覇王
「上杉奈月」は日銭を稼ぐために家族を連れて迷宮探索にのり出した。
絶対安全運転を期して魔物狩に挑んだのだがムスメの「サンディー」に
おねだりされて狩に参加させてしまう。
絶世の美女「サンディー」が魔物を狩り始めると魔物たちは一切の抵抗を
やめてその首を差し出してきた・・・
余りの異様な光景に、戦慄を覚える主人公だったが困った時の「セリーヌ」頼み
という事でかーちゃんのもとに駆け込むことにした。
昨日の魔物狩で傾国の美女サンディーの規格外の異能が次々と明らかになった。
どんなスキルなのか、判らないまま使い続けるのはとても不安なので、ここは同類のかーちゃんに相談するしかないだろう。困った時のセリーヌだな。
家族皆で朝食を食べながら、そんな話をしているとサンディーは一足先に#影渡りでかーちゃんの所へ遊びに行ってしまった。
#暗殺士固有のスキル、#影渡りは同行者も一緒にテレポートできるのだが、術士よりもレベルが低いと麻痺してしまうので、使い勝手はあまり良くない。
犯罪者を拉致するにはもってこいのスキルだが、パーティーの移動手段としてはちょっと使いにくいな。
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サンディーの相談事に、ミカエルとファンチェルを連れて行ってもあまり意味がないので、二人には先行して迷宮に入ってもらう事にした。
地下一階から地下四階なら二人で問題はないだろう。
"ときは金なり"だ。
ミカエルは、すべてのステータスが99とカンストしているので、低階層ではぬる過ぎるが安全第一。
昨日と同じく弓のペアで仲良く無双してもらおう。
"ビシュッ、ビュシッ、ビシュッ、、ビュシィ"
『ギョワッ、ギョワァ、ギョワッ、ギョワァ』
しばらく狩の様子を見ていたが、問題なさそうなので、俺一人でセリーヌ領の謁見の間にテレポートしてきた。
セリーヌとサンディーが何やら難しい話をしている。
天才同士の会話には、ついていけないのでスルーだ。
俺の姿をチラリと確認するとセリーヌのマシンガン口撃が、予定通り始まった。(これはこれで楽だね。聞いてるだけなんで。)
『やあ、ナッツ、やっと来たか。きのうは色々大変だったみたいだね。
早速だが、サンディーの魔物を無力化する能力、これは#覇王のスキルだろう。
#万物鑑定でサンディーのステータスを見てごらん。
#称号が#覇王になってるだろ?
これは、前世で#魔王だったときの称号だね。#覇王の効果はたぶん、低レベルの人や魔物を無条件で従わせることが出来るんだろう。
#人だと、初代皇帝イカロスが持っていたんだ。自分よりも低レベルのモンスターを無力化できるから、数で攻めて来られても、大丈夫だったそうだよ。
あと#影渡りだが、見える範囲の影や行ったことのある場所の影を伝ってテレポートできるスキルだね。
サンディーがいきなりわたしの陰から出てくるとびっくりするけど、戦闘では先制攻撃できるから、かなり有利に魔物を狩れるね。
低レベルの人を、#影渡りで連れて行くにはマジックシールドとかで事前に保護しないと麻痺してしまうから、要注意だ。
昨日あげた#竜燐のマントで包んでも大丈夫だろう。
それと魔物の位置が分かるのはサンディーの種族特性で#吸血鬼の異能だね。
#吸血鬼は人や魔物の生気を吸って生きてるから獲物の魔素を感知できるんだろう。魔物や人の居場所が判るってのは、かなり便利だね。
いま言ったことは、ほとんど#万物鑑定で見ればわかる事ばかりだよ。
ナッツ、ボーットしてないで
今度サンディーのステータスをよく見てみな。
・・・・・
・・・・・
・・・・・』
俺はセリーヌが延々と話す内容を右脳で聴きながら左脳で#万物鑑定を発動させ、サンディーのステータスを良くみることにした。
海人の固有能力である並列思考にも随分慣れてきたな
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#万物鑑定を発動させてサンディーのステータスを見てみるが、セリーヌが言っていたようなことはどこにも書いていなかった。
きっと天才と凡人では#万物鑑定も違って見えるのだろう・・・
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名前:サンディー
種族:吸血鬼
性別:♀
年齢:15歳・レベル17
職種:暗殺士・薬師士・装飾具職人
賞罰:なし
所属:セリーヌギルド
階級:次期セリーヌ領主
称号:覇王
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確かに#称号に#覇王があるな。
レベル17は3つのジョブの合計数値だろう。
セリーヌのマシンガン口撃がまだ続いているので、ついでに色々見ておこう。
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【フィジカル】
筋 力:99
瞬発力:99
耐久力:99
体 力:999/999
【メンタル】
知 力:99
即応力:99
精神力:99
魔 力:998/999
【スタミナ】
行動力:998/999
