暗殺士
家族を食べさせていくには金がいる。
これは現代世界でも、異世界でも変わらない事実だ。
この異世界では狩り以外、何のたつきもない俺は
家族を引き連れて迷宮に行くことにした。
果たして「上杉奈月」の家族パーティーは
思い通りに機能するのだろうか?
俺は異世界に来て初めて家庭を持つことになった。
血のつながり?があるのは「サンディー」だけだが
ほかのメンバーも、みんな大切な仲間だ。
だからしっかり、「とーちゃん」としての役割を
果そうと思っている。(まだ15歳なんだけどね)
『とーちゃん、みんなで迷宮にいくの?』
サンディーは真直ぐ俺を見ながら問いかけてきた。
ハイ、とーちゃんがどこで稼ぐか気になるんですね。
サンディーの壮絶な美貌をまともに見ると
理性が保てないので、目をそらせながら答える。
『そうだよ、サンディー。
とうちゃん、それしか能がないからね。
家族みんなで迷宮に行くことになると思う。』
『うん。わかった。じゃ、あたし
かーちゃんに装備品もらってくるね。』
それだけいうと、さっとテレポートしてしまった。
『・・・いま、テレポートしたよな、ミカエル。
テレポートって#冒険者じゃなければ
出来ないはずだけど、どうなってるんだろう?』
『さあ、私にもよくわかりませんが、
もしかしたら#暗殺士のスキルかもしれませんね』
ミカエルが的確に答えてくれる。さすがは参謀だ。
しばらくすると、全身ピカピカの装備品で着飾った
サンディーが俺の陰から、ひょっこり帰ってきた。
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『とーちゃん、ただいまー
かーちゃんから、装備品もらってきたよー』
サンディーはピカピカの武具を見せびらかせながら
無邪気に飛び跳ねている。
『サンディー、おかえり。今のは影渡りか?』
『うん。そうだよー
とーちゃんと、かーちゃんの陰から
移動できるんだー。影渡りって便利だねー』
万物鑑定でサンディーのステータスを確認すると
なるほど、#暗殺士のスキルに#影渡りとあるな。
#冒険者の#テレポートの上位互換スキルだろう。
しかし・・・サンディーが身に着けている装備品が
サンディーの美貌と同じくらい常軌を逸している。
かーちゃん役のセリーヌよ、
後継者のために随分と奮発したんだな。
それにしても、
この装備品は行き過ぎのような気がするが・・・
まず全身の防具がすべてミスリル製だ。上から
#ミスリルヘルム
#ミスリルメイル
#ミスリルグローブ
#ミスリルブーツ
武器もミスリルで出来ている
#ミスリルダガー
#ミスリルチャクラム
チャクラムは投擲武器だ。
#暗殺士は短剣と投擲に特化した職業なのだろう。
さすが天才セリーヌだな。
この辺りの武器選択は、任せておけば大丈夫か。
アクセサリーも凄まじく全部ヒスイだ。
#翡翠のリング
#翡翠のイヤリング
#翡翠のネックレス
ヒスイは王や皇帝が好んで身に着ける装飾品で
不老不死の象徴にもなっている貴金属だ。
サンディーはどちらの皇女さまなのでしょうか?
極めつけが#竜鱗のマントだ。
竜鱗のマントはすべての魔法を無効化してしまう
スーパーチートアイテムだ。
多分この世界に一枚しかないだろう。
ありゃ?!よくみると、すべての装備品が
+30以上に強化されている・・・
セリーヌは#鍛冶職人のジョブをもっているから
確かに武器や防具を強化できるが
+30以上に強化しようと思ったら
普通1000回以上失敗して
そのたびに装備品は消滅してしまう・・・
しかし、セリーヌは#万物鑑定という
スキルを持っているので
装備品の強化限界がわかるから絶対失敗しない。
#万物鑑定は#ポイント分配スキルの次くらいに
スーパーチートなスキルで、
これがあれば、簡単に億万長者になれる。
このスキルを与えたのは俺だから
今度リベートもらおっとw
強化した装備品を身に着けるとステータスが上がる。
例えば足装備を強化すると素早さがあがるので
+30以上に強化されているとなると
#瞬発力が倍くらいになるだろう。
勇者パーティーの効果も合わせると
基本ステータスは5倍と言ったところか・・・
サンディーが身に着けている武器防具を
全部売り払ったら、王国一つ買えそうだ。
ミスリル売り飛ばして楽隠居しようかなw
サンディーはレベル5の#暗殺士だが、
レベル50程度の魔物なら触る事も出来ない。
今すぐ魔王と戦っても互角以上にやりあえるだろう
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『サンディーちゃん、いいなーいいなー
わたしぃも、アイテムほちぃー。』
ファンチェルが涎を流しながら
サンディーのアクセサリーを見つめている。
『ぁっ。ファンちゃんのアクセサリーも貰ったよ』
サンディーは#アイテムボックスから勾玉を
取り出して、全員に配っていった。
#暗殺士はアイテムボックスまで使えるのか?
