陽の国:渦巻く陰謀 8 牢の中 (注意:残酷な描写有り)
深夜、照明が一切ない闇の牢屋の中で、姫御子は眠れずに天井を見ていた。
姫御子は、小泉神官に誘導されてしまったことを悔いていた。
そして、どうやってこの逆境を乗越えるのか考える。
下手に動くと最高司祭である養父に迷惑がかかる。
かといって動かないと、陰の国の祐紀に迷惑がかかる。
いや、我が国と陰の国に亀裂が入る。
そして思うのだ。
早く、養父様から情報局を継いでおけばよかったと。
だが、そう思ってももう遅い。
考えが堂々巡りをし、焦燥にかられていた。
既に牢に入れられてから三日が経つ。
眠れずに布団の中で、ただただ天井をボンヤリと見ていた時だった。
「姫御子様・・。」
聞き慣れない声が聞こえた。
突然の声に、ビクッとする。
「声を立てないで下さい。」
声をかけてきた者は姫御子に低く小さな声で注意をする。
姫御子は布団から上半身を起し、声の方を向く。
だが、暗闇の中で見えるものなどあろうはずがない。
姫御子は声をかけてきた者が敵か味方か判断できない。
警戒して身構える。
その間に、その者が牢の格子の正面に移動した気配を感じる。
気配がする位置に顔を向けた。
姫御子はその者の近くに移動するかどうか悩んだ。
だが、迷っていても仕方がない。
私をここで暗殺したとして意味がないだろうと腹を括った。
姫御子は立上がると、手探りで牢の格子まで近づいた。
すると、誰もいないのに、その者は姫御子だけに聞える程度の声を出す。
「私は情報局の者です。
最高司祭様からの指示で参りました。」
「えっ?」
「声を抑えて下さい。」
そう咎められ、あわてて口を手で塞ぐ。
「最高司祭様は既にこのことを知っております。
今は城からこの件で呼び出されるのを待っている状態です。
それで・」
そう言った時だった。
突然、眩しい証明が牢の格子に当る。
思わず目を瞑る。
「さてさて、ネズミがかかりましたね。」
いかにも愉快そうな声が聞えてきた。
小泉神官の声だった。
「いや~、もっと早く来て下さらないと。
お陰で三日間、見張るのも大変だったのですよ?」
「ふん、お主は寝ていたであろうが。」
小泉神官だけかと思えば、聞き慣れない声が突然した。
その者は小泉神官の後ろから、のそりと現れた。
着ている服装からみると商人であろう。
だが商人風情が小泉神官と、それも深夜の牢屋になど来れるわけがない。
小泉神官は、その得体の知れない男に親しげに声をかける。
「おや、貴方が表に出て来てよろしいのですか?」
「ふん! 儂など姫御子は知らんであろう。」
「しかし、つなぎに来た者は知っているかもしれませんよ?」
「そんな心配はいらんさ、逃すわけがなかろう。」
小泉神官と、素性が分らない者が喋っているときだった。
情報局の者は、まばゆい光の影を利用し、姫御子に文を気づかれないように渡す。
姫御子も気取られないよう受取った。
文を渡した情報局の人は、笑顔を浮べ素性の分らない者に声をかける。
「これは、これは、貴方様でございましたか。」
「ほう、さすがに儂を知っておったか。」
「それはもちろん、貴方様は確か・」
そう言ったとたんに、情報局の者は突然倒れた。
姫御子は急に情報局の者が倒れ込んだのに驚き目を瞬いた。
そして気がつく。
素性の分らない者が、何時の間にか情報局の者の側に立っているのを。
その者の手には光る物があった。
血に濡れた短刀が不気味に光っていたのだ。
姫御子は息を飲み込み、その光るものを見つめる。
すると、その短刀から赤い滴が一つポタリと床に落ちた。
恐る恐る倒れた情報局の者を見た。
真っ白な神官服は真っ赤に染まり、血だまりの中にいた。
そして血だまりは今もジワジワと広がっている。
小泉神官がヒステリックな声で叫んだ。
「な!! なぜ殺した!」
「ふん! 彼奴は儂の名前、もしかしたら素性まで知っている口ぶりだ。
姫御子にそれを聞かれて困るのはお前ではないのか?」
「う、ぬ!・・。」
姫御子はあまりの出来事を一瞬呆然とみていた。
しかし、直ぐに気丈に振舞う。
「その方、神官を殺めたとなると、ただでは済まぬぞ!」
「ほう・・、さすがは姫御子、気丈なものよな。」
そういうと素性の知れない者は、歪んだ笑顔を向ける。
目がおぞましいほど冷たい。
一瞬、姫御子は気圧されそうになったがなんとか平静を保った。
「お前は何故に小泉神官と一緒にここに居る?」
「そのような事、言うとでも?」
「・・・・。」
「それに、これでお分りでありましょう?」
「?」
「裁定が下るまで、貴方様は誰とも接触できない事が。」
「・・・。」
「今回は、貴方様とつなぎを取る者をおびき寄せようとしていたのですよ。
この者は恐らく最高司祭の手の者でしょう。」
「・・・。」
「儂のことを知っていなければ、情報を聞くまで生かして置いたものを。
残念ですな、いやはや三日間が無駄になった。
もう、これで此処には誰も来ないでしょうな。
まあ、来て貰うに越したことはないですけどね。」
そういうと素性の知れない者は、口の端を少し上げ笑った。
「この出来事、評定所で話しますよ。」
「ええ、どうぞお好きに。」
「・・・。」
「私が誰かも分らず、素性もわからないでしょう?」
「・・・。」
「まあ、それよりも私らが此処に来たという証拠は残しませんけどね。」
「そのような事!・」
「できますよ。」
そう言ったときに、何時の間にか倒れた神官の姿がなくなっていた。
そして血だまりを拭取り跡形もなく片付けている黒装束の男達がいた。
「えっ!」
「ほら、これでお分りでしょ?
貴方様に恥じを欠かせない親切で言っときますね。
牢番に証言させようとしても無駄ですよ?
今は夢の中におります。
牢番も自分が寝ずの番なのに寝ていたなどと証言はしないでしょうな。
まあ、そもそも自分が寝ていたという自覚はないでしょうけどね。」
「!?」
「では、小泉神官様、戻りましょう。」
「あ、ああ・・。」
そういうと素性の知れない者は踵を返すとさっさと歩き去った。
小泉神官は一瞬、その場に立ち尽していたが、やがて早足でその場を去る。
黒装束の男達は何時の間にか消えていた。
そして、照明が落とされる。
暗闇の中、姫御子はしばらくの間、身じろぎもせず何もない空間を見ていた。




