プロローグ『出会い』
春――それは別れ、そして出会いの季節。
多くの人間が涙し、また笑顔を咲かせる。
そして今日は入学式初日。
たくさんの同級生達が新しい仲間と出会い、喜びの表情を浮かべている。
普通ならば俺もそれに紛れ、新たな友達と笑い合っているのだろうが、俺は今――桜の木の下にいた。
片手に缶ジュース。片手にスマホ。
桜の木の下、一人で空を仰ぎ見る。
「なにあれ」
「視界に入れちゃだめよ。ぼっちが伝染る」
二人の制服を来た女生徒が、俺を指さし通り過ぎる。
ひそひそ話をしているようだが意味が無い。
全部丸聞こえだ。
入学式前日。
高校では今までの生活から抜け出すために中学の知り合いが一人もいない場所を選んだ。
本当の意味での再スタートだ。
出会いに飢えていた俺は、学校に強い期待を抱き、輝かしい学校生活を送る事に疑いを持っていなかった。
そして迎えた入学式。
昨日の夜から準備を済ませていたカバンを持ち、スキップして登校した。
始めて通る通学路。事前に道は確認していたから実際には初めてではないのだが、それでも、高校生として通るこの道はとても新鮮だった。
しかし、そんな俺に突如――
「どけどけどけ――――」
という声と共に俺の体は数メートル吹き飛び、宙を舞う。
スケート選手も顔負けの高速回転を空中で行うと、俺はそのままコンクリートの壁に頭をぶつけた。
遠のく意識。
そこで俺は力尽き、気が付けば学校が終わっていた。
――なんだ、ぼっちが伝染るって。ぼっち感染症かよ!
心の中で突っ込むが、口にする事などできるはずもなく俺は手に持った缶ジュースに口をつけた。
「っ、っ、ぷはぁ。あーまったく――」
俺も、誰かに出会いてぇ
俺の目の前を歩いていく同級生達を羨ましそうに俺は眺めながら、俺は片目から涙を零した。
「ど――――――ん‼」
「ぐはっ!」
唐突に知らない声が聞こえると、俺は真横に吹き飛んだ。
回転する視界。
突然の痛みと乱れる視界に困惑しながらも、俺は体制を立て直し元いた場所に振り返る。
桜の木の下。何者かの姿が目に見えた瞬間――強い風が吹き花びらが俺の視界を覆った。
「はっはっはっ、辛気臭いぞ人間。我の桜の下でそんな面を晒すでないわ!」
高々しい声が、俺に投げかけられる。
腰まで伸びた金髪に長けの短いスカート。
俺と同じ制服に身を包み、吊り上げた口角から長い犬歯を覗かせていた。
「――誰だお前」
「お前とは失礼な! まぁよい。我の名はアリス・ラミア。気軽にアリスと呼んでもよいぞ♥」
「は?」
そう言うと、彼女は俺に向かってウインクをした。
これが、俺がこの学校に来て初めての出会いである。
俺が心の底から望んでいたものが手に入った瞬間。
普通ならば涙し、歓喜する所だろう。
だが、この出会いだけは違った。
そう、これは――
「えぇーい、うるさーい! プロローグが長い! 早く我の美しい姿を見せよ! 我の前に跪け!」
悪夢の始まりである。