祐紀、御神託の内容を話す 4
一通り閻魔堂の言い伝えを聞いた祐紀は、溜息を一つついた。
そして、深呼吸を一つすると佐伯を真っ直ぐに見る。
祐紀は緊張しているのか、少し瞳が揺らいでいる。
「佐伯様は、封印された地龍がいると信じますか?」
「儂か?・・。」
「はい。」
「一つ聞く、御神託では地龍の存在を肯定しているのだな?」
「はい。」
「そうか・・、ならば信じざるをえんじゃろうな。」
「それを聞いて安心しました。」
祐紀はそういうと、少し揺らいでいた瞳が落ち着いた。
そのようすを佐伯は見ていた。
祐紀は佐伯に質問をさらにしてきた。
「大川の堤防工事は、佐伯様にお願いすればできますか?」
「・・・それは、事と次第によるな。」
「あと数年もすれば大雨が降り、大川が氾濫します。」
「大川がか?」
「はい。」
「しかし、大川の氾濫など記録にもないぞ。」
「いえ、あります。 御神託です。」
「・・・。」
佐伯は怪訝に思った。
先ほどは地龍とか、閻魔堂の話しに固執していた祐紀だった。
それが、気にかけている御神託は大川の氾濫・・。
そう思いながら、祐紀の話しを聞くことにした。
そんな佐伯に祐紀は説得をさらにする。
「御神託で大川の氾濫が起きるとのお告げがあったのです。」
「御神託があったから、では、護岸工事をする理由にはならぬな。」
「・・・。」
「よいか祐紀、御神託はこの国では重視されてはおる。」
「はい・・。」
「しかし護岸工事など国家予算を逼迫するような物となると別じゃ。」
「お金の問題・・となると別という事ですか?」
「そうじゃ。」
「しかし・・、民の命や農作物への影響が出ることですよ?」
「前にも話したであろう?」
「?」
「人々は自分の目で見えないものは信じないのが普通だ。」
「しかし・」
「まあ、聞きないさい。」
「はい・・。」
「御神託は祐紀、お前にしか聞くことができない。
権力者らには聞けないし、見ることもできない。
そうであろう?」
「はい・・。」
「権力者は、御神託は神聖なものだと理解はしておる。」
「では・」
「しかし、御神託は自分で聞くことも見ることもできないのだ。
神聖なものだとしながら、信じるかというとそうではないのが現実だ。
国家予算的な費用を御神託だからとポンと出せるわけがあるまい。
民から集めた金だ、もし、御神託が外れたらどうする?
膨大な予算をつぎ込んで洪水がおきなかったら民は暴動を起こすぞ?」
「ですが御神託が外れることなど・。」
「それをどう信じろと言うのだ。」
「?」
「のう祐紀、城に勤める者は神社の者と考えがちがうのじゃ。」
「・・・。」
「神社の者がなんと言おうと、権力者は耳を傾けないだろう。」
「・・・。」
この佐伯の言葉に、何か言おうとしては口を閉ざすことを祐紀は繰り返した。
そして、押し黙った。
「納得したか?」
「私が、殿を説得すれば堤防工事は可能ですか?」
「殿は祐紀の言葉では動かんであろうよ。
かりに殿が納得しても、殿だけではだめだ。
重鎮共の説得も必要じゃ。」
「そうですか・・。」
「ところで、御神託は大川の氾濫なのか?」
「ええ・・。」
言葉を濁す祐紀に佐伯は眉を顰める。
「のう、祐紀よ・・。」
「なんで御座いましょうか?」
「お前、儂に御神託の内容を全て話しておらんであろう?」
「・・・。」
「先ほどの御神託で地龍のことを話したであろうが?」
「それは・・・、その・・・」
「儂を信じて話さんか?」
「・・・分かりました。」
佐伯の言葉に祐紀は少し戸惑った。
たしかに佐伯には、地龍のことは話しの流れで言ってしまっている。
今まで話した事は問題ない。
では御神託の内容を話すと神の意に反するだろうかと、ふと考えた。
当初は殿と重臣一同の前だけで話そうとしていた。
しかし、むしろ御神託を実行するには佐伯の協力が必要なのではないだろうか?
それに佐伯は地龍のことを信じるとも言っていた。
それならば、話そうと決意した。




