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ワイズの書

「おかしい……ここ異世界だろ? なんでマリモなんだよ!」


そうマリモに訴えかけるが何も反応は返ってこない。


「みなさんよく出来てますね。おや?」


そこでタイミング悪くハウロ先生がやってきてしまう。


「これは何です? 見たこと無い種ですねえ」

「いえ……これは……その」

「あはは、失敗……みたいですね。まあこんなこともありますよ。仕方ないです。まだ日もあまり経っていませんし次以降の項目で挽回していきましょう」


パウロ先生は新都の肩をポンポンと叩くと他の生徒の方へ行ってしまった。一見励ませてくれているようにみえた言動。しかし新都は完全に察してしまっていた。その時のパウロ先生の目は明らかに軽蔑の感情が籠もっていたことを。


「(また、あんなことになるわけにはいかない……)」


失敗がフラッシュバックしてきながらもイメージを頑張って練ろうとする。しかし、どんどん失敗に対するプレッシャーが新都を焦がしていく。


「ああ……ダメだ。集中できねえ!」


ボウンッ


そんな中魔法陣が煙を立て、中から何者かが現れる。どうやら召還の儀式は終了したようだ。

中から現れたのは褐色で頭は後ろで三つ編みに束ねた小人。服から見るにカンフーよりの見た目をしているものの個体差の範疇であると判断できる。どうやら今回は目的の種を当てることに成功したようだ。


「ささ、みなさんうまく小人族を召還出来たようですねえ。ではさっそく使役をして頂きましょうか。今からその小人さんから契約の証である魔力の石をもらって下さい。召還士において召還したモンスターからその魔力石をもらうことは何よりの契約の証となり、次回以降友好的に召還に応じてくれるようになります。使役が出来る場合は力を使って無理やり契約させるも良し、出来ない方は交渉でうまく契約を果たすもよしですよ」

「さあて、じゃあさっそく使役させてもらうぜ。魔力石をよこせ!」


新都はテーブルにおいてあるブレスレットを握りしめ、目の前の小人にそう命じる。


「……」

「……」

「……あれ?」


小人は新都の方を見たまま一向に石を渡してくれる気配が無い。それどころか腕を組んで魔法陣の上に胡坐をかいて座り込んでいたりとやたら態度がでかい。


「おい、何を座り込んでいる! 早く石をだな」

「おい、誰に命令しとんねや」

「!?」


急なドスの効いたその声に思わずひえっと二歩下がってしまう。とてもその小さな身体には似つかわしくないが確かにその小人の口から発せられたように見えた。


「あのー……契約って……」

「契約う? そりゃ普通強い奴が弱い奴に無理やり魔力でねじ伏せてさせるもんやろがいな。ほなやれるもんならやってみい」

くいくいと右手で煽りを入れてくる小人。見た目に対して態度は全く小さくない。

「……」

「おい、何黙っとんねん。お? もしかしてお前、怖いんか」


足が震えていることに気付かれたのかさらに態度が大きくなる小人。


「ほほん、さてはあんた一度も召還術を成功させてないのだな」


小人の刺さる目線を直視出来ない。足の振るえもどんどん強くなってきて荒くなってきた胸の動悸や息遣いを悟られないようにするので精一杯だ。もっとももしかしなくとももう小人にはお見通しなのかもしれないが。


「ち、違う……俺はそんなこと……この前だって最強のモンスターを召還したんだ」

「ほほう? その割には目が泳いでいるようやが? そうやって今までも行き当たりばったりに嘘を重ねてきたのではないか?」


小人のその見透かしたような言動に反論する言葉が見当たらない。まるで裁判の被告席に立たされて検事に詰問を受けている気分だ。


「違う……違う……」

「お? なんだその目つきは? プライドだけは一丁前なようだな。貴様はこのクラスで一番の落ちこぼれだというのに」

「やめろ……」

「(なんでこいつはそんなことまで。こいつはついさっき呼び出したに過ぎないただの小人族に過ぎないはずなのに。まさか小人族はサイコ分析にでも長けていたりするというのだろうか。とにかく苦しい。早くその減らず口を辞めさせたい)」

