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死んでしまったのだが・・・

 う・・・うん・・


 意識が浮上し始めた。

いつの間に寝込んだんだろう・・・。

ぼんやりとした意識のなか、瞼をユックリ開く。

しかし、何故かぼやけて目の前がよく見えなかった。

疲れ目か・・そう思い目を再び瞑る。

再び目をユックリと開けた。

すると、ゆっくりと焦点が合い始め、周りが見え始めた。


 目の前に自分がいた。

それも酸素マスクをつけて寝ている・・。


 よく見ると目の前の自分の右側には両親がいた。

その両親は呆然とした様子で突っ立っている。

さらに疎遠となっている兄までいた。

目の前の自分を挟んで反対側には、医者と看護師がいた。


 そして、この可笑しな状況を見ている自分は・・

両親や医者の頭上から見おろしている。


 《なんだ、これは! いったいこれは何なんだ!》


 思わず大声で叫んだ。


 叫んだ後、我に返りハッとした。

大声で叫んだのに、両親も兄も医者でさえ、まったく俺の叫び声に反応しない。

俺の声が聞こえていないかのようだ。


 パニック状態になり、俺は父親に向かい大声をあげる。


 《親父! 俺はここに居る! 気がついてくれ! 親父!》


 しかし、父親は気がつかない。

母も、そして兄や医者達も・・


 それに焦って、なんども大声で母を呼んだり、兄を呼んでみた。

医者にも叫んでみた。

しかし、いずれも同じように全く俺の声は聞こえていないかのようだ。


 やがて焦燥が絶望に変わり、茫然自失となった。

それとともに少しずつではあるが、不思議と落ち着いてきた。


 落ちついてくると何となくわかってきた。

ここは病院の集中治療室(ICU)だ、たぶん・・。


 そして俺はというと、宙に浮いている。

天井に背中が張り付いていると言った方が正しいのかもしれない。

そして俺は床の方を向いて、ベットに横たわった自分を見ている。


 これは、もしかしたら死にかけた人が経験するという幽体離脱ではないだろうか・・。


 そう考えていたら、目の端に半透明のチュウブのような紐が見えた。

よく目をこらして見ないと気がつかない程の半透明な紐だ。

この紐のが何処からきているか目で辿ると、目の前の俺の頭につながっていた。

つまり、目の前の俺の頭から俺の後ろの方に向って伸びていた。

それも宙を漂うように余裕をもった長さで。


 この紐を、右手で捕まえて引っ張ってみた。

すると、自分の頭が引っ張られる。

どうやら俺の頭に繋がっているようだ。

鏡がないから、俺の頭のどこに繋がっているかわからないが、目の前の俺をみるとツムジのすこし後ろ辺りに繋がっているから、同じ位置に繋がっているのだろう。


 この紐みたいなもの・・

そういえば何かで読んだことがある。

魂と肉体を結んでいる魂の緒ではないのだろうか?

幽体離脱を俺はしているようなので、おそらくそうなのだろう・・。


 それらを理解して今の状況を考えた。

俺は今、集中治療室に寝かされていて、両親が側にいる・・・。

そう考え愕然とした。


 俺は・・・死にかかっているということか?・・・


 その時だった、医療機器から不穏な音がして、白衣を着た医者が目の前の俺の手を取り脈を見始めた。


 すると目の前の紐から、プツンとした音が聞こえた。

目の前に見える俺の頭に接続されていた紐が切れた音だった。

切れた紐は、俺に向って縮んでくる。


 そして、目の前に見える病院の医療装置が一斉にピーとなり始めた。

看護師が音の鳴る装置を一つ一つ、止めてまわる。

医者は、全ての装置の音が止まるのを待ってから、ペンライトを取り出し、目の前の俺の瞼を開いて瞳孔を見た。

そして両親に告げる。


 「ご臨終です。時刻は・・午後3時19分・・。」


 それを聞いて母が泣き崩れた。

父は無言で目の前の俺をじっと見つめる。

兄貴は無表情だ・・まあ、あまり仲良くなかったから、そんなもんか・・


 あれ? ちょっと待って・・


 ご臨終って今、言わなかったか?・・


 え?! ちょっと待って! 俺はここにいる!

勝手に殺すな!

だいたい何で俺が死ぬんだよ!

病気でも何でもないのにさ!


 そう一生懸命抗議するが、誰の耳にも届かない。


 父が医者に問いかける。


 「息子は何で死んだのでしょうか?

私には分からない・・たいした病気もせず、丈夫な体だけが取り柄の子が・・」


 ちょ、ちょっと待った! 親父!

まるで俺は体が丈夫なだけで、それ以外何も無いような言い方すんなよ!

そう抗議したが、やはり父に声は届かない。


 医者が父の問いに答える。

「脳出血ですね・・・若者でも突然発生する病気です。」


 「のうしゅっけつ・・・ですか・・苦しまなかったのがせめてもの幸いか・・」

そう言って父は俯いた。


 それを聞いた時、俺の体が緩やかに横方向に流されて移動し始めた。


 ちょ、ちょと待て! 移動するんじゃない!


 水泳の要領で泳いだり、じたばたしたが移動が止まらない。

 やがて病室の壁をすり抜け、通路の壁、別の病室、病院の壁と、まるで何も無いかのように通り抜けていく。

それも加速が徐々に加わりだんだんと速くなって、景色が目まぐるしく変化する。


 なんだ、これは!

 止まれ!

 止まってくれ!!


 心の奥底から叫んだ。

すると突然、ピタリと移動が止まった。


 ?・・・


 何がおきたのだろうか?

原因もわからず体が流される恐怖に、背中から冷や汗が流れる。


 冷や汗?


 すこし冷静になる。

たしかに感覚としては冷や汗が流れている。

そうなのだが、汗が背中に伝わり落ちていく感覚はない。

でも、背中が冷たい感覚はある・・


 思う感覚と、体の状態が一致していない・・

ん? 思うこと?

・・・

まさか・・、心で止まれと念じたから止まったのか?・・


 体が勝手に移動し始めたのは良く分からないが、移動が停止したのは心で止まれと念じたからではないだろうか?

 試しに足や手でじたばたするのではなく、心で体を地面に立たせることを思い描いた。

すると地面に対し横になって宙に浮いていた姿勢が、地面に立つように垂直になった。

しかし、まだ宙に浮いている。


 ならば・・

心で地面に降り立つイメージをした。

すると地面にユックリとおりて、地面に立った。


 そうか・・

心で思った状態に体が動くんだ。

それならば、地面に半分体が埋まったことを思い描いたなら・・

そう、想像した途端、下半身が地面に埋もれる。


 そういうことか・・・

体を地面から抜け出させ考える。

なら、なぜ病院からここまで飛ばされた?

もしかして、意識しないと何か力が働いて流されているのではないのか?

そう、大きな川の真ん中にいて、川の流れを受けているように・・


 そう思い心の中で川の水に浮いている状態を考える。

すると、先ほどの病院の中で起こったように、体が浮いて緩やかに横方向に流れ始める。


 そういうことか・・

納得し、体が立ち止まるイメージをする。

すぐに体の移動が止まる。


 体の移動については分かったので、ホッとため息をついて安堵した。


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