と思って、サンディーのジョブを確認すると
#薬師士と#装飾具職人のジョブが加わっていた。
セリーヌがギルド長のスキルで
サンディーに適切なジョブを付与したのだろう。
セリーヌ様、有難うございます。勾玉は後ほど
スキルポイントに還元して
チートスキルとして使わせていただきます。
『じゃあ、みんな、装備も整ったし
軽く迷宮に行って狩してみようか。』
俺はパーティー編成呪文を発動させ
#ミカエル、#ファンチェル、#サンディーと
4人編成で初めて迷宮討伐に出発したのだった。
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俺たち4人の家族パーティーは
「上杉奈月の迷宮」地下一階にテレポートすると
安全を期するため、ファンチェルに
#オークシャーマンを召喚してもらって
パーティー強化呪文をかけ、狩を始めた。
『みんな、まず俺が魔法でサクサク壊滅させるから
後ろから見学していてくれ。
魔法で撃ちもらした魔物は、
ミカエルが弓と蹴飛ばしでやっつけて。
ファンチェルとサンディーは周りを警戒しながら
身を守ることにだけ専念してくれればいい。
じゃぁ、いくか。』
『はい!』『ふぁーぃ』『あぃ!』
地下一階では魔法一発だから注意喚起は必要ない。
しかし、いざという事もあるので、緊張感を持って
もらうため、ひとこと声をかけてから狩を始めた。
『ファイアーレイン!』
"ゴゥワッワワッーゴゥワッ"
『『『ギョゥワーギィャー』』』
『ファイアーレイン!』
"ゴゥワッワワッーゴゥワッ"
『『『ギョゥワーギィャー』』』
ゴブリンどもを相手に作業的に無双していく。
『ファイアーレイン!』
"ゴゥワッワワッーゴゥワッ"
『『『『ゴギャーグワーギィャー』』』』
『ファイアーレイン!』
"ゴゥワッワワッーゴゥワッ"
『『『『ゴギャーグワーギィャー』』』』
地下二階のコボルドも
漏れなく魔法一発で消し飛んでいく。
『ファイアーレイン!』
"ゴゥワッワワッーゴゥワッ"
『『『『グェーギャイーンゴギャー』』』』
『ファイアーレイン!』
"ゴゥワッワワッーゴゥワッ"
『『『『グェーギャイーンゴギャー』』』』
オークのパーティーもバッフがあるので全部一撃だ。
さんざん俺一人の魔法で
一階、二階、三階の魔物を狩りつくしたあと
居眠りしていたファンチェルにバトンタッチした。
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『ファンチェル、
オークアーチャーをゾンビにしてくれ。
地下四階の相手はハーピーだから
ミカエルとペアで飛んでくる魔物を射落とすんだ』
立ち寝していたファンチェルを起こして
丸焼きにしたオークアーチャーをゾンビにする。
『よし、ではいくか!』
『はい!』『はぇーぃ』
若干一名やる気ゼロです。
メルカッツ軍曹たちと、強化合宿している間に、
ミカのレベルはいつの間にか40になっていた。
ミカのポイントが余っていたので、ジョブ拡張して
サードジョブを#武器職人にする。
#アイテムボックスがあると便利だからね。
ミカとオークアーチャーが並んでハーピーを射落す
"ビシュッ、ビュシッ、ビシュッ、、ビュシィ"
『ギャイッ、ギャイッ、ギャイッ、ギャイッ』
勇者のステータス2倍効果で全て一撃で落ちていく。
"ビシュッ、ビュシッ、ビシュッ、、ビュシィ"
『ギャイッ、ギャイッ、ギャイッ、ギャイッ』
地下四階のハーピーを狩りつくしたので
しばらく食事休憩をとることにした。
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『なあー、とーちゃんー
