような感じだ。
どこをどうやって叩いたら、こうなるんだろう?
非常に興味深いが、怖いので何も聞かないでおこう。
テレポート先の洞窟には「ゴッキー」以外にも、多量の虫型魔物が原型を留めないで散乱していた。一体何匹いるのだろう?手とか頭とか、バラバラになって部屋中に散らばっているが、これ全部セリーヌ一人がやったのだろうか???
『ちょっと数が多かったから手間取ってしまってね。手加減したんだけど、みんな死んじゃったみたいだし。
仕方ないね。一匹残して捕虜にしたかったんだけど、つい力が入っちまった。
メルカッツ、騎士団を呼び寄せて後始末をさせてくれ。』
セリーヌは風呂にでも入った後のような顔をして、事後の処理を指示していく。
こいつには絶対に逆らわないでおこう・・・
しばらくすると、魔物の惨殺体が消滅して、その場に一個の大きな魔石が残った。
『ナッツ。この魔石、あんたにやるよ。今回協力してもらった報奨金だ。』
随分と大きな魔石だから、この部屋で死んだ魔物たちを一つにした物だろう。
『今回の迷宮の主はこれしか落とさなかったみたいだな。俺が貰っていいのか?』
『ああ、問題ない。わたしの気が変わらない内にしまっておきな。この討伐で私はたぶん「王」に列せられる。これから忙しくなるよ。』
なるほど。そういう事か。今は巨大な魔石よりも「王」としての職責に気持ちがいっているんだね。ご苦労様です。世界の平和を守ってください。
俺はありがたく巨大魔石をアイテムボックスにしまったのだった。
ひょんなことから、「迷宮の主」討伐隊に編成されてしまう「上杉奈月」たち。
今回は命の危険もなく、美味しいばかりのイベントだった。
迷宮討伐に成功した「セリーヌ」は今回の功績で「王」に列せられるらしい。
お互いに美味しい思いが出来たので良しとしよう。
一生遊んで暮らせるくらいの、「巨大な魔石」が今回の報奨だ。
ホクホク顔で家路に向かう、家族パーティーであった。