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おクルマの営業  作者: たんぴん
13/13

商談

 

 七月のある日のこと。



「あーねむた」


「あら、アンタ。自分でおきるって珍しいやないの」


 俺はリビングで煙草に火を付けた。


「は? アンタなにしてんねん!」


「早起きのご褒美にリビングで吸うとるんや、あかんのかい!」


 母はキレながらも呆れて台所へ歩いていく。暫くすると朝飯を持って台所から出てきた。


 俺は煙草を消して朝飯を素早く掻き込み、いつも通りおばあちゃんに挨拶をして会社へ向かった。



「おはようございます!」


「おす」

「おはよ」


 いつもの日常であった。


 俺はミーティングを終え、すぐに出て行こうと準備を進める。

 ここ最近の支店長はやけに機嫌がいいな。怖いくらいに。



 俺はいつも通りに外回りへ向かう。

 本当にいつも通り。慣れたもんだ。


 すると、とある一軒家の前に男性がいた。


 つい先日DMを投函した家だ。


「おはようございます」


「ん? 誰です?」


「先日ポストに車検のことを投函した榊原です」


「ああー、君があの手紙の子かいな。偶然やなあ」


 暫く家の前で談笑していた。


「今日暇やし店いこかな」


 これは車検獲得来たか。

 そう思い内心で笑っていた。チョロいもんよ。


 三十分後に来店していただく運びとなった。


 早速支店長へ報告する。


「本間か! 良かったなー榊原君」


 俺はすぐさま商談ブースの確保を行う。

 まあ平日にそんな必要もないのだけれども……


 時間が経つのが長く感じる。

 今か今かと逸る気持ちで一杯だ。このお客様を待つ感覚だけは慣れないものである。


 すると、一台の黒い車が入ってきた。

 さきほどのお客様の車である。年式は古く、ボディも凹みやキズが目立つ。


「いらっしゃいませ!」


 俺は大きな声でお客様に駆け寄った。


 お客様をショールームへご案内し、席に座る。


「ディーラーも雰囲気かわったなぁ」


「僕は一年目なのでそこはわからないですねえ」


 そう言いながら、再度名刺を渡した。

 そして車検の話をしようとした矢先のこと。

 そのお客様が試乗車を眺めているではないか。


「乗ってみます?」


「ええんか?」


 俺は頷いて支店長へ相談した。


「おお! まあ頑張ってみることやな。期待してるで、一台目」


 そう、俺はまだ一台も売っていない。

 フロントスタッフに車検見積りを、馬鹿みたいに高くするように伝えて、試乗車に向かった。


 おじさんは2ドアクーペの『68』のボディをぐるっと一周する。


「ええなあ、これ」


 やはり男のロマンなのだろうか。しかし、些か奥様方からは嫌がられそうではあるが。


 早速試乗に入る。


 免許証を確認し、事故を起こした際の取り決めを確認いただいてサインを貰った。


 おじさんはロクハチの一速で五千回転まで回した。


「ああー気持ちいいのう」


 慣れた手付きでシフトチェンジする。

 やはり年配の方は、MT車の扱いには慣れているものなんだな。


 付近をぐるっと一周し、店舗に帰って来た。


 その頃には簡単な車検の見積りが出ていたようだ。

 フロントスタッフの村田さんが説明にくる。


「あのですね、一通り見ただけでもこれだけ掛かりそうです。また、分解していって他の部品も交換が必要であれば更に掛かります」


 見積り金額は十九万円。

 フォグランプが割れていたり、タイヤの溝が1.6mmを切っていたりとズタボロである。


「高いなあ。まあオンボロやから覚悟はしてたけどさあ」


 おじさんは諦めたような表情だ。

 そして口を開く。


「ロクハチの見積りとってもろてええか?」


 これは初の新車受注なるか?


 俺は意気揚々と事務所のノートパソコンをとりに行き、商談に挑むのであった。


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