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暗雲の過去

新都は異世界に来た当初は情熱に溢れた青年だった。


当初たまたま掲示板で流行った幽体離脱スレで異世界転生が出来たと言うスレに感化され実践してみると本当に異世界に来ることに成功してしまっていたのだ。


「よっしゃ!せっかく異世界に来たんだ! 俺もこの世界で成り上がってやる! このPCを使ってな!」


新都は小型のノートPCを持って道行くモンスターのことなど気にも留めず大声でそう宣言したのだった。


異世界生活一年目は情熱に満ちた新入社員のように熱く、それでいてそれに伴うように順調に事を進めていた。


まずは異世界にある書庫などではなく異世界等のファンタジー情報に溢れている現世に繋がるPCで情報収集をした。


そして、情報どおり最初の町で最も安価であり、その中で最も攻撃力の高い銅剣をコツコツときのぼうでスライムと格闘しお金をせっせと貯めて入手したのだった。


「うひょお、これが剣っていうものかあ」


草原のど真ん中。


たった三十G程度の、ゲームだとレア度の欠片も無い剣であったがそれは新都にとってはエクスカリバーに匹敵するほどに日に照らすと輝いて見えた。


そもそも実際の光沢の剣など元の世界では拝むことさえなかったのだから当然と言えば当然であろうという真実はさておき。


「さあ、これからはこいつを使ってさらに強い剣を手に入れるぞ。さあて次に安くて比較的強いのは……」

「ははは、冗談はよせよ」


新都が草原でPCを片手に情報収集をしていると、横から何やら歩いてくる。


そこにいたのは四人編成の人達で一人は見るからに勇者のような装備に身を包んだ男、他の三人は露出度が高くとてもじゃないが戦闘をしているとは言いがたい格好をした女性達だった。


