宮司、事の顛末を文に認める
宮司は、滝から社務所に何食わぬ顔をして戻った。
そして、最初に権禰宜見習いの対応をした部下を呼び寄せる。
呼ばれた権禰宜は、宮司の様子を見て事務的な口調で話す。
「宮司様、御髪が乱れております。」
「ふん、さすが二人同時に相手となれば乱れるわ!」
そういうと宮司は手櫛で髪の乱れを整えた。
「彼奴等二人、宮司様にとっては物足りなかったのでは?」
「いや、危なかったぞ。」
「神に仕える者が、嘘を言ってはいけませぬ。」
「まったくお前は、儂をなんだと思っておる!」
「武芸に秀でた神主様だと。」
「儂は、か弱い老人ぞ、少しは労れ!」
「はい、はい。」
「お前、彼奴等が短刀を隠し持っていたことを知っておったであろう?」
「はい。」
「なぜ話さぬ?」
「おや、必要でしたか?」
「はぁ・・、お前、儂で遊んでおろう?」
「いえ、遊ばれることはあっても、遊んだことはございませぬ。」
「よくもヌケヌケと・・。」
「で、彼奴等は何者でしたか?」
「緋の国の者だ。」
「緋の国?」
「ああ、そこの武士だ。」
「武士?」
「武士といっても隠密であろうな・・。」
「そのような者が、また何故に権禰宜見習いで当社に?」
「祐紀を緋の国に亡命させるために来たそうだ。」
「亡命?」
「ああ、洗脳してそう仕向けたかったようだ。」
「ああ、なるほど・・。拉致では不味いからですか・・。」
「うむ、そうであろうな。」
「しかし、なぜ緋の国が祐紀様を?」
「皇帝が欲しているらしい。」
「もしかして・・霊能力者?」
「それ以外、あるまい。」
「また厄介な者に見込まれましたね。」
「済まぬが祐紀が戻ったなら、警護を頼むぞ。」
「わかりました。」
「で、どうされたのです、滝であの二人を。」
「決まっているであろう?」
「はぁ・・、よりにも寄って滝の場所で?」
「ああ、仕方あるまい。」
「神聖な場所ですよ?」
「だからよいではないか。」
「?」
「不浄な者を清浄するのにだな・。」
「あえて言いますが、神官であることを忘れていませんか?」
「・・・うむ、忘れてはおらぬが?」
「どうせあの権禰宜見習いが来た時に、直感で祐紀様が絡むと思ったのでは?」
「・・・。」
「それで何も考えずに、人目に付かぬ滝を選んだのでしょう?」
「う、ぐっ・・。」
「図星ですね。」
「あ、なんだ、そんな事よりもだ・。」
「はぁ・・、都合が悪くなると話しを適当に変えようとして・・。」
「いや、滝行の者に《《あれ》》が見つかるとまずいであろう?」
「ええ、それは確かに。」
「では、今晩にでも後片付けを頼んだぞ、滝壺の林の中だ。」
「はぁ・・、仕方ないですね、分かりました。」
部下に後始末を任せると、宮司は文机に向った。
最初は青木村の庄屋宛の手紙を書いた。
権禰宜見習いに来た二人が、いなくなったという内容である。
それに以下を付け加えた。
● 寺社奉行・佐伯様が権禰宜見習いの受け入れを反対した事。
● 寺社奉行の反対にもかかわらず当社は、権禰宜見習いを受け入れた事。
● このような配慮をしたのに、滝行を厭がり目を離した隙に居なくなった事。
● このような始末をする青木村に対し、以後権禰宜見習いは受け付けない事。
● 逃げ出した権禰宜見習いがどうなろうと関わりの無い事。
これらを認めたのだ。
当然、寺社奉行・佐伯の件は嘘である。
宮司には確信があった。
佐伯は緋の国の間者が権禰宜見習いで来たことを知っていることに。
証拠はないが第六感がそう告げている。
また、あの竹馬の友とは腐れ縁だ。なんとなくそう感じているのだ。
そして、この感はあたっていた。
宮司は、この手紙を見た庄屋の反応が楽しみだった。
思わず悪い笑みが浮ぶ。
庄屋は緋の国の間者以外には考えられない。
部下が戻らないのに帰ったなどという手紙を受けて納得するわけがない。
でも、実際に神社にはいないのだ。
そうなると佐伯に疑惑の目が向く。
おそらく攻撃目標として佐伯への重要度が上がるだろう。
まあ、佐伯ならなんでも無い事であろう。
日常茶飯事の一つにすぎまい。
次に佐伯へ手紙を書いた。
書いた内容は以下だ。
緋の国の間者二人が、権禰宜見習いで来たこと。
そのことは知っていたであろうという嫌み。
そして権禰宜見習二人共、始末したこと。
青木島の庄屋は緋の国の間者であろうという推察。
その庄屋に間者の始末は佐伯が噛んでいることを臭わせたこと。
だから身の回りに注意した方がよいかもということ。
祐紀に緋の国の皇帝が興味を示しているので注意せよという警告。
祐紀に何かあったら分かっているな、とも添えてある。
最後に頑張れよ、と親友らしく他人事としてエールを贈った。
部下を呼んで文を庄屋と寺社奉行に届けるように指示した。
文を出し終えると宮司は溜息をついた。
そして呟く。
「祐紀もやっかいな者に目をつけられたものよ。
よりによって緋の国の皇帝なぞに・・。」
やれやれと首を振って、仕事に戻った。




