表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おクルマの営業  作者: たんぴん
12/13

保険

 

 俺は昨日の事務所の雰囲気を思い出し、ゾッとしていた。

 MS6の車両価格は150万円~200万円程度だろう。登録諸費用などを加えれば+20万円程度だろうか。

 また、それを即日売却したとしよう。登録した車両は新車扱いではないため、中古車扱いとなる。


 俺は今回のことで、負担を強いられるようであれば、辞めようと考えていた。


 しかし、火曜日に出勤してみると、日曜日の悲壮感は無くなっていた。

 また、全員が済んだことのように、スッキリしたような顔をしていた。


「皆さんおはよう。来月の登録台数達成のために、今週からまた頑張りましょう。以上」


 朝のミーティングは支店長が暴れることなく、あっけなく終わった。


 俺はなんだったのだろうと頭の中で考える。

 だが、他の誰かが売れた気配はない。謎の車両も登録に向け回っていた。

 下手に突っ込むと大火傷をしそうだ。当分は静観が安全牌だろう。


 俺は平日には特に決まった予定や、やることはない。当然だが、他の営業スタッフのように担当顧客がいないからだ。

 平日から見積りを作りお客様に提案して、土日に奥さんと来てもらう。そんなお上品なやり方ができるほどアテはない。



 ちなみに、佐々木係長の管理顧客は、千名ほど居るらしい。

 かたや俺は13名だが、誰にも文句は言わせない。必死の外回りで開拓した、血と汗の結晶である。


 今日はまだ未入庫のリコール車両があるため、来店誘致に向かう。


 ピンポン


「はーい」


「私北大阪豊川自動車の榊原と申します。鈴木様のご自宅でお間違えございませんでしょうか」


「はい、そうですが。車屋がなんか用?」


「お忙しいところすいません。ご迷惑をお掛けしておりますリコールの件でお伺いいたしました」


「ああ、なんかきとったな。どうしたらええ?」


「早速今週にでも、作業をさせていただけないでしょうか。早めに済ませて、お車には安全に乗っていただきたいのです」


「え? そうかいな。まあええわ、土曜日暇やし朝イチで行くわ」


「有難うございます。ではご予約をしておきます。では失礼します」


 俺はすぐさま会社に電話をかけた。

 土曜日の朝で予約を入れてもらうためだ。


 そんなことを繰り返し、着々と外回りで顧客を増やしていた。


 俺は車屋さんなのに何をやっているのだろう。

 たまに思うことはある。



 ―土曜日―


 先日のリコールユーザーは、本当に開店時間にやってきた。


「リコールってどれくらい作業が掛かるんや?」


「一時間ほどになります」


「じゃあちょっと相談さしてや」


 相談? 一体なんなのだろうか。


「あのさあ、保険がめっちゃ高いんやわ。ちょいと内容見てほしいんや」


「はあ、保険ですか。証券を見てもいいですか?」


 俺は許可を取り、お客様の車のダッシュボードから保険証券を取りに行く。


 すると、エンジニアの武田さんがなにやら不満気だ。


「この車汚すぎやわ。臭いし最悪。鼻曲がりそうやで」


 俺は車内に入る。

 うぅ、確かに強烈だった。なにかが腐ったようなキツい臭いだった。

 俺は保険証券を取って、身を引くように車外へ飛び出した。


 武田さん… 健闘を祈ります。

 心の中で敬礼をした。


 営業事務所へ戻ると、営業は須藤さんしか居なかった。

 支店長に顛末を相談すると、須藤さんに見てもらって保険を取れとの指令が出てしまった。


 須藤さんに証券を見せる。


「ちょっと見ながら話しに行こっか」


 須藤さんと俺はお客様の所へ向かう。


「須藤と申します。榊原君が新人なのでサポートとして入ります」


「おお頼もしいな。でさ俺の保険もうちょい安くならんか? なんかようわからんまま入らされたやつ、放ったらかしにしとったんや」


 須藤さんがそれを聞き、カーライフのことや家族構成などを聞いていく。

 ほとんど乗らないのに高い保険を払うのが納得いかないようだ。


「まず、独身とのことなので運転者限定をつけるべきかと。何故付いてなかったのかはわかりませんけど」


 須藤さんはそう話した。

 また車両保険の必要性やその内容にも言及する。

 お客様の保険内容は、車両保険の一般条件保証が付帯されていた。


 車両保険にはパターンがある。

 ①車両保険を付けない→事故が起きた場合、自車の修理費は自腹か、相手がいる場合は、相手の対物保証に頼ることになる。


 ②車両保険一般条件加入→自損事故、相手がいる事故等フル保証


 ③車両保険車対車A加入→自損事故は保険金請求不可。相手がいる事故のみ請求可能。


 須藤さんが書いた内容を、お客様は頷きながら見ている。

 当然にフル保証がある、一般条件に加入していれば安心だが、毎月の負担は大きいものとなる。

 果たして、このお客様にその保険は真に必要なのだろうか。

 ここからが営業の提案なのだ。

 俺と須藤さんは事務所に戻り、最適な見積りを数パターン作成し、お客様の所へ戻った。


「運転者本人限定を付け、先ほどの③の車両保険に変更しています。また免責金額を0から、0-10に変更しました。これでかなり安く収まっています」


 お客様は見入っていた。


「こんな安くなるんか。すごいな兄ちゃん。入るわ! ガハハ」


 お客様は即答した。

 滅多にないケースだが、劇的にお客様が得をしたと感じるケースだったのではないだろうか。


 俺は須藤さんの言うとおり、後日銀行印などを貰いに行くことなど、細かく指導を受けることとなった。

 契約書類には、須藤さんがシャープペンシルで細かく丸印を付け、何を書いてもらうかなど細かく付箋を付けてもらった。


「須藤さん、有難うございます!」


「おう、まあおれもがんばるわ…」


 巻き込んですいません、須藤さん。

 悪気はないんです、自分の仕事に戻ってください。



 さて、保険のインセンティブは北大阪豊川自動車において、契約金額の5%となる。

 今回の契約金額は年額6万円程度である。その5%なので、俺の報酬額は約3000円となる。


 ちなみに、1200ccのA車を売った際のインセンティブは2000円だ。


 ?

 俺は頭の中で、非常に激しいツッコミを入れた。



「車売るより、保険とる方が美味しいじゃねえか!」



オチはどうでしたか?



そうなんです、車を売るより自動車保険をとる方が、貰える報酬は大きかったりします。

もちろん各社仕組みは違いますが…


多くのメーカーは、車一台あたりの販売インセンティブは1000円~10000円程度が多いと思います。

ローンを組ませたり、本文で言及した保険を取ることで、車両インセンティブ意外でも稼げるメーカーは多いですね。


特に新車を買った際、少しでもローンを組ませようとするのは、割賦販売ノルマがあったりする影響だと思いますよ(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