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ビッグゴーレムの脅威

「へえ、あんたそんなに死にたいんだ?」

「(やばい、これは下手したらあいつが大変なことになってしまう。どうなるのかはさっぱりだけど)」

「待ってくださいメア様! お、おいパウロ先生。あなたに不利な戦闘には間違いないだろうしここはこ、交渉といきませんか? あなたがもし召還士の単位を無償でくれここを卒業扱いにしてくれるというなら俺は何も危害を加える気はない」

「はあ、脅しにきたと思ったらそんなことですか、全く近年の我校の生徒の質も落ちてきたとは思っていましたがまさかここまでとは。良いですか、そんなことをしてもあなた自体に何か技術的なものがつくわけではなくただステータスに召還士がついてそれに応じた多少のステータス変動があるだけですよ?」

「ああ、それでいい」

「(とりあえず無職じゃなくなれば政府から消されることはなくなるしな)」

「なんだか裏がありそうな様子ですね。別に単位を認定しても私に何かペナルティがあるわけではないですが。それでは私がまるでそこの女に屈してしまったように感じます」

「なっ」


新都は心底驚くがそれはパウロからしたら当然の回答だった。ベテラン召還士にとって召還する対象でしかない魔物に屈するのは屈辱の極みでありしかもそれが自分が心から才能がないと見下した人物が召還したものとあっては易々と折れてやることなど不可能でしかない。


「ふーん、交渉決裂ってわけ。じゃああんた、私に何されても文句は言っちゃダメよ」

「サキュバスの分際でよく吼える。では私も最強のモンスターを召還させていただくとしよう」


パウロは再び魔法陣に手をかざす。すると魔法陣は紫色の光りを放ちつい先日感じたような地鳴りを起こし始める。


「ははは、いでよ! ビッグゴーレム!」


地鳴りが最高潮に達しその姿を顕にする。そこには全身鋼色に包まれた巨大な人型の岩石が立っていた。


「うわ、うわああああ」

「ちょっと! 暴れるなっての!」


新都は余りの迫力に気圧されて上に座っているメアのことなど気にも留めず隅に逃げ込んでガクガクと膝を抱えながら怯えてしまう。


「新都様、ここは私めに。教員が訓練生に手をあげるのはご法度中のご法度。もはやこうなってはパウロ先生にも非はあります。私も生活担当として全力でお守りさせていただきます」


ドーベルは新都の前に立ち、腰についていた剣を抜いて構えた。


「ほう、ドーベル。私に歯向かうというのですか。まあいいでしょう。いけ! ビッグゴーレム!」

「グオオオオオオオ!!」


ビッグゴーレムは雄叫びを上げ、ズシズシと突っ込んで来る。地下室はかなりの広さといえど天井スレスレをそこそこの速さで進んでくるため石の破片がパラパラと落ちてくる。


「はああああ!!」


その巨体から放たれたパンチに小さき番犬の爪楊枝のような剣は見事相打ちに持ち込む。その光景にさすがのパウロも少し驚いた表情を見せる。


「おやおや、さすがはここの訓練所の元剣士団長様といったところですか」

「!? 剣士団長!?」


新都は目の前にいるただの雇われ犬が別の名称で呼ばれていることに驚きを隠せない。


「なんで……剣士クラスなら俺みたいな奴の世話なんかしなくても。それに今までだってそんな話どこにも」

「いえいえ、隠すつもりはなかったんですけどね。話す機会がなかったので話さなかっただけです。といっても今はこのジョブ自体飽和していることもあって人気の低迷と共に廃止になったんですけどね」

「そんな……」

「とにかく新都様は危ないと思ったらお逃げください。メア様は出来たらご助力頂いて下さると助かります」

「そんなこと言われなくてもしてあげるわ。これからこいつを正式に下僕にするためにもあの召還士から単位とやらを奪ってやった方が後々私も堂々とこき使えるし」

「ありがとうございます」

「だからあんたは囮になりなさい。私の技は対人技だからあのゴーレムはちょっとばかし相性が悪いのよ。今からあの召還士に私のとっておきを食らわせてやるからあんたはあのゴーレムの足止めをするの」