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すべての数値がカンストしてるんだが、
何かの見間違いだろうか・・・
つぎの武具強化ボーナスを見て、納得する。
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頭装備:ミスリルヘルム+36/41(知力2.5倍)
体装備:ミスリルメイル+36/36(耐久力2.5倍)
腕装備:ミスリルグローブ+35/37(筋力2.5倍)
足装備:ミスリルブーツ+35/38(瞬発力2.5倍)
武 器:ミスリルダガー+34/37(攻撃力52倍)
盾装備:なし
投擲具:ミスリルチャクラム+34/36(命中52倍)
指装飾:翡翠のリング+35/37(即応力2.5倍)
耳装飾:翡翠のイヤリング+37/40(精神力2.5倍)
首装飾:翡翠のネックレス+34/34(寿命11倍)
外 套:竜鱗のマント+33/34(魔法絶対防御)
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なんだか、見ていて悲しくなるな…
ついでにスキルも確認しておくか・・・
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【スキル】
#ジョブ拡張2段階、#詠唱破棄、#万物鑑定
#獲得経験値20倍、#以心伝心、#影渡り、#隠密
#吸生気、#覇王波、#アイテムボックス
#短剣、#投擲、#暗殺、#暗黒魔法、#自己再生
#クリティカル、#回避、#状態異常回避
#装飾具製作、#装飾具強化、#薬剤調合
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なんか、凄くたくさん便利そうなスキルがあるな。
#吸生気のスキルで魔物の位置が分かるのだろう。
あったあった#覇王波。魔物を従わせるスキルだ。
なるほど、こうやって並べてみてみると、サンディーの事がなんとなくわかるな。#万物鑑定でステータス全般を見渡すと、後はそこから推測していけばかなりの事が分かるってことか。
推測できるかどうかが天才と凡人の境目なのだろう。
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セリーヌの調子よいマシンガン口撃を聞き流していると、突然爆弾発言した。
『ナッツを即死させたのは、もしかしたら魔王ではなくて魔王帝だったのかもしれないね。
魔王帝がいったい何人いるのか知らないけど、そのうち一人倒したんなら、あんたの死も無駄じゃなかったって事か。
魔王帝なら、#覇王波が使えるんだ。サンディーは将来#皇帝か#魔王帝、どっちかになるんだろうね。
出来れば、#皇帝になって欲しいけど、それはナッツの今後の教育次第…
あんた責任重大だね。
人の未来はお前の手に掛ってるってことだから…
ナッツ今日も迷宮にいくんだろ?
あんた、それしか能がないからね。
迷宮に行く前にちょっと模擬戦やろう。
2vs2のね。
サンディーの実力をこの目で見たいんだ。実際に戦ってみるのが一番手っ取り早いからね。おい、そこの騎士、メルカッツを呼び戻しな。』
どうやら闘技場でセリーヌたちと模擬戦をしなければならないらしい・・・
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俺は渋々闘技場へ移動する。どうせ勝ち目はないし。
セリーヌは自他ともに認める世界最強の戦士だ。なぜなら人の中で唯一、#限界突破というスキルを持っているからだ。(俺が付けてやったんだけどね。)
#限界突破はその名の通り、ステータスの上限を取り払ってくれる。セリーヌの合計レベルは400を超えてるからステータスは軽く800以上あるだろう・・・
どうひっくり返っても傷一つ付ける事は出来ない。
なるべく痛くないようにして欲しいな。。。
スーパーサディストのセリーヌだから嬲殺しかな?
そうだ、力を試されるのは俺じゃなくサンディーだ。
大丈夫、大丈夫。俺は闘技場の片隅から、魔法をぺちぺち目立たないように撃つだけだ。
方針が決まったので、相方のサンディーに作戦を伝授することにした。
『サンディー、かーちゃんは化け物だから普通に戦っても絶対に勝てない。だからまず一番弱い所、つまり「メルカッツ」から始末していく。』
『うん。とーちゃんわかった。
メルカッツおじちゃんを袋叩きにするんだね。』
レベル80ナイトを袋叩きだそうです。
『そうだ。試合開始の合図とともに、とーちゃんは距離をとって魔法でメルカッツに集中砲火するから、その間にサンディーは距離を詰めて2人をかく乱するんだ。
かーちゃんにはダメージが通らないからスルーで、メルカッツにだけ当てていけばいい。』
『うん。わかった、とーちゃんの言うとおりにする。
でメルカッツおっちゃん倒した後はどうするの?』
『メルカッツを倒した後は同じくサンディーが、かーちゃんを引き付けて
ヒットアンドアウェーだな。
どちらにしろセリーヌにはダメージが通らないから
後は野となれ山となれだ。』
俺は適当に作戦立案をする。
どうせこの模擬戦はサンディーの実力を見るためだし
メルカッツを始末して、後はお茶を濁せばいいだろう。
