陽の国:渦巻く陰謀 3 国主からの呼出し
ある日の事だった。
姫御子に国主(※1)から呼出し状が届いた。
陰の国からの書状が国主に届いたようだ。
その件で話しがしたいので登城するようにという内容だった。
姫御子は困惑をした。
《《陰の国》》からの書状の件は、祐紀殿の事だと察しはつく。
すぐにでも《《陰の国》》に返事はしたいのだが時期が悪い。
今、最高司祭である養父は側にいないのだ。
できれば養父と充分に相談をした上で、出仕したかったのだが・・。
養父は今、都から遠く離れた地方教会にいる。
この教会から請われ行事に参加しているのだ。
ただ、これは建前だ。
実際は、情報局の長を姫御子に引継がせるための根回しをしているのだ。
養父がどんなに急いで戻ったとしても、出仕する日までに間に合わない。
そもそも早飛脚を使っても、父に文が届く前に出仕日となってしまう。
国主からの呼出し状に、別の日になどと言えるわけがない。
自分の判断で対応するしかないと覚悟を決めた。
ただ、姫御子はこの呼出しに違和感を感じる。
他国からの要請の書状が届いたのだ。
急ぐのもわからないわけではない
だが、国主なら最高司祭が都にいない事は知っているはずである。
私を呼出すならば、最高司祭である養父も参席させるべきだ。
最高司祭の帰りが待てないほど火急とは思えない。
まるで養父が居ない日を狙って呼出したかのように思える。
しかし、そのような事をして呼出す理由が分らない。
だが第六感が警鐘を鳴らす。
用心をするしかないかと溜息を吐いた。
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招集の日、姫御子は輿に乗り城へ向った。
輿を降り、案内の者に先導され城内に入る。
そして長い廊下を暫く歩いた。
何時もと違う場所に案内されているようだ。
「はて?・・、何時もと違う場所のようですが?」
姫御子が案内の者に問いただす。
「私は指示された場所に案内をしておるだけで御座りまする。」
そう案内の者は答え、黙々と歩みを続ける。
姫御子は、何時もと違う様子に警戒心を強めた。
そしてある部屋の前で案内の者が立ち止る。
「この部屋でお待ち下さい。」
「分りました。」
案内の者が、襖をあけ姫御子に部屋へ入るように促した。
姫御子は部屋に入る前に一度部屋の中を見回す。
この部屋は・・・。
控えの間ではあろうが、調度品は何も無く自分を待たせるにしてはおかしい。
仮にも姫御子を待たせる部屋ではない。
「この部屋で間違いはないのですか?」
「はい。」
「本当に?・・・。」
「はい。」
「・・・・。」
姫御子は少し躊躇う。
しかし案内の者とここで揉めてもしかたが無い。
怪訝な顔をしながら部屋に入る。
案内の者は襖を閉めると、その場から立去った。
待つこと30分程であろうか、正面の襖から声が掛る。
「姫御子様、お待たせしました、入りまする。」
「どうぞ・・。」
襖が開いて入って来たのは吟味役であった。
「こ、これは吟味役殿・・」
姫御子は呆気にとられる。
何故に吟味役が?
吟味役が顔を見せるなど有り得ない。
一体どうしたというのだろう?
姫御子の頭は真っ白になった。
吟味役とは、犯罪捜査を行う今でいう警察である。
吟味役は庶民ではなく武家や神官などを対象としている。
そういう意味では姫御子に接するのは間違ってはいない。
いないのだが・・。
吟味役と関わるとなると、犯罪者の取調べ、裁定などである。
それ以外となると、被害の訴え、または不正などに対する訴えであろう。
どちらも姫御子には縁の無い話しだ。
それに今回は、《《陰の国》》の書状の件で呼出されたのだ。
吟味役が出てくることなど有り得ない。
そんな困惑している姫御子の様子を、吟味役の後ろから伺っている者がいた。
やがてその者は、吟味役の後ろから出て姿を現す。
「巫女姫様、お久しぶりで御座います。」
「?!」
顔を出したのは小泉神官であった。
「何故、貴方様がここに?」
「それは吟味役様がお話されますよ?」
そういうと小泉神官は口の端を上げた。
姫御子の背中に冷たい汗が流れる。
何かを小泉神官がしかけてきたのは明白である。
それも、よりにもよって吟味役を伴って・・・。
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参考)
※1 : 国主 (こくしゅ)
国主とは、この国を治める最高権力者のこと。
本来の国主の意味と異なった使い方かもしれません。
本小説では国毎に最高権力者の名称を分けるため、このような使い方をしています。