サンディー見てるだけだと、つまんないー
あたしも狩りするー』
とうとうしびれを切らせたようだ。
今日はサンディーは見学だけの予定だったが
可愛そうなので少し狩らせてあげるかな・・・
『そうだな。
サンディーにも少し活躍してもらおうか。
一階のゴブリンなら復活してるから大丈夫だろう』
地下一階のゴブリン相手ならたとえ囲まれても
サンディーにかすり傷一つ
負わせることが出来ないだろう。
親バカと言いたければ言うがいいさ。
200%安全運転でいきたいんでね。
ファンチェルにオークシャーマンを召喚させ
パーティーバッフをかけた後、
サンディーを戦場に送り出した。
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『とーちゃん、こっちー』
サンディーは魔物のいる場所がわかるらしい。
これも#暗殺士のスキルなんだろうか?
もし敵の居場所がわかるなら
物凄いアドバンテージになるな。
歩いて一分もしない内に
ゴブリン溜まりにたどり着いた・・・
まあ、大丈夫か。ミスリル+30だし。
サンディーは突然その場から消え失せて
ゴブリン溜まりの中心から飛び出してきた。
"シュバッ"
素早くゴブリンリーダーの首を掻っ切る。
あっ。囲まれる!と思った瞬間
ゴブリンどもは戦意を喪失したのか
全員サンディーに首を垂れた。
サンディーは差し出された首を
次々に跳ね飛ばしていく。
"シュバッ" "シュバッ" "シュバッ"
"シュバッ" "シュバッ" "シュバッ"
"シュバッ" "シュバッ" "シュバッ"
ものの10秒もしない内に
すべてのゴブリンの首を落としてしまった・・・
『いったい、何がおこったんだろう?』
ぶつぶつ独り言を言っていると
それを受けてファンチェルが解説してくれた。
『きっとぉー、
サンディーちゃんの美貌に見とれてー
ボーットしてるうちに、死んじゃったんだねぇ』
なるほど。そういうことか・・・ホンマカイナ
続けて、参謀のミカエルが正しく解説してくれた。
『まず、ゴブリンの中心に影渡りで移動して
素早くリーダーの首を落とし、
戦意を喪失した手下が降伏して、
順番に首を落としたんでしょうね。』
なるほど。有難う。ミカエルはこころの灯だ。
そんな調子で地下一階のゴブリンエリアを
10分もしないうちに、制圧してしまった。
物欲しそうな顔をしていたので頷いてやると
地下二階に駆け下りて、同じように
コボルドを血祭りにしていく・・・
地下一階、地下二階、地下三階、地下四階と
たった一人で1時間もしない内に、
サンディーだけで狩りつくしたのだった。
今日は予想の倍以上の魔物を狩れたので
予定を切り上げて家に帰ることにした。
帰ってから直接本人に疑問を投げかける。
『なあ、サンディーなんで魔物はお前の前に出ると
みんなボーット立ち尽くすんだ?』
『わかんないー。』
『サンディー何故魔物のいる場所が分るんだい?』
『ぅーん。わかんないー。』
わからないのか…
天才は何故自分が色んな事が出来るのか
分からないらしい。
かーちゃんも天才だから仕方ないか。
出来る物は出来るって事で、大丈夫。
なぜ、呼吸が出来るのですか、とか
なぜ、手が動かせるのですか、とか
言われても困るよね。
きっと、大丈夫。
できるんだから。。。
サンディーに軽く魔物を狩ってもらうと
チートすぎる能力の数々が明らかになる。
しかし本人は何故それができるのか
全く分かっていない。
天才の血筋なのか
それとも
#暗殺士のジョブ効果か?
釈然としないまま
家路につく家族パーティーに
明るい未来はあるのか?