異世界冒険の始まり
「では次のニュースです。ついにこの世界に来る謎の来訪者にも歯止めがかかる時代がやってきました。新しい法律が出来たのです」
「ん? なんだ?」
さっき変えたチャンネルの先はニュース番組のようだ。黒いスーツを着こなしたオークが淡々と原稿を読み上げている。
「その名も異世界排除令。今後異世界からやってきた冒険者や転生者に差をつけるために王様は早くも明日には制定するそうです」
そうして画面は変わりこの国の王様の部屋の中継に変わる。赤絨毯の上に大きな気品ある椅子が立たされておりその椅子に王様が踏ん反り返っていた。両隣にはダイアウルフの側近まで拵えている。
「やあやあみなさん、お元気ですかな? この度はこのような令をいきなり発令してしまって一部の人には申し訳なく思う」
王様は右手を挙げ挨拶をしながら偉そうに微塵もそう思ってなさそうな文言を垂れる。上品な服に煌びやかな装飾品。
「この世界でも税金ってものはあってコイツもそれで大層贅沢をしているに違いないんだろうな。半分くらい寄越してもバチは当たらないんだぜ」
誰もいない部屋でブラウン管テレビに向かってそんなヤジを飛ばす。
「ーで。要件をまとめるとこうじゃ。今から三年以上活動がないと見なした異世界転生者はどんどん片っ端から排除していくから今絶賛怠惰中の者は特に精進していくようにな」
「え、今なんて。なんか排除するとか言ってなかったか」
新都は耳を疑う。最近耳掃除を怠っていたから耳がおかしくなったのかはたまた俺自身最近こんな昼か夜か分からない部屋に居るから睡眠不足が祟って頭がおかしくなって変な妄言が聞こえてしまっているのか。
「ちょ、おまいら何なんだよ! え? 異世界転生者を排除? 知らねえよ! っておい! やめろ! 離せ!」
「!?」
とっさに締め切ったカーテンを少しだけ開け声のする方を見る。そこには新都と同じく異世界転生してちょうど三年になる隣人がいた。
隣人は青い服に身を包んだ二人組のリザードマンに担がれてバイコーンに乗せられているところだった。
「まさか本当に……」
新都は急いでゴミまみれの部屋の隅からあるチラシを取り出す。部屋中に四散しているエッチなサキュバスのお姉さんが写っている風俗雑誌やオンラインゲームのタイトルが書かれている自作した攻略記録が宙を舞う。
チラシには『素人も大歓迎! あなたの町のハッピーワーク!』と書かれている。
「正直こいつには一生お世話になるつもりはなかったがしょうがないのかな……」
プルルルル。
しばらくチラシを眺めていた新都ではあったが埒が明かないとキッチン近くに落ちていた電話機を拾い施設にかけることにした。
このチラシに書かれている機関、通称『ハピク』は数年前から飽和してきた異世界冒険者で冒険のスキルアップややり直しをしたいという声に応え王様が設けたものであった。新都はもちろんそんな意識高い奴らの巣窟みたいなところ行く気はなかったのだがこんな状況になっては背に腹は変えられない。
「はいもしもしあなたの町のハロクです!」
電話の先から聞こえてくる女性の声。
「あ……あの……し……」
「? どうされました?」
「く……あの……」
久々の誰かとの対話だからか喉から声が出にくい。ちなみに断じて電話の相手が女性だから緊張してるとかそんなのではない! そう胸に言い聞かせ新都はコホンと咳払いをしてみる。
「もしかして冒険者の方ですかね?」
電話の先の女性は嘲笑気味にそう尋ねてきているように感じた。
「(なんだこいつ、もしかして俺が今さっきのニュースを見て慌てて電話をかけてきた哀れな無職だと気付いて馬鹿にしてきているのか。ああ、そりゃそうか。こんなニュースの直後なら誰でもそう思うよな)」
「バ、バカ……するなっ!」
新都は精一杯力を込めてそう怒鳴ってやる。
「(許さない、俺は異世界転生した冒険者様だぞ。お前ら最初からいたモンスター共とは違うんだぞ)」
「ど、どうかされましたか。何かお困りやご不明な点ございましたか?」
「……さいっ! だ……おま……たよ……か」
そう最後に吐き捨て新都は電話を切ってやる。
「(ふん、そうやって上から物を言うから大切な客を台無しにしてしまうんだ。ああいう奴らはきっとノルマっていうのがあるから俺みたいな貴重な電話案件は捨てがたいはずなのにな)」
