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『3F空き教室』の怪

作者: 山本エヌ

俺の中学校にさ、出るっていう噂があるんだよ。

何がって、幽霊に決まってんだろ?

と、まあそういうことで。夜の学校に忍び込んで肝試しをすることになりましたー。

はあ、くだらないな。



そんなわけで夜。集まったメンバーは俺、A、B、Cの四人。俺とAは男で、BとCは女(二人とも結構かわいい)だ。

A、お前は帰ってもいいぞ。


侵入するためにはまず塀を乗り越え、一年の教室を目指す。Aのヤツがこっそり窓の鍵を開けておいたらしい。

で、侵入したあとは一階、二階をそれぞれじっくり探索し、三階の空き教室まで行く。

オカルト好きのB曰く、「そこはガチで出る、やばいっす」とのこと。根拠はない。

ちなみにうちの学校に警備員なんてのはいない。

もちろん宿直の先公もだ。

いるのは俺達だけ。邪魔者はいない。


「よし、じゃあ行くか」


言い出しっぺでリーダー格のAの号令で行動開始。

二メートルはある塀を俺はすんなり登ることができたが、女子組が手間取っている。それを見かねたAが手を貸し、最初にして最大の難所はクリア。

ケッ、なにが「ありがとねA君、頼りになる」だよ、C。

まあいい、あとは窓の鍵が開いているかどうかだな。


一年の教室に行くには結構な距離を歩かなくてはならない。

この暗い夜道をCが持ってきた、たった一本の懐中電灯で照らしながら進んでいった。

この四人の中で一番怖がりのCに持たせてしまったものだから、とにかく歩くのが遅い。でもいいよ、C。そういうビビってるところがとてもいい。たとえそれが計算された演技だとしてもな。

逆にAとBは堂々としている。

いや、Aは内心怖がってるな。

そしてB。お前は化物か。少しは怖がれよ。


ガサガサッ。


「うわっ……! って、木が揺れただけかよ」

「あはは、A君は意外と怖がり屋さんっすね!」

「おいおい。怖いなら帰るかァ?」

「大丈夫? 少し休む?」

「いや、休まなくていい。行こう」


やっぱりこの中で一番のビビリはAだな。チキン野郎の称号をくれてやろう。


とまあ、ちょっとしたハプニングが起きつつも、なんとか侵入口までたどり着いた。

Aが窓を調べる。

OKサインが出たので、鍵は開いていたようだ。

誰もいないのにも関わらず、Aは音がならないように開けている。

俺が「誰もいないぞ」とアドバイスしてやったのに、Aはやっぱり慎重なままだ。どんだけビビリなんだよこいつは。


やっとのことで窓を開け終え、俺達は教室に入った。

ここは流石に全員すんなり入れた。土足は失礼なので上履きに履き替えた。

外と違って、中は光一つ差し込まない暗闇で、Cの懐中電灯だけが頼りだ。肝心なところで電池切れなんて古典的なことはやめてくれよ?

そして教室を出た瞬間。


「きゃあっ!」


明かり役で先頭にいたCが叫んだ。


「どどど、どうした、C!」

「ひ、火の玉が……!」


Cの指差す方には、確かに真っ暗闇の中に赤い何かが不気味に光っていた。

だがあれは……。


「おい、C。あれは……」

「あれは非常ベルのランプっすよ、Cちゃん」


Bが俺を遮るように言った。

確かにあれは驚くよな。俺が先頭だったらCのように叫んでいたかもしれん。

火の玉の正体が判ったところで、俺達は廊下の探索に移った。

まあ、探索と言っても歩くだけではあるが。

誰一人喋ろうとせず、靴の音だけが響いている。

そして誰もが沈黙したまま一階の探索は終わった。


続いて二階。

ここも沈黙のままかと思いきや、Bがいきなり口を開いた。


「幽霊の噂は空き教室が有名っすけど、この廊下も地味にやばいっすよ」

「うええぇ……。何が出るってんだよぉ……」

「おいB。適当なこと言うなよ。Aが泣きそうだぞ」

「よく聞くっすA君。ここには――」

「きゃああぁぁ! あ、あれ……」


またCが驚いている。今度は何と見間違えたんだ?