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闘技場に移動すると、メルカッツがニコニコしながら出迎えてくれた。
"脳筋バトルジャンキー見参!"ってとこか。
『ナッツ、これやるから使いな。魔術師として戦ってるなら、もうちょっとましな武器もちなよ。』
セリーヌはそう言って#アバドンロッド+0/16を渡してくれた。どうせなら強化した物をくれよ。
仕方ないので、自腹を切って今度#武器職人のミカエルに武器強化してもらおう。
サディスト大王のセリーヌが模擬戦の説明をする。
『模擬戦だから、アイテムは使用禁止ね。
手持ちの武器と魔法だけで戦うこと。
死んだら復活はなしで、隅で戦闘が終わるまで見学。
チーム分けは、わたしとメルカッツチームvs
サンディ・ナッツチーム。一発勝負で一回だけね。
じゃあ、始めるか!』
いきなりスタートですね。はいわかりました。
闘技場で死んでしまうと試合会場の隅で復活する。
死ぬ→復活→参戦を繰返すと永遠に終わらないので、一回こっきりという事になりました。
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俺は5大属性の魔法を連打しつつ闘技場の隅へ移動する。標的はもちろん「メルカッツ」だ。
この異世界の魔法は、5つの属性を持っている。
木←火←土←金←水だ。
矢印の方向の属性に対して、強力に作用する。
俺は火属性の魔法が、もっとも得意なのだが「メルカッツ」の属性防御がどれくらいなのか分からないので、とりあえず片端から撃っていく。
『エアーショット!ファイアーショット!』
『ダートショット!フラッシュショット!』
『ウォーターショット!エアーショット!』
"ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ"
どうやらメルカッツは火属性と木属性に弱い様だ。
5属性魔法をやめて、火と風魔法の連打に切替える。
『ファイアーショット!エアーショット!』
『ファイアーショット!エアーショット!』
『ファイアーショット!エアーショット!』
"ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ"
ビシバシとメルカッツに魔法がヒットするが、ダメージを受けているようには見えない。。。
セリーヌとメルカッツは余裕しゃくしゃくで、こちらの攻撃を盾防御で受け流している。。。
"ビシュッ" "カッァーン"
"ビシュッ" "カッァーン"
"ビシュッ" "カッァーン"
"ビシュッ" "カッァーン"
サンディーはとーちゃんの魔法連打開始と同時に、投擲武器のミスリルチャクラムを投げ込んでいた。
チャクラムはどういう構造なのかわからないが、メルカッツとセリーヌの間を行ったり来たりしながら、無限のループ攻撃を二人に仕掛けている。
"ビシュッ" "カッァーン"
"ビシュッ" "カッァーン"
"ビシュッ" "カッァーン"
"ビシュッ" "カッァーン"
チャクラムの攻撃はダメージを与えていないが足止めにはなっているようだ。流石に盾防御しないとメルカッツでも痛そうだし。(俺なら死んでるけどね)
"ビシュッ" "カッァーン"
メルカッツが盾防御でチャクラムをはじいた瞬間、サンディーは無詠唱の#影渡りでメルカッツの足元から飛び出し必殺の短剣攻撃で、がら空きの胴体をえぐる。
"シュバッ" "ズギャッガグヮーン"
クリティカルヒットした、ド派手な音が闘技場に響き渡り、メルカッツのヒットポイントが一気に半分まで削られた。
『グァハッ』
さすがに防御無視の短剣攻撃が効いたのだろう。メルカッツが片膝をついて、口から吐血する。
『八ツ目さす、出雲立ち出る、アマテラス!絶対防御!』
メルカッツがたまらず、アルティメットディフェンスを発動させた。
よし、脳筋ゲットと思った瞬間
とーちゃんとサンディーは同時に地面に叩き伏せられていた。
ゲームオーバーだそうです。
『ぐはっw』 『きゃっ』
闘技場の隅で生き返った、とおーちゃんとムスメは同時に悲鳴を上げる。目に見えない一撃で二人同時に昇天したようだ。かーちゃんが声を掛けてくる。
『なかなかよかったよ。二人とも大したもんだ。
あのまま戦っていたらメルカッツは仕留めていたね。
サンディーの実力もわかったよ。
これからも、このまま怠けず精進していくんだよ。
それからナッツ、さっさと#限界突破のスキルをアクティベートしな。魔王ならともかく、魔王帝が出て来たらサンディーを守り切れないよ。
じゃあ、これで解散ね。メルカッツ!
迷宮の主を探しに行くよ、サッサと用意しな。』
それだけ言い残して、脳筋ペアは闘技場から姿を消したのだった。
傾国の美少女「サンディー」の異能は天才「セリーヌ」によって丸裸にされる。
#万物鑑定で見れば、全部わかると言われるが天才と凡人の差を、見せつけられただけだった。
「サンディー」の実力を見極めるため闘技場で脳筋バトルジャンキー、
セリーヌ&メルカッツペアと戦う羽目に・・・
いやいや始まったPVPだったがメルカッツをもう一歩のところまで追いつめる。
勝利を確信した瞬間、セリーヌに瞬殺されてしまう。
はたしてポンコツ主人公に明るい未来はあるのか!?