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暗い部屋の中で

 カタカタッカタカタ


 どこに何が置いてあるかすら分からない暗く狭い空間。


 一人の男、唯野新都(ただのにいと)は今日も目の前の唯一の明るみに鬱憤を打ち込む。


 冷房でキンッキンに冷えた部屋、横においてある五百ミリの炭酸飲料は夏のせいも相まって本日三本目が開こうとしていた。


「あーあ、そろそろレス伸びなくなってきたな」


 当初は異世界転生ネタも神スレ来たなんていうものから嘘乙って言ってくるアンチまで様々で大層盛り上がったというのに。


 今日ではあまりスレを立てても数分に一個コメントがつくかどうかくらいの頻度でてんで伸びやしない。


「せっかく異世界転生を果たしたこの俺、唯野様がスレ立てしてやってるってのに」


 静かな部屋でそんな戯言を投げるとそれはバウンドして自分に刺さる。


 新都は若干自嘲気味に笑う。


「まあ、実際この世界ではそんなの珍しくもなんともないんだけどな」


 そう、今や異世界において人間と言う種族はそんなに珍しくはない。


 一時期全盛期だった異世界転生ブーム。


 その時期は転生すれば神様に一つだけ能力や武器を貰って魔王になったりそれこそその新しい世界で神様にだってなれたものであった。


 で、人間自体が珍しいものだから初回特典と言わんばかりにエルフからドラゴンまで異種族は誰でも簡単に仲間になってくれた。


 しかしそんな全盛期にも終わりはくる。どうやらその異世界転生にもついに飽和がきてしまったようなのだ。


 しかも能力にも被りが出てきてしまったということで次は何か別の生き物に転生したり元の世(あっち)から一つだけ物を持っていけるっていう風にグレードダウンしてしまった。


 なんでも異世界転生者である冒険者を異世界転生させる神様が言うにはそちらの方がコスパがいいらしい。


「で、俺か? 見れば分かるだろ。今は普通に人間の姿をしている。だって何かに変われるって言われたってそんなもん人間が一番いいに決まってるじゃないか。もしスライムとか選んで不便だったらどうするんだよ」


 新都は独り言を続ける。


「じゃあ何かを持ってきたのかって言われるとそれが正解だ。元の世から持ってきたのはこの現世のネットにも通じるパソコンだ。俺にとってはこいつさえあれば場所はどこだろうと関係ないからな」


 パソコンは今でこそこんな用途でしか使われていないが、持ってきた当初はちゃんとした計画の上で持ってきたものだった。


 まあ最も後で分かったことなのだが、パソコン自体はこの世界でも作られていてそこまで貴重なものでもないらしい。


 なので実質元いた現世の情報をネットサーフィン出来るってことくらいしかこちらの世界のパソコンとの差異はないわけなのだが。


「さて、仕事も終わったし俗世の様子でも見てネタ探しでもするかー」


 新都はテーブルの上に乱雑に置かれている電子機器やらお菓子の山からリモコンを取り出しテレビをつける。


 このテレビは異世界の賃貸についていたものだ。


「今日もまたまたやってくれました! 最強勇者の誕生です!」


 若干砂嵐が混じっているブラウン管テレビではリポーターのスケルトンが何やら興奮した様子で一人の男にインタビューしている。


 それに答えるのは爽やか風の男性、ぱっと見十代くらいにも見える。どちらにせよ今年22歳の新都よりも年下には違いないだろう。


「どんなでしたか! 最高難度の依頼だった巨大オークは」

「いえいえ、確かに見た目は強そうだったけど技の一つ一つに無駄が多かったので隙をつきやすかったですね」

「さすが最強勇者デボルト様ですね。そちらの魔剣を使いこなされているお姿をぜひこのカメラに収めたかったところです」

「ははは、そう褒めないで下さいよ。まあ最終的には僕の手柄であることは確かですが、これはパーティのみんなのおかげでもあるんですから」

「もう! デボルトさんったらあ!」

「ははは、本当のことを正直に言ったまでだよ」


 パーティのヒロインの一人に軽く小突かれそれに対して笑顔返す。キラッと歯が光る。


「またまた謙虚なところも素晴らしいです! それではせっかくなのでデボルト様のお仲間の方にもー」

 ピッ

「あの野郎……」


 新都は最初は我慢して見ていたもののいよいよ耐えれなくなってチャンネルを変えてしまった。


 おかげさまで突発性貧乏揺すりが止まらない。


「へ、あんなのたまたま転生の時に与えられた能力か武器が良かっただけだろ。俺だってもっと早く転生が出来てりゃ今頃……ああ、ムカついてきた。別でアンチスレでも立てて発散するか」


 新都はテレビをつけたまま再びパソコンの方に向き直る。


 パソコンの画面にレスは未だついてない。


「くそくそくそくそくそ」


 むしゃくしゃしてキーボードを叩く。


 新都は異世界に転生してきた当初のことを思い出していた。


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