「ふん、自分を省みずにすぐにそうやって相手を威圧して認めない。貴様がニートになるのも頷ける」

「やめろおおお!!」


そこで周りの視線にやっと気付く。

辺りを見渡すともう誰もが手を止め新都だけを見ていた。空気は一気に異分子を排除しようとするものへと変わる。


「ち、違う! こいつが! こいつが全部悪いんだ! 俺は、悪くない!」

「どうしたんですか。顔色が宜しくないようですが」


新都の異常な様子を察したのかパウロ先生が近づいてくる。


「(こいつ……また俺を小ばかにするような顔をして。来るな!)」

「こいつが! こいつが俺の心を乱すようなことを…いいから早く、その醜い小さな悪魔を処分してくれ!」

「? そんなものどこにも見当たりませんが」

「え?」


耳を疑った。新都は何かの冗談かと思いテーブルの方に目をやる。しかし、そこに先ほどまで自分を貶めていた存在はいなくなっていた。

魔法陣だけが、ただそこにはあった。


どこかに逃げたんじゃないのか。そうすぐに過ったもののもはや弁明をするほどの気力もその場の空気に耐える体力も残っていやしなかった。

出口も分からないまま逃げ惑う廊下の中でいつものように殻に籠もれる器を探す。しかしここは家ではない。自分を外界から守ってくれるふとんも現実逃避をさせてくれるパソコンもありゃしない。


気が付くと視界は褐色に満ちていた。窓からは夕日が差し込んでいる。こんな時間までずっとむしゃらに走りこんでいたのかは分からない。ただ体中はだるいし足はもう一歩も歩きたくないというのにバカになっていて歩みを止めてくれない。新都が授業を抜け出したことぐらいとうにドーベルなら気付いていてもおかしくないはずなのだが。


「そうか……まあ、こんなどうしようもないニートなんか愛想尽かしちゃうよな」


新都はあんなおっかない見た目で煩わしいと常に思っていたはずのドーベルにさえも見捨てられたくないと感じていたことに気付く。ドーベルはただ訓練所に派遣されて業務で世話をしてくれていたに過ぎないっていうのに。


「辞めるか。こんなとこ」


何もかもどうでも良くなった新都はパウロ先生の部屋に退所届けを出しに行こうと向かう。明日から何をするか決まっているわけじゃない。どうせまたあの未来もない生活が待っているのだろう。でも今はただすべてを手放して眠りについて忘れたかった。


「ははは、今晩くらいいじゃないか」

「ダメよ~、今日もまだ補講生の訓練が残ってるの。それに今日はあなたの担当した授業で問題があったそうじゃない。その子、見つけてあげないと後日あなたにペナルティがつくわよ?」


パウロ先生の部屋の前に行くと何やら声が聞こえてくる。片方はパウロ先生ともう片方は女性職員だろうか。手前の部屋ではなくパウロ先生の部屋の奥の物置部屋の方からだ。


「はあ、全く。無能のために翻弄される身にもなって欲しいよ。いっそのことこれで辞めてくれたらどんなに楽なことか。昔はここまで訓練生の質も悪くなかったんだけどねえ」

「しょうがないわよ。昔とは違って異世界に来る人間もどんどん数が増えていってるのだから質が下がるのは当然だわ。それにそのおかげで私達は昔より何倍も稼がせてもらっているじゃない」

「質を取るか量を取るかってところだよねえ」


パウロ先生の溜息交じりの鬱憤が自分を指していることはすぐに分かった。


「その抜け出した奴、今日は小人族の召還だったんだけどねえ。この前マリモっていうモンスターですらないもの召還されちゃってね。さすがにこれ以上訓練校に残られちゃ迷惑だからさあ、性格の悪い小人をあらかじめ忍ばせといて時間が立ったら消えるようちょっと魔法陣に細工させてもらったのさ。にしても術者の性格が多少反映されちゃうからあそこまで性悪なのが出てきたときはびっくりしちゃったけどねえ」

「え? それってさすがにまずいんじゃない?」

「でもそうでもしないと今後もそいつのために補講組ませられちゃうじゃないか。訓練生生活観察担当のドーベルは熱血バカなのかなぜか気に入っちゃってて頼みますってよくお願いされるんだけどさあ。手に負えないよ」

「あなたってやっぱり人格に問題あるわよ」


女性職員は冷たくそう吐き捨てるがパウロ先生には全く響いてないようだ。


「くそ……やっぱりあいつが……」


許せない。このままのこのこと帰るのも癪だ。あいつの大事そうなものを奪ってやる。

新都はパウロに勘付かれないよう作業机に近づく。すると書類の山に紛れて一冊ポツンと古紙に包めれた本のようなものを見つけた。その本のすぐ横には何やら手紙が添えられている。

手紙の中身は難しい言語で書かれていて読解は難しかったがタイトルの部分だけは辛うじて新都でも読める字で書かれていた。


「ワイズの書……?」

聞いたことのない書だが、なんだか凄そうであることは間違いないものだと新都は肌で感じる。

「へへへ、こんなところに無造作においてるのが悪いんだぜ」


新都はその本を手に取り部屋を後にした。

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