都へ行ってみるか・・、マタギとの遭遇
成人の義の翌日、祐紀は神社を朝早く出立した。
殿様との面会を行うための下地をつくるためだ。
宮司は身の安全を心配して、《≪お付きの者≫》を付けようとしたが断った。
人数が多くなると目立つし、身動きが遅くなるという理由をつけて。
とうぜん宮司は難色を示したが、なんとか説き伏せた。
そして、今、祐紀は都を目指して移動中だ。
馬の手綱を握りしめながら、慌てる旅でもないのでユックリと馬に揺られる。
さてと、どうしようか・・。
祐紀は宮司に、殿様と重臣を集めて陽の国に行くことを説得してみせると豪語した。
したのだが・・。
そのためにどうするか、何も考えていなかった。
「まあ、都に行ってから考えればいいかぁ~・・・。」
なんともお気楽ともとれる性格である。
さて、それでは何故無計画に、このような行動をとっているのか、だが・・。
それを説明するためには、祐紀の生い立ちを説明しなければならない。
祐紀は神社の継嗣(跡継ぎ)で傅かれて育った。
しかし、我が儘しほうだいの世間知らず、お坊ちゃまに育ったわけではない。
神社は信仰を集める組織だ。
信仰は力だ。
過去の歴史では、信者を兵隊にし謀反を起こしたこともある。
宮司などは、ある種の権力者ともいえる。
では、権力者は何を望むか・・。
神社の権力をより高めることを望むのは自然の理ともいえる。
そのために、他の神社を貶めることもある。
ではどうするか・・。
簡単なのは神社の宮司、特に継嗣を貶めて排除するのが簡単だ。
そして、権力者になりたいと思うものはどうするのだろうか?
跡継ぎ騒動だ。
幸い、祐紀は同い年より傑出した洞察力、記憶力、精神力があった。
それに御神託を受ける能力、そして人には話していないが別の能力も有る。
加えて、祐紀は養子の一人っ子であるため、お家騒動は心配ない。
いや、宮司が親戚を黙らせた、というべきだろうか。
このような背景から、神社の継嗣は足下をすくわれないように育てられる。
祐紀も当然、そのように育てられた。
その結果、四六時中絶えず人目がある中でも自分の隙を見せない。
それは神社の英才教育の賜物とも言える。
しかし、人間、息抜きが必要だ。
原生林ともいえる鎮守の森に一人で入って気分転換をしていた。
祐紀の本当の姿を知っているは、宮司、乳母と一部の近習だけだろう。
ただし、人なのだから弱さ、悩みは当然ある。
このような世界で生きていて、祐紀は座右の銘を取得した。
それは、 ”考えても無駄なことは考えない”。
いくら人より秀でていようが、特殊な能力があろうが、できないものはできない。
しかし、御神託は実行しなければならない。
ならば、どうするか・・。
簡単である。
考えずに、その場に行ってみることである。
そうすると、不思議なことに、不可能だと思っていたことは何とかなってしまう。
それは、その場においての閃き、慧眼とでもいうのだろうか・・。
そのため、祐紀はなるようにしかならないと割り切ることにしていた。
ただし、考えを放棄しているわけではない。
考えてもしかたないという結論の時のみである。
現代の受験生や、仕事で行き詰まっている人達がいたら、うらやましい限りの性格なのかもしれない・・。
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祐紀が遠乗りや、御神託で来たことのある場所より遠くにきた。
ここまで来ると、さすがに見慣れた風景が無くなり、やがて峠道に入った。
そして、登り道が終わりもうすぐ下り坂に差し掛かろうとしたときだった。
峠道から外れた林の中を、マタギが歩いて山奥に向っているのが見えた。
おや?
祐紀は首を傾げた。
マタギにしてはおかしい。
確かに熊の毛皮を着て、火縄銃を背負い山道を歩いていて一件不自然さはない。
しかし・・。
何かが引っかかる。
祐紀は、峠道からすこし外れた大岩の影に馬をつれていき、街道から見えない場所に馬を留め置いた。
そして、マタギの後を慎重に尾行することにした。




