宮司、憤慨する。
姫御子との面談は予定された1時間以内で終わり、姫御子は帰路についた。
姫御子を送り出した後、宮司は自室へと祐紀を呼んだ。
「養父様、何か御用でしょうか?」
「とぼけるでない。」
「はぁ、そう申されましても。」
「・・・」
宮司と祐紀は互いに目を見つめ合った。
祐紀はできれば姫御子と話した内容を考える時間が欲しかったのだが・・。
宮司である養父の立場を考えると無碍にもできない。
祐紀は一つ、ため息を吐き、とぼけるのをやめた。
「分かりました、話します。」
「ふむ、それでよい。」
「ただし、これは姫御子様の御神託をですよ?」
「なんじゃと!」
「ええ、ですから、それを話せと仰っているのでしょ?」
「いや、それは・・、それは聞けん!」
「そうで御座いましょう?」
「う・・ぬ・・、しかし・・。」
祐紀は宮司の困惑の顔を見て内心で謝った。
しかし、こればかりはどうしようも無い。
御神託に関わることだ。
そして、自分が陽の国に行くための説得をせねばならない。
一度、固く目を瞑り、お腹に力をいれる。
俗に言う丹田にだ。
「養父様、分かっていただけましたか?」
「うむ、やむを得ぬ。」
「そして、私の御神託なのですが・・。」
「ぬ! それも聞けぬことはお前が一番知っておろうが?」
「はい。」
「では、なぜ御神託を口に出す。」
「・・・」
祐紀は宮司を見つめ暫し無言となる。
宮司は、祐紀の様子に何かを感じとったのだろう。
宮司は何も言わずに、祐紀の表情から少しでも何かを読取ろうとジッと構えた。
「養父様、今回の御神託は巫女姫様の御神託と関連しております。」
「なんじゃと!」
宮司は呆気にとられた。
今まで御神託が複数の人間に下されるなんて聞いたことはない。
「姫御子様に協力をしなければなりませぬ。」
「・・・」
「そのため、私は陽の国に参ります。」
「馬鹿を言うでない! そんなことまかり通るか!」
激怒する宮司を祐紀は冷静に動じもせずに静観する。
「そんなこと殿様が許す筈はないであろうが!」
「たぶん、そうでしょうね。」
「それが分かっておって、お前は!」
「でも、御神託ですよ?」
「う、ぬ・・」
宮司は祐紀の言葉に、二の句が告げられず押し黙った。
「養父様、もし、私が御神託を反故にしたらどうなりますか?」
「・・お前、儂を試しておるのか?」
「いえ、そうではありません。」
「・・・」
「では、殿様は、御神託をどうお考えだと思いますか?」
「まあ、半信半疑だろうな。」
「やはり・・。」
「人は自分が聞けぬ声を信じろといっても、疑心暗鬼になる。
ましてや殿様は国を背負っておる。
お前が陽の国に出て行ってしまうとしたら国民はどう思う?
それがどう殿様の治世に影響するかわからない。
そして臣下が殿様に全て従順という訳ではない。
臣下は殿様の御神託の対応をみて、なにか企てる可能性がある。
殿にとっては、相手に口実を与えるようなことはせぬ。
分かるな?」
「はい。やはりそうですよね。」
そう言うと、祐紀はニコリと笑った。
宮司は初めてみせる、祐紀の意味深な笑いに背筋が寒くなった。
今まで義息から見たことの無い笑顔だ。
「それで養父様に相談です。」
「・・・」
「私は、直接殿様を説得します。」
「なんじゃと! 正気かお主!」
「ええ、正気です。」
「・・・」
「養父様にお願いしたいのは、殿様との面会の設定をお願いしたいのです。
それも、殿様の重臣達を集めてです。
できれば、皆が庭がよく見える部屋でです。」
宮司は唖然とした。
そのような、お目通りを、いくら国の鎮守の神社の跡取りとはいえ、叶うはずはない。
「大丈夫です、養父様。
私がそう仕向けます。」
「お、お前・・。」
祐紀はニコリと微笑んだ。