「ひ、人影……!」

「どこにもいないぞ、そんなもん」

「お、Cちゃんには見えたっすか? そう、この二年教室が並ぶ廊下には自殺した二年男子生徒の霊が彷徨ってるっす! ちなみに今考えたことっす!」


はあ……、このBという女、よく分からん。


「出まかせかよ……」

「そそそ、それってよ……、もしかしてアレじゃないか……?」


Aの指差した先には人影……。

懐中電灯に照らされ、その姿が明らかになった。


「はあ、人体模型かよ」

「どれどれ……? ああ、人体模型っすね」

「ぎゃあああああ! なんでこんなトコに!」


A、お前もうビビリを隠す気ないだろ。

だが、俺はコイツがなぜここにあるかを知っている。


「これはな、授業で使うんだとよ。理科室が改修工事で使えないからここまで持ってきたんだぞ」

「ん~、不思議っすね~。あ! もしかして自分で歩いてきたとか?」

「違う……。これじゃないよ……」


ん? Cがなんか言ってるぞ。よく聞こえなかったが……。

おーいおーい。

なんだよ、二人とも行っちまったぞ。

Cも言いたいことはちゃんと言えよな。


そんなこんなで探索は大詰めの三階へ。

三階って三年の教室ばかりだからなんか緊張するよな。まあ、来年そこに行くわけだが。

だが、空き教室は階段を上がったらすぐにあった。


「よ、よ~し、準備はいいか!?」


今更リーダーぶるなよ。声、裏返ってるぞ。


「いいぞ」


夜遅いし、さっさと済ませて帰りたかったので俺は速攻で返事をした。


「いいっすよー」


続けてBの返事。




「…………うん」


Cの返事は遅かったが、全員覚悟はできたようだ。


「イイイ、イクゾ!」


ガララ……。


さすが、使われていないだけあってホコリっぽいな。

まあ、それ以外は普通かな。


「おぉ、霊気を感じるっす!」

「ガタガタガタガタガタ……」

「怖い……」


おいおい、何もいねえよ。この噂もガセだったようだな。

そして、突然Bは何かを取り出した。


「Bちゃん、それ何?」

「フッフッフッ……、これは清めの塩っす!」

「そんなの意味ないぞ」

「ガタガタ……ん? 清め!?」


するとBは部屋の隅に行き、おもむろに皿の上に塩を盛りだした。同じことをあと三回。部屋の四隅に大盛りの塩皿が置かれた。

そんな量の塩をどこに持っていたんだお前は。

もしかして除霊でもする気か?

むしろ呼び寄せるんじゃないか?

俺にはBの思考は分からない。まあ、聞いてみるか。


「何をしようってんだ?」

「これが何か、わっかるかな~?」

「うぅ……、わかりません……」

「ま、まさか……、『結界』か!?」

「A君、大正解! 霊をここから出られないようにするっす!」


Bは自慢げにガッツポーズをしている。

いやいや、これただの塩だから。勝ち誇ってるけどただの塩だからこれ。


「こんなの、意味ないだろ」

「それじゃ最後に。私たち三人でお祈りを。それで『結界』の完成っす」

「ど、どんなことを祈ればいいの?」

「ん~、『幽霊さん幽霊さん、ここから出ないでください』って感じでいいっすよ」

「おおお、祈ればいいのか!? よし、祈るぞ!」


急に元気出したなリーダー。

まあいい、こいつらに最後まで付き合ってやろう。

俺は目を閉じ、形だけでも祈ってやることにした。


「……」


「……」


「……」


おいおい、いつまでやるんだよ。

目、開けるからな。


あ! あいつら俺を置いて教室から出ようとしてやがる!

俺は追いかけ、すでに教室の外にいる三人に文句を垂れてやろうと思った。


――が。


「ん? なんだこれ、なんか引っかかって動けない……! 外に……出れない……!」


足が引っかかったような感覚がして、身動きが取れない。

俺は待ってくれと叫んだのだが、三人の背中は遠くなるばかりだ。


おーーーい! 待ってくれよーー!



おーい、なんで無視するんだよー。



おーい、おーい。



おーい。



おーい……。



おー……い……。


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