「なんてエロい女達を連れてるんだ……。お、俺も強くなったら……」


ごくりと固唾を飲む。


「!?」


長年のコミュ障が祟ったか男と目が合い咄嗟に目線を逸らしてしまう。


「お、こんなところに我らが同類じゃないか。 おや? それはなんだい?」


そんな新都に先に話しかけてきたのは男の方だった。


「……あ、いや、その」

「なんだ? もしかして最近転生してきたばかろとか? はは、初々しいねえ」

「あ……どうも」


見るからに勇者そうな男は親しそうに接してきている。


そしてパソコンを物珍しそうにジロジロと見てくる。


この世界でパソコンが誕生するより前にこちらの世界にやってきたのだろうか。


「(それにしても強そうな装備だな。女の子も可愛いしもしかしたら交渉次第ではパーティに入れてくれたりして)」


そう思った新都は家電市に行けば百Gほどでという言葉を喉付近で留め親切に紹介してあげる。


ステータス的にも装備的にもぱっとしない今の自分にとってこのアイテムは自分を売り込む唯一の武器に他ならなかった。


「実は……この機械は俺が持ってきたアイテムで」


画面を見せ、パソコンについて説明しようとした時だった。近くの茂みから腰ほどのキャタピラーが出現する。


灰色のコーティングされた身体は太陽に照らされキラリと光りなんとも物理攻撃を弾きそうだ。


「(こんな時にキャタピラーか。しかもあの身体を見る限り本来の柔らかいものとは違う亜種といったところか)」


一人なら一旦退避しパソコンで情報収集をすることも考えられた。


しかし今は男やそのパーティもいる。


己の現在の強さを示し仲間に招き入れてもらう絶好のチャンスが到来してきたのだ。


「ステータスだけじゃ判断材料としては一歩足らずだからな。うりゃああああ!」


咄嗟に武器を構えキャタピラーの硬いフォルムに銅剣をお見舞いしてやる。


どうだ、致命傷はムリでもダメージくらいなら……。


だがそこで現実を見せられる。


キャタピラーの身体には致命傷どころか傷一つ付きやしない。


ステータスというものの絶対さが新都に現実を教える。


「なん……だと……」


ただ立ち尽くすしか無かった。


あれだけスライムを葬りやっとのことで手に入れた銅剣は少し敵のランクが上がっただけで苦戦というレベルさえも優に超えてしまう。


終わった、そう思うしかなかった。


ボフウッ


しかしそんな現実をさらなる現実が塗りつぶす。


新都がはっとキャタピラーを見るとそのキャタピラーだったものは真っ黒になってプスプスと音を立て原型が無くなっていた。


あまりに一瞬の出来事に困惑するしかない。


「おやおや、これ最低限の火炎魔法なんだけどねえ。魔法耐性無さ過ぎでしょ」


敵を焦げカスに変えた主はやれやれと言った感じでため息混じりにそう呟く。


「あ、あの……」


この人は強い。


そう思うには十分すぎる判断材料だった。


この人と一緒に冒険をして強くなろう、新都は勇気を振り絞って声をかけた。


「なんだい?」

「さっきの魔法、その剣から出てましたけどどこで覚えたんですか? もしかして火炎能力をもらったとか?」

「うるさいよ君」

「え?」


新都の三下ムーブも空しくその言葉は急に放たれた。


そしてこちらに向けられるさっきのパーティの人達に向けられていたものとは違う冷ややかな目。

心臓をぎゅっと掴れたような気がした。


「さっきのままごと剣のお遊戯をまさか戦闘とは言わないよね。いるんだよねえ、君みたいな寄生虫。弱いから強い奴と一緒にいれば自分もレベルアップ出来るなんて考えてるんでしょ? はあ、いちいち断らなきゃいけないこっちの身にもなったよ。お断りだよ」


出会った当初とのあまりの変わりように困惑してしまう。


「ま、まだ何も」

「じゃあ何? 言っておくけどさっき話しかけたのはそのアイテムがちょっと気になったからだよ。まあステータスと君の戦闘を見てすぐ大したものじゃないって分かったけどね。どうせ何かのアクセサリーか何かでしょ。でなきゃ未だにそんな刀一本物理でこんなクソザコ相手にスキルのレベル上げでもなく戦ってるわけないもんね」

「で、でもさっき助けてくれて」

「勘違いしないでね。アレは情けだよ。君みたいな勘違い君が夢を見ないようにね。こうやって目の前の難敵にさらに最強な存在として君臨してあげることで夢から醒ましてあげてるんだよ」


男は耳元でそう呟く。


故にパーティには男がこんなことを言っているかなんて気付くことはない。


「じゃあ、僕はこれで。そうそう、僕の名前は勇者デボルト、これからこの世界にいたら嫌でもところかしこで聞くことになるだろうから以後よろしく。では」


そんな捨て台詞を吐くとおーいみんなお待たせと女の子達の方へ戻っていった。


「勇者様~、さっき何を話されてたんですか~」


「彼がバトルのコツをどうしても知りたいと言うのでね。ちょっとだけ伝授してあげていたのさ」

「さすが勇者様!」


それから先は余り覚えていない。


でも物凄く虚無感に襲われたことだけは覚えている。


「自分の方が……女共(アクセサリー)つけてんじゃねえかよ……」


そこから一年は悲惨なものだった。幸いメタルキャタピラーのお金は勇者デボルトにとっては端金だったのか置いていってもらえて軽く二年は普通に生きていけるレベルのお金が手に入った。


おかげであんなに欲しかった新しい武器や防具もすぐに買うことは出来た、しかし新都はそれをしなかった。


最初はギャンブル場に軽い気持ちで行って大損をした。


その次は初めての異世界風俗に行きそこでもお金を散財した。


あんなにあったお金はみるみるなくなっていきそれでも散財を辞めなかった。


足りなくなったら金融機関にも手を出した。


そして一年間の豪遊生活の果て。


お金も借りられなくなり仕方が無いので引きこもるようになり、現在三年目の異世界生活が始まっていた。

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