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三途の川と、奪衣婆見習い

 体の移動の止め方がわかり安心した。

ほっとして辺りを見渡した。


 そして唖然とする。


 たしか、病院にいたはずだ。

アパートの周辺で救急で運ばれるなら長野市の日赤病院だろう・・。

なのに今、自分はどこかの公園の中にいて、公園からは富士山が見える。

長野市では富士山は見えない・・いや、高峯山とか高山に登れば遙か遠くにみえるだろうが、こんな近くに見えるはずがない・・。


 どこだろう?

そう思い場所を特定しようとしたが、場所がわかる案内板も掲示板も見つからない。

ここにいても仕方ないので公園から出ようとし、自分の服装に気がついた。

パジャマ姿だ。

まあ、病院に来る前は自宅で寝ていたしね。

どうしようと思った瞬間・・・

俺の体を若い女性がすり抜けて歩いて行った。


 ・・・・・


 そうか・・・俺は幽霊なんだ。

人には見えないのか・・・。

夕方の公園でパジャマ姿、そして裸足の自分がいる。

若い女性から不審者、悪ければ変態と騒がれただろうが、幽霊なので見えない事にホッとした。

ホッとすると、やがて途方にくれた。


 これからどうしよう・・


 そう思っていたら、突然、後ろから話しかけられた。

慌てて後ろを振り向く。


 「よく黄泉国(よみのくに)に流されなかったね、君は。」

 「えっ!?」

 「希にいるんだよね、現世(うつしよ)に留まっちゃう人がさ。」

 

  そこに居たのは巫女装束をまとった女性だった。


 「あの・・あなたは?」

 「私? まず人に者を尋ねるなら、自分からでしょう?」

 「あ、ゴメン。

じゃない!

俺、死んでいるようだけど、なんで君には見えるの?

あっ! 君ももしかして幽霊かい?」


 巫女装束の女性はポカンとした。


 そして笑い始めた。


 「あはははははは、こんなの始めただよ。

ああ、可笑しい!」


 そう言ってお腹を抱えて笑うこと数分・・・


 「君みたいに死んだ直後は考える間もなく黄泉に導かれるんだ。

そのように三途の川が流れているからね。」

 「三途の川?

そんなの見てないけど・・」

 「ああ、そうか君は死にたてでまだ見えないか・・」


 そういうと巫女装束の子は、手を組んでなにやらゴニョゴニョ独り言を言ったと思ったら・・


 「えぃっ!」


 突然大声を上げた。

突然の裂帛に、思わず祐紀は飛び上がる。


 「わっ!」


 「どう、見える?」


 言われてはっとした。

 俺と巫女は広大な川の真ん中にいた。

対岸は遙か彼方に霞んでいる。

川の流れは緩やかだ・・


 よく見ると川に流されている人がいる。

ただし溺れているという感じではなく、呆然と川に浮いて流され空を見ていたり、川底を眺めているようだ。

それも一人や二人ではない。

あちらこちらに大勢いて、皆、ぼ~として流されている。

よく見ると流される位置が遠くになるほど早く流され、普通の川とは考えられない。


 そういえば病院で臨終を言い渡されてから、ユックリ横に流され、やがて次第に早くなっていったっけ・・

そう思い返していたら、巫女装束の子が話しかけてきた。


 「ね、分かった?」

 「えっと・・何が?」

 「あのさ、三途の川の話しをしていたでしょ?」

 「あ、ああ、そうか、ごめん・・・

これが三途の川ね・・。」

 「うん、うん、冷静に聞けるので安心したよ。。」


 「なあ、聞いてもいい?」

 「面倒くさいな~・・何が聞きたいの?」

 「三途の川ってさ、死んだ人が川岸で奪衣婆に駄賃を渡した後で渡るんじゃないのか?」

 「はぁ・・そうか、君も同じ事をいうんだ・・

それは、仮死状態から蘇った人の話しを、宗教関係者の思惑で意図的に変えて伝えた話だよ。」


 そう言って巫女装束の子は、ため息を吐いた。

さらに話しは続く。


 「三途の川はね、現世では次元が異なるけど常に人が浸かっている川だ。

だから死んで魂が抜けると川の流れに流され、否応無しに黄泉の国に辿り着くようになっているんだ。

だから、君も流されない方法を見つけなければ、今頃はあの世に着いて輪廻転生が開始されていたのにさ・・

困ったものだ。」


 「・・・えっと、じゃあ、俺の状態って?」

 「中途半端な死人だよ。」

 「?」

 「解脱をした人は、死んだ瞬間に少しも三途の川に流されず、その場にあらわれる扉を開いて仏の見習いになる。

そうじゃ無い人は、三途の川に流され輪廻転生を繰り返すんだ。

なのに、希に君のように三途の川に途中まで流されて止まってしまう人がいるんだよ。

だから中途半端だって言ってるの。」


 なんか中途半端っていわれると失敗しているみたいでいやだな・・

そう思ったのが顔に出たのだろうか・・。


 「あのさ、中途半端にしたのは君だよ?

君が勝手に三途の川の流れに逆らったんだよ。

そんな顔をしても誰のせいでもないからね。」

 「あ・・ああ、そりゃそうだけどさ・・」

 「分かっているならいいよ。

たまにさ、僕らに責任をなすり付ける輩がいるからさ、面倒だったらありゃしない。」

 「そう・・

でさ、君は誰?」

 「僕?

僕は奪衣婆(だつえば)見習いさ。」

 「奪衣婆の見習い?」

 「そうだよ。で、君は?」

 「あ、おれは祐紀(ゆうき)木下(きのした) 祐紀。」

 「祐紀ね。」


 なんとなく、この子の言い方にカチンとくる。

どう見ても俺より年下に見える。

それなのに、ため口で年下に話す口調とは・・


 「あのさ、俺の方が年上だよね?」

 「あんた、バカ?」

 「え?なんでそうなるの?」

 「奪衣婆の見習いが、あんたみたいな子供より年下の分けないでしょ?」

 「? 何歳なの?」

 「バカ以上のバカだね、君は。

女性に歳を聞くんじゃ無いというマナーも知らないの?」

 「いや・・ゴメン。でも見た目は高校生ぐらいだからさ・・」

 「まあね。

死んだときは、そのくらいだったからね。」


 ん?

今、死んだ時と言ったよね?

じゃあ、この子は人だったんだろうか?


 「?・・奪衣婆は人間がなるのか?」

 「・・あ~!! めんどっ臭いな、君は!」

 「ご、ゴメン・・。」

 「まぁいいか、良く聞いてよ!」

 「は、はい!」


 「(ほとけ)ってどういうお方か分かる?」

 「人を導いてくれる神様?」

 「・・まぁいいか・・

そう、人を導く霊体、仏様とか人は言うけどね。」

 「・・・」

 「じゃあ、仏様って誰?」

 「仏陀(ぶっだ)?」

 「そう、仏陀って悟りを開いた人という意味だよ。」

 「?」

 「まだ分からない?

人が悟りを開くと仏陀になるの!」

 「あ・・そういうことか、だから君も元は人なのか・・」


 「あのさ、元は人とは何よ、人を妖怪みたいに、君は!」

 「ご、ごめんなさい!」

 「ふん!」


 見た目は高校生くらいの子に叱られる俺は24歳。

なんとなくやりきれない感じがするのは気のせいだろうか・・


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