「ははは、そうさ。何を見くびっている。俺はこうやってあいつら機関の犬にだって屈しない冒険者様なんだ。王様だかなんだか知らないがこれからもこうやって俺の楽園を貫かせてもらうぜ!」
新都はそう高らかに笑った。さっきまでついていたテレビが家賃未納による制限で数分しか点かずもう止まっていることなど気にも留めていなかった。
「はぁ……」
翌日。新都は例のように昨日啖呵を切ったはずのハロクの前にいた。周りの視線が気になるからという理由で黒い帽子を深く被り日が燦々と照りつけているというのに長ズボンに黒いコートなんてものを着て全身真っ黒装備になっていた。
結局昨日アレからドアの新聞配達や勧誘、家の前を歩く人の話し声さえも自分を捕まえようとしている機関のような気がして一睡も出来やしなかった新都は逃げるようにハロクに来てしまっていたのだ。
「くそ…なんで俺がこんな…」
新都は地面を這っている蟻を踏み潰す。そしてそんなちっぽけな物くらいにしかマウントを取れる対象がいないことに再び自己嫌悪する。
ハロクの中に入ると真っ先にエルフの職員と視線が合う。
「(なんだその目は。やっぱり久々に外を歩いたから歩き方変なのか俺。まさか俺が異世界でニートをしている負け組だって早くもリスト入りしてるんじゃ……。いや、そんなはずはない。だってあそこに座って溜息をついているあいつも、入り口付近のソファで寝ているあいつも俺と同じ人間ってことは同じ冒険者じゃないか。モンスター共に俺ら人間の区別なんかつきやしないはずだ。……はずだよな?)」
「ではこちらの用紙に必要事項をご記入下さい」
そう言われ受付のエルフに何枚かの書類を渡される。久々の対人に驚きそそくさと書類を受け取ってしまい不思議そうな顔をされてしまう。
「(何々……)」
書類には今までの戦歴から心理分析項目まであらゆることが書かれていた。その項目はぱっと見でも100は超えておりかなり精密な精度を持っていることが分かる。
「(ふむ、ここに書けばその冒険者に適した能力を示してくれるんだな。なかなかいいシステムじゃないか、まあ本来なら戦歴は嘘を書きたいとこだが俺ならきっとそんな虚栄を張らなくたってこの心理分析や能力解析の項目でジョブなんて引く手数多だろう)」
「さあ、示してみるがいい! 俺に最も優れたジョブをな!」
そうつい家の中と同じノリで叫んでしまい、周りの視線に耐えられなくなってトイレに駆け込むのであった。
「えー、申し訳ありませんがどれも該当するものがございませんでした」
ニコニコと笑いかけながらそう言ってくるエルフ。書類の結果の項目には一言『該当なし』とだけ書かれていた。
嘘……だろ?
「(そんなはずはない、こいつ誰かその辺の無能冒険者と書類を間違えたりしてないだろうな?)」
新都は何度もチラチラ他の書類を見てみるがどう見ても自分の書いた字にしか見えない。
これは……何かの陰謀か? はっ、もしや俺があまりに能力値が高く適したジョブがありすぎたがためにこのエルフが職務怠慢をしてるんじゃ……。もしくはもっと大きな……国王が自分に取って代わられるのを恐れたためにした国ぐるみの偽装工作……。
「ブツブツ……」
「あの、唯野様? そう気を落とさないで下さい。唯野様のような方のために後少しでかろうじてなれそうなジョブにこちらの予備校で能力の底上げをすることで転職していただくことが出来ます」
そう笑顔で諭してくるエルフ。しかし長年他人の悪意ばかりをネットで見てきた新都はその笑顔をまっすぐに見ることが出来ない。
「(ふっ、こいつも内心では俺のことをバカにしているに違いない。お情けのつもりかも知らんが俺はそういうものは受けん)」
「……ない」
「? ちなみに、能力値からかろうじて推奨されますジョブはこちらになります」
「だから俺は受けないとー」
そういつものように怒鳴りつけてやろうとしたところ新都の目の前に提示されたのは『召喚士』というジョブだった。
「(なっ、なかなか分かってるじゃないかこのエルフ。正直俺の才能に嫉妬して一つだけしか提案しなかった卑屈さはどうかと思うがまあ大目に見てやることにしよう)」
「コクリ」
「ではこちらで宜しいですね、ではこちら訓練期間二週間になりますので明日からさっそくお越しください」
こうして唯野の新たな異世界冒険はスタートしたのだった。
3年前に書いていたものを掘り下げることにしました。
こちらとは並行で作品あげていこうと思いますのでよければお付き合い下さいませ。