そう言うとメアは何やら詠唱を始め、足元にはキレイな模様の紅い魔法陣が出来る。それは召還魔法陣とは別の攻撃魔法陣によるものだと分かる。


「ふん、させませんよっ!」

「グオオオオオオオオオオオ!!」


パウロはさせまいとビッグゴーレムを使役し、メアの方へと突進させる。


「そりゃっ」


しかしそのまま右足の腱に細長い剣が刺さってキレイに倒れる。


「なんですって!?」

「剣士団長は遠距離攻撃にも長けているのですよ、パウロ先生」

「ぬぬぬっ! ……良いでしょう! あなたとは一度戦ってみたいと思っていました。ここで白黒はっきりさせることにしましょう」

「はい、望むところです」

「初級魔法 ヴァインソード」


パウロの右手に蔓状の剣が形成されていき、それはガッチリと一本の武器になる。


「お言葉かもしれませんが、接近戦ではパウロ先生の分が悪すぎるかと」

「いや、これでいいのですよ。私の性質上こうすることでかなり私に有利になっているのですから」

「そうですか。パウロ先生が何をお考えなのかは存じませんがここで手を抜いてしまっては騎士道に背くことになる。誠意を持ってお答えさせていただきます」

「さすがドーベル。捻れば私などよりも知略に長けているというのにあえて私の策に溺れてくれるとは。清清しいまでに騎士なのですね」


先に剣をふるったのはドーベルの方であった。しかしその剣はパウロに一切の傷をつけることはない。ドーベルのその剣はどこから出現したのやら蔓の集合体に阻まれていたのだ。


「これが噂に聞く『自然の加護』(モルティブ・クローネ)。大地の神ポセイドンと契約したもののみが許された能力」

「ほう、さすが剣士団長様ともなれば知っていますか。そう、この能力は私の視認出来ないレベルさえも草木地がオートで守護してくれるというもの。いくら騎士様の力を持ってしても所詮は生物。偉大なる神の加護の前では私に傷一つ付けられないことでしょう」

「さすがでございますね」

「ふん、平静を装って面白くない奴だ。まあいい、順調にいたぶってあげましょう」


そういうとパウロは左手の書物に目をうつし『中級魔法 ドレインプラント』と叫ぶ。すると、天井から無数の鋭い木の枝が出現する。


「ひいっ! あんなの喰らったら間違いなく死んじゃうじゃんかよお!」

「初級魔法 ベーッシクシールド!」


ガクガクとメアの後ろに張り付き怯える新都とメアの周りに簡易的なシールドが張られる。


「あんた、こんなしょっぼいシールドであたしを守ろうっていうの」

「すみません、私魔法は初期魔法以外さっぱりでして。しかしご安心を。それはもし万が一の予防でございます。今からあなた様達に飛んでくる矢も含め私が全て弾き返してみせましょう」

そう言い整然と剣を構えるドーベル。それはどんな盾よりも丈夫に見えた。

「ではゆきますよ! 精々振舞ってみてください!」


パウロが手で合図をすると一斉に木の矢の雨。乱れ打ちになっているようでまっすぐに飛んでくるそれらは新都達を含め容赦なく飛んでくる。


キンッカンッキンッ


しかしそれらを一つ一つもの凄いスピードで新都達の領域も含め確実に返していくドーベル。神にさえも通用する真っ直ぐな一本の矢は無数のどんな矢よりも丈夫であった。


「うおおおっ!」

「ふんっ」


そして隙を見つけようものなら真っ先に敵の間合いに飛び込み切りつけようとする。だがそのどれもが間一髪のところで神の加護によって防がれてしまう。


「どうしたどうした! 攻めることを忘れないのは殊勝なことですが自分を守りきれていないではないですか!」


ドーベルの肩や足に少しずつ木の矢が刺さっていく。さすがの元剣士団長といえど長いブランクの前ではやはり現役の頃より粗が出てしまっているようだ。


「そうでございますね。このままでは長くは持たないでしょう。ついにあの手を使うことになりそうですね」

「ほほう? まだ何かを隠しているというのですか。それは面白いですね」

「これを使うと新都様方をお守り出来なくなるので極力使いたくはなかったのですが。短期戦でいかせていただきます」


そういうとドーベルは剣をさっと構える。矢が全身にささり新都達のシールドにも矢が刺さり始める。


「ちょっと! あと少しだから頑張りなさいよ!」

「かしこまりました。『超接近』(ハイフォーカス)」


その一瞬の出来事は視認することさえ難しいが気がつくとドーベルの姿は敵の目の前にある。それは物理的というよりもはや空間がそのまま遷移したような魔法的な現象に見えたのだった